< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ドゴォォォォォォンンンン・・・

 

 

 その光景を見た瞬間・・・

 私は自分の目を疑った。 

 あの漆黒の機体に乗っていた人物を、私は良く知っていた。

 

 その人物は私にとって、監視の対象であり、尊敬の対象でもあり・・・

 

 そして、今は私の師にもなっている。

 彼に鍛えられ、私は自分でも驚くほどにレベルアップをした。

 そして、彼からこの新型エステを渡された時は、素直に感動した。

 

 彼に認められた事が誇らしかった。

 

 そう、私達が束になっても、彼には勝てなかった。

 この人を倒す事は、絶対に不可能だと思っていた。

 

 それが・・・

 

 

『テ、テンカワ〜〜〜〜〜!!!!!!』

 

 

『アキトさん!!』

 

 

 リョーコさんと、アリサさんの悲鳴が通信ウィンドウから響いた・・・

 

 ピッ!!

 

『イツキ君!! 脱出をした形跡はあるかい!!』

 

 アカツキさんが必死の形相で、私に通信を送ってくる。

 

「・・・駄目です、確認出来ません。」

 

 私は首を振りながら、そう答えるしかなかった。

 私の新型エステは長距離射撃と、後方支援用にレーダー類が特化されている。

 それこそ、テンカワさんが戦っていた状況は、手に取る様に解る。

 

 背後にいる、提督の新型エステを庇い。

 あの北斗の苛烈な攻撃を、何時もの超絶の技で鮮やかに捌く。

 そして、北斗の放った極大の光刃を、バーストモードを発動させて受け止め・・・

 

 そう、前方のフィールドとDFSに、ディストーション・フィールドは集中していた。

 背後は・・・無防備だった。

 

 ムネタケ提督の撃ったレールガンは、見事にコクピットを背後から貫き。

 虚空へと弾丸は消えていった。

 

 そして・・・私達と敵の時間は止まった。

 

 誰もが・・・予想を出来ない事態だった。

 

 

 

 

 

 

 

『私は勝った!! 勝ったのよ!!』

 

 

『・・・煩いよ、お前。』

 

   ブォォォンン・・・

 

 静かに・・・

 北斗の『ダリア』が、DFSに刃を造り出しながら、ムネタケの機体に近づく。

 

『英雄にも死は必然だ。

 だが、アイツはここで死ぬ必要は無かった。

 アイツは・・・テンカワは、俺が止めを刺すべき男だった。』

 

 死刑宣告を述べながら・・・北斗はムネタケに向かっていく。

 本当の意味で、奴は死神だ。

 

 そして、あの提督には、今は現状を理解出来ないらしい。

 今も、狂った様な笑い声が俺の耳に響く・・・

 

 俺も・・・見殺しにしてやりたい。

 いや、俺自身の手で奴を切り裂いてやりたい!!

 その存在を、この世から完全に消し去ってやる!!

 

 

 ・・・だが。

 

 

 俺は隣にいる、白銀のエステに通信ウィンドウを開く。

 

 ピッ!!

 

「アリサ・・・」

 

 俺の声を聞いて、俯いていたアリサの肩が震える。

 

『解っています、リョーコさん。

 罪は・・・裁かれるべきです。

 しかし、それは法によって行うべきでしょう。

 北斗の手によって殺されるのは、間違いです。

 あの男を裁く資格は、私達ナデシコクルーにしかありません!!

 それに・・・私はあの人を信じてます!!』

 

 顔を上げたアリサの目に、光が蘇る。

 そうか、お前も俺と同じ気持ちか。

 

 なら、これからするべき事は一つだ!!

 

「よく言った!!

 俺も信じているぜ、アイツがあんな俗物に殺られるはずはない!!

 きっと無事なはずだってな!!」

 

 そう信じれるほどに・・・アイツは強い!!

 俺はそれを知っている!!

 

 そして、今俺達が成すべき事は・・・

 

『・・・止めれますか?

 あの北斗を?』

 

「止めてみせるさ・・・」

 

 俺達はお互いに微笑んだ。

 もう、覚悟は出来ている。

 ・・・あの馬鹿な男を殺した後、北斗は俺達を攻撃するだろう。

 そう、自分の怒りをぶつける為に。

 なら、俺達は生き残る為に戦う。

 俺は・・・俺達は、生きてアイツと必ず再会してみせる!!

 

「おい、ヤマダ!!」

 

 ピッ!!

 

『・・・何だよ?』

 

 苛々した表情で、俺の通信に応じるヤマダ。

 しかし、落胆した様子は・・・無い。

 

 この熱血馬鹿も・・・信じているんだろうな。

 俺はそう思うと、何故か笑いだしたくなった。

 

「フォーメーションの前衛を、一人で頼むぜ。

 あの敵の新型兵器、結構手強いけどな。

 俺とアリサは・・・北斗を止める!!」

 

『!!』

 

 俺の言葉を聞いて、驚いた表情を作るヤマダ。

 しかし、直ぐに俺に頷き返す。

 

『・・・了解だ。

 俺の本当の実力を見せてやるぜ!!』

 

「ああ、楽しみにしてるぜ。」

 

 じゃあな・・・

 

 ピッ

 

 俺は苦笑をしながら、ヤマダとの通信ウィンドウを閉じた。

 ・・・済まね〜な、ヤマダ。

 お前もかなり厳しい戦いになると思うが。

 とてもじゃないが、一人では北斗の足止めは出来ね〜よ。

 

「さて・・・死中に活を見出す、か。」

 

 

 ドゥゥゥンン!!

 

 

 俺は手に持つレールガンを・・・

 今にもムネタケに向けて、DFSの真紅の刃を振り下ろそうとしていた北斗に向かって撃った。

 

 ・・・ここからが、正念場だ。

 

 そして、北斗の機体・・・『ダリア』の視線が俺を捉えた。

 

 

 

 

 

『・・・何故、俺の邪魔をする?』

 

『生憎と、その馬鹿を裁く権利は俺達にあるんでね!!』

 

 リョーコさんと北斗の会話を聞きながら・・・

 私は自分の気持ちを落ち着かせる。

 

 ・・・大丈夫、あの人は生きている。

 だって、瞬間移動に近い能力を持ってるはずです。

 そう、あの時も崩れる建物から脱出してきた。

 だから、信じましょう・・・

 私達を残して、あの人は消えない。

 

 こんなに、一人の男性の事を想う・・・

 昔の私には想像も出来ない事。

 でも・・・私はそのお陰で強くなれた。

 

「・・・生き延びてみせます。」

 

 

 

『そう、主張をするなら・・・

 俺から獲物を横取りしてみろ!!』

 

『こちらも、初めからそのつもりだ!!

 ・・・準備はいいか、アリサ!!』

 

 どうやら・・・見事に喧嘩を売れたみたいですね。

 私では、あの北斗を相手に挑発は無理です。

 

「準備OKです、リョーコ!!」

 

『お、呼び捨てとは珍しいじゃね〜か。』

 

「気合を入れる為です!!

 それに・・・連携攻撃には、お互いを信用しておかないと駄目ですからね!!」

 

 私は微笑みながら、通信ウィンドウに映るリョーコに話し掛ける。

 

『よっしゃ!!

 なら、あの生意気な野郎に見せてやるか。

 テンカワ直伝の技と・・・』

 

「私達と、この愛機の実力を・・・ね」

 

          ガチャ・・・

 

   カチ、カチ・・・

 

 私達は同時に、あるレバーを倒し・・・

 スイッチを決められた手順で操作していく。

 

『・・・無駄話は終わりか?』

 

 北斗が退屈そうに話し掛けてきます。

 しかし、私達を絡め取る無言のプレッシャーは・・・さすが、あの人のライバルですね。

 

 ですが・・・貴方は私達を見縊り過ぎる。

 

「ええ、これから先は・・・」

 

『俺達の舞台だ!!』

 

 リョーコの台詞を合図に、私達は奥の手を使う!!

 

「最終セーフティ解除!! 解除コード 『ルナ』!!」

 

『最終セーフティ解除!! 解除コード 『マルス』!!』

 

 月と、火星の名を名乗り・・・私達の愛機は束縛から解き放たれる!!

 

 ・・・では、舞いましょう!!

 

 

 

「『フルバースト!!』」 

 

 

 

           キュワァァァァァァァァ!!

  

 

 私達の機体が一瞬、白い閃光に包まれ・・・

 

   バシュゥゥゥ・・・

 

 そして、背後に白く輝く一対の『光翼』を持つ天使が、二人降臨した。    

 

 

 

 

 

 

「何、だと!!」

 

          ドゴォォォォォォ!!

 

 俺の真横を、予想外のスピードで赤い機体が通り過ぎる!!

 

「くっ!!」

 

   バシィィィィィンンン!!

 

 通り抜け様に、その背後から生えている白い羽が俺の『ダリア』を襲う!!

 その攻撃を、俺はディストーション・フィールドを集中させて防ぐ。

 

      ギュン!!

 

 驚いている暇は無さそうだ・・・

 次の白銀の機体が、槍を構え『光翼』を羽ばたかせながら襲い掛かってくる。

 

 これが・・・アイツ等の奥の手か!!

 暴走を引き起こした様な、爆発的な性能アップ。

 しかし、これではパイロットと機体・・・両方が持つまい。

 俺やテンカワの機体とは、基本的に違うのだからな。

 

 つまり、相手は短期決戦のつもりか。

 

 ・・・面白い、その勝負受けてやる!!

 

「なら・・・DFSでの攻撃はどうする!!」

 

    ブゥゥゥゥゥゥンンン!!

 

 俺のDFSの刃と、向かってくる白銀の機体の槍が衝突し・・・

 

           バチバチバチ!!

 

      ・・・ドゥゥッ!!

 

 お互いが弾き飛ばされる!!

 くっ!! あの槍には、DFSと同じフィールドを発生させているのか!!

 でなければ、DFSの刃を防げるはずは無い・・・

 

「!!」

 

    ギュン!!

 

          シュパァァァァァンンン・・・

 

 殺気を感じ、その場を跳び退いた俺の側を。

 白光の斬撃が後を追う!!

 

 ・・・コイツは、居合か!!

 

 俺が姿を確認すると同時に、赤い機体は腰の剣を押えつつ間合いを詰めて来る!!

 

     ギュワッ!!

 

 いや、こいつは囮だ!!

 敵の狙いは!!

 

                    バシュゥゥゥゥ!!

 

           ズガガガガ!!

 

 咄嗟に機体を横に流した為、白銀の機体が持つ槍は『ダリア』の左腕を掠っただけだ。

 戦闘に支障は無い。

 

 しかし・・・やる。

 正直に言うと、嬉しい誤算だ。

 

 テンカワが消えた今、俺にとって格好の遊び相手だ。

 

「くくくくく・・・」

 

                    ギュワッ!!

 

     ギュン!!                             ビュン!!

 

 『ダリア』を中心に、二機の『光翼』を持つ機体が走る・・・

 その中心にあって、俺は笑いを止める事は出来なかった。

 敵の攻撃は実に巧みだ。

 囮と攻撃のコンビネーションは、見事と言っていい。

 敵が操る機体も、中々の性能を見せている。

 きっとコクピットでは、必死の形相をした女がいるのだろう。

 

 だからこそ・・・笑える。

 

 そんな俺に、急激なGに顔を歪ませながら、先程俺を挑発した女が叫ぶ。

 

『何が・・・可笑しい!!』

 

「何、死んだ男の敵討ちとは・・・古風な事だな、と思ってな。」

 

『・・・あの人は、死にません!!』

 

 別の女の声が聞こえる。

 どうやら、あの白銀の機体を操ってる奴みたいだな。

 

「あのタイミングでは望みは無いな。

 仮に生体跳躍をしたとしても・・・何処に跳ぶんだ?

 跳躍はイメージが出来てこそ、初めて可能になる。

 あの一瞬では、とてもじゃないが跳躍は不可能だな。」

 

 俺自身、テンカワの無事を信じたい。

 アイツの存在は俺にとって、自分の存在を確かめる格好の標的でもある。

 アイツとの戦いの果てに、俺は自分が望んだモノを見つける事が出来るかもしれない。

 

 そう・・・思っていた。

 

 だが、死んだ人間に俺は何も期待はしない。

 そんな事は無益だ。

 

『・・・だが、俺達はアイツを信じる!!』

 

『私達にとって、目標でもあるのだから!!』

 

「なら・・・希望という名の絶望を抱いて、死ね!!」

 

 死を認められない・・・馬鹿な女共が!!

 

    ブォォォォンンンン!!

 

              バァシィィィィ!!

 

『きゃあ!!』

 

 俺のDFSの一撃を、ギリギリの処で『光翼』を使って防御する白銀の機体。

 

『アリサ!!』

 

「余所見をしている・・・暇があるのか!!」

 

     ドドドドドン!!

 

                  バババババ!!

 

『くっそぉぉぉ!!』

 

 カノン砲の連射を、こちらも『光翼』で防御しつつ後退をする赤い機体。

 ・・・もうそろそろ、機体もパイロットも限界の様だな。

 

「そろそろ限界か?

 俺は、もう貴様等の動きは見切ったぞ。」

 

『!!』

 

 俺の発言に、動揺をする気配がする。

 本当に限界なのか?

 

 ふう・・・やはり、物足りないな。

 テンカワと、初めて戦った時の充足感には程遠い・・・

 

 俺は、溜息をつきながら敵の女達に通信を送る。

 

「次の一撃に、お前達の最高の技で向かって来い。

 それまでは俺も攻撃をしない。」

 

『ふ、ふざけているのか!!』

 

「なに、ハンデだよ・・・このまま死ぬのは心残りだろう?

 その攻撃で俺を倒せなかったら、お前達が死ぬだけだ。」

 

 俺は気だるい口調で、女に話し掛ける。

 ・・・名前を聞くのも面倒くさい、な。

 まあいい、どうせ直ぐにこの世を去る女だ。

 

『その勝負・・・受けます。』

 

『アリサ!!』

 

『リョーコ・・・もう私達ではあの『ダリア』の動きを、捉えられません。

 なら、最後のチャンスに全力を尽くすのみです。』

 

『・・・そうだ、な。』

 

 どうやら話はまとまったみたいだな。

 目の前の二機の『光翼』が、更に輝きを増す・・・

 さて、最後にどんな姿を見せてくれる?

 

     コァァァァァァァァァァ・・・

 

                   ドンッ!!

 

 白銀の機体が俺の頭上に飛ぶ。

 そして、『光翼』を広げ・・・脇に構えた槍が、強く発光を始める。

 

「ほう・・・」

 

 俺は感心しながら、その光景を見ていた。

 中々の集中力だ・・・あのDFSのフィールドの展開の難しさは、使っている本人にしか理解出来ない。

 

     コォォォォォォォォォォ・・・

 

 前方でも、強い光を感じ・・・

 前を向いてみると。

 

 赤い機体が、こちらも『光翼』を羽ばたかせつつ、居合の構えを取っていた。

 ・・・一撃必殺、か。

 しかも、同時攻撃と見た。

 これは、面白くなりそうだ。

 

 俺は興奮をしてきた自分を感じ、思わず笑みを浮かべた。

 この緊張感が・・・心地良い!!

 お前達に俺を倒す事が出来るか?

 

 

 そして、その時はきた。

 

 

 

 

 

 

 

『アリサ!!』

 

「はい、いきます!!」

 

 私はリョーコの合図を聞き、全力を振り絞った攻撃を繰り出します!!

 

     ブアァァァァァァァァ・・・

 

 『ヴァルキリー・ランス』に収束したエネルギーが、更に眩しく輝き・・・

 私はあの人と一緒に考えた、技を放ちます!!

 

   ゴォォォォォォォォォォォオオオオオオオ!!

 

 ヴァルキリー・ランスの前方に、直径30m程の巨大な円形の輪が出来ます。

 そして、その輪を眼下にいる北斗の『ダリア』に向け、解き放つ!!

 

『ムーン・ストライク』!!」

 

 

 ドゴォォォォォォォォォォオオオオオオンンンンン!!

 

 

「くっ!!」

 

 『ダリア』を中心に捉えた輪が、球に変わり。

 内部に破壊のエネルギーを振り撒きます!!

 

「・・・バーストモード!!」

 

             フィィィィィィンンンンン・・・

 

 通常のディストーション・フィールドでは防御出来ないと悟ったのか。

 北斗はバーストモードを使って、私の『ムーン・ストライク』に対抗します!!

 

 もう、私も愛機にも・・・指一本、動かす事は出来ません。

 既に、『光翼』も消えフルバーストも解かれています。

 本当の意味で、これが最後の攻撃なのです。

 北斗にこの攻撃を凌がれれば・・・私は殺されるでしょう。

 ですが、私の攻撃は終わりでも・・・まだ次の人がいます!!

 

「リョーコ!!」

 

『任しとけ!!』

 

 

 

 

 

 機体は既に限界を迎えている。

 俺の目の前には、初めて防御に専念をする『ダリア』の姿があった。

 ・・・これが、最後の攻撃だ。

 

     ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ 

 

 背後の『光翼』が震えるのが解る・・・

 内部のジェネレーターが搾り出す、暴力的なエネルギーを逃がしているのが『光翼』だ。

 フルバーストの時にはこの『光翼』が必ず現れる。

 でなければ、内部のエネルギーに耐える事が出来ず、機体は爆発してしまうからだ。

 

 ・・・その為、フルバーストを使用すると、機体もパイロットも深刻なダメージを受ける。

 

 攻防を兼ねる『光翼』

 短時間とは言え、テンカワのブラックサレナに近い機動を可能にする、新型エンジン

 そして俺の手にある、『赤雷』

 

 今、その全てを使って・・・俺は北斗を討つ!!

 

     フォォォォォォオオオオオオオオ!!

 

 白光が『赤雷』の鞘に集まり・・・

 俺のエステが前傾姿勢を取る!!

 

「いくぞ!!

 一の太刀 『飛燕』!!」 

 

    

      シュパァァァァァァァァンンンンンン!!

 

 

 抜き打ちに放った刀身から、赤い刃が撃ち出される!!

 薄く、幅が広いその刃は真っ直ぐに『ダリア』を目指す!!

 

 ・・・線の様に凝縮されたDFSのフィールドを撃ち出すこの技は。

 テンカワと俺のオリジナルだ、その威力は凄まじい!!

 アリサの『ムーン・ストライク』の結界内にいる北斗に、これを防ぐ術は無いはずだ!!

 

   ・・・ウゥゥゥゥゥゥゥンンンンン

 

 刃を撃ち出すと同時に、俺の機体は動きを止めた。

 フルバーストの反動で、少なくとも1時間は行動不能だ。

 ・・・俺自身、極度の集中と度重なるGによって身体はボロボロだしな。

 

 頼む、これで終ってくれ!!

 

 

 

 

 

 白い世界に閉じ込められた俺に向かって、赤い極細の刃が襲撃する。

 ・・・ここまでやってくれるとは、な。

 見事だ。

 

 だが、俺は死なん。

 いや、まだ死ぬ気は無い。

 悪いが、お前達の健闘は忘れずに覚えていてやる。

 

 だから・・・迷わず、テンカワの元に逝け。

 

「・・・『羅刹招来』

 

 俺の呟きと共に、『ダリア』が歓喜の声を上げた。

 

 

    ゴワァァァァァァァァァァ!!

 

 

 全力を発揮できる事に、その身を震わせたのだ。

 

 

 

 

         ドガァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 爆発的に膨れ上がったディストーション・フィールドが、白い牢獄を内部から打ち破る。

 

『そ、そんな!!』

 

 そして、ディストーション・フィールドを凝縮させた左腕を振り。

 敵の放った、赤い刃を打ち消す。

 

 

    バシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

『馬鹿な!!』

 

 ・・・威力はそれなりにあったらしい。

 その攻撃を凌いだ代わりに、『ダリア』の左腕は半ばまで切り裂かれていた。 

 

 俺の『ダリア』は、2対の『真紅の光翼』を纏い。

 その場に静かに佇んでいた。

 

 そんな『ダリア』を見て、女達は驚愕の声を上げている。

 自分達の攻撃が破られた事もそうだが・・・

 『ダリア』に『フルバースト』が備わっていた事が、信じられないらしい。

 

「・・・そんなに不思議か?

 お前達の使った『フルバースト』が、『ダリア』に備わっていても、不思議ではないだろうが。

 親父が盗んできたデータには、既に『フルバースト』のシステムは明記してあったのだからな。」

 

『!!』

 

 最早、驚きの言葉も出ない様だ。

 

 さて・・・遊びは終わりにするか。

 俺もいい加減、疲れてきたからな。

 

 今日、寝る為には久しぶりに、アルコールが必要になりそうだ。

 腹が立つ事が、今日は多過ぎた。

 

「・・・死ぬ覚悟は、出来たか?」

 

 俺は気だるい口調で、目の前と頭上の機体に話し掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十七話 その9へ続く

 

 

 

 

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