< 時の流れに >
「ディア!!
貴方、どうしてここに!!」
突然現れた、あの子を見て・・・
私は驚き、そして安堵をしました。
そう、あの子が現れる理由なんて一つしかありません。
『う〜ん、とね・・・あ、ちょっと待っててね。
取り合えず、起動シーケンス始めま〜す♪』
ブィン・・・
ディアの周囲に、幾多のパネルが表示され。
次々と、機能チェックが行われていきます。
『レーダー類 OK
エネルギーパイパス OK
各種、兵装 OK
ジャンプシーケンス OK
・・・システム オールグリーン、と。
ブロス、相転移エンジンの起動開始!!』
デイアがそう言うと、ディアの目の前に一つの通信ウィンドウが開き。
『OK!!』
と、表示をした。
カチ、カチカチ・・・
そして、薄暗かったディアの周りが次々と明るくなり。
ディアのいる場所が、アサルトピットの様な構造になっている事が解ります。
『小型相転移エンジン・・・始動開始!!
エネルギーバイパス、正常作動!!
各種レーダー類、作動開始!!
発進準備完了!!』
その光景を、ブリッジの全員が驚いた顔で見ています。
・・・そうです、この二人を従える事が出来るのは。
『『ブローディア』、発進準備完了だよ!! アキト兄!!』
ボゥ・・
光に満たされた、アサルトピットの中には。
目瞑り、何かを考えている様なその姿・・・
そして、過去で着用していた漆黒の戦闘服。
あのバイザーは着けていませんが、間違い無くその人は。
「アキトさん!!」
「アキト!!」
「アキト君!!」
私達は、その姿に思わず歓喜の声を上げます!!
やはり、アキトさんは生きていました!!
そう、そして今あの機体に乗り、再びこの戦場に現れようとしています!!
アキトさんの目が開き、隣に浮いているディアに頷きます。
そして、IFSシステムシートが浮かび上がり。
アキトさんの目の前のスクリーンが、外の景色を映し出し。
『・・・『ブローディア』、発進!!』
ブオォォォォォ・・・
そこで通信ウィンドウは途切れました。
ですが、最後の瞬間。
私達に向かって、アキトさんが微笑んだ事は全員が知っています。
今、漆黒の戦神はこの戦場に向かって、跳んだのです。
あの羅刹との決着を付ける為に。
「やっ〜ぱり、生きてたよ。」
「まあ、殺しても死なない奴ですからね。
隊長もそう思うでしょう?」
「・・・野暮な事は、言わない方がいいぞ〜」
「へ?」
「カズシ補佐官殿・・・
後で私達の招待を受けて貰えますか?(はーと)」(ブリッジの女性陣)
「え、遠慮をしたいな〜〜〜〜、ははははは・・・」
まあ、今は何も言いません。
だって、あの人が戦場に到着したのですから。
「今度のアキトさんは・・・手加減して勝てる相手じゃないですよ、北斗さん。」
俺に近づいてくる『ダリア』・・・
その身に纏う真紅の光翼に、俺は圧倒された。
・・・これほどまでに、力の差があるなんて!!
俺は少しでも生き長らえようと、機体を必死で動かそうとする。
しかし、俺の機体は指一本動かない!!
くそっ!!
こんな所で・・・死ねるか!!
俺は生きて、必ずテンカワに会うんだ!!
ガチャガチャ!!
思いつく限りの操作をするが、機体は全然応えてくれない!!
頼む、動いてくれ!!
『・・・悪足掻きをするな、楽にあの世に送ってやる。
もっとも、本当にあの世があると俺は信じていないがな。』
アサルトピット内の電源する落ちているのに。
通信機器だけは、生きているのは皮肉だった。
そして、北斗はDFSすら使用せず。
その『ダリア』の右手を、俺のコクピットの辺りに置く。
『中々、頑張ったな。
最後に名前を聞いてやる、言ってみろ。』
!!
・・・ふざけるなよ!!
俺は絶対に死なね〜!!
生き延びてみせる!!
「俺の名前はスバル リョーコだ!!
だけどな、俺はまだ死なね〜ぜ!!」
バシュ!!
エステの両足部分を切り離し、その場から逃げ去ろうとする!!
『無駄な事をする・・・大人しく、死ね。』
ブゥゥゥゥンンン・・・
左手に、ディストーション・フィールドを収束させ。
俺に向かって放とうと構える『ダリア』!!
くっ!! 右腕か左腕の切り離しをして、軌道修正をすれば・・・
だが、俺の思惑は北斗一言によって遮られた。
『避けるか?
・・・まあ、後ろの白銀の機体のパイロットは、気絶しているみたいだからな。
苦しまずに死ねるだろうな。』
何!!
俺は、その北斗の言葉を聞いて、驚きながら通信ウィンドウを開く。
「アリサ!! おい、アリサ!!」
『・・・』
しかし、アリサからの返事は無い。
・・・本当に気絶をしているみたいだ。
くそっ!! アリサのエステは機動力が命だ!!
その為に、俺以上に『バーストモード』の時に掛かる負荷が凄い!!
今日は完全に、限界を超えた戦闘をした・・・
その反動が、今頃来たのか!!
『先に、大人しい方から始末するか。
悲鳴も静かでいいだろうしな・・・』
そして、北斗はアリサの機体に向けて左腕を構え・・・
「止めろ〜〜〜〜〜〜!!!」
『まあ、暇潰しにはなったぞ。』
ブゥン!!
その腕を振り下ろし、真紅の刃を放った!!
「避けろ〜〜〜〜、アリサ〜〜〜〜!!」
俺自身、無茶な事を言ってると解ってる。
しかし、叫ばずにはいられなかった。
そして、その真紅の刃は吸い込まれる様にアリサの機体に・・・
バシュゥゥゥゥ!!
『・・・寝込みの女性を襲うとは、無粋な事をするな、北斗。』
見た事も無い漆黒の機体が突然現れ。
その右手に持つ真紅の刃で、北斗の放った真紅の刃を打ち消した!!
『貴様!!』
その声を、俺が忘れるはず無い。
そして、北斗の攻撃を防げる人物など・・・
『アキト・・・さん?』
「テンカワ!!」
『ただいま、二人共。』
気が付いたアリサと俺に、テンカワは微笑みながら返事をした。
「くくくく・・・本当に生きていたとは、な。」
『生憎と、しぶとい性格なんでね。』
俺の目の前には、見た事も無い機体があった。
俺の『ダリア』に、重装備の鎧を着たような姿だ。
そして、背後には大きな翼と思えるモノが付いている。
そして、その全身は漆黒に染まっている。
・・・そのパーソナルカラーを使用し。
この俺にすら戦慄を与えるプレッシャー。
そして、俺の攻撃を軽く防いだ事実。
疑う事は無い。
コイツはテンカワ アキトだ!!
ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
俺の歓喜の感情に応えるように、『ダリア』が吼える!!
「さあ、続きをしようか・・・テンカワ アキト!!」
お前の乗るその新型の力!!
俺に見せてみろ!!
『・・・ブースター・パージ』
バシュウゥゥゥ!!
テンカワのその言葉と共に、テンカワの機体を包んでいた鎧が外れる。
何を・・・するつもりだ?
そして現れた、テンカワの機体は・・・
俺の『ダリア』と何処か似ている、優美な人型のフォルム。
ただ、決定的に違うのは、その背に生えている漆黒の大きな翼だろう。
俺や、あの女達の『光翼』とは違う。
実物の翼だ・・・
『ブロス、お前はブースターを操って、アリサちゃんとリョーコちゃんの避難。
その後で、他の皆の援護を頼む。』
『了解!!』
ガシャン!!
その言葉が終ると、機体から外れた鎧が変形して飛行機になる。
そして、最早動かない、二つの機体を歪曲場で包み運び去る。
・・・まあ、いい。
もうあの二人に興味は無い。
しかし、あの鎧は一体?
『ディア、君はこの周辺の宙域のスキャン。
そして、ブロスのサポートを頼む。』
『解ったよ、アキト兄!!』
テンカワの声に重なり、幼い幼女の声がする。
何なのだ、あの機体は?
そんな事を考えている俺に、テンカワから声が掛った。
『さて、始めるか北斗。』
「・・・ああ、そうだな。
その前に、一応その機体の名前を聞いておこうか。」
ブォォォォォォォンンンン・・・
俺はDFSを構えながら、そうテンカワに話し掛ける。
『こいつの名前は『ブローディア』
『守護』の花言葉を持つ、花の名前だ。』
「はっ!! 何処までも格好をつけてくれる!!」
俺は、DFSを構えてテンカワの『ブローディア』に突撃をした!!
ブゥォォォォォンンンン!!
ガオォン!!
ザンッ!!
ドガッ!!
『やる気はあるのか、テンカワ!!』
北斗が叫びながら、俺に向かってDFSを振るう。
「・・・まだ、慣らし運転もしてないんでね。
簡単に操れる機体じゃないんだよ、この『ブローディア』は。」
俺はそう返事を返しつつ、北斗の攻撃を避ける。
実際・・・俺ですら持て余すパワーを、この『ブローディア』は持っていた。
流石は、B計画最後の機体であり・・・
ウリバタケさんとイネスさん、それにレイナちゃんにルリちゃんと、ラピス。
最高のスタッフで作られた機体だ。
俺だからこそ扱えると、信じられて作られた機体。
ならば、それに応える事が俺の恩返しだ。
その時、突然頭の中にディアの声が響いた。
『ぶ〜、あたしは、じゃじゃ馬じゃないもん。
悪いのはブロスだよ、アキト兄!!』
『ははは、悪い悪い。
ブロスもディアも悪くないよ。
悪いのは、二人を扱いきれてない・・・俺さ。』
俺とディアはIFSシステムシートで繋がっている。
ディアは・・・『ブローディア』に搭載された、オモイカネ級コンピュータの縮小版だ。
そして、ブロスもそうだ。
ディアは戦場のスキャン、ジャンプフィールドの管理、ジャンプ座標の保持等々・・・
『ブローディア』の情報システム系を統括している。
ブロスは『ブローディア』本体の管理、そして俺の戦闘補助を担当している。
『ブローディア』の鎧であり、ブースターでもある『ガイア』を操る事も可能だ。
俺は、この二人のお陰で戦場の全てを把握しつつ。
全力で戦える力を手に入れたのだ。
『もらった!!』
バシュゥゥゥンンン!!
死角から、北斗の攻撃が襲い掛かる!!
その背に纏う真紅の翼が、俺に向かって羽ばたいた!!
「『フェザー』展開!!」
バシュシュシュシュシュ!!
『ブローディア』の背中の翼から、羽の部分が全て弾き出され。
その数百と言う数の『フェザー』は、『ブローディア』の周囲を高速で回転する!!
そして、その一枚一枚が、赤い輝きを放っている。
ギュラァァァァァ!!
バシィィィィ!!
『何!!』
『ブローディア』を包む、真紅の球体に北斗の攻撃は防がれた。
この『フェザー』は『ブローディア』を守る鎧であり・・・
そして、武器でもある。
「襲!!」
ザァァァァァ!!!
俺が指差した方向に向かって、『フェザー』が弾丸となって襲い掛かる!!
『これは・・・何だ!!』
咄嗟に防御を固める北斗。
流石に、この攻撃は避けれないと気が付いた様だ。
バシシシシシシシシ・・・
『ダリア』のディストーション・フィールドに弾かれ、俺の元に帰ってくる『フェザー』
この『フェザー』を操る補助も、ブロスがやってくれている。
『・・・随分、小技が増えたじゃないか、テンカワ。』
『フェザー』の嵐に翻弄されながも、無事な姿で現れる『ダリア』。
戦艦をも沈める攻撃だったのだが・・・流石だな、北斗。
「他にも、こんな芸を身に付けたぞ。
・・・バーストモード!!」
ギワァァァァァァァアアアア!!
俺の掛け声と共に、背後の羽の無い翼から、真紅の羽が発生する!!
そして、真紅の翼を身に付けた『ブローディア』が現れる。
「それしきの事位、『ダリア』でも可能だ!!」
ゴワァァァァァ!!
『ブローディア』に対抗する様に、『ダリア』の真紅の翼が禍々しく光り輝く。
「いい加減、お前と戦うのは御免だ!!
これで決めるぞ、『フェザー・ソード』!!」
ギュララララララララ!!
『ブローディア』の周囲を回っていた『フェザー』の一部が、手元のDFSに集い。
一本の真紅の剣を作り上げる!!
「飛竜翼斬!!」
ザシュゥゥゥゥゥ・・・
真紅の三日月の形した刃が、『フェザー』を内包して突き進む!!
技自体は同じだが・・・威力は桁違いに上がっている!!
「蛇王双牙斬!!」
北斗が素早くDFSを振り上げ・・・
そしてもう一つの刃を振り下げる・・・
その二つの刃から発生した、二つの真紅の牙が三日月の刃に襲い掛かる!!
ギャァァァァァァオオオオンンンン!!
シャァァァァァァ!!
バチバチバチ!!
ビュゥゥゥゥゥンンンン!!
そして相殺しきれなかった、数十の『フェザー』が北斗を襲う!!
『ちっ!! 消しきれなかったか!!』
バシ!!
バシュッ!!
ザシュッ!!
それでも、『フェザー』を次から次へと弾き返す北斗。
右手に持つDFSと、左手に収束したディストーション・フィールドで。
その技は流石、としか言い様が無い。
バシュッ・・・!!
『何・・・だと!!』
しかし、意外な事に『ダリア』の左腕が急に動かなくなった。
『あの女共の・・・執念、か。』
北斗がそう呟き・・・
ドガガガガガ!!
『フェザー』の嵐が、『ダリア』を襲う・・・
このまま攻撃を続ければ、『ダリア』を破壊できる。
だが・・・
「・・・ブロス、『フェザー』を引き上る。」
ピッ!!
『いいの?』
俺の目の前に、ブロスからの通信ウィンドウが表示される。
「ああ、今回の勝利者はリョーコちゃんと、アリサちゃんさ。
俺も北斗を殺すには・・・忍びない。
アイツとは本当に正々堂々と戦いたいんだ。」
『了〜解』
ピッ!!
そして、ブロスの通信ウィンドウは閉じ。
俺は『ダリア』に対する『フェザー』の攻撃を止めた。
今日の戦闘は・・・終った。
『何のつもりだ?』
「・・・今日は退け、北斗。
俺も、こんな形でお前との決着を付けるつもりは無い。」
暫しの沈黙が訪れる。
『・・・良いだろう。
しかし、後で後悔をするなよ。』
「ああ、後悔はもうしてるよ。
俺も馬鹿だな、ってな。」
『ふっ・・・仲間と言う存在も、馬鹿には出来ん、な。』
ゴォォォォォォォ・・・
そう言い残して、北斗は去って行った。
これで、ますますアイツは手強くなるだろう。
しかし、ここで北斗を殺す事は、どうしても俺には出来なかった。
・・・北斗は戦いに飢えた男だ。
しかし、そこには純粋な戦いの意思しかなく・・・
あの北辰や草壁の様な、邪な感じは受けなかった。
だからだろうか?
俺が北斗を見逃したのは?
・・・まあ良い。
俺は俺の意思で、北斗を逃したのだ。
その代償も俺に帰ってくる。
ならば・・・それで良い。
そして、俺自身が北斗との戦いを、楽しみにしているかもしれない。
やはり、俺もまた・・・修羅、なのか。