< 時の流れに >
ビィー!! ビィー!! ビィー
『艦内に侵入者の形跡有り!!
非常警戒体勢!!
異星人の可能性もある、出来るだけ単独行動は控える様・・・』
「考えてみたら・・・私達、木星蜥蜴の正体何も知らないんだよね。」
「歴史上、人類が火星軌道の外に殖民した事実は無いんだ。
木星蜥蜴が人類である可能性は、有り得ない。」
「な〜んかわくわくしちゃって、みっともないの・・・」
ミナトさんが廊下を、不機嫌そうな顔で歩いています。
でも・・・メグミさんの部屋に、今回はあの人居ないんですよね。
どうしましょ?
「だから・・・そのテープは私のじゃ無いから、持ち主に断ってきなさいよ。」
「いや、実は余り他人に顔を見せたく無いものですから。」
「はあ? 貴方ナデシコのクルーでしょ?」
「いえ、自分はそんな者では無いですが。」
「・・・ナデシコのクルー以外で、天井に張り付いてアニメを見る人なんて、いないと思うけど。」
「・・・どんな艦なんですか? ここは?」
・・・同感です。
返す言葉がありません。
「あら? 誰かまだ部屋にいるのかしら?」
でも、ナイスタイミングですミナトさん。
さあ、その部屋に・・・
「・・・何だ、ヤマダ君の部屋じゃないの。
だったら別に呼ばなくても大丈夫ね。」
・・・ヤマダさんの価値が解る一言ですね。
シュッ!!
ヤマダさんの部屋の前から、ミナトさんが立ち去ろうとした瞬間。
突然、部屋のドアが開き・・・
「済みません!! このテープだけは諦め切れないんです!!」
「あ、ちょっと!!」
「へ? 何?」
止め様とするレイナさんを振りきり。
九十九さんが部屋を勢い良く飛び出し。
そうなると・・・
ガッ!!
「きゃっ!!」
「あ、危ない!!」
九十九さんが、衝突したミナトさんを床に倒れる前に抱き抱え。
そのまま自分を下にして・・・
下にして・・・
「ま、大胆ね二人とも。」
見事に接吻(キス)をされました。
・・・まあ、別にいいでしょう、ミナトさんと九十九さんなら。
「・・・いきなり、波瀾に満ちてますね。」
「これから、どうなるんだろうね?」
「・・・ポン!!(手の平を叩く)」(この手は使えるよ!!)
場所はまたヤマダさんの部屋・・・
どうやら、ミナトさんも落ち付いた様です。
・・・九十九さんの頬に残る、赤い手形が免罪符でしょう。
「・・・で、貴方何者?
初対面の女性の唇を、いきなり奪うなんて。」
憤慨しながらミナトさんが、九十九に文句を言います。
「そうそう、テンカワ君でもそこまではしないよ。」
レイナさん、そんな事をアキトさんがしたら・・・お仕置です。
「し、失礼しました。
私は木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家反地球共同連合体、突撃宇宙優人部隊少佐
白鳥 九十九であります。」
長いです、その名称。
「に、日本語かな?」
「早口言葉みたいね・・・ははは。」
顔を引き攣らせながら、ミナトさんとレイナさんが言います。
「我々の国家はこの百年、木星に繁栄を築いてまいりました。」
「ちょっと、教科書読んだ事無いの?
地球人はね、火星までしかコロニーを作った事無いのよ。」
「ははは、私もテンカワ君に聞いて無かったら信じて無いだろうな。」
九十九さんの説明を聞いて、ミナトさんが口を挟みます。
その気持ちは解りますが・・・最後まで九十九さんの説明を聞いて上げて下さい。
しかし・・・レイナさんに木星蜥蜴の正体を話すとは・・・
これはオオサキ副提督を始め、新クルーの人達は全員知ってるんですね。
アキトさんと西欧方面軍の方々は、かなり強い絆で結ばれているみたいです。
・・・ちょっと、妬けますね。
「それは、貴方達の歴史に過ぎません。」
悲しそうな顔を九十九さんはしました。
自分達の存在が歴史上から消し去られている事を、ミナトさんの口から確認したのですから。
・・・その気持ちは私には解りません。
でも、悔しいのでしょうね。
コンコン!!
「整備班です、何か異常はありませんか?
・・・って、ヤマダの部屋からどうしてミナトさんの声が?」
さて、どうしますかミナトさん?
「・・・別に、ちょっと用事があってね。
直ぐにこの部屋からは出るから。」
「解りました。
出来れば、ブリッジか食堂にお集まり下さい。」
「は〜い、御苦労様!!」
そう受け答えたミナトさんを、不思議そうな顔で九十九さんは見てます。
レイナさんは・・・傍観の態度を取ってますね。
「さてと・・・取り敢えず怪我の治療ね。
それと、逃がしてあげるわ。」
「ど、どうも。」
微笑みながらそう言ったミナトさんを見て、九十九さんは顔を赤らめました。
九十九さんは女性には逆らえない・・・性格なんですよね。
誰かさんと一緒で。
「・・・そう言えば、もうそろそろ月では。」
「そうだね、月臣さんが来るね。」
「偶然を装って・・・ブツブツ」
ガラガラガラ・・・
女性の下着を一杯にしたカーゴの中に紛れて・・・九十九さんが運ばれていきます。
勿論、そのカーゴを押しているのはミナトさんとレイナさん。
九十九さんは真っ赤な顔をしてるんでしょうね、きっと。
・・・私の下着は入ってませんよね?
「いいんですか、ミナトさん?
・・・ゴートさんとかが怒るんじゃないんですか。」
手伝っておいて、そんな事を言いますかレイナさん?
う〜ん、見事にナデシコの”楽しければそれで良し!!”に染まってますね。
・・・私は・・・・どうなんでしょうね?
「怪我してる人、突き出したりするの趣味じゃないもん。
それにさ、何か話し聞いてみたいし。
とにかく安全な所に・・・」
笑いながらレイナさんの質問に応えるミナトさん。
始めは好奇心からですか、お付き合いの基本ですよね。
・・・既にキス、までしてますしね。
「・・・おいおい、二人とも今は非常警戒体勢だぜ?」
ここで・・・ナオさんが出て来ますか。
これは予想外ですね。
でも、ナオさんなら何事も無く九十九さんを逃がせますね。
ミナトさんも突っかかる事は無いでしょうし。
「御免ね〜、この洗濯物だけはやっておかないと明日が困るのよ。」
「そうなんですよ、ナオさん。」
二人が仲良く言い訳をして・・・
「しょうがないな〜」
ナオさんが苦笑をします。
そして・・・
「じゃ、そう言う事で。」
「また後でねナオさん。」
ナオさんの横を二人が通りぬけようとした時。
ガシッ!!
カーゴの端をナオさんの手が掴みました。
「ちょっと、何するのよナオさん!!」
突然カーゴを止められて、ミナトさんが驚きの声をあげます。
「ん? まあ、下着類には別に用は無いけどね。
・・・おい、出てきな。
気配を殺すには場所が悪かったな。」
ナオさんの、氷の声にミナトさんとレイナさんが固まります。
そう言えば・・・ナオさんは凄腕の諜報員だったんですよね。
しかも、アキトさんが私達の護衛を頼む程の・・・
普段の言動に慣れてしまっていて、忘れていました。
こんな所でその真価を見せられるとは。
ブラスターをカーゴの中に向けたまま、黙り込むナオさん。
やがて、九十九さんが諦めた様に立ち上がります。
「・・・この女性達は関係無い。」
「そんな白鳥さん!!」
「私達は勝手に!!」
九十九さんの発言を聞いて、驚くミナトさんとレイナさん。
「・・・ふん、まあ人間としては及第点だな。
取り敢えず武装解除してもらおうか。」
持っていた拳銃を放り投げながら、九十九さんがナオさんに質問をします。
「何故・・・俺の隠行術に気が付いた?
地球人には、それほど接する機会のない術のはずだ。」
「なに、師匠が特別でね。」
ナオさんは悪戯っぽく笑いました。
その後、ブリッジに侵入者の捕獲を報告したナオさんは。
ユリカさんとオオサキ副提督の命令で、九十九さんを連れて監禁室に向います。
その後ろをミナトさんとレイナさんが、付いて歩いています。
「・・・ナオさん、見逃してくれない?」
「・・・私も同意見。」
二人のお願いを・・・
「駄目だ。」
一言で断るナオさん。
その顔は仕事用なのか、無表情を保っていた。
「どうしてよ〜」
「これはアキトから頼まれた仕事だからな。
ナデシコクルーに害が及ぶ可能性がある場合、俺は一切の妥協はしない。」
そう言い切られては・・・ミナトさんにもレイナさんにも、返す言葉は無かった様です。
そして、四人は監禁室へと到達しました。
「驚きましたな〜、紛れも無く地球人類です。
多少、遺伝子を弄くった跡はありますが。」
プロスさんが九十九さんの遺伝子の調査結果を見て、驚きの声をあげます。
「地球人などと呼ぶな!!
自分は誇り有る木連の兵士だ!!」
その言葉を聞いて憤慨する九十九さん。
「う〜ん、木星蜥蜴の正体が自分達と同じ人間だった。
・・・衝撃の事実を聞いた割には、落ち付いてられますなオオサキ副提督。」
「ま、予備知識があったからな。」
突然、話しを振られたのに余裕で応えるシュンさん。
これは経験の差でしょうかね。
「やれやれ・・・またテンカワさんですかな?」
「さて? 何の事やら。」
プロスさんの追及を軽くかわすシュンさんだった。
あのプロスさん相手に張り合うとは・・・やはり大物ですね。
「まあ、良いでしょう。
それで、この人の処理はどうしますかな艦長?」
「えっとですね・・・」
もうそろそろ助けを入れますか。
月では月臣さんが到着したみたいですしね。
ピッ!!
『艦長、只今月面上にて敵大型機を確認しました。』
「えっ!! そうなのルリちゃん?
アキト、大丈夫かな?」
「アキトなら大丈夫だろうさ。
アイツの愛機も一緒なんだしな。」
ユリカさんの言葉に、ナオさんが軽く応えました。
実際、誰もアキトさんの勝利を疑ってはいません。
私もそうですけどね。
さて、後は九十九さんをどうやって逃がすかですね。
ビィー!! ビィー!! ビィー
非常警報?
先程の警報は、九十九さんが捕まった時に解除したはずなに。
でも、この警報を発信したのは・・・ラピス?
「ラピス、どう言うつもり・・・!!」
私が隣のラピスを見た時・・・
そこには何時もの快活なラピスではなく。
あのユーチャリスに乗っていた時の、人形の様に無表情なラピスがいました。
そして・・・
「アキト!! アイツが・・・アイツが来た!!!!」
そう叫び、ガタガタと震え出します。
私はそのラピスを抱き締めながら、ラピスが見ていた画面を覗き込み・・・
そこに、ラピスを恐怖のどん底に叩きこんだ存在を見付けました。
「・・・北辰、随分と早い登場ですね。」
画面上には、不気味に笑うあの男が映っていた。
『艦長!! 早くブリッジに来て下さい!!』
「どう、どうしたのルリちゃん?
そんなに取り乱すなんて。」
私は急いでユリカさん達をブリッジに呼びます。
今は早く守りを固めなくては。
・・・あの男に対抗出来る人物は、残念ながらこのナデシコにはいません。
そう、ナオさんでも不利でしょう。
「・・・あのルリちゃんが慌てているんだ。
何か理由があるのだろう。
艦長、俺達も早くブリッジに行こう。」
「・・・そうですね。」
シュンさんとユリカさんの言葉を聞いて。
他の人達も急いでブリッジに向います。
・・・これで、打てる手は全て打ちました。
後は、アキトさんの帰りを待つより他に方法は無いでしょう。
そして、ユリカさん達がブリッジに走りこんできました。
「ルリちゃん現状は?」
「侵入者です!! 数は七名!!」
私はユリカさんに報告をしますが・・・
正直な所、打つ手がありません。
相手が・・・悪過ぎます。
「何だと、この男の他にも侵入者がいたのか?」
ゴートさんがそう言って唸ります・・・
「・・・ええ、それも厄介な相手です。」
「貴方は侵入者の正体を知っているの、ホシノ ルリ?」
エリナさんが不審の目で、私を問い詰めます。
いけませんね・・・私もかなり動揺しています。
「・・・」
「話せないか・・・
でもラピスちゃんの姿を見る限り、普通の相手ではなさそうだな。」
ナオさんが私と、私の腕の中で震えているラピスを見て真剣な表情になります。
「でしたら、整備班も集結させて包囲網を作れば・・・」
「駄目です!! 無駄死にするだけです!!
こんな事を言いたく無いですが・・・
アキトさんが攻め込んでくるみたいなものなんですよ!!」
私の叫びを聞いて・・・
ブリッジが静寂に包まれます。
やはり・・・この一言は強烈でしたね。
「う、嘘だろルリ?」
「そんな・・・勝てないよ、私達だけじゃ・・・」
青い顔をして、リョーコさんとヒカルさんがそう言います。
私も同感です、ですから今は時間を稼ぐ事を考えないと駄目なんです。
「ルリちゃん・・・アキトは直ぐに来れるのかい?」
「月での決着が付けば直ぐにでも・・・ですから今は。」
「解ったよルリちゃん。
皆さん、時間稼ぎに集中しましょう!!」
私とナオさんの会話を聞いて、ユリカさんも覚悟を決めたみたいです。
そして、モニターには北辰を先頭に、廊下を疾走する七人の姿が映っています。
「北辰・・・何故貴様がここにいる。」
九十九さんの呟きに。
ラピスが過剰に反応します。
「大丈夫です、ラピス。
貴方はアキトさんを呼び続けて下さい。」
震えるラピスを抱き締めながら、私はラピスの耳元で囁き続けます。
私達のこの想いが、アキトさんに届く事を願って。
「北辰と言うのか、この男は?」
「・・・そうだ。」
九十九さんがナオさんの質問に応えます。
・・・九十九さんも北辰の危険性を知っているのでしょう。
不安気な顔をミナトさんに向けています。
そして・・・
「その子の判断は正しい。
言えた義理では無いが、あの男を相手に正面から戦うのは・・・無謀だ。」
「だからと言って!!」
九十九さんの忠告を聞いて、ジュンさんが憤慨します。
ですが、その膝は震えています。
・・・相手がアキトさんと同等のレベルだと知れば、恐怖を感じるのは仕方が無いでしょう。
この場から逃げ出さないだけ、マシです。
そして、私達には対策を練る暇も無く・・・
「ルリさん、来ます!!」
ハーリー君の叫び声がブリッジに響き・・・
ドゴォォォォォォォォンン!!
ブリッジの入り口が破壊され。
チリィィィィィィィン・・・
煙の晴れた向こうから、あの忘れられない音と共に・・・
「ふむ、今回の贄は女が多いな。」
過去の姿そのままに、アイツは現われた。