< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第十八話.水の音は「私」の音

 

三日目、仮面舞踏会・・・

 

 

 

 

 

 

 今の時間は、もう直ぐ日が昇る早朝・・・

 朝の冷えた空気が、俺の肌を刺激する。

 まあ、厚着はしてきているし、これくらいで根を上げるような軟な鍛え方はしていない。

 もっとも、自分から進んで寒い思いをしたいとは思わんがな。

 

 さて・・・そろそろ予定の時間だ。

 

 俺がそう思いながら、時間を確認しようとすると・・・

 

  ゴォォォォォォォォォォォ!!

 

 エンジン音を響かせながら、一台の連絡船が飛んできた。

 そこそこの大きさの連絡船だ。

 ふむ、乗れる人数は・・・少なく見ても10人か。

 

 俺一人運ぶなら、十分なスペースだな。

 

   シュゥゥゥゥゥ・・・

 

 そして、俺の前方の広場に静かに着陸する。

 

 いや〜、時間には几帳面だね木連の人間は、さ。

 あ、俺も木連の人間だったな・・・

 近頃は完璧にナデシコに溶け込んでたからな〜

 どうも、肌に合うんだよなナデシコってさ。

 

 そして、連絡船のドアが開き・・・

 

「へ〜、そう来ましたか。」

 

 俺は連絡船から降りてくる人物を見て、小声でそう呟いた。

 

「高杉殿ですね?」

 

「はい、そうです。

 ・・・ですが、優華部隊の皆さんが揃って地球に訪れるとは。

 何事ですか?」

 

 俺は優華部隊の隊長を務める、千沙ちゃんに質問をする。

 

 ・・・間違っても本当に”ちゃん”付けでは呼ばないけどな。

 木連の女の子ってお堅いし。

 その報告が、そのまま舞歌殿にいくし。

 

 それは不味いって・・・いろんな意味で。

 俺が本当に遊び人だと思われてしまう。

 

 しかし、今日は俺の回収が目的だった筈だが?

 どうして優華部隊の隊長が、自ら迎えに来るんだ?

 

 ・・・俺のナデシコでの用事は終った。

 和平の段取りとその方法は、全てテンカワから託されている。

 後は、今日の晩に行われる艦長の帰還パーティで全てが決まる。

 そして、俺は・・・あのパーティには不釣合いだろう。

 一応、今は敵方なのだから。

 エリナさん達が反対した事には、納得が出来る。

 だから、そのパーティの結果だけを、艦長達から連絡して貰えればいいのだ。

 

 話し合いの結果、そう言う事になった。

 そして俺は、ナデシコから脱出した振りをしてこの土地に降り。

 舞歌殿と連絡を取ったのだ。

 

 ・・・それが、二日前の出来事だった。

 

 そして、俺はナデシコから脱出した事を北辰達に見せつける為に。

 この待ち合わせ場所に、一人で来たんだが・・・

 俺の新たな役目は帰還してから始まる、それは北辰達の注意を俺に集める事だ。

 唯一、敵の船の最新情報を持つ者として。

 厳しい立場になるだろう。

 もしかすると、拷問も有り得る・・・

 こちらの頼みは舞歌殿のみ。

 さてさて、どうなる事やら。

 

 と、シリアスになっていたのだが・・・

 どうして、優華部隊が勢揃いで俺を迎えに来る?

 俺って、そんなに重要人物だった?

 

 首を傾げる俺を、三姫(みつき)ちゃんが冷たい目で睨みながら言い放つ。

 

「何を呆けてるとね。

 早く私達をピースランドに案内するとよ。」

 

「・・・は?」

 

 一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。

 いや、方言の問題じゃなくて、発言の内容が・・・

 

「いきなりそれじゃあ、理解出来ないよ、三姫。

 はい高杉さん、これが舞歌様からの新しい指令書です。」

 

 そう言って飛厘(ふぇいりん)ちゃんが、俺に微笑みながら一通の指令書を渡す。

 俺は呆然とした状態だったが、無意識の内にその指令書を受け取り。

 

 内容に目を通す・・・

 

『北斗がある理由により失踪しました。

 手引きをした犯人には、こちらで目星を付けています・・・が、それは問題ではありません。

 多分、私の予想では北斗はテンカワ アキトの元に向かうでしょう。

 あの子を止めて下さい、まだ二人が出会うのは早過ぎます。

 そこで各務達、優華部隊を貴方の下に配属します。

 彼女達と協力をして、この任務を遂行して下さい。

 

 追記

 この命令に貴方の拒否権は認めません。

 また、作戦の失敗も絶対に認めません。

 頑張って下さいね(ハート)

                                    以上、舞歌より』

  

 ・・・

 

 ・・・

 

 ・・・ちょっと待て!!

 ハート、じゃねえだろ!!

 

 

 じゃあ、何か?

 俺にあの人間凶器の二人の出会いと、戦いを未然に止めろと?

 しかも、部下7名?

 俺を含めて8名足らずの工作員で?

 

 ・・・ミッション・インポッシブルだぞ、これは!!

 

 指令書を持つ俺の手が、小刻みに震えた・・・

 

「ねえ、高杉さんの顔色悪くない?」

 

「まあ、あの指令書の内容は推測出来るから・・・

 気の毒にな。」

 

 おい、人事の様に話すなよ・・・

 

「ほらほら、命令を知ったのなら早く案内すると。」

 

「だから〜、急には無理だよ、三姫。

 高杉さんも心の準備が必要だし、ね。」

 

 心の準備・・・どうこうで、どうにかなるのか? おい?

 君達もあの二人の戦いを、目の当たりにしたんだろう?

 人外・・・レベル、じゃ済まないんだぞ?

 俺は生身のテンカワ アキトの実力も知っている。

 彼女達はその事を知らない。

 まあ、テンカワの戦いは機動戦だけしか見てないからな。

 逆に俺は、北斗殿の生身での実力を把握していない

 が・・・多分、こちらも桁外れだろう。

 

 つまり・・・まあ、言葉は違えど要するに、だ・・・

 

 

 近づきたくね〜〜んだよ!!

 あの二人の戦いになんてよ!!

 

 

 しかし、俺の心の叫びを聞いてくれる人はいなかった。

 当たり前か、心の叫びだし・・・

 

 

 

 

 

「さて・・・まずは全員の特技を言ってくれないか?」

 

 俺は・・・前向きに生きる事にした。

 そうさ、相手も人間なんだ。

 話し合いで決着をつければOKだ!!

 

 でも、テンカワはまだ説得出来る可能性があるとして、北斗殿はどうなんだ?

 ・・・暗い考えは、頭の片隅にしまって厳重に封印しておこう。

 その方が人生は上々さ〜

 

 

 

 危ない危ない・・・また、現実から逃げる所だったな。

 

 

「なあ、かなり・・・キケンじゃないか?」

 

「・・・目が虚ろですね、確かに。」

 

「仕方が無いんじゃない?

 あの二人を止めろ、何て命令されたんだし。」

 

「ふん、優人部隊の一人とは思えん気弱さばい!!」

 

「だから、そう言うレベルじゃないでしょ、三姫?」

 

 

 せめて・・・慰めの言葉は・・・出ないのか?

 

「・・・そこで、皆の特技を教えて欲しい。

 今夜のピースランド王城への侵入は、俺の知り合いに頼むからいいとして。

 どうやって、あの二人の接触を防ぐかが問題だ。」

 

 俺は前向きに今後の検討を始める。

 

「へ〜、意外と顔が広いんだ。」

 

「・・・まさか、地球の女性にを出したとか。」

 

 

    ギクッ!!

 

 

「・・・何か、変な音がしなかったか?」

 

「さ、さあ?」

 

 俺は背中に冷や汗を流しつつ、涼しい顔で万葉ちゃんの疑問に応えた。

 ・・・大丈夫、俺の月での行動は見られていない・・・筈だ。

 

 多分・・・

 

「でも、高杉さんが月でナンパした女性に、そんな大物いましたっけ?

 あ、だから地球でまた別の女性をナンパしたのか。」

 

「なるほど、そう考えると納得出来るわね。」

 

 

「ぐはっ!!」

 

 

 京子ちゃんと百華ちゃんの発言に・・・

 思わずその場に倒れる俺!!

 

 ちょ、ちょっと待て!!

 何故、その事を君達が知っている?

 

 などと俺が内心で焦ってる間にも、彼女達の会話は弾む・・・

 

「いや、意外な大物を釣ったのかもしれんぞ?」

 

「でも、軽そうな人ばかりに声をかけてましたよ。

 あんな女性が、高杉さんの好みなんでしょうか?」

 

「じゃあ、その線での潜入策は望みが薄かね。」

 

「ですが・・・誰が高杉さんの定時報告書に、動画ファイルを添付したんでしょうか?」

 

 ・・・俺は、顔中冷や汗を流しながら、その会話を聞いていた。

 そう、俺は最後の零夜ちゃんの発言で気付いたのだ。

 

 この悪戯の犯人に!!

 

 こんな芸当が出来る人物は限られている。

 俺が極秘に舞歌殿に連絡をしている事を知り。

 それを止める必要が無い事を知る人物!!

 

 俺が思いつく限りで、それが可能な人物は三人しかいない。

 男の奴は・・・俺の教育の成果で、そんな馬鹿な事はしないだろう。

 次に再会した時に、どうなるか解っているからな。

 で、残りの二人・・・となる訳だが。

 あの人は、そんな事に関心を寄せない。

 これが俺じゃなくて、テンカワだったら話は別だが。

 と、なると残りは・・・

 

 俺の脳裏に、薄桃色の髪をした子悪魔の姿が浮かぶ。

 ・・・そう言えば、月で『ブローディア』の仕上げをしてる時、俺を見て笑ってたな。

 あれは、こういう意味だったんだな?

 

 テンカワ、もう少し教育方針を考えた方がいいぞ?

 

「まあ、高杉さんの趣味は趣味として・・・

 多分、あのルリと言う名前のピースランドの姫君と、連絡をとるのでしょう。」

 

「おい!!」

 

 知ってるなら初めからそう言え!!

 

「名前と役職は御存知だと思うのですが、一応報告します。

 私の名前は各務 千沙、雷神皇のパイロット兼、優華部隊の隊長をしています。

 特技は射撃と戦闘時の采配です。」

 

 俺の抗議の声を無視して、千沙ちゃんが自己紹介を始める。

 千沙ちゃんは、長い緑色の髪を後ろで縛った髪型をしている、見た目はおっとり系の美女だ。

 体つきも抜群のプロポーションだ。

 ・・・見た目だけだと、そう思うだけだが。

 しかし、これでも一般の木連兵士では束になっても適わない実力の持ち主だ。

 そして、その冷静な判断力と状況認識力をかわれ、舞歌殿に優華部隊の隊長に任命されている。

 

 俺もこうして長い時間、会話をするのは初めてだが・・・

 

 ・・・いいように遊ばれてないか? 俺?

 一応、この即席部隊の隊長だろ?

 

「名前は御剣 万葉、風神皇のパイロットだ。

 体術と諜報活動が得意だな。」

 

 万葉ちゃんは、黒髪で後ろ髪の一部を伸ばして纏めている。

 後ろから見ると、その髪が尻尾の様に見える。

 体つきは細身だが、メリハリが効いててプロポーションは良い。

 で、ちょっとキツメの顔をした美少女なんだな。

 この子は気が強いんだけど、そこが可愛いね〜

 

 ・・・何だか俺を見る目が、氷点下に近いのは気のせいか?

 

「・・・私は軽い男は嫌いだからな。」

 

「次の人、どうぞ〜」

 

 俺は小声で次の女性を呼ぶ。

 

 ふっ、俺の木連での立場が・・・・恨むぞ、ラピスちゃん。

 俺は心の中で滂沱の涙を流した。

 

「はい、私の名前は百華です。

 竜神皇のパイロットをしてます。

 体術・・・と言うより格闘戦が得意です。

 後は、これと言った特技は有りません・・・すみません、です。」

 

「あ、別に気にしなくていいよ。」

 

 うんうん、この子は素直で良い娘だよな〜

 

 百華ちゃんは、栗色の髪を後頭部で団子状にして結んでいる。

 体つきは華奢だし、守ってやりたいタイプだね〜

 

 ・・・どうして、こんな娘が優華部隊にいるんだ?

 いや、多分何か理由があるんだろう。

 それより特技が格闘戦?

 

 ・・・深く考えるのは止め様。

 

「さて、次は私の番ね。」

 

「あ、君は別にいいよ。」

 

「・・・もしかして、私に喧嘩を売ってるとね?」

 

「はははは、そう思うか?」

 

 俺と三姫ちゃんの視線が火花を散らす!!

 この娘は・・・敵だ!!

 俺の本能がそう告げている!!

 三姫ちゃんは眼鏡をしていて、黒髪をセミロングの長さに揃えている。

 目元も性格を表すかの様に、つり上がり気味だ。

 体つきも良い、スリーサイズで言えば優華部隊でも一、二を争うだろう。

 

 ・・・そう、確かに美人でスタイル抜群さ。

 

 だが!! その性格は万葉ちゃんより数倍キツイ!!

 そこが可愛いというレベルを突き抜けている!!

 ああ、俺は君のその性格にうんざりだよ!!

 

「名前は神楽 三姫!!

 炎神皇のパイロット!!

 特技は木連式抜刀術と薙刀!!

 一応、臨時隊長なら覚えておけばい!!」

 

「・・・ふっ、聞こえね〜な。」

 

「貴様という奴は〜〜〜〜〜!!」

 

 耳元で叫ぶ三姫ちゃんを無視する俺。

 いや、実は鼓膜がかなりヤバくて本当に聞こえて無いんだな、これが。  

 

 などと思ってると、次の娘が自己紹介を始めた。

 

「えっと、天津 京子です。

 氷神皇のパイロットをしてます。

 特技は爆発物の取り扱いと、重火器の制御・・・かな?」

 

 京子ちゃんは色白の肌に、ちょっと長めの栗色の髪をした美少女だ。

 ただ、目の色が木連の人間にしては珍しい碧眼だった。

 そして、小柄な体付きをしている。

 おしとやかで、静かな娘なんだけど・・・どうして三姫ちゃんと気が合うんだ?

 

 世の中は不思議に満ちているぜ・・・

 

「私の名前は空 飛厘よ。

 闇神皇のパイロットをしているわ。

 特技は陰行術と武器の開発、それと護身術ね。」

 

 学者肌・・・と言う話の飛厘ちゃん。

 どちらかと言えば茶色に近い長い髪を、無造作に背中に流している。

 表情もキリッ、としていて隙が無い。

 身長も女性にしては高い170cm程。

 お陰で、凄くスタイルが良い。

 しかし、この立ち姿を見る限り・・・護身術のレベルもかなりのモノだろうな。

 

 ・・・何となく、あのイネスさんを思い出してしまった。

 イネスさんに俺は勝てん

 色々な意味でな・・・

 

 つまり、俺はこの飛厘ちゃんも苦手だと言う事だ。

 

「何を、ブツブツと言ってるの?」

 

「・・・悲しい現実に立ち向かってるのさ。」

 

「はあ?」

 

 俺はいい加減、この任務を捨てて・・・

 地球の田舎で農家でも営もうかと思い出していた。

 純粋で、可愛い嫁さんを貰ってさ。

 朝日と共に起き、夕日と共に寝るのさ。

 ああ、なんて健康的な生活なんだろう・・・

 

「あの〜、私の自己紹介がまだなんですけど?」

 

「ははは、ほ〜ら、沢山食べて大きくなれよ〜」

 

「ああ、一応聞こえてるみたいだから話しておきなさい、零夜。」

 

「解りました・・・

 私の名前は紫苑 零夜。

 光神皇のパイロットです。

 一番の特技は・・・料理と裁縫、かな?」

 

 ガバッ!!

 

 俺はその零夜ちゃんの自己紹介が終った瞬間、その手を握り締めた!!

 

「は、へ?」

 

 抜けるような色白の肌で、黒いショートカットの女の子・・・それが零夜ちゃんだ。

 美人と言うより、可愛いという方が相応しい容貌を持っている。

 何より、その身に纏う優しい雰囲気が俺の荒んだ心に染み入った・・・

 

「君こそ、本当の木連魂を持つ女性だ!!

 さあ、俺と一緒にあの雄大な自然の待つ北海道に・・・(ゴスッ!!)」

 

 そこで俺の意識は途絶えた・・・

 

 

 

 

「・・・何、とち狂ってるんばい、この男は。」

 

「まあ、零夜も特技じゃないだけで、格闘術は達人レベルだからね。」

 

「ふぇぇぇぇぇ!! 怖かったよぉ〜!! 百華ちゃ〜〜ん!!」

 

「お〜、よしよし。」

 

「隙を突かれて一撃、ですか。」

 

「どうする、千沙?

 ここに置いていく、高杉さん?」

 

「いや、これでも一応舞歌様が指名した人ですし。

 それにピースランドに潜入時には、テンカワ アキトに連絡を取ってもらわないと駄目ですしね。

 一応の役には立ちますよ、多分・・・だから三姫、お願い。」

 

「・・・私が運ぶのか?」

 

「お前が一番力持ちなんだから、仕方が無いだろう?」

 

「はあ・・・本当に、情けない男ばい・・・」

 

 

         ズルズル・・・

 

                   ズルズル・・・

 

 

 

 

 

 

第十八話 三日目その2へ続く

 

 

 

 

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