< 時の流れに >
第十五話.遠い星からきた「彼氏」・・・今度の出会いは・・・(後編)
「はあ、私もお人好しよね〜」
それは偶然だった。
私はちょっとした用事から、医療室を訪れた。
用事自体はイネスさんへ簡単な言伝と、メモの受け渡し。
コミュニケですれば早いのだけど・・・
整備班の常備薬が一部きれていたのに、私が気が付いたのが運の尽き。
こうして私はウリバタケさんに頼まれて、お使いに出されてしまったのだ。
・・・私もそんなに暇じゃ無いのに。
プシュ!!
「あら、レイナちゃんじゃない、何か用?」
私が医療室に入ると、机の上の書類に何か記入していたイネスさんが、私の方に顔を向ける。
「えっと・・・スプレータイプの消毒液と、痛み止めが無くなってて。
それとコレ、ウリバタケさんからのメモです。」
そう言って、私は整備服の胸ポケットに入れていたメモを、イネスさんに手渡す。
「ふ〜ん、・・・目途が立ったのか。」
掛けていた眼鏡を外しながら、楽しそうにメモを読むイネスさん。
まあ、メモの内容は私も大体知ってるけどね。
・・・でも、私にはあのウリバタケさんの文字を解読するのは、不可能だわ。
象形文字が別方面に進化した様な、特殊な文字だったもんね・・・
その時、私を呼ぶ声がした。
「お〜〜〜い、そこの新入り!!」
「わ、私の事?」
他に該当者は、この医療室には居ない。
「そうそう!!」
そして、その声の持ち主は振り返った私に笑いながら・・・
「・・・部屋に置いてあるビデオテープを持って来い、だなんて。
何故か、今日はお使いばかりね。」
その時の事を思い出しながら、私は溜息をついた。
ああ、人の好い自分が悲しいわ。
そして、問題の部屋に到着し・・・
「・・・多分、凄い部屋なんだろうな〜
主があんな濃い人なんだし。」
私に必死の形相でお願いしていた、ヤマダ ジロウさんの事を思い出す。
その事を考えると、この部屋を開けるのが恐ろしくなってきた。
まさか・・・今の時代に黒い節足動物は居ないわよ、ね?
不吉な予感を感じつつ、好奇心に負けた私はヤマダさんの部屋のドアを開けた。
プシュ!!
「・・・へ〜」
意外と綺麗な部屋だった。
いや、どちらかと言うと使用の形跡すら見当たら無かった。
後で理由を聞いた所、自室で過した時間より医療室のベットで過した時間の方が遥かに長いらしい。
・・・貴方、一体何者ですか?
まあ、それは別の話しであって。
その部屋では何故か、テレビの電源が付いていた。
そして、流れている音楽は昔のアニメの主題歌(ヒカルさんが良く歌ってる)
でも、このテレビって・・・ずっとスイッチを入れたままだったの?
不審に思いながら部屋に入り、ヤマダさんに頼まれていたビデオテープを探す。
ガサゴソ、ガサ・・・
「無いわね〜・・・もしかして、この再生中のビデオテープ?」
テレビの画面では、何やらクライマックスに向けて盛り上りを見せている。
・・・取り敢えず、テープの再生を止めようとリモコンを手に取り。
「ちょっと待った〜〜〜〜〜!!」
シュタッ!!
「へ!!」
天井から・・・誰かが落ちて来た。
「・・・天井に張り付いていたとは。」
「・・・忍者?(カッコイイ〜♪)」
「・・・なんなんだ、この人?」
カコーン!!
脱衣所では、三人の女性が話しをしていた。
「らしくていいけどな〜
自分に正直な女の子を、やってるだけでしょう?」
ハルカ ミナトのその発言に。
「普通の会社のOLならそれでもいいけど・・・
貴方は艦長でしょう?
しかも、地球連合最強の戦力を保持する艦のね。
意味は・・・解るでしょ。」
エリナ・キンジョウ・ウォンが反論する。
そして・・・
「・・・解っています。」
沈んだ声でミスマル ユリカは応えた。
サウナには他にも客が入っていた。
スバル リョーコ
アマノ ヒカル
マキ イズミ
何時ものパイロット三人娘だ。
そして、このサウナの中でもエリナの艦長への追及は続く。
「それで、貴方はどういうつもりでナデシコに乗ってるの?」
「私は・・・自分が望まれたからここにいます。
家や大学では、私は何時もお父様の娘。
ミスマルの長女としてしか、扱われなかったけど。
ここでは、私は自分が望まれる限り、それに応えられる存在でありたいんです。」
「それだけ? それでお終い?」
艦長の発言にエリナが突っ込みを入れる。
・・・しかし、暑いわね。
サウナだから仕方が無いけど。
「後は・・・アキトと一緒にラブラブ一直線、と言いたいんだけど。」
「だけど?」
ハルカ ミナトが艦長の言葉の続きを促す。
「この頃、アキトの過去が気になるんです。
火星で私と別れてから、何があったのか・・・
何故、アキトはあそこまで変わってしまったのか。」
目を閉じて考え込む艦長。
パイロット達は興味深そうに聞いている。
「恋愛も仕事もどっちもどっちも大切、何て言うのは簡単だけど。
それは、仕事をちゃんとやってる人の話しでしょ?
貴方は艦長としてちゃんとやってるの?
最終的にナデシコに、何をさせるつもりなの?」
畳み掛ける様に、艦長に言葉を投げつけるエリナ。
「ちょっと、そんなポンポン言ったってしょうがないじゃん。」
艦長に助けを出すミナト。
「貴方は黙ってて。
いい、これから先もテンカワ君を追い掛けてるだけ、じゃ駄目なのよ。
ナデシコはテンカワ君が合流した事で、地球連合の最強の艦になったわ。
そして当然、それに伴い義務が生じた。
それと地球連合からの監視の強化も、ね。
・・・下手な行動を取れば、味方に背後から討たれかねないのよ。
艦長はその事について、どう考えているの?」
「それは・・・正直に言うと恐いです。
自分の采配する力の事を考えると。
でも、今はまだ将来の事について、明確な考えが思い付きません。」
正直にそう応える艦長。
「まあ、艦長が戸惑うのも解るわ。
エリナが性急過ぎる、とも言えるけど。」
「はぁ?」 (ユリカ、ミナト、エリナ、リョーコ、ヒカル)
私の発言を聞いて驚く一同。
ふっ・・・我ながら見事なタイミングの登場ね。
入り口で様子を伺っていた甲斐があったわ。
「アキト君の過去を詮索をするのはいいけど。
ナデシコの艦長として、明確なビジョンや夢を持つ事は必要だわ。
何か考えがあるのなら、私は聞いておきたいけど。」
アキト君一人の戦力だけでも、十分に脅威なのに。
このナデシコは、火星遺跡のロストテクノロジーの塊でもある。
その実力は、今までの戦いで十分に示してきた。
・・・最早、地球連合が監視の目を外す事は無いでしょうね。
だからこそ、艦長には政治的な判断をも考慮に入れた、今後の方針を持って欲しい。
この艦長の肩には、私を含む200人前後の命が乗っているのだから。
「私は・・・戦争の中で艦長になったんです。
戦争が続く限りは、艦を守り抜く事しか考え付きません。
でも、戦争の中でも自分達がどうやって生きて行くのかを、考えてもいいと思います。」
ふむ、今はまだ考えがまとまっていない、か。
いきなりの質問は酷だったかしらね?
でも、この問題は必ずこの先に立ち塞がるわ。
考える猶予があるだけ、マシかしらね。
私は視線で、隣に腰掛けているエリナに意見を促す。
その視線を受けて、エリナは左右に頭を振る。
そう、貴方も今はこれでいいと判断をするのね。
ふと、気が付くと・・・
のぼせた人が二人程倒れていた。
まあ、結構長話だったからね。
「ラピス。」
「大丈夫だよぉ〜、ハーリーは殲滅しておいたから。」
「・・・」
ゴクゴクゴク・・・
脱衣所に戻り、フルーツ牛乳を全員で飲む。
・・・プロスさんの趣味で仕入れをしてるのかしら?
まあ、反対意見は何処からも出て無いけど。
「ところで・・・アンタにはあるのかよ?
その自分のビジョンってモノがよ。」
スバル リョーコがエリナにそう質問をする。
「あら、人に忠告するくらいだもの。
勿論持ってるわ。」
「ふ〜ん、それって何?」
アマノ ヒカルが興味深そうに追従する。
「まあ、今はネルガルの新会長を射止める事かな。」
そう言って悪戯っぽく笑う。
近頃、表情が柔らかくなったのよねこの子。
「・・・えっと、自分が会長になるって事?」
「ちょっと、意味が違うんだけどね。」
再度のアマノ ヒカルからの質問を、軽く煙に巻くエリナ。
ここらへんの話術は、流石会長秘書ね。
「私には・・・貴方ほど明確な目標は持っていません。
でも、私はこの戦争に勝ちたいと思ってます!!
ナデシコやアキトを守りたいんです。
私達が自由でいられる場所だから・・・」
「言うだけなら簡単なのよ。」
艦長の言葉を聞いて、エリナが返事を返す。
「それに、艦長は今までテンカワ君を守った事ってある?」
「そ、それは・・・」
「おい、無茶な事言うなよな。
あのテンカワを守れる奴なんてそういるかよ。」
エリナと艦長とスバル リョーコが、言い争いを開始する。
ふう、これはきりが無いわね。
「何も戦闘の事だけを言ってる訳じゃ、無いんでしょ?
物理的に守る・・・って事以外にも、人が人を守れる事は存在するわ。」
私が艦長に助け舟を出す。
「それはどういう意味なんですか、イネスさん?」
「ここから先は宿題ね。
自分で気が付かないと、意味が無い事もあるのよ。」
頭を抱えている艦長とスバル リョーコを見ながら。
私は二人を突き離した。
・・・少しは自分で成長して貰わないとね。
私としては張り合いが無いわ。
「流石に、良い事言いますね。」
「あら、それは誉め言葉かしら?」
艦長達から離れた私に、ハルカ ミナトが話し掛けてきた。
「普段のイメージとは、ちょっと違ったんで。」
「別に意識的に、冷たくしてる訳じゃないわ。
ただ、艦長もそうだけど競争相手に張り合いが無いのは、つまらないでしょ?」
「・・・それって。」
「以上、これから先の質問は受け付けません。」
私のその言葉を聞いて、彼女は苦笑をした。
「むぅ・・・」
「この、○○のくせに。」
「ラ、ラピス、本人の前でそれは絶対に禁句だよ(汗)」
「いいんでしょうか班長。
我々には探索の任務が・・・」
「・・・このまま、死んでしまいたい。」
「そうですか。
じゃ、地獄に送ってあげますね。」
「私も手伝うわ。」
「へ?」 (男性陣)
ドガッァァァァ!!
「ぐわっ!!」
グシャァァァァ!!
「ぐへっ!!」
ガスゥゥゥゥゥ!!
「おわっ!!」
メキョメキョ・・・
「ギ、ギブギブ!!」
ガンガンガン!!(消火器で乱打)
「あががががが・・・」
「何を・・・しているのかしら?」
私達が脱衣所を出ると。
そこには、死屍累々とした光景があった。
「あ、皆さんもういいんですか?」
「アリサちゃん・・・その関節、完全にきまってるよ。」
ヒカルの指摘に・・・
全員の視線が、気絶している整備員に向く。
「あ、泡を吹いちゃってますね。
まあ、自業自得ですし。」
極めていた腕の関節を外すアリサ。
この子も容赦が無い性格の様ね。
「サラちゃん・・・その血達磨な物体は。」
顔を引き攣らせながら、変形した消火器を持つサラに話し掛けるミナト。
「え? コレですか?
まあ、元は班長と呼ばれていた人物みたいですけど。
死んでもいい、って言うからお手伝いを少し。」
「元は、って・・・」
実は、この子が一番過激なのでは?
爽やかに微笑むサラに、私は脅威を感じた。
「この惨状を見れば、だいたいの予想はつくわね。」
「・・・まさか、覗きをしてたのか!!」
エリナとリョーコが憤慨している。
・・・彼等へのお仕置は、まだ終りそうに無い。
勿論、私も参加するつもりだけど。
「あ、見付かってしまいましたね。」
「これからどうなるのかな?(ワクワク)」
「・・・」(今だ殲滅中)
暫くの惨劇の後。
私が無理矢理復活させた、ウリバタケさんに事情を聞くと。
なんでも侵入者がいるらしい。
その事を私達に告げると、ウリバタケさんはまた別の世界に旅立った。
後で医療室に放り込んでおけば、大丈夫だろう。
私がしっかりと手当てをしてあげるし。
近頃、ヤマダさんしかサンプルデータを採れないから。
比較対象が欲しかったのよね。
それにしても、侵入者ですって?
・・・軍関係?
それとも、クリムゾンかしら?
何だか、嫌な予感がするわね。
でも、私にはナオさんとゴートさんの活躍を期待するしかないか。
「おい!! 侵入者がいるんだってな!!」
「どうして私に報告が無いのよ!!」
「艦長の私に、何も報告が無いのはおかしいと思います!!」
「ウリピーに覗きを命令するなんて、どういうつもりなんですか?」
「あ、いや、その・・・思いっきり、バレてるじゃいないの。」
「人選に問題があります。」
「違うよルリ、ここの台詞は”馬鹿”だよ。」
「あれ・・・ここは何処? 僕は誰?」