< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ま、元気なったのはいい事だがな。

 別の方面に向ってないか?

 

『夢が明日を呼んでいる〜♪』

 

 俺は食堂で、ラーメンを食べながらその謎の人物を見ていた。

 ・・・正体を言っては、いけないのだろうか?

 

「おい、カズシ・・・お前彼に、何を助言したんだ?」

 

 俺の前の席でカレーを食べていたカズシに、そう質問をする。

 

「いえ、ごく一般的な説教ですが。」

 

 額に汗を流しなら、俺にそう弁解するカズシ。

 では、どう曲解すればアレになるんだ?

 

 俺は再び、鎧の様なモノを着込んだ人物を見る。

 やっぱり・・・ジュンだよな?

 まあ、ここはジュンの心意気を買ってロボット(仮名)と呼んでやろう。

 

『レッゴー、パッション!!』

 

 そのロボット(仮名)が近づくにつれ、何か歌が聞えてくる。

 

 おお、スピーカー内蔵式か?

 手が込んでるな・・・さては、ウリバタケ作品だな。

 

 そう思っていると、ロボット(仮名)が俺に声を掛けて来た。

 

「何か、怪しい人物を見ませんでしたか?」

 

「・・・おい、ジュ!!」

 

 ロボット(仮名)の本名を呼ぼうとした、カズシの足を踵で踏み抜く。

 

 

 ゴスッ!!

 

 

「!”&%#$*¥!!」

 

 

 あ、軍用ブーツだから、踵が特殊加工されてるんだった。

 ・・・まあ、を理解しなかったお前が悪いんだカズシ。

 

「いや、別に見なかったが?」

 

 俺は机に倒れているカズシを無視して、そうロボット(仮名)に返事をする。

 

「そうですか。

 では、お食事中に済みませんでした。」

 

 ・・・礼儀正しいロボット(仮名)君である。 

 

 

 そして、次に別のテーブルに座っていた、サラとアリサの姉妹の所へと向う。

 ナデシコ艦内を、その姿で歩きまわるつもりか?

 確かに個性的ではあるが・・・

 

「し、知りませんですぅ!!」

 

「わ、私も別に見て無いわ!!」

 

 おお、珍しく二人揃って動揺してるな。

 まあ、その気持ちは解らんでも無いが。

 ・・・このナデシコはいろんな意味で、常識が通用しないからな。

 

「・・・ちゃっかり、そのナデシコに順応してるじゃないですか!!」

 

「お、復活したのか?」

 

 涙目で俺に何かを訴えるカズシ。

 どうでもいいが、大男の涙目には不気味なモノがあるな。

 本当にどうでも良い事だが。

 

「ほら、早く食べないと冷めるぞ。」

 

 俺はラーメンに再び箸を入れながら、カズシに忠告をする。

 

「貴方はそう言う人ですよね、ええ、そうでしたよ・・・ブツブツ」

 

 愚痴を言いながら食事を再開するカズシ。

 え〜い、男が終った事に文句を言うな!!

 

 

 

「何か異常はありませんか?」

 

 お、今度はホウメイガールズに質問をしてるな?

 まだ、名前と顔が一致しないんだよな。

 あの子は誰だったかな?

 

「い、異常って?」

 

 引き攣った笑いをしながら、ロボット(仮名)を指差そうとして・・・

 ホウメイさんに止められた。

 

 むう、やはりホウメイさんはを知っているな。

 

「・・・隊長、絶対何か勘違いしてるでしょう?」

 

「何を言う。」

 

 俺を冷めた目で批判するカズシ。

 ・・・もう一度、足を踏み抜いてやろうか?

 

「さ、さあね? 別に気が付かなかったけど?」

 

 ホウメイさんの返事を聞いて、ロボット(仮名)は考え込む。

 

「そうですか・・・」

 

「で、何かあったのかい?」

 

 そして、逆にホウメイさんに質問をされ。

 

「極秘任務ですので、僕の事はご内密に!!」

 

 そう言い残してロボット(仮名)は去って行った。

 ・・・腰の部分の装甲が動かない為、その歩き方は凄いがに股だった。

 後で絶対腰を痛めるぞアレは。

 

「内密に・・・そりゃしますよね。」

 

「はははは・・・どうしたんだろうね?」

 

「ゲキガンガー、って伝染性?」

 

 その後姿を、ホウメイさんとホウメイガールズは見送っていた。

 一人の女の子が、塩をまこうとしてホウメイさんに止められていたが。

 ・・・そんなに衝撃的だったのか?

 

 

「ねえ、アリサ・・・あれって?」

 

「姉さん、私達は何も見なかった・・・そうよね?」

 

「・・・そうね。」

 

 こちらも自己完結している。

 

 

「隊長、絶対に変ですよ。

 どう考えても極秘任務の格好じゃ・・・!!」

 

 

 ゴスッ!!

 

 

「ちゃんと教訓は活かさないと、戦場では生きていけないぞ。」

 

 ラーメンを啜りながら、俺はカズシにそう忠告してやった。

 ・・・まあ、当人は足を抱えて唸っていたが。

 

 そして、俺はロボット(仮名)が立ち去ったドアを見て・・・

 

「ふっ、だな。」

 

「・・・絶対に、違う。」

 

 

 ゴスッ!!

 

 

 ちゃんと止めは刺さないと、な。

 

 

 ・・・俺がブリッジに帰るまでに、通路上には色々な人形が落ちていた。

 荷崩れでもあったのか?

 

「それも・・・違うと思います。」

 

 力なく、俺の意見に反対を述べるカズシ。

 なら、どうしてこんな状態になったんだ?

 

「・・・ルリちゃんに聞きましょう、隊長。

 それが一番早い様な気がします。」

 

「それも、そうか・・・」

 

 俺達は歩き難い通路を早足でブリッジに向った。

 

 

 

 

 

「見よ!! この完璧な包囲網!!

 パイロットはかなりのゲキガンマニアだ、きっと飛び付く!!

 うわはははははははは!!

 何時でも来い!! ドンと来い!!」

 

 

 

「・・・相変らずですね。」

 

「♪♪♪(楽しんでる)」

 

「だからって・・・限度があるでしょうに。」

 

 

 

 

 

 

 

 俺がブリッジに入ると・・・

 頬杖をついて、溜息をつくミナトの姿が目についた。

 

「ミナト・・・」

 

 俺が声を掛けると。

 

「私、降りない。」

 

 それが、お前の答えなのか?

 

「俺に・・・どうしろと言うのだ?」

 

「ねえ、ミスターホーリは何でナデシコに乗ってるの?

 仕事だから、命令だから?

 私は貴方と一緒に・・・」

 

 だが、この先の戦いは激しくなる一方なのだ。

 

「ナデシコに乗っているのは仕事だからだ。

 木星蜥蜴には何の恨みも無い。」

 

 俺はミナトの肩に手を置きながらそう応える。

 ・・・俺は、自分らしくない事をしているのかもしれん。

 

「そして、戦争が終れば暖かい家庭が待ってるの?」

 

 俺の手に頬擦りをしながら、ミナトは俺に問う。

 暖かい家庭、か・・・俺には不相応だな。

 

「公私混同はしたくない。」

 

「私は貴方のプライベートなのね。」

 

「女を守る為に仕事をしている訳じゃ無い。」

 

 そうだ、俺は会社の命令と自分の為に仕事を・・・

 

「じゃあ、アキト君の事は?

 彼は一体何を考えているの?」

 

「・・・」

 

 それは俺の方が、知りたい事だ。

 その実力といい、人脈といい・・・個人の力にしては大き過ぎる。

 テンカワはいったい何を考えているんだろうか?

 

「取り敢えずは平和を・・・」

 

「求めているのは知ってるわ。

 だけど私が聞きたいのは、その後の事よ。

 ・・・彼は、普通の生活に戻れるのかしら?」

 

 無理だ。

 それは断言出来る。

 だが、それはミナトも解っているのだろう。

 彼女はホシノ ルリを始め、テンカワを慕う女性の相談役をしている。

 ・・・辛いだろうな、対象者は絶対に幸福になれない、と言えないのだから。

 

「皆、アキト君に夢中なのよ・・・だから、恐いの。

 将来に絶対に起る事が。」

 

 そう言って、目を伏せるミナト。

 

「テンカワは・・・俺より強い、色々な意味においてな。

 多分、俺達の予想を超える結末を用意してる。」

 

 俺には、テンカワのその意外性に掛ける事しか出来ない。

 ・・・十代の青年に頼る事しか出来ない、自分が情け無いが。

 

「そうよね・・・・アキト君、だもんね。

 で、私の事はどうするのゴートさん?」

 

「・・・俺はテンカワ程、強くは無い。」

 

「・・そう。」

 

 俺にはそんな返事しか出来ない。

 いや、逃げているだけか。

 

 

 ブリッジが静寂に包まれ・・・

 

 

 

「全艦異常なしだよ。」

 

 突然、ラピス君の声がブリッジに響いた!!

 

「ラ、ラピスちゃん?

 何時から・・・そこに?」

 

 ミナトが動揺をしながら声を掛ける。

 むう、俺も気が付かなかった・・・

 

 ミナトとの会話に夢中になり過ぎたか。

 

「最初からいたよ。」

 

 ・・・俺って。

 

「あ、あの〜」

 

「大丈夫!!、ラピスは全然聞いてないから!!

 それに、大人の話しは良く解らないし!!」

 

 目が・・・その言葉を裏切ってるぞ、ラピス君。

 

「で、続きは?

 私も今後の参考にしたいし〜」

 

 今後って一体?

 テンカワ、お前はどんな教育をしているんだ?

 ・・・って、まだ保護者になって、一週間も経って無いな。

 

 なら、マキビ ハリ君の仕業か?

 

 

 

 

「僕は無実だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

「煩いですよ、ハーリー君。」

 

 

 

「あははははは・・・わ、私ちょっと汗を流してくるから。

 後、お願いね?」

 

「ぶぅ〜!!」

 

 ミナトの逃げの言葉に不満を示すラピス君。

 ・・・子供にはまだ早いからな、これでいい。

 

 

 プシュ!!

 

 

 ブリッジを出て行くミナトを俺は見送る。

 ・・・似合わない、俺には見送るなど。

 

 ミナトとの関係に軋みを感じた。 

 

 

 

「何〜だ、もうお終いか〜」

 

「む!!」

 

 突然の声に俺は驚く。

 

「ば、馬鹿!!」

 

「お、お前等!!」

 

 そこにはパイロット三人娘がいた。

 ・・・俺は本当に気が付いてなかったのか?

 

 かなり集中力が散漫だな。

 

「違うよ、ただ下で待機してたら人の声が聞えて!!

 別に何も聞いて無いぜ!! な、な?」

 

 そう言いながら、両隣のマキ イズミとアマノ ヒカルに問うスバル リョーコ。

 ・・・慌てているのが、自分が怪しいと言ってるのと同じ事だろうが。

 

「そうそう、別にスバル君が悪い訳じゃないな。」

 

「そうですね。

 でも愁嘆場の多い戦艦ですね。」

 

「ふ、副提督!! それに補佐官まで!!」

 

 お二人は俺の頭上に位置する、指令所で笑っていた。

 全部・・・聞かれたのだろうな。

 

 ・・・俺はシークレットサービスとして失格だ。

 かなりの自信喪失になった。

 

「俺達にまで気が付かないあたり・・・余程焦っていたな。」

 

 笑いながら俺に、そう話し掛けるオオサキ副提督。

 

「そう、見えますか?」

 

「見える見える、アキトと自分を重ねる辺り末期症状だな。

 どうも、この艦の男どもはアキトと自分を直ぐ比べたがるな。

 ・・・まあ、気持ちは解らんでもないが。」

 

 そうなのか?

 ・・・確かに、俺はテンカワと自分を比較した。

 だが、それは意図的では無く。

 

「アキトはアキトだよ?

 どうして、ゴートさんが比べるの?」

 

「まあ、男の意地ってやつかな?

 ほら、ハーリー君も良くアキトに噛みつくだろ?」

 

 ラピス君の質問には、タカバ補佐官が答えた。

 

「相手にされてないけどな。

 ハーリー君には、超えるべき壁に見えてるんだろうな。」

 

 オオサキ副提督がそう言うと。

 

 

「そんなの絶対に無理なのに?」

 

 

 ラピス君の返答は辛辣だった。

 

「ま、年の差以前の問題だよな。」

 

「うん、そうだね。」

 

「ふくくくく・・・」

 

 そのラピス君の発言に頷く、パイロット三人娘。

 結構、酷い認識を持たれているなハリ君は。

 

 ・・・何処かで、ハリ君の泣き声が聞えた様な気がするが?

 

「ま、まあ比較対象が悪かったな。

 そうだな・・・じゃあ、手頃な所でアオイ君なんてどうだ?」

 

 苦笑をしながらそう言い直すオオサキ副提督。

 

 

「・・・ハーリーの同類じゃ、比較にならないよ。」

 

 

 ラピス君の返事は・・・更に辛辣だった。

 何だか二人が気の毒に思えてくるな。

 

 

「わはははははははは!!」

 

 

「ラ、ラピスちゃん!! それはキツイよ!!」

 

 

「私より・・・面白い。」

 

 二人は受けていたが。

 ・・・一人は衝撃を受けたようだ。

 司令所のお二人も笑いを堪えている。

 

「そこまで言う?

 ・・・さすが、アキトの被保護者だな。

 う〜ん、そうだな、アキト・コンプレックスを乗り越えた見本でもあれば。」

 

 

 プシュ!!

 

 

「ありゃ? どうしたんです皆さん揃って?」

 

「・・・あれが、その見本だよラピスちゃん。」

 

 ブリッジに入って来たナオを見て、そう言い切る。

 

「え〜、ナオさんが?」

 

「そうそう、彼も昔はアキトとの実力差に悩んでいてね。」

 

「ちょっと!! シュン隊長!! そんなプライベートな事ばらさないでくださいよ!!」

 

 突然の話しに怒り出すナオ。

 

「まあまあ、今は幸せなんだからいいじゃないか。

 このナデシコでは、まだまだ不幸な男性が多いんだぞ?」

 

「・・・それ全部、アキトのせいでしょうが。」

 

 副提督の言葉に、素早く突っ込みを入れるナオ。

 

「こんな風に吹っ切れるとだな、男としてランクが上がる訳だ。」

 

「へ〜、だからミリアさんをゲット出来たんだね。」

 

 

 シィィィィィィィィンンン・・・

 

 

 ラピス君の発言にブリッジに沈黙が落ちる。

 

「ど、何処でミリアの事を聞いたのかな?」

 

「え・・・秘密だよぉ♪」

 

 顔を引き攣らせながら、ラピス君にそう問うナオ。

 ・・・もっとも、サングラスをしてるので正確な表情は解らないが。

 

「ほぉほぉ〜、じゃあ、ナオさんは彼女持ちなんだ。」

 

 ヒカル君の眼鏡が怪しく光る。

 

「これは・・・是非とも聞かね〜と駄目だな。」

 

 リョーコ君の目も何処か怪しい。

 

「私も・・・」

 

 イズミ君は・・・何時も怪しいか。

 

「ははははは・・・

 アキト、後で覚えてろよ。」

 

 まあ、ナオの言葉を聞く限りでは、原因はそれしか考えられないな。

 意外と口が軽いのか、テンカワは? 

 

 ・・・でも、俺とミナトの話しだった筈だよな。

 

 何時の間にか、話しはナオの婚約者の事に集中していた。

 

 ちょっと・・・寂しいぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

第十五話 その5へ続く

 

 

 

 

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