< 時の流れに >
「パパ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「お父さ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
「何ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
その場面を見た私達は固まってしまった。
・・・だって、ねえ?
幾ら女性の噂が絶えないからと言って。
二人も子供がいるなんて・・・
は、今はそれどころじゃ無いわ!!
「ちょっと、アキト君!!」
「あ、ミナトさん!!
ち、違うんですこれは!!
ラピスはハーリー君とダッシュで!!」
・・・動揺してるわね。
怪しい。
二人の子供に抱き付かれたまま、おろおろとしているアキト君。
「アキトさん!!」
「アキト君!!」
「テンカワ!!」
そんなアキト君に、女性陣が揃って詰め寄る。
勿論私もその中の一人。
もっとも彼女達とは目的が違うけど。
こんなの・・・ルリルリが可哀相だわ!!
アキト君はそんな男性じゃないと、信じていたのに!!
「あうあうあうあうあうあ!!」
アキト君の悲鳴が聞えるけど・・・無視。
でも悔しい事に、既にアキト君の姿は見えない。
どうやら女性陣に完全に包囲されたみたいね。
あ、アリサちゃんとリョーコちゃんの連携攻撃に追い詰められてるわね。
まあ良い薬になるでしょう。
そして私は、離れた所に佇んでいる二人の子供を見付けた。
どうやら騒ぎに巻き込まれる前に逃げ出した様だ。
・・・要領の良い子達ね。
父親に似たのかしら?
でもあの父親が要領が良いとは思え無いし・・・母親似ね、きっと。
私はそんな子供達の傍らに一人の男性がいるのを見付けた。
「あ〜あ、本当にやっちゃったんだなラピスちゃん、ハーリー君。」
「だって、パパ出迎えてくれないんだもん!!」
「そうですよ!! お父さんが悪いんです!!」
「まあ自業自得・・・と、言えるのかね〜?」
何だか子供達と仲が良い様ね。
取り敢えずこの子達の事情を聞けるかしら?
「済みません・・・貴方はこの子達の知り合いですか?」
「ああ、俺はこの子達の父親と知り合いなんですよ。
俺の名前はヤガミ ナオと言います。
まあ、アキトの親友の一人ですよ。」
ふ〜ん、アキト君のね・・・
サングラスをした長身痩躯の身体。
黒い髪は短く切り揃えてある。
・・・なんだか雰囲気がゴートさんやアキト君に、似てる?
「それでこの子達は本当に?」
アキト君の子供なんだろうか?
薄桃色の綺麗な長い髪と金色の瞳をした、可愛い少女。
黒く短い髪と金色の瞳をした、活発そうな少年。
どちらも6歳から7歳位に見える。
え、金色の瞳?
それって確か・・・
「僕達、実は母親が違うんです・・・
お母さんが死ぬ間際に、お父さんが実は生きてるって教えてくれて。」
「私もママに施設に預けられる前に、パパの事を聞いたの・・・」
・・・何て、事なの。
「アキト君!! 貴方って人は!!」
「ご、誤解です〜〜〜〜〜!!」
何故か空を舞いながら私に返事をするアキト君。
どうやら誰かに投げ飛ばされたみたいね。
ゴートさんかしら?
そして、そのアキト君の返事を聞いて・・・
「わ〜〜〜〜〜〜ん!!
やっぱりパパにも捨てられるんだ〜〜〜〜〜〜!!」
「お父さん!! せめて一度は、お母さんの墓参りをしてよ!!」
泣きながらそう訴える二人!!
こんな・・・小さい子供を泣かすなんて!!
二人の後ろではナオさんがハンカチで目元を拭ってる。
・・・どうやら良い人みたいね。
「ちょ、ちょっと待て!!
ラピス!! ハーリー君!!」
地面を転がりながらそう叫ぶアキト君。
・・・結構余裕があるみたいね。
ある意味、流石と言うべきかしら?
でも、追いかけているのは女性陣だけになっていた。
男性陣は・・・全員叩き伏せられているわね。
床に倒れた状態でうめいてる。
しかし、50人もの男性と女性の追っ手から男性だけを選んで倒すなんて。
・・・男性には容赦が無いのねアキト君。
仕方が無いわねここは私が。
「男らしくないわよアキト君!!」
私のその一喝に・・・その場に静寂が満ちる。
「・・・ちょっとやり過ぎじゃない、ラピス?」
「いいのハーリー、これはお仕置なんだから。」
「・・・それに巻き込まれた俺って?」
「アキト君、ちょっとこっちに来なさい。」
「は、はい。」
私の言葉に従って大人しくこっちに来るアキト君。
まだ素直な所は残っている様ね。
二人の女性とその子供を弄んだ鬼畜にも、最後の良心は残っているわよね?
そして、私の目の前にやってきたアキト君を。
取り敢えず・・・
パシィィィィィ!!
思いっきり頬を叩く。
「わ、痛そう。」
後ろでナオさんがそんな事を言ってるけど、私の知った事では無いわ。
「で、どう責任を取るつもりなの?」
「いえ、それはですね・・・
ナオさ〜ん、書類は揃いましたか?」
「ああ、ラピスの親権の欄にアキトの名前を登録しておいた。」
え? じゃあ、最初から責任を取るつもりで・・・
「まあ色々とややこしい手続きもあったが。
そこはほら、力ずくで突破しておいたからな。」
・・・前言撤回、アキト君の同類みたいね。
さすが親友だわ。
「ちょっと・・・ラピスちゃんの責任はとるとして。
この男の子はどうするのよ?」
「・・・やっぱり僕はいらない子なんだ!!」
今にも泣き出しそうな男の子を見て、私の胸は痛んだ。
「ちょっと、アキト君。」
「あ、ミナトさんハーリー君の御両親は健在ですよ。
それとハーリーは渾名で、本名はマキビ=ハリと言います。」
え、そうなの?
「ちょっと、ルリルリどうしてそんな事を知ってるの?」
何時の間にか私の背後に近づいていた、金色の瞳を持つ少女の一言。
って、金色の瞳?
「ラピスもハーリー君も、私の妹や弟みたいなものなんです。」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ルリルリの発言に再びナデシコクルーは悲鳴を上げた。
「つまり何、私達はこの子達に騙された、って訳?」
「ええ、ラピスもハーリー君もアキトさんとは血縁関係はありません。」
ふ〜ん、そうなんだ。
艦長達も安心した顔をしてるわね。
「でも今後は、いろいろと都合が悪いんで。
ラピスちゃんには、アキトが保護者を買って出たんだよな。」
「その手続きと、ラピスを連れて来てもらうように、俺がナオさんに頼んでたんです。」
アキト君とナオさんが事情説明を続けている。
何でも二人はあのテニシアン島事件からの知り合いらしい。
・・・どんな知り合いなんだか。
「じゃあさ、ハーリー君やラピスちゃんもやっぱりルリルリみたいに?」
「ええ、オモイカネのオペレーターになれます。」
ルリルリがヒカルちゃんの質問に応える。
ちなみにラピスちゃんはさっきから、アキト君に抱き付いて離れない。
改めてよく見ると・・・本当に可愛い子ね。
ハーリー君はルリルリの側をうろうろしてるけど。
三人共、仲が良いのね。
「じゃあ、オペレーター見習いか?」
「まあ、そう考えていて下さい。」
アキト君がラピスちゃんの頭を撫でながら、リョーコちゃんの質問に答えた。
ラピスちゃんは嬉しそうに笑ってる。
「しかし・・・私はそんな話しは本社から聞いておりませんが?
エリナさんは御存知でしたか?」
あ、プロスさんはアキト君のリンチに加わらなかったみたいね。
・・・懸命な判断だわ。
だって、ゴートさんは離れた所で倒れているんだもの。
「え!! ・・・私も知らなかったわ。」
そしてプロスさんとエリナさんの視線が、アキト君へと向う。
しかし、アキト君はその視線を軽く受け流している。
・・・意外と、狸ねアキト君も。
「でも、どうしてあんな悪戯をしたの?」
「そうですよ、アキトさんが困ってられましたよ。」
「・・・だってアキト、お姉ちゃん達と仲良くベットで寝てるんだもん。」
シ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ンンンン・・・
サラちゃんと、アリサちゃんのお小言に・・・
ラピスちゃんは爆弾発言で反撃した。
「ア・キ・ト・さ・ん。」
「・・・な、何かなルリちゃん?」
凍り付くような視線でアキト君を睨むルリルリ。
流石にこの視線はアキト君でも受け流せない様ね。
「ちょっと・・・こっちに来て下さい。」
「・・・はい。」
ゾロゾロゾロ・・・
ルリルリを先頭に、アキト君、アキト君にしがみ付いてるラピスちゃん。
そして私を除く女性陣全員がこの場を去って行く。
・・・まあ、冥福を祈ってあげるわアキト君。
「だから誤解だって〜〜〜!!」
「そんな酷いアキト・・・」
「私達を弄んだんですね、アキトさん。」
「ちょ、ちょっと待ってよサラちゃん、アリサちゃん!!」
ギャー、ギャー・・・
遠くから聞える悲鳴を聞きながら。
私は苦笑をしていた。
アキト君はやっぱりアキト君だった。
まあ、あれで結構ルリルリも楽しんでるみたいだしね。
「ふ〜ん、あれがナデシコに戻ったアキト、か。」
「おう、お勤めご苦労さんヤガミ君。」
「嫌だな〜、ナオでいいですよシュン隊長。」
「ここではオオサキ副提督だぞ、ナオ。」
オオサキ副提督とカズシ補佐官が、親しげにナオさんに話し掛けている。
どうやらお互いに面識があるようね。
「あら、三人共お知り合い?」
「ええ、そうなんですよ。
ナオ、こちらはナデシコの操舵手を務めるハルカ ミナトさんだ。」
「あ、そうなんですか。
俺の自己紹介は・・・もういいですよね。」
オオサキ副提督が私を紹介し、それをナオさんが受ける。
う〜ん、やっぱり良い人なんだろうか?
「美人さんだからって手を出すなよ。」
「そんな事はしませんよ〜」
「まあ、ミリアさんには黙っていてやるが・・・
浮気は程々にしておけよ。」
「カズシさんまで・・・
俺はアキトとは違いますよ。」
笑いながらそんな会話をする三人。
ふむ、どうやらナオさんには恋人がいるみたいね。
まあ、見た目は一応まともだから不思議じゃないけど。
「・・・誰と、違うんですかナオさん?」
「うっ、いたのかアキト。」
ナオさん達の背後には、何時の間にかアキト君がいた。
どうやら女性陣からは解放されたみたいね。
「あら、ナオさんじゃない。」
「本当だ、お久しぶりですねナオさん。」
「やっほ〜、おひさ!! ナオさん!!」
「やあ、サラちゃんに、アリサちゃんに、レイナちゃん、お久しぶり。
・・・ナデシコでは、上手くやって行けそうかい?」
どうやら新しいクルーは全員、お互いに顔見知りのようね。
私達と共通する話題は・・・アキト君だけか。
本当に、全部の事柄の中心にいるのねアキト君。
不思議な子よね、まだ18才だっていうのに。
どうしてあんなに落ち着いた雰囲気をしてるのかしら?
以前、ナデシコに乗っていた時は、何処か張り詰めた所があったのに。
今は自然体で笑ってる。
・・・また、一回り大きくなったみたいね。
「それでミリアさんの調子は・・・どうです?」
ミリアさんの事を聞く時。
アキト君の表情が少し・・・歪んだ?
「ああ、順調に回復してるよ。
今はグラシス少将の保護の元で療養してる。」
「そうですか。
済みませんね、無理なお願いをしてしまって。
本当ならナオさんがミリアさんから離れる必要は・・・」
「はい、そこまで。
俺はアキトの要請だけで動いた訳じゃない。
ミリアのもう一つの約束・・・覚えているだろうな?」
ナオさんの雰囲気が変った!!
張り詰めた空気が、ナオさんとアキト君の間に漂う。
「忘れてはいません。
いえ、忘れられる訳・・・ないじゃないですか。」
「アキト・・・」
「アキトさん。」
「テンカワ君。」
搾り出す様にそう応えるアキト君。
・・・こんなアキト君は初めて見るわ。
そして、そんなアキト君を気遣うサラちゃん、アリサちゃん、レイナちゃん。
彼女達はアキト君とナオさんの事情を知ってるのね。
「そうか、ならいいんだ。
俺はアキトの見張りもミリアから頼まれていてな。
だから俺とミリアの事は気にするな。
アキトは自分のやるべき事に集中しろ。
今度そんなつまらない事を言ったら、殴るぞ。」
「・・・はい。」
それで二人の会話は終りだった。
一体この二人の間に何があったんだろう?
凄く興味があるけど・・・
あのアキト君を見た以上、気軽に聞ける事じゃないわね。
「おい、アリサ。
アキトの出向先で何かあったのか?」
「・・・ごめんなさいリョーコさん。
何があったかは私の口からは言えません。」
「サラさん。」
「メグミさん、これはアキトとナオさんと一人の女性だけの問題なの。
私達には・・・何も言う資格は無いわ。」
「レイナ。」
「プライバシーの侵害よ、姉さん。」
それぞれが、事情を知っていそうな彼女達に話しかけたが。
返ってきたのは確固たる拒絶の返事だった。
・・・まあ、他人の古傷を知っても仕方が無いじゃない。
諦めなさいよ貴方達も。
重い静寂を破ったのは・・・
その重い空気を作り出した張本人だった。
「あ、と言う訳で俺も今日からナデシコに乗り込みます。
今後とも宜しくお願いしますね。
所属はカズシ補佐官の部下です。」
「あ、こちらこそ宜しく。」
艦長とナオさんが挨拶を交わして・・・
ナオさんのナデシコの乗船が決定した。
・・・こんな簡単にクルーが増えてもいいの?
ナデシコって一応軍艦でしょ?
まあ、逆に言えばナデシコだからかな。
「アキト・・・今日は一緒に寝て良い?」
何だか少し軽くなった雰囲気を、更に吹き飛ばしたのは。
ラピスちゃんのその一言だった。
「絶対に駄目です!!」
キ〜〜〜〜〜〜〜ン・・・
艦長の大声に全員が耳を塞ぐ。
「ユ、ユリカ・・・
あのなあ、ラピスは6才なんだぞ?
別に俺が添い寝をしても変じゃないだろうが?
それに俺はラピスの保護者でもあるんだし。」
「う〜〜〜〜〜〜〜
じゃ、じゃあ私もアキトとラピスちゃんと一緒に寝る!!」
「それは絶対許可出来ません!!」 × 女性陣
「ふみ〜〜〜〜〜〜〜〜」
艦長が女性陣全員から突っ込みを受けて、涙目になってる。
・・・6才の子に嫉妬してどうするのよ艦長?
ルリルリならともかく。
私は少し離れた所にいるルリルリを見ると・・・
・・・怒っていた。
それはもう、背後にオーラが見えるくらいに。
「ラピス・・・貴方の思惑通りにはさせません。」
その呟きを私は聞かなかった事にした。
まあ、多分大丈夫でしょう。
そして問題のラピスちゃんを見ると。
・・・ルリルリにアッカンベーをしていた。
将来、絶対大物になるわねこの子は・・・
「・・・僕は何処で寝るんだろう?」
「じゃあ、マキビ君は俺の部屋に来れば良い。」
そう言ってオオサキ副提督がハーリー君の頭を撫でた。
・・・良い人なのよね〜、このシュンさんって。
この人なら安心してハーリー君も任せられわね。
間違ってもウリバタケさんだけは絶対に駄目だけどね。
情操教育上、不適切過ぎるわ。
そうして、一連の騒ぎは納まり。
私達はナデシコへと帰っていった。
「・・・生きてますかウリバタケさん?」
「・・・おう。
お前は・・・どうなんだよジュン?」
「一撃でノックアウトでした。」
「ははははは、まあ仕方無いよね。」
「・・・いたのかロン髪?」
「いたんですか、アカツキさん?」
「ははははは・・・結構酷いね君達も。」
「くっそ!! 数があれば倒せると思ったのに!!」
「まあ、儚い夢だったね〜」
「はあ・・・誰か助けてくれないかな。」
「むう・・・」
「いたのか、ゴート(さん)!!」 × 3人
私達が彼等の事を思い出したのは、ナデシコに戻ってから一時間後だった。