< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぞくぞくと到着する、パーティの参列者・・・

 私はその参列者の中に混じりながら、今夜の計画に想いを馳せる。

 

 テンカワ アキト

 何でも貴方の思い通りに、世の中が動くとは限らない事を教えてあげる。

 

 知らずに握り締めた拳に、爪がくい込んでいた。

 

 ・・・自分でも、無謀な戦いを挑んでいると解っている。

 当代随一の英雄に、ごく普通の何の取り得も無い女が挑むのだ。

 万に一つも勝ち目も・・・無いだろう。

 

 ・・・でも、止まる事は出来ない。

 私には、もうこの復讐しか残されていないのだから。

 

「チハヤ・・・行くわよ。」

 

 私の隣に、深緑のドレスを着た長い金髪の女性が近づいてくる。

 彼女の表情も緊張で少し強張っている。

 

 私と同じ敵を持ち。

 私と同じ傷を心と身体に持つ女性。

 

「ええ、解ってるわよ、ライザ。」

 

 そして、私とライザは騒然としたパーティー会場から抜け出した。

 もう、この会場に私達が姿を現す事は、無いだろう。

 

 ・・・紫色のパーティドレスの裾をはためかせ。

 私は廊下を歩く。

 ただ、目的地だけを目指して。

 

「・・・ここで、終らせるわ。」

 

「そうね、ここで終らせないとね。」

 

 お互いに話す事はもうない。

 嫌になるほど、お互いの心が解っているから。

 ただ一人の男性に、人生を狂わされ弄ばれた。

 私は、その男を憎む事で生き延びた。

 彼女は・・・その男を愛する事で自分を誤魔化した。

 

 そのはずだ、あの男を本当に愛するなど・・・ 

 

 そう、私達を結ぶのはあの男の事だけ。

 私達の行動と連帯には、中心にあの男がいる。

 何処までも・・・忌々しい存在!!

 

 私の兄であり。

 私の全てを奪った男。

 殺しても、飽き足りないと思った男!!

 

 でも、今日ここであの男の事を忘れてみせる。

 あの男を殺し、私を呪縛から解き放つ邪魔をしたテンカワ アキトを殺して!!

 全てを失うか、全てを得るか。

 

 ・・・私の人生には、すごくお似合いの結末を導く事だろう。

 

 この時、私は気が付かなかった。

 この破滅的な考えが・・・あの男に・・・テツヤに似ているという事に。

 

 

 

 

 

「じゃあ、ね。」

 

「・・・また、会えたなら。

 一緒に飲みに行きましょう。

 お互い、彼に文句を言い足り無いと思うし、ね。」

 

「そうね・・・」

 

 それが、私とライザの・・・別れの言葉だった。

 

 

 

 

 

 予定していた場所に向かう途中で、先に潜入していた工作員の用意した爆弾を確保する。

 この爆弾単体では、現在のレーダーには捉えられない筈。

 これと、私が持ち込んだ薬品を組み合わせて、初めて爆弾として機能をする。

 

 ・・・これ一つでも、このピースランド王城の半分を吹き飛ばせるそうだ。

 そう自慢気に語っていた、直属の上司の顔が浮かんだ。

 もう、会う事は無いと思うけど、ね。

 

 後は、私とライザがそれぞれ特定のポイントに、この爆弾を仕掛けるだけ。

 

 何故、工作員が仕掛けないのだろうか?

 それは、既に彼(彼女)等が行方不明だからだ。

 生死は不明、多分生きてはいないと思う。

 私の敵は・・・甘くない。

 そう、言わば私達は決死隊。

 それも、限りなく成功確率の低い・・・それでも、逃げる訳にはいかなかった。

 

 私の中では、何も決着はついていないのだから。

 あの5年前の悪夢は・・・未だ私を放さない。

 

 隠しポケットに入れた、私の拳大の爆薬を握り。

 私は夕闇の中、静かに移動を開始した・・・

 

 もう直ぐ、パーティーが始まる。

 私とは無縁な華やかな世界。

 

 私は表の仮面を脱ぎ捨て、裏の仮面を被る。

 復讐者の仮面を。

 

「あれ、君は何をしてるんだい?」

 

 その時、背後から私の行動を引き止める声が掛った!!

 

 

 

 

 

 私は夕闇の迫る景色を眺めながら・・・

 静かに歩を進めていた。

 

 この景色は、私の故郷に似ている・・・と思う。

 

 私は8歳の時に両親に売られた。

 もう、両親の顔は思い出せない。

 それに、別に会いたいとも思わない。

 若い・・・若すぎた両親にとって、私は邪魔だったのだろう。

 記憶の中にある二人は、何時も私を見て困った顔をしていた。

 その記憶の中にある風景に、故郷で見た夕焼けがあった。

 

 だから、私は夕焼けが嫌いだ。

 

 私の故郷は、ヨーロッパの片田舎だったと思う。

 売られてから物心が付いた時には、ヨーロッパ中を引き摺りまわされたから、そう予想しただけ。

 ・・・人身売買は、国際法で禁止されていると言う人もいる。

 思わず笑ってしまう台詞、ね。

 なら、私は何?

 人間じゃなくて、家畜なのかしら?

 何時の世も・・・底辺の人間は泣く運命なのよ。

 だから、そう・・・私は神なんて信じない。

 平等な世界なんてありえない知っている。

 あの人と同じで。

 

 私は幸運にも、それなりの美少女だった。

 だから、他の売りモノより良い待遇で生きていけた。

 もし不細工な女だったら・・・生きてはいなかったでしょうね。

 最後に待つのは臓器の売買だったかしら?

 

 だけど、所詮は金で売買されるだけのモノ。

 自分の意志も、意見も無い。

 ・・・ペットよね、あんな存在は人間じゃなくて。 

 

 そんな私を救った人物。

 いや、彼は別に救う気は無かったのだろう。

 ただ、何となく私に興味を持っただけ。

 そう、それだけだったのだ・・・

 

 幾人目かの飼い主の元に連れて行かれて三日目・・・

 彼は、私の目の前で新しい飼い主を殺して呟いた。

 

「他人に売られた気分はどうだ?

 まあ、今まで自分が売る側だったんだ、心残りは無いだろう?」

 

 そう呟いた後、彼の視線は私を捉えていた。

 

 殺される。

 

 そう覚悟をした。

 でも、それでも別にいいか・・・そう思った。

 所詮、私の人生は他人によって決められているのだから。

 

 覚悟を決めた私は、虚ろな瞳で彼を見詰める。

 しかし、彼は逃げも叫びもしない私に、逆に興味を持ったのだった。

 

「・・・おい、お前歳は幾つだ?」

 

 銃口を私に向けながら、そう質問した彼・・・

 

「多分、12歳だと思う。」

 

「その割には堂々としてるな、お前は今から殺されるんだぜ?」

 

「別に・・・死んでも何も変らないし。

 どうせ、生きていてもまた売られるだけだから。」

 

 私のその返事を聞いて、彼は少し考え込み・・・笑った。

 

「なら、復讐したいと思わないか。

 お前の人生に、何の断りも無く干渉した奴等に?」 

 

「復・・・讐?」

 

 何故か、甘美な言葉だった。

 

「そうさ、世の中には結構「英雄」とか、「先生」と呼ばれる存在が多くてな。

 そいつ等の化けの皮を剥がしてみないか?

 お前を買ったこの男も、そんな「先生」の一人さ。」

 

 そう言って、足元に転がる死体を軽く爪先で蹴る。

 

 別に、生に執着は無かった。

 だけど、彼の言葉に何故か惹かれた。

 私をモノとして扱った彼等の、落ちていく姿が見たいと・・・思った。

 

 気が付いたとき、私は彼に頷いていた。

 

「お前、名前は?」

 

 どうでもいいような口調で彼が聞く。

 

「・・・ライザ。」

 

 それが、私とテツヤの出逢いだった。

 

 それから私は・・・今までの無気力が嘘の様に、勉学に訓練に励んだ。

 もっとも、諜報員の訓練だったが。

 それでも狭い裏世界しか見た事の無い私には、新鮮な体験だった。

 

 ある時、あの人と社内で偶然再会した私は、ある質問をした。

 

「私の事、覚えてますか?」

 

「・・・ああ、そう言えば気紛れで助けた奴がいたよな。」

 

「あの、もし、あの時私が頷かなければ・・・」

 

「勿論、殺してたさ。

 目撃者を残すような馬鹿な仕事をするかよ。」

 

 そう言って、彼は去って行った・・・

 

 解っていた、彼にそんな感情が無いという事は。

 でも、私をあの地獄から救ってくれたのは・・・

 気紛れの行いでも、私の心に残った人は・・・

 私に自分という意識を、初めて感じさせた存在は・・・

 

 彼・・・テツヤだったのだ。

 

 そんな彼の口癖。

 

「英雄、なんて存在しない。

 神様も、いるわけが無い。

 そうだろう? 俺やお前達がまだ生きてるんだからな。」

 

 私も、その意見に賛成だった。

 

 そんな彼が・・・最後の瞬間に私に話した台詞は。

 あの最後の戦いで、初めて彼が私を抱いてくれたのは・・・

 

「明日か、明後日か・・・そろそろ来るだろうな、アイツ。」

 

「・・・何故、そう思うの?」

 

「勘だよ、勘。

 アイツは何処か今まで見て来た偽者と違う。

 闇を抱いてるんだよ、心の中にさ・・・俺達と同じ、な。」

 

「でも、アイツは・・・「英雄」と呼ばれる男よ?」

 

「だからさ、俺の鑑識眼が狂ったのは。」

 

 彼は・・・モノとして人を見ない。

 その人物の価値を計り。

 つまらない人物であれば、その場で処理するか・・・存在を無視をする。

 だが、一度気に入れば・・・

 その人物を最後まで追い込み、その本性を暴き立てる。

 

 狂っていく、その経過を楽しみながら。

 

 そんな彼も狂っていたのだろうか?

 なら、それにつき従う私は?

 やはり・・・狂っていたのか?

 

「ただ、馬鹿正直に祭り上げられた「英雄」じゃない。

 何処か違う、何か・・・大きなモノを抱えてやがる。

 俺の心と共感できる、何かが。」

 

「貴方・・・と?」

 

 信じられない言葉だった・・・

 あの連合軍の誇る最強の英雄が、そんな闇を抱えているとは。

 

「もしかしたら、俺は思い違いをしてたのかもな。」

 

「何を、今更・・・貴方らしくないわ。

 それとも、私を抱いた事を後悔してるの?

 今まで幾ら誘っても、無視してきたくせに。」

 

「そう、俺らしく、無い。

 ・・・何か、予感があるのかもな。」

 

「・・・何の?」

 

 応えは帰ってこなかった。

 そして、彼は次の日・・・基地と共に消えた。

 

 最後に、彼が何を言いたかったのか解らない。

 でも、私は彼を・・・多分、愛していた。

 今では自分の心が解らないが。

 だからこそ、こんな馬鹿な任務を引き受けている。

 彼の唯一の肉親を巻き込んで。

 私とは違う理由で、テンカワ アキトを狙う彼女を道連れに・・・

 

 そう、これが終れば・・・

 彼女に彼の愚痴を言ってもいい。

 

「最低な人だったわよ、貴方の考えていた通りに、ね。

 でも、それでも私は彼を・・・」

 

 目的地は、目の前に迫っていた。 

 

 冷静な諜報員の仮面を脱ぎ捨て。

 私は、馬鹿な恋を引き摺る女の仮面をさらけ出していた・・・

 

 

 

 

 

「あれ、君は何をしてるんだい?」

 

 私を呼び止めたのは・・・アオイ ジュン。

 ナデシコの副長を務める男だった。

 

 くっ!! こんな時刻に、主賓クラスの男がこんな場所をうろついているなんて!!

 これもテンカワ アキトの作戦なの?

 

「・・・別に、道に迷っただけです。」

 

 幾ら化粧で顔を誤魔化していても限界はある。

 この男も、あのナデシコの副長を努める男だ。

 私の身体的特徴から、私の正体に気が付く可能性は高い!!

 

 だが、私の格闘能力は高くない。

 この男を不意打ちでも倒せるだろうか?

 

「ああ、道に迷ったんだ!!

 じゃあ、僕が案内してあげるよ。

 こう見えても、この王城の内部は暗記してるんだ。」

 

 と言って、心配そうに私を顔を覗き込む彼に・・・

 私の頭は混乱した。

 これは、コイツの作戦だろうか?

 私を油断させる為の演技?

 どちらにしろ、隙は見せられないわね。

 

「何だか緊張してるみたいだけど。

 僕の名前はアオイ ジュン。

 このパーティの出席者なんだ。

 君もその格好を見る限り、パーティの出席者なんでしょ?」

 

 そう言って、微笑む彼には何かを企んでいる様には・・・見えなかった。

 何故、私の事を疑わないの?

 もしかして、ナデシコクルーの一部の者にしか、私の存在は話されていない?

 

 もし、そうならば・・・チャンスだわ。

 

「君の名前は?」

 

「あ、私の名前はアヤノです・・・」

 

 取り敢えず、偽名を名乗っておく。

 この男が演技をしている可能性は、捨てきれないのだから。

 

「アヤノさんか、僕と同じ日本人みたいだね。

 そうそう、何処に行きたいんだい?」

 

「あの、私・・・実はこのピースランド王城の庭園に、興味があるので。

 会場から抜け出してきたんです。」

 

「ふ〜ん、そうなんだ。

 ・・・訳は言えないけど、今のピースランド王城内は警備が凄いんだ。

 もし良かったら、僕が案内するよ。」

 

 などと、本気かどうか解らない返事が返って来た。

 

 上手くこの男をカモフラージュに使って。

 テンカワ達の監視を欺けるだろうか?

 ・・・元々、この作戦の成功率は限りなく低いのだ。

 冒険を躊躇う事は無いだろう。

 

 私は目的地の近くにある庭園に、アオイ ジュンと共に行く事に決めた。

 

「ええ、ではお願いします。」

 

 こうして、私とアオイ ジュンは城内の庭園に向けて、一緒に歩き出したのだ。

 

 

 

 

 

 

「アオイさんは・・・どうしてこのパーティに、参加されたんですか?」

 

 沈黙をしていると、隣でソワソワとしているアオイ ジュンが鬱陶しい。

 そこで私は、仕方なく話題を提供する。

 どうやら、自分から私に話し掛ける勇気はなさそうだったから。

 

 ・・・だったら、初めから余計なお節介をして欲しく無いものだ。

 

「僕は・・・まあオマケかな。

 実際の主賓は別の人だし、僕はその人に連れて来られただけ。

 知ってるだろ、テンカワ アキトとルリ姫の事は?」

 

 自分はテンカワ アキトのオマケだと、彼は苦笑をしながら言った。

 

「ええ、それは勿論知ってますが・・・

 でも、アオイさんが会場に居なければ心配されるのでは?」

 

「そんな事、無いよ・・・絶対にね。」

 

 苦笑をしながら、そう断言する彼に。

 私は何故か・・・興味を持った。

 

「どうして、そんな事が断言出来るのですか?」

 

「だって、皆が見たいのは主役であって・・・脇役じゃない。

 それに今回の主役は、あのテンカワ アキトとピースランドのお姫様だよ。

 英雄とお姫様・・・正に童話や御伽噺の世界さ。

 だから・・・脇役の存在を気に掛ける人はいない。」

 

 強すぎる光を放つ主役に・・・自分の存在は消されている。

 そう、彼は言っている。

 

「でも、脇役が居るから・・・物語は楽しめるのですよ。」

 

「それは解ってる。

 でも、今は君が僕を必要としている。

 だから、少しの間僕が会場に居なくても大丈夫さ。」

 

「損な・・・性格してますね。」

 

「ははは、良く言われるよ。」

 

 そう言って笑う彼に、何故か私も釣られて笑っていた。

 私も・・・主役にはなれない人物。

 それも、今では表を歩けない様な・・・

 自分の感情すら歪めてしまった、愚かな女。

 

 でも彼は・・・

 笑ってしまうくらい不器用で、素直に嫉妬の感情を示し、馬鹿が付くほどお人好しだった。

 その顔にも心にも、暗い陰は存在していなかった。

 

「でも、羨ましくありませんか?

 あのテンカワ アキトさんが?」

 

 少し意地悪な質問をしてみる。

 彼は、テンカワ アキトをどう思っているのだろうか?

 

「う〜ん、出会った頃は正直に言うと、露骨に敵視してたな。

 でも、彼がその実力を示す度に・・・どうしてかな、彼の顔に悲哀を感じだしたんだ。

 嫉妬の感情を、他の人にぶつけた事もあった。

 その人に諌められたんだけど、彼は僕が思っている程強くないっ、てね。」

 

 考え込みながら、アオイ ジュンは自分の心情を素直に私に話す。

 この人は・・・私に警戒心を持っていないのだろうか?

 こんな、初対面の人間に。

 

「結局、彼は彼で何か悩みを持ってるんだ。

 それも多分、その実力に見合った大きな悩みをね。

 そう考えると・・・僕は普通の男で良かったと思う。

 だって、彼にしか倒せない敵がいて、その敵に負ければナデシコは沈んでしまうんだ。

 僕は・・・200人以上の人達の命を背負える程、背中は広くない。」

 

「普通の人ならそう考えますよ。」

 

「だから、彼は強いんだ。

 いや、強くないと駄目なんだよ。

 ・・・羨ましいと思う気持ちは、勿論あるよ。

 でも、それ以上に戦友として彼を信頼してる。

 だから、僕は脇役を喜んで引き受けているのさ。」

 

 この人も・・・いろいろと悩んだのだろう。

 あれだけの男が目の前にいて、動揺をしないはずは無い。

 実際、報告書にも彼とテンカワ アキトの確執は書かれていた。

 

 ・・・それでも、彼はテンカワ アキトを認めた。

 私は、反発する事しか出来なかったのに。

 

「なら・・・今後も脇役を続けるのですか?」

 

「脇役は脇役なりの楽しみがあるんだよ。

 ナデシコでは、いろいろと面白い事が頻繁に起こってね。

 彼を巻き込んで馬鹿騒ぎをするんだ。

 その時には、主役も脇役もないさ。

 一緒に笑って、泣いて・・・」

 

 彼の楽しそうな話は続く・・・

 その会話の中のテンカワ アキトは、年齢そのままの少年だった。

 女性陣に翻弄され、アオイ ジュン達に振り回されていた。

 

 等身大のテンカワ アキトに私は初めて触れた。

 そして、その彼を取り囲むナデシコのクルー達に・・・

 

 辺りは暗闇に閉ざされ。

 一定の間隔に設置された外灯が、私達の足元を照らしていた。

 そして遠くから、輪舞曲(ワルツ)が聞こえてくる。

 ・・・パーティーは始まったみたいだ。

 

「御免、面白くなかった?」

 

「いいえ、そんな事ないです・・・

 ただ、私も今まで・・・その、いろいろと疎外にされてたので。

 ナデシコの皆さんが・・・羨ましいな、と思って。」

 

 つい、馬鹿な言葉が私の口から漏れる・・・

 でも、この人ならきっと笑って受け止めてくれる。

 そんな予感が何故か、私にはあった。

 

「そうか・・・大変だったんだね。

 ・・・あ、そこが庭園の入り口だよ。

 僕は今からパーティー会場に戻るから。

 じゃあね、アヤノさん。」

 

 ライトアップされた、見事な庭園が私の目の前に広がっていた。

 その見事な庭園に、既に捨てたと思っていた・・・感動と言う感情が、私の心から浮かぶ。

 こんな感情を受け入れる余裕は、いままで無かったはずなのに。

 

 ・・・まだ、作戦まで時間はある。

 もう少しだけ、時間つぶしに彼を利用してもいい。

 

 そう、これは彼を利用した時間つぶしなのだから・・・

 

 そう自分に言い聞かせながら、去り行く彼に声をかける。

 不思議な事に、私の声は震えていた。

 

 何故、彼に話し掛けるのにこんなに緊張をしてるの、私は?

 先ほどまでは気負いなく話し掛けていたのに?

 

「あ、あの・・・」

 

「え、何だい?」

 

「もうちょっと・・・話を聞かせてくれませんか?」

 

「う〜ん・・・」

 

「駄目・・・ですか。」

 

「・・・いや、良いよ。

 まあ、後でちょっと怒られるかもしれないけど。

 たまには、心配させてみるのも一興かな。」

 

 そう言って笑う彼が、私は眩しいと感じた。

 ああ、解った・・・この人は本当にお人好しなんだ。

 困った人や、頼まれ事を断れない性格なんだ。

 それも、善意だけで見返りを期待しない・・・

 

 裏切りと、騙し合いが日常の裏社会には絶対に居ない存在。

 そんな彼が眩しく見えるのは、当たり前の事だろう。

 

 そう・・・彼は私の事を裏切らない。

 そんな人だと、私には解ってしまった。

 

 決して、気を許してはいけない相手なのに・・・ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十八話 三日目その3へ続く

 

 

 

 

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