< 時の流れに >
第十七話.それは「遅すぎた再会」
其之参 仲間、として・・・
ドドォン!!
「くっ!!」
僕のエステの掠る様に、弾丸が通り抜けていく。
どうやら、無理に外してくれたみたいだ。
これから襲撃をするという、予告かい?
「・・・ヒカル君は上を警戒!!
イズミ君は前方と左右を頼む!!
僕は背後を受け持つよ!!」
「「了解!!」」
・・・何処から来る?
フォーメーションの下方に、隙を作っているのは罠だと気付くだろう。
前後左右と頭上に、敵の攻撃は絞られるはずだ。
まあ、強行突破で来たときは・・・仕方が無い。
せいぜい足掻くだけだね。
僕は過度の緊張の為に、カサカサになった唇を舌で舐める。
・・・相手が操っているのは、僕達と同じ機体。
ならば、純粋に技量の差で勝負が決まる!!
キラ・・・
「!!」
何かが視界の端を通過した!!
「二人共!! 右前方に注意して!!」
「解った!!」
僕と、ヒカル君の会話が終った瞬間だった。
ゴォゥゥゥゥゥゥゥ!!
「見付けた!!」
ヒカル君に向け、一直線に飛んでくる漆黒の機体!!
それを確認した僕達は、一斉に射撃を開始する!!
ドドドドン!!
バラララララ!!
「くっ、当たらな〜〜〜い!!」
そう、信じられない事に僕達の攻撃を全て避けて見せる、漆黒の機体。
そのまま、スピードも落とさず、僕達の横を駆け抜け様・・・
ガシッ!!
ドドン!!
「キャッ!!」
ヒカル君のエステに取り付き、殆ど零距離からライフルを打ち込む。
ドガァァァァァァ!!
コクピットを打ち抜かれ、動きを止めるヒカル君のエステ!!
「・・・止まった、今なら!!」
ヒカル君のエステに取り付いたままの機体に、イズミ君のエステが殴りかかる。
ブゥオン!!
ディストーション・フィールドを纏った、その拳の一撃を・・・
バァン!!
フィールドの凝縮された拳の部分ではなく、肘の部分を下から敵機が掌打で弾く!!
ガシッ!!
そして、上方にそれたイズミ君のエステの腕を掴み、自分の肩に担ぎ上げ・・・
ドゴォ!!
ガスッ!!
肘関節から破壊しながら同時に、もう片方の自分の腕の肘を、イズミ君のエステのコクピットに叩き込む!!
その攻撃を受け、一瞬震えた後・・・
イズミ君のエステも動きを止めた。
そして・・
ゴォォォォウウウウ!!
「次は僕が標的かい?」
目の前に迫り来る漆黒の機体からは、圧倒的な威圧感を感じる。
どんな攻撃も通じ無い。
どんな防御も意味が無い。
そして・・・逃げる事も出来ない。
そんな絶望感で、頭の中が埋め尽くされる・・・
しかし・・・人間、慣れるもんだよ!!
一週間も同じプレッシャーを受けていれば、頭では無理でも身体が動いてくれる!!
ゴォォォォッ!!
僕のエステは躊躇う事無く、全力で後退する!!
「まったく、敵にしたくは無いもんだね!!」
本当にね・・・
僕はそう思いつつ、反転をしながらライフルで牽制をする。
もし相手が、あのブラックサレナなら、この反転の間に撃墜されていただろうね。
だが、今は僕と同じエステバリス。
ランダムに回避行動をする、今の僕はそう簡単に撃墜はされない!!
ドドドン!!
・・・ギュン!!
しかし、相手はまるで弾道を予測していたかの様に、ライフルの弾を避けて見せる・・・
でも、それはこちらも予測済み。
こんな事で倒せるとは、夢にも思わないよ。
それに、今回のトラップの為に、ヒカル君とイズミ君を見殺しにしたんだからね。
さあ、僕を追いかけて来い!!
ゴォウウウウウ!!
ギャアァァァァァ!!
二機のエステがチェイスをしながら、ある地点を通過した瞬間!!
バッ!!
バッ!!
「もらった!!」
「決めます!!」
漆黒宇宙から突然、赤と銀色のエステバリスが、光学迷彩のマントを跳ね上げ現れる!!
このトラップなら、どうだ?
リョーコ君のエステがレールガンを連射。
アリサ君のエステが、手に持ったフィールド・ランサーを突き出す。
左右からの強襲挟撃!!
これをどうする!!
勿論、僕もその場で反転をして、ライフルを前方の敵機に向けて乱射する!!
ドドドドドンン!!
ガォン!!
僕達の射撃を紙一重で避けながら、アリサ君のフィールド・ランサーに向かう敵機!!
その位置なら・・・もう、避ける事は出来ない!!
「これで決めます・・・!!」
敵機の機動に何とか付随していたアリサ君が、そう言いながらフィールド・ランサーを突き出す!!
バチバチバチ!!
ギュオン・・・
ガゴォ!!
アリサ君のフィールド・ランサーを、ディストーション・フィールドを纏った拳で掴み。
その拳を支点にし、半回転をしながら自分の足先で、アリサ君のエステの頭部を蹴り砕く!!
「くっ・・・!!」
気丈にも、フィールド・ランサーを手放し。
背中に装着していたライフルで、敵に反撃を試みるアリサ君・・・
しかし、それは甘い考えだった。
ドン!!
離れた一瞬の隙に、アリサ君のエステのコクピットを打ち抜く敵機。
勿論、僕達も黙って見ていた訳じゃない。
援護射撃はしているが、敵機は素早くアリサ君のエステの影に回りこみ、僕達の射撃を阻止していた!!
「こんの〜〜〜〜!!」
「熱くなるな、リョーコ君!!
冷静に対処しないと、一瞬で倒されるぞ!!」
「くっ!!」
グォオンンン!!
僕の制止の声を聞いて、一応はその場に踏み止まるリョーコ君。
そして、動きを止めたアリサ君のエステの影から・・・
漆黒の機体が、無傷の状態で現れた。
「・・・あれだけ撃っても、傷一つありゃしねぇ。」
リョーコ君の愚痴に・・・
「ほんと、嫌になるね。」
僕もついつい本音が漏れる。
この戦闘が始まって20分・・・
最初は僕、リョーコ君、ヒカル君、イズミ君、アリサ君、イツキ君、ヤマダ君の7名だった。
しかし、開始早々ヤマダ君は単独で突撃して5秒で大破。
長距離から援護射撃をしていたイツキ君は、単独行動だったためにサポートが間に合わず撃墜。
そして、現在ではヒカル君、イズミ君、アリサ君が撃墜されている。
・・・実際の交戦時間は、5分に満たないだろう。
僕達は、敵の機影を捉えるだけでも四苦八苦している。
相手は、僕達の行動を嘲笑うかの様に、一撃離脱で確実にこちらの戦力を奪う。
そう、まるで僕達の対応を試す様に。
実際・・・先程の策も、僕がこの戦場で即席に考えたモノだ。
光学迷彩に各種武器。
僕達には自分が望む、全ての武器が与えられた。
そして敵機には・・・
「DFS無しでこの実力差、か。
その上、使用武器はライフル一丁ときたもんだ。
・・・しかし、そのテンカワと同レベルの奴が敵にいやがる。」
「想像もしたくないね。
いや、本当に・・・」
僕達の会話が終ったのを知っているかの様に、目の前の機体が動き出す。
ゴ、ゴォゥゥゥゥゥゥゥ!!
「来るぞ、リョーコ君!!」
自分に気合を入れるついでに、リョーコ君にそう叫ぶ!!
「とにかくテンカワの足を止めろ!!
機動力は同じはずなんだ!!
接近戦に持ち込めば、少しは俺にも勝機がある!!」
・・・それ、本当?
そう思いつつも、他に策が思いつかない僕は、防御を固めながら漆黒の機体に突撃する!!
ライフルで一応牽制をしながらね・・・
この敵機の動きを止めろ、なんて言われてもさ。
潔く、特攻するしかないかな?
ガシィィィィィ!!
僕の突撃を半身になって避ける敵機!!
しかし、その横を通り抜ける瞬間、敵の繰り出したボディブローが僕のエステに襲い掛かる!!
・・・それ、ビンゴ!!
僕は自分の賭けが当たった事を喜びつつ、何とかコクピットを避けてその攻撃を受ける。
ガスゥ!!
耳障りな音が、僕の耳に響く。
・・・後、30cm逸れてたらアウトだったな。
そして、敵機の腕を抱えたまま、背後を取る!!
これで・・・左腕一本を封じたはず!!
そして、もう片方の腕で敵機の胴を締め上げる。
これで、敵が自分の腕を切り離しても、そう簡単に自由にはなれない!!
ドゴゥ!!
それなのに、僕のコクピットが衝撃に揺れる!!
「くっ!! 本当に手加減をしないね、テンカワ君は!!」
自分の腕を抱えている僕のエステに向けて、テンカワ君が攻撃を加えている。
ライフルを持っている為、右の肘でしか攻撃は出来ないはずなのに・・・これ程の威力とは!!
何か特別な技でもあるのか?
僕はコクピットの中で激しく揺られながら、パイロットの技量って何だろう?
と、馬鹿な事を考えていた。
「よ〜〜し!! もうちょっと頑張れよ、ロン髪!!」
「・・・いい加減・・・名前で呼んで欲しいね〜」
いや、本当に・・・
「これで決めるぜ!! テンカワ!!
バーストモード・スタート!!」
フィィィィィィィィンンンン!!!!
ブォン!!
リョーコ君のエステの右手に、白い刃が発生する!!
バーストモード発動に、DFS簡易バージョン!!
そんなモノまで持って来てたの。
・・・ちょっと、待ってよ。
もしかして、僕の機体も一緒に切り裂くつもり・・・かな?
「お前の犠牲は無駄にしないぜ、ロン髪!!」
ギュォォォォォォォォ!!
そう言い切って、加速を開始するリョーコ君!!
僕の事なんて、全然無視で突撃をするんだね、リョーコ君?
はははは・・・逃げられないね、これは。
さあ、テンカワ君お互い諦め様か?
・・・しかし、テンカワ君は往生際が悪かった。
いや、これも彼も持つ強さの一つ、か。
ドドン!!
ガ、ガン!!
バギィン!!
簡単に説明をすると、こうかな・・・
自分の目の前にディストーション・フィールドを展開。
そのディストーション・フィールドに向けて、右手のライフルを発射。
・・・角度の調整が、絶妙なんだろうね。
そのライフルの跳弾により、僕のエステの左腕が破壊される!!
冗談・・・だろ?
そう思った時には、テンカワ君は既に自由の身。
そして、僕の乗るエステをリョーコ君のエステに向かって蹴り上げる!!
「酷いな〜〜〜〜〜、それ〜〜〜〜〜〜!!」
リョーコ君の性格から考えると・・・
「邪魔だ、ロン髪!!」
ザシュゥゥゥ!!
・・・やっぱりね。
うん、良く切れるよそのDFS簡易バージョン。
そう思いつつ、僕のコクピットは暗闇に閉ざされた。
『GAME OVER』
プシュゥゥゥゥゥゥ・・・
「ふう、酷いなリョーコ君は・・・
普通、味方を切り裂くかい?」
僕は額の汗を拭いながら、ヴァーチャル・エステバリスのコクピットから抜け出した。
しかし・・・疲れたね〜
まあ、練習相手が相手だからね。
考えうる限り、最高の人材だよ。
「あそこまで、あのアキトさんを追い込んだんですからね。
リョーコさんが焦っても、仕方が無いですよ。」
僕にタオルを手渡しながら、アリサ君が微笑む。
そのタオルを受け取りながら、僕は苦笑をする。
・・・追い込んだ、と言ってもね。
「でも・・・彼の乗る機体を、僕達と同じエステにして。
しかも、武器はライフルのみ。
それに比べて僕達は、七名参加の使用武器の制限は無し・・・
普通なら負けるはずないんだけどね。」
僕がその台詞を言ってる間に・・・
目の前のモニターでは、リョーコ君の操るエステのコクピットを蹴り砕く、漆黒の機体の姿があった。
『GAME OVER!!』
『WINNER テンカワ アキト!!』
・・・嫌味だね、オモイカネも。
オペレーターの性格を受け継いだのかな?
「・・・後で折檻のフルコース、です。」
「・・・(コクコク)」
「ぼ、僕は何も見てない、何も聞いてないよ(汗)」
プシュゥゥゥゥゥゥ・・・ × 2
「あ〜、ちくしょう!!」
「惜しかったね、リョーコちゃん。」
二つのヴァーチャル・エステバリスのコクピットが開き。
悔しそうな顔のリョーコ君と、苦笑をしたテンカワ君が現れる。
「う〜ん、これだけハンデがあれば、勝てると思ってたのにな〜」
「まだまだ、甘かった、って事ね。」
ヒカル君とイズミ君が、何かジュースを飲みながら僕達の所に来る。
そして手に持つジュースをリョーコ君と、テンカワ君に渡す。
「はい、リョーコ。
頑張ったね、お疲れ様。」
「・・・あの条件で負けたら、頑張ったと思えね〜よ。」
受け取ったジュースを飲みながら、厳しい表情でそう呟くリョーコ君。
う〜ん、頼もしいね〜
・・・人事じゃないけどね。
「アキト君もお疲れ様・・・どう、少しは練習になった?」
「あ、有難う、ヒカルちゃん。
そうだね、結構練習になったよ。」
ジュースをヒカル君から受け取りながら、そんな事を言うテンカワ君。
その言葉の割には・・・汗一つかいてないね。
それにこの場にいる全員が、テンカワ君の言葉を信じてはいなかった。
あれだけの戦力差を、あの悪条件で切り抜けられては・・・ね。
まったく・・・少しは弱点を見せて欲しいよ。
「ですが・・・本当に私達の腕は、上達してるのでしょうか?」
イツキ君が首を傾げながら、疑問を口にする。
それも・・・そうだね。
でも、それを確かめる術が無いんだけどさ。
しかし、そんな僕達の不安を吹き飛ばしたのは・・・
「いや、確実に皆は上達はしてるよ。
それも急速に、ね。
俺の攻撃に対する反応速度、チームの連携、咄嗟の判断力に決断力。
・・・特にリョーコちゃんと、アリサちゃんは、かなりのレベルになってるよ。」
テンカワ君のこの一言だった。
「ほ、本当ですか!!」
「あ、ああ、もう通常のエステは十分に操れているよ。
・・・次の機体に乗り換える、良い時機だな。」
アリサ君のその勢いに気圧されながらも、サラリと重要な事を言うテンカワ君。
そうか、あのエステに乗り換えるのか・・・
これは面白くなりそうだ。
僕は事前に手渡されていた、新型エステの仕様書を思い出し、一人で笑った。
ん? ちょっと待てよ?
「次の機体って・・・何だよテンカワ?」
リョーコ君のその質問に・・・
「あれ? アカツキから何も聞いてなかった?
皆のそれぞれの特性に合わせて、俺とウリバタケさん達で作った専用エステなんだけど。」
逆にそう問い返す、テンカワ君。
・・・あれって、僕だけの仕様書じゃなかったの?
そう言えば・・・七枚あったよな、タイプ別で。
ははは、すっかり忘れていたよ、前回の某組織の作戦行動で忙しくてね。
でも、それを口に出して言うほど、僕は愚かじゃないけどね。
僕の仲間は自爆タイプが多いけど、僕は別さ。 フフン♪
「・・・あの無理に作った無表情を見ると。
見事に忘れられていたみたいですね。」
「そうみたいだね〜」
「・・・一度、身体に教えておかないと駄目ね。」
「もう!! いい加減な人ですね!!」
・・・順番に言うと、アリサ君、ヒカル君、イズミ君、イツキ君の発言だ。
どうやら黙っていても、結果は同じみたいだ。
そして・・・
「おい、ロン髪・・・」
怒りに震えるリョーコ君・・・
そこまで怒らなくても、テンカワ君達が君達の特性を考えて作った、一品物だよ?
・・・それを黙っていれば、怒るよね。
「えっと・・・僕の名前、そろそろ覚えてくれないかな?」
「お前なんぞ、ロン髪で十分だ!!」
ふっ、虚しいね〜
僕が最後に見たのは、四方八方から投げつけられるジュースの缶だった。
中身が入っていると、結構痛いんだよ、アレ・・・
「あれ、ガイは?」
「別室で反省中。」
「・・・反省中? 別室?」
「そうだよ、意識は無いけどね。」
「・・・あ、そうなの。」