< 時の流れに >
「ハーリー君!! そこはわざと隙を作って!!
その場所に敵を誘い込むの!!
無人兵器なだけに、複雑な誘導には引っ掛かりやすいわ!!」
「はい!!」
「ラピスちゃん、右舷の敵をグラビティ・ブラスト広域発射で掃討!!
もう直ぐ救援に来る、アカツキさんを援護して!!」
「了解!!」
私の指示を受け、二人が動く・・・
でも、良く考えたら二人共まだ6歳なんだよね。
ルリちゃんもまだ12歳なんだし。
・・・私達、こんな子供まで戦争に利用してる。
多分、アキトもそれを悩んでると思う。
今ならアキトがなるべくルリちゃん達を、表に出さないようにしている理由が解る。
身の危険だけじゃない。
将来の為にも、その存在を隠しておきたかったんだ。
今頃気が付くなんて、私もまだまだだよね。
でも、気が付いたのなら・・・守る事も出来るはず。
「艦長、アカツキさんが到着しました!!」
メグちゃんが私に報告をする。
機は熟した!! 一気に勝負を決めます!!
「ラピスちゃん!! ハーリー君が誘き寄せた敵を中心に、グラビティ・ブラスト発射!!
アカツキさんの行動をフリーに!!」
「解ったよぉ!!」
ドゴォォォォォォォォォ!!
ナデシコから発射された、グラビティ・ブラストに無人兵器が消滅する!!
「アカツキさん!! そっちは任せましたよ!!」
『了解!!
僕もたまには良い所を見せないとね。』
ヴイィィィンンン
手に持った赤い刃を振りかざし、チューリップに突撃をするアカツキさん。
そして、赤い刃の一撃がチューリップを切り裂く・・・
ズドゴォォォォォォォォォォォォォ!!
「え!! あれって本物のDFSじゃない?
どうして、アカツキ君にあれが使えるの?」
「ミナトさん、アカツキさんは『ガイア』とブロス君のサポートがあれば、DFSを使えるんですよ。
アキト専用に特化されたブロス君だから、本物のDFSのサポートが可能なんだそうです。」
「へ〜、いろいろと考えてるのねアキト君。」
「ええ、そうですね・・・」
そう、アキトはいろいろと考えている。
自分を止める術を・・・
私には解る、この新装備の数々が自分を止める為に用意したモノだと。
アキトは・・・まだ、全てを語ってくれない。
だけど、私は何時か・・・その隣に立つから。
だから、今は自分を磨くだけ!!
誰にも負けないように!!
「ミナトさん、これで残りはチューリップ二つです!!
ナデシコがスコアゼロと言うのも癪ですからね!!
あのチューリップの正面に回って下さい。
一対一でナデシコに勝てる敵はいません!!」
「解ったわ、艦長!!」
ミナトさんの華麗な操縦と、ハーリー君の堅固なD・Bでの防御、そしてラピスちゃんの的確な援護射撃。
そう、一対一の戦いでナデシコは負けない!!
「ベストポジションをキープしたわよ!!」
殆ど、目と鼻の先にチューリップが見えている。
・・・ミナトさんも、結構勢いに乗る人だったもんね。
では、このポジション・・・活かさせてもらいます!!
「ハーリー君、前方の敵を出来る限りD・Bで掃討!!
その後にラピスちゃん、グラビティ・ブラストをお願いね!!」
「解りました!!」
「任せてよ!!」
そして、目前のチューリップは新しい無人兵器を呼ぶ暇も無く・・・
ラピスちゃんの発射したグラビティ・ブラストによって、破壊された。
そして、ほぼ同時にアカツキさんも・・・
「決めるよ、ブロス君!!」
『了解だよ〜』
「じゃ、実戦じゃ初挑戦だけど最後は華々しくいきたいからね。
『ジャッジ』フルバースト!!」
ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
『アカツキさん、イメージングが遅れてる!!』
「簡単に・・・言わないで欲しいね・・・
っと、こんなモノでどうだい?」
『まあ、僕のサポートを入れて出力約74%・・・ギリギリ合格ラインだね。』
「厳しいね〜
さて、隣の艦長も止めを刺しかけてるし・・・決めますか。
秘剣 飛竜翼斬!!」
ザシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
『う〜ん、放出時に集中が途切れたね〜
威力が一割ほど落ちてるよ〜』
ドゴアァァァァァァァァァ!!
・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「いや・・・チューリップのついでに山を切り裂いてるあたり、十分な威力だと思うけど?」
『そんな事じゃ、アキト兄に怒られるよ〜
完全に制御出来てこそ、必殺技なんだからね〜
アキト兄がアカツキさんに、僕と『ガイア』を貸した意味を忘れないでね。』
「・・・忘れたい事でもあるけどね。
でも、逃げるつもりは無いよ。」
『ん、なら宜しい。』
「こ、こんな馬鹿な・・・」
そう呟き、バール少将は自分の席に力なく座り込んだ。
・・・そう、先程最後のチューリップが破壊されたのだ。
アカツキの手によって。
しかし、皆想像以上に腕を上げてるな。
さすが、アキトが直接鍛えただけの事はある。
・・・だが、アリサちゃんと、リョーコちゃんの戦いには本当に鬼気迫るモノがあったよな。
「バール少将、先程の約束・・・宜しくお願いいたしますね。」
ルリちゃんの声を聞いて、バール少将の肩が震える。
「ふ、ふん、口約束など・・・」
「少将、私もその場に居た事をお忘れなく。」
バール少将の背後に控えていた、中年前の男性がそう言って釘を刺す。
どうやら、お目付け役みたいだな、この男性。
という事は、このバール少将・・・アフリカ方面軍でも、問題が多い人物じゃないのか?
そう言えば、会議の前日の戦闘でアフリカ方面軍総司令が怪我をするとは・・・
これは、あのロバートの爺が関与してるとしか思えないな。
もっとも、証拠を残すような下手な仕事はしていないと思うが。
それにしても、今回は最後までこの爺さんにやられっぱなしだったよな。
・・・最後の最後に、ルリちゃんのあの発言が無ければ。
事態は最悪な方向に向かっていたかもしれん、な。
しかし、諦めの悪い男だな?
何だか、あのキノコを思い出すぞ?
・・・一つの部隊につき、一人は栽培してるのか?
髪は無い、禿げだけどな。
今は茹蛸だし。
「き、貴様は上官に向かって!!」
「・・・あまり、無様な事を言わないで下さい。
少将の行動一つ一つが、アフリカ方面軍の品位を貶めているのですよ。
帰ってから、総司令に報告する私の身にもなって下さい。」
「・・・ちっ!!」
どうやら、大人しくなったようだな。
だが、もしアンタが約束を反故するのなら・・・俺もアキトも手加減はしなかったぜ。
今回、ナデシコの皆が渡らなくていい危険な橋を渡ったのは、アンタの仕業だからな。
バール少将・・・その名前、忘れないぜ。
そして・・・今後の俺達の最大の敵になる存在、ロバート・クリムゾン。
さてさて、今後は忙しくなりそうだな。
もっとも、苦労のしがいがある仕事だけどな。
そして、壇上ではエリナさんが誇らしげに胸を張り、勝利の宣言をしていた。
「もう、帰られるのですか?」
ヘリポートに向かう私に、彼が話し掛けてきた。
ふむ、SP達もかなり緊張をしているな。
まあ、相手があのテンカワ アキトでは仕方が無いか。
「まあ、この年でも忙しい身の上でね。
・・・それと無理に敬語を使う必要は無いぞ。
ここから先は、君は私にとって邪魔者なのだからな。」
「随分と・・・余裕だな。」
瞬間的に体感温度が下がる・・・
いやはや、老骨には彼の相手は堪えるな。
「そう、その口調の方がしっくりとくるよ。
君の本性に近いみたいだしな。」
私の再度の挑発に・・・彼は乗らなかった。
どうやら年の割に、経験は豊富のようだな。
「一つ聞きたい・・・何故、和平を嫌う。
平和な世界での経済戦争ならば、お互いの傷も最小限に抑えられるだろうに。」
コツコツコツ・・・
彼の横を通り抜けながら・・・
私はこう呟く。
「君が何を言いたいのか解らんが。
私にも一つだけ真実がある。
それは、私は数十万の社員を抱える身であり・・・経営者であると言う事だ。
ネルガルの背中を追い続けて納得するような、負け犬になるつもりは無い。」
そう言い残して、私はヘリポートへと降り立った。
背後からは、あの驚異的な威圧感は消えていた。
どうやら、今日の所は見逃すつもりらしいな。
・・・身辺警護ではなく、こちらからも攻めるか。
私は切り札のカードを、一枚使う事を決意した。
まあ、今回はあの欲深い少将のお陰で、最後の最後で負けてしまったからな。
さてさて、今度はどう足掻いてみせるのかな、「漆黒の戦神」殿は?
「所詮、私の名はクリムゾン・・・鮮血に彩られた家系よな。」
「よう、一発殴りに行ったんじゃないのか?」
「・・・高齢の方を殴れるほどに、敬老精神を忘れてませんから。」
俺の洒落に、洒落で返すアキト。
どうやら、踏み止まったらしいな。
パーティー会場から消えたアキトを追って。
俺はこのヘリポートに急いだ。
何となく、ロバート・クリムゾンを狙うような気がしたからだ。
もっとも、最後の最後で踏み止まったのだろう。
アキトの来た方向からは、騒がしい気配は無い。
「しっかし、やりにくい爺様だな。」
「本当ですね。
見事に丸め込まれましたよ、「自分を殺せば数十万の社員が路頭に迷う」ってね。」
「やれやれ、口では勝てんか。」
俺達は苦笑をしながら、パーティー会場に向けて歩き出した。
「バール少将は?」
「俺を睨みながら帰国したぞ。
まあ、当分は大人しくしてるだろうさ。
・・・義理の弟に、証拠のテープは渡してある。
多分、近日中に降格・・・もしくは軍を追放されるだろうな。」
俺はニヤニヤと笑いながら、あの野郎の未来に思いを馳せた。
まったく、欲深さは変わらない奴だったな。
それも最後まで変わらないまま、自滅しやがった。
「・・・嬉しそうですね。」
「ああ、女房と息子の敵だからな。」
俺の返事に少しだけ眉を寄せるアキト・・・
そして、俺の顔を見て真意を探ろうとしていたが・・・直ぐに止めた。
「復讐を・・・考えなかったんですか?」
「まさか。
でもな、丁度転属が決まってな・・・上層部には、逆らえなかったんだよ。」
「その方がいいですよ・・・後味が悪いだけですから。」
その言葉には・・・万感の想いがあった。
どうやら、お互いに古傷を抉りあったみたいだな。
俺も、あの少将の顔を久しぶりに見て、興奮していたらしいな。
そう、もう終った事だ・・・
俺にも未来があれば、アキトにはまだまだ可能性が詰ってる。
何時までも終った事に係わってる暇は無いさ。
それに、今は大仕事の最中だしな。
バルディ、最愛の妻よ、お前の事もやっと忘れられそうだ・・・弟も元気だったぞ。
ジーン、言葉も喋れないまま消えた息子よ・・・何時か、また会おう。
「・・・いいんですか?」
「ああ、済まん。」
立ち止まっていた俺を律儀に待っていたアキトが、再び歩き出した俺にそう話し掛ける。
コイツも似た様な経験があるのか・・・俺の心理を良く解っている。
ふっ、18歳の小僧に心配されるとはな。
俺もまだまだ修行が足らんな。
「よっし!! 後はお前は王妃様の前に連行して、俺の仕事は終わりだ!!」
「な、なんですかそれは!!」
俺の台詞を聞いて仰天するアキト。
ふふふ、驚け驚け。
「誤魔化しても無駄だぞ?
お前、舞踏会でルリ君を誘わずに、一番最初に北斗と踊っただろうが。」
「あ、あれは枝織ちゃんが・・・それに一番の原因はナオさんですよ!!」
「らしいな、だがもうナオのお仕置きは始まってる。」
「は?」
「アイツの浮気現場をミリアに送った。」
まさか・・・あの娘と、ああなるとはな。
まあ、俺は面白いから歓迎するが。
「ほ、本当ですか!!」
「ああ、今頃はミリアに向かって頭を下げてるだろうな。」
「・・・不憫な。」
・・・いや、お前の今後の未来ほどじゃないと思うぞ。
ナデシコに帰れば、第二次御仕置き会が開かれるんだし。
勿論、北斗とのダンスシーンは、ナデシコに先程転送しておいた。
そこらへんに、俺にぬかりは無い。
「さて、王妃様に会いに行くか!!」
「・・・はあ。」
気乗りしないアキトを引き摺って、俺はパーティー会場に急いだ。
面白くも無い過去の話しは忘れて、今を楽しむ為に・・・
「ナオさ〜ん、何時まで不貞腐れてるの?」
「・・・」
はあ、当分は再起不能ね。
「・・・誰が、あんな場面を撮ってたんだ。」
「ああ、あの浮気現場?
クリムゾンのデータから、ルリちゃんが盗み出したらしいわよ。」
「そうか・・・」
あ、何だか背中に鬼気が見える。
そう、とうとうアキトみたいに人外の域に踏み込んだのね、おめでとうナオさん。
・・・ミリアさんが機嫌を治してくれるといいわね。
「クリムゾン・・・あの爺・・・覚えてろよ、今度あった時は・・・」
う〜ん、テロに走らなければいいけど。
冗談抜きで、最近のナオさんは戦闘能力が激しく向上してるし。
・・・まあ、アキトほどじゃないけど。
そう言えば、シュン隊長何処までアキトを迎えに行ったんだろう。
何だか心当たりがあるからって、出て行ったまま30分は経つわよ?
「なあ、サラちゃん・・・ミリアの機嫌を治すには、どうしたらいいと思う?」
「・・・大の男が、18歳の小娘に聞く事ですか。」
「そう言わずに、教えてくれよ〜」
そう言って、私に縋りつくナオさん。
・・・前言撤回、人間的には退化してるわこの人。
「こんな現場をアキトに見られたら、誤解されちゃうでしょ。」
ゴン!!
「はぅ!!」
手に持ったワインで、ナオさんのテンプルを一撃。
その場で立ち尽くすナオさん。
止めとばかりに、その足の甲をハイヒールで踏み抜く。
ガス!!
「!!!!!!!!!!」
・・・かなりのダメージを与えたみたい。
無言のまま、恐ろしいモノを見るような目で私を見て、ナオさんは何処かに去って行った。
片足を引き摺って。
ちょっと、やりすぎたかしら?
「あ、アキト!!」
会場に入ってきた人物を見た瞬間、ナオさんの事は忘れた。
まあ、あのラブラブカップルなら勝手に元の鞘に収まるでしょう!!
そして、私はアキトに向かって歩き出した。
私の目の前には・・・一匹の獲物がいます。
さあ、どう料理してあげましょうか?
「テンカワ殿・・・今回は何とか上手く切り抜けられましたが。
あまりに不手際が過ぎましたね。」
「はい、弁解の余地もありません。」
ふふふふふ、言質は取りましたよ。
これで、そう簡単に逃げる事は出来ませんね。
・・・何ですか国王、その同情の眼差しは?
そうですか、今日も御仕置きをして欲しいのですね。
解りました、今日はフルコースでいきますね。
「ならば、ささやかな願いを聞いて貰えますか?」
「はっ、何でしょうか?」
「ルリと婚約をしなさい。」
ズルッ!!
その場で倒れる国王・・・
急いで起き上がり、驚愕の表情で私を見詰めます。
それはテンカワ殿も同じですが。
周りの客人達も驚いた顔をしていますね。
まあ、それはそうでしょう。
「あ、あのそれは・・・」
「と言うのは将来の楽しみにしておいて。」
(結局、本気なのか?)
と、全員が内心で突っ込みを入れているのが聞こえるようだわ。
テンカワ殿はどう反応していいのか、解らない顔をしてますし。
ああ、何て楽しいのでしょう。
テンカワ殿が息子になれば、毎日遊べそうですね。
でも・・・もうそろそろ、ルリの視線が痛いですね。
この娘も今日は頑張りました。
ささやかな褒美をあげるのに、異存はありませんよねテンカワ殿?
「皆さんは、明日には帰られるのでしょう?
ですが、一度も街に出ずに帰られるのは不憫です。
そこで、ルリをエスコートして街に出て貰えないでしょうか?」
「そう言う事でしたら・・・喜んでお受けします。」
ふふふ、掛りましたね・・・
私は隣に座っているルリと、視線でそう語り合いました。
ルリや、明日は頑張るのですよ。
それから国王・・・何時まで気絶しているつもりですか?