< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・不覚です。

 

 帰って来た二人の間には、かなり良い雰囲気が漂っていました。

 ここは報告会を開かないと、私を含め他の同盟者の収拾がつきませんね。

 

 しかし、某組織の物量作戦には侮れないモノがありますね。

 こちらは、少数精鋭ですが。

 あちらは、有象無象不特定多数です。

 

 まあ、計画者と先導者の身柄は確保しましたし。

 後でお仕置きをしましょう。

 

 ・・・しかし、ジュンさんがハーリー君をにして、暗躍をしていたとは。

 職務と全然関係無い所で有能なのは、勘弁して欲しいですね!!

 

 

 

 

 

「・・・ハーリー君もお仕置きです。」

 

「・・・私も手伝うよぉ!!」

 

「ははは、今回は僕達の作戦勝ちさ!!

 ・・・でも、お手柔らかにお願いします(ビクビク)」

 

「「嫌(です)」」

 

 

 

 

 

 

 さて、今日は会議を開く予定でしたね。

 昨日の外出が良かったのか、アキトさんの表情から余裕を伺えます。

 その余裕を作った元が、私じゃないのが悔しいですが。

 

 ・・・まあ、今回は結果さえよければいいです。

 まだ、勝負は決まってません。

 

「ルリちゃん、皆は集まってるかい?」

 

「はい、関係者は全員集まっています。

 でも、どうしてサブロウタさんまで集められたんですか?」

 

「う〜ん、多分必要になると思うよ。」

 

 そう言って笑ったアキトさんは素敵でした(ポッ)

 

 

 シュン!!

 

 

 会議室に集まった人達が、一斉に私達の方を向きます。

 ユリカさん、アカツキさん、エリナさん、シュン副提督、プロスさん、サラさん、サブロウタさんの7名です。

 

 そして、アカツキさんが代表で今日の会議について尋ねてきました。

 

「や、テンカワ君。

 今日は何の会議なんだい?」

 

「いや、それは直ぐに解るけど。

 ・・・どうして包帯まみれなんだ、アカツキ?」

 

 そう、アカツキさんはミイラ男と化しています。

 ・・・お仕置きの名残ですよ、アキトさん。

 

「ははは、詳しい事は聞かないでくれたまえ。

 まあ、怪我をした価値はあったと言っておこう!!」

 

「そ、そうか。」

 

 朗らかに笑うアカツキさんに、本気で殺意を抱いたのは乙女の秘密です。

 

「まあ、この人がだと俺は感じたね!!」

 

「・・・本当に、何があったんだ?」

 

 サブロウタさんが涙を流しながら、アカツキさんを誉めるので。

 アキトさんは思いっきり頭に、クエスチョン・マークを浮かべてます。

 

 ・・・アキトさんは知らなくていい事です。

 

「馬鹿は無視していいわよ、テンカワ君。

 それで、今日の会議の主旨は何なの?」

 

 エリナさんが悔しげにそう言います。

 その気持ち、私も良く解ります。

 

「そうだよアキト、今はリョーコちゃん達の新型エステの練習が第一なんでしょう?」

 

「ユリカ・・・確かにそれも大事だが。

 もっと根本的に、必要な事があるとは思わないか?」

 

「・・・根回し、か。」

 

 ユリカさんの質問に、アキトさんが返した答え・・・

 それを一番に理解したのは、シュン副提督でした。

 

「なるほどね、やっと解ったわ。

 私がこの場所に呼ばれた意味。」

 

 サラさんがそう言って、アキトさんに微笑みます。

 

「サラちゃんの予想通りだよ。

 今日俺がこの場所に呼んだ人達は・・・

 和平の実現する為に、必要な力を持つ人ばかりなんだ。」

 

 アキトさんの宣言を聞いて、その場の全員が黙り込みました。

 

 

 

 

 

 

「実は・・・地球の意見を、和平派に統一する事は簡単なんだ。」

 

「本当なのアキト?」

 

 ユリカさんが不思議そうに質問します。

 

「ああ、幾らでも脅迫の手段があるからな。

 ・・・例えば、ルリちゃん達がライフラインを止めればこれで終了だ。

 食料の殆どを輸入に頼ってる日本とかは、直ぐに陥落だな。

 その他の国も流通が止まれば、二ヶ月は持たないだろう。」

 

「・・・な!!」

 

 信じられない事を聞いた・・・

 

 そんな顔で、ユリカさんが驚きの声を上げます。

 

「俺が直接、各国の首都を壊滅させてもいい。

 二日もあれば、最小の被害で地球を統一出来るぞ。」

 

 アキトさんの発言に、ただ驚くだけのユリカさん。

 でも、急に落ち着いた表情になり・・・

 

「・・・また、そう言って私を試すんだね。

 確かにアキトが言った事は、全部可能な事なんだ。

 でも、アキトはそんな手段を取らないよ。

 きっと、辛くても困難でも、自分に納得のいく方法を取るんでしょ?」

 

 そう言って、アキトさんに微笑むユリカさん。

 

 強くなりましたね、ユリカさん。

 ・・・私としても望む所です。

 

「まあ、な。

 さて、それじゃあ本当に会議を始めようか。」

 

 そのユリカさんの微笑みを見て、少し表情を崩すアキトさん。

 ユリカさんの成長が嬉しいみたいですね。

 

 ・・・私も結構成長してるんですけど。

 

「へいへい・・・でも、どうして俺をこの場に?」

 

 サブロウタさんが、居心地が悪そうに周りを見ながら言います。

 

「何時まで惚けているんです?

 舞歌さんから、密命でも受けてるはずですよね。

 『和平の手段を聞いてきなさい』って。

 もしくは・・・これに類似した、命令をね。」

 

 ユリカさんのその発言に・・・

 両手を上げ、降参のジェスチャーをするサブロウタさん。

 

「はいはい、ご明察の通りですよ。

 俺があの時置き去りにされたのは、ナデシコに本当に和平を可能にする力が有るのかどうか。

 また、その手段は本当に有効なのか?

 これを見極める為ですよ。」

 

「やっぱり!! そうだったんですね。」

 

 ユリカさんが嬉しそうに笑います。

 

 ・・・私の洞察力は、まだまだですね。

 アキトさんが、サブロウタさんがこの会議に必要だと言った意味。

 やっと解りました・・・

 

「それで? 和平の為の作戦を聞かせて貰えますかね?」

 

「その為に君を呼んだんだ。

 充分に理解をしてから、木連に帰ってくれ。」

 

「は〜〜、何処も人使いが荒いな〜」

 

 サブロウタさんのその台詞に、その場の全員が笑いました。

 

 

 

 

 

「まずは・・・軍の意見の統一。

 そして、経済団体の説得が必要だ。」

 

「・・・経済については、私達ネルガルが全力でナデシコをバックアップするわ。」

 

「はい、それはアカツキとエリナさんにお願いします。

 現状維持だけでも、大変になると思いますが。」

 

 エリナさんの発言に、アキトさんが相槌をうちます。

 

「だが、もう一つの巨大経済グループ・・・

 クリムゾングループが絶対に邪魔をするな。」

 

 シュン提督が、そのエリナさんの意見に反論をします。

 

「そうだ、だからまずは経済界の意見の統一より、軍内の統一を優先する。

 軍から経済界に、この戦争が利益に繋がらない事を明示させる。

 このまま戦争が続けば、物資の徴収令を発令する、とでも言ってな。

 もっとも、これは最終手段だがな。

 ・・・ルリちゃん、頼む。」

 

「はい、アキトさん。」

 

 私は昨日から作成していた資料を、ウィンドウに表示します。

 

 ピッ!!

 

 そこには世界地図の浮かび・・・

 私は地図の意味を説明します。

 

「簡単にですが説明をします。

 現在の地球連合軍の力関係を言い表すと、この5つに分類されます。

 アジア周辺を含めた、東南アジア方面軍。

 アメリカを中心とした、アメリカ方面軍。

 ヨーロッパ諸国を中心にした、西欧方面軍。

 中央アフリカを中心にした、アフリカ方面軍。

 そして、最後にオーストラリアを中心にした、オセアニア方面軍です。」

 

 私は説明を終えると、アキトさんに視線で合図をします。

 

「この5つの方面軍の、各代表の意見によって。

 地球連合軍の方針は決まると言ってもいい。

 つまり、3つの方面軍の意見が和平に傾けば、和平は可能だと言う事だ。」

 

 アキトさんの宣言に・・・全員が考え込みます。

 

「お父様に頼めば・・・東南アジア方面軍は和平につくね。」

 

「ああ、ユリカにはミスマル提督の説得を頼むつもりだ。」

 

 ユリカさんの言葉に、アキトさんが合意をします。

 

「そして、西欧方面軍は私とアリサの出番ね。

 それに、私の国の人達はアキトに感謝をしてるからね。

 まず、間違い無く和平を受け入れるわ。」

 

「だとしても・・・説明は必要なんだ。

 意見の統一を怠ると、その隙を突かれるからな。

 ・・・頼めるかな?」

 

 アキトさんのその頼みに・・・

 

「ふふふ、ナデシコに乗ると決めた時から、何となく予感はあったわ。

 お爺様の説得と補佐は、私達に任せて。」

 

「有難う、サラちゃん。」

 

 そう言って微笑んだアキトさんに、サラさんは赤い顔で頷きます。

 

 ・・・むう。

 

「これで、二つ・・・残りの一つはどうするんだい?」

 

 アカツキさんが私達に質問をします。

 

「アメリカ方面軍は、クリムゾングループの侵食が激しい。

 多分、ネルガルが今参戦しても泥試合になるだけだろう。」

 

 アキトさんがアカツキさんの質問にそう応え。

 

「そして、オセアニア方面軍はクリムゾングループの本拠地でもあります。」

 

「・・・残りはアフリカ方面軍のみ、か。」

 

 私の言葉に、シュン副提督が最後の選択肢を言います。

 

「そう、このアフリカ方面軍の意見によって、和平か徹底抗戦かが決まる。

 だが・・・人間考える事は、何時でも一緒だ。」

 

 悔しそうに、ウィンドウに映ったアフリカ方面軍の場所を睨むアキトさん。

 

「・・・高いのか?」

 

「ええ、クリムゾンとの競売状態ですよ。」

 

 シュン副提督が尋ねた内容・・・それはアフリカ方面軍の条件です。

 最後に残った選択権・・・

 それを高く買う方に、アフリカ方面軍はつくと言うのです。

 

「じゃあ、俺の仕事と言うのは・・・」

 

「軍の事は、シュン隊長が一番詳しいですからね。

 知識としてなら、ユリカやルリちゃんも知っています。

 しかし、現場の軍人を一番理解しているのシュン隊長でしょう。

 ・・・俺からの依頼は、アフリカの軍人達の意見をシュン隊長にまとめて欲しい。」

 

「難しいな・・・だが、やりがいは有る。

 俺は過去にアフリカ方面軍に所属した事もあるしな。

 いいだろう、その依頼受けよう。」

 

 シュン副提督は笑いながら、アキトさんの依頼を受けてくれました。

 

「有難う御座います。

 上層部は別の方法で、俺達が身動きを封じます。」

 

 シュン副提督の了承を得て、アキトさんが頭を下げて感謝をしました。

 

「ここで、アフリカ方面軍を絶対に説得しなければならない。

 クリムゾンも工作の為に活発に動いている。

 ネルガルのシークレットサービスは、重要人物の警護をお願いします。」

 

「何故、私に頼むのですか?

 ・・・と、今更テンカワさんには愚問でしたね。

 はい、その命令は了承しましたよ。」

 

 苦笑をしながら、今まで黙って話を聞いていたプロスさんが頷きます。

 どうやら、アキトさんが自分に要人の警護を事を頼むのを、予測していたみたいですね。

 

「・・・これが、俺達の和平への動きだ。」

 

「お見事。」

 

 アキトさんが最後に話を振ったのは・・・サブロウタさんでした。

 

「世界経済の半分を握り・・・軍内にも既に和平の意思を広げている。

 文句無しの成果だ。

 ナデシコの唱える和平への道・・・確かに見えた。」

 

 何時ものお気楽な口調ではなく、軍人の顔と言葉でアキトさんと話すサブロウタさん。

 

 ・・・どうやら、真面目モードらしいですね。

 

「最後の詰めは、地球に帰ってから決行する。

 それを確認した後で、君を木連に帰すつもりだ。」

 

「了解した。

 あの『漆黒の戦神』の政略手段だ・・・一見の価値は充分にある。」

 

 微笑ながらサブロウタさんは、アキトさんの提案に乗ったのでした。

 

「さて、今後はこの方針で行くとして。

 テンカワ君はどうするんだい?」

 

「俺は地球でやる事がある。

 先ほど言っていた、最後の詰めだ。

 その用事が終わり次第、全員のバックアップにまわるつもりだ。」

 

「地球で用事?

 ・・・何の用なのアキト?」

 

 アキトさんの言う用事に、かなり興味を惹かれたみたいです。

 ユリカさんがアキトさんに質問をします。

 

「・・・ま、今は秘密だ。」

 

「むっ!! ・・・何だか勘に障るな、その言葉。」

 

 しかし、アキトさんはそのユリカさんの質問を笑って逃げるのでした。

 ・・・私は知ってますけどね、その用事を。

 

 ふふふふふふふ・・・

 

 そして、皆さんは自分の義務を果たす為に、それぞれの部署に帰っていきました。

 アキトさんは、バーチャル・エステバリスの部屋に向かいました。

 きっと、リョーコさん達を鍛えるのでしょう。

 

 そして私は・・・

 私は廊下を歩きながら、近い将来の事で幸せを噛み締めていました。

 ですから、背後にあの二人が付けていた事など、知りませんでした。

 

 

 

 

「どう思う、サラちゃん?」

 

「あのルリちゃんの顔からみて・・・アキトの言う用事は、ルリちゃん絡みの用事ね。」

 

「やっぱりそう思う?

 う〜〜ん、何を企んでるんだろう?」

 

「・・・ここは、ラピスちゃんを味方につけるべきね。」

 

「うん、そうだね。」

 

 

 

 

 

 ですから、そんな会話も私に聞こえてきません。

 だって、もう直ぐアキトさんと二人で・・・(ポッ)

 

 

 

 

 

 

「・・・久しぶり、と言うべきかしらね?」

 

「まあ、そうだよな。」

 

「でも、貴方がまた戦場に戻ってくるなんて・・・」

 

「信じられないか?

 まあ、俺自身人生に嫌気が差していたからな。

 人を殺す事しか知らない俺に、手応えの無い敵。

 つまらない、毎日だったからな。」

 

「そんな事は、微笑みながら言う事じゃないわ。

 確かに貴方は人殺しの技しか知らない。

 でも、あの子は・・・」

 

 

 ダンッ!!

 

 

「アイツは俺とは関係無い。」

 

「・・・もう一度聞くわね、どうして戦場に戻ってきたの?」

 

「何を今更?

 知ってるだろ、テンカワ アキト・・・『漆黒の戦神』を。

 親父から奴の映像を見せられた時、初めて心の底から戦いたいと思ったぜ。

 だから親父の話に乗って、こんな所まで来たんだ。」

 

「話って?」

 

「この戦争でテンカワ アキトを倒せば・・・あの親父が俺の前で自害するらしい。」

 

「!!」

 

「ははははは!!

 本当に笑えるよな!! 

 自分の命と引き換えにしてまで、あの草壁とやらに仕えてやがる!!

 俺の事なんて、道具位にしか見てなかったくせによ!!」

 

「・・・じゃあ、貴方はテンカワ アキトを。」

 

「殺す。

 何があっても殺してみせる。

 親父を俺の手で殺すのは簡単だ。

 だが、それでは面白くない。

 ・・・あいつ自身の手で、自分の人生に幕を降ろさせる。」

 

「結局・・・北辰に踊らされているだけよ?」

 

「・・・それでも、良い。

 俺の今の関心は、テンカワ アキトを倒す事だけだ。

 奇しくも、俺と同じ技に辿り付き。

 俺と同じ境地に立つ男・・・

 お互いに、どちらが強いのか知りたいはずだ。」

 

 コツ、コツ、コツ・・・

 

「舞歌様・・・あの方が?」

 

「ええ、そうよ。

 私が小さい頃から見守ってきた子よ。

 北辰の子供でなければ・・・こんな業を背負う事はなかったのに。」

 

「ですが!! 木連の噂ではあの方は・・・」

 

「見た事が真実よ・・・千沙、貴方達『優華』部隊に命じます。」

 

「はっ!!」

 

「北斗の部下となって、ナデシコからの余計な邪魔を排除しなさい。

 テンカワ アキトとの戦いだけに、北斗が集中出来るようにするのよ。

 他のパイロットが相手では、あの子に瞬殺されるだけだから。」

 

「・・・何故、敵のパイロットを守る様な事を?」

 

「・・・これ以上、あの子に余計な人殺しはさせたくないからよ。

 本当のあの子は・・・いえ、何でもないわ。」

 

「御命令、確かに承りました。」

 

「・・・有難う。」

 

 コツ、コツ、コツ・・・

 

 

 

 

「期待してるわよ、テンカワ アキト・・・

 あの子を救える程の男なら、私が惚れても可笑しくないわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十七話 その5へ続く

 

 

 

 

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