< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第十八話.水の音は「私」の音

 

三日目、仮面舞踏会・・・

 

 

 

 

 

 

 さてさて、やっと始まったな・・・喜劇になるか、茶番劇になるかは解らんがな。

 

 俺は心の中で苦笑をしながら、目の前で舞う人々を見ていた。

 もっとも、踊っている人は少数だ。

 殆どの人はこのパーティーの主賓の一人、希代の英雄の元に集まっている。

 

 ・・・その英雄に、視線で助けを請われたが。

 

 生憎、俺も武装した兵隊相手なら直ぐに助けに行くが(必要・・・あるか?)

 色取り取りのパーティードレスを着た、ご婦人達の相手は勘弁・・・だな。

 

 と言うわけで、アキトのSOSを俺は徹底的に無視した。

 

「ナオさん・・・アキトに近づけないんだけど。」

 

 例のドレスを着たサラちゃんが、目立たない程度に頬を膨らませて俺に文句を言う。

 ・・・見た目だけなら、立派なレディーなんだけどな。

 

「・・・まあ、あれだけ見事に包囲されてたらな。

 だが、もう直ぐプレミア国王夫妻の登場だ。

 ルリちゃんの紹介が始まれば、その隙を突いて脱出するだろうさ。」

 

 俺はとうとう苦笑をしながら、サラちゃんのその質問に応えた。

 

「まあ、そうだと思うけどね。

 私も今日のパーティーでは、ずっとアキトの側にいれないから・・・頼んだわよ、ナオさん。」

 

「はいはい。」

 

 そして、表情を引き締めながらサラちゃんが俺に頼む。

 解ってるよ、サラちゃんの仕事も・・・俺の仕事も、な。

 

 アキトの奴は自分の名声に、全然興味が無い。

 いや、認識してなかった、と言うべきか。

 その為に、気軽に一人の女性の質問に答え、自分の名前を名乗り・・・ああ、なった訳だ。

 まあ、自業自得だし、今後の教訓になっただろう。

 

 そして俺の視線はこの会場に入った時から、ある一人の爺さんを捉えて放さなかった。

 灰色の髪を綺麗にセットし、タキシードを完璧に着こなしている。

 背丈は低いが、老人とは思えない活力を漲らせ。

 時々こちらを睨むその目には、俺やアキトとは違う力を感じさせた。

 

 クリムゾン・グループ会長  ロバート=クリムゾン

 

 まさか、御大自らこの場に現れるとは、な。

 それとも、アキトの実力を自分の目で確かめに来たのか?

 どちらにしろ・・・茶番劇の一言で終るパーティーには、なりそうに無いな。

 

「プレミア国王夫妻、及びルリ姫、御入場!!」

 

 そして、今夜の主賓が現れ・・・

 一夜の物語は加速を始めた。

 様々な思惑を持つ人々を巻き込んで。

 

 

 

 

 

「くっ!! 何故繋がらない!!」

 

 バン!!

 

 私の目の前で、高杉さんが悔しげに腕の機械を叩いています。

 何でも、あの機械を使えばルリさんと言う人に、連絡が取れるらしいのですが・・・

 

「・・・駄目ね、見事なまでに妨害電波で囲われているわ。」

 

「飛厘、他に手は無いの?」

 

「無駄よ、どうやらクリムゾン・グループの新兵器みたいね。

 幾ら私でも、現地でサポートも無しで新兵器をハッキング出来ないわ。」

 

 飛厘と千沙さんが、お互いに意見の交換をしている。

 

「なら、残る方法は一つだ・・・突入するぞ。」

 

「本気で言ってると?

 あのピースランドの警備の凄さは知っとお?」

 

 三姫の呆れた声に・・・

 

「ああ、君に言われなくても知ってるさ。

 だが・・・これ以上、余計な時間は使えない。」

  

 意外に真面目な口調で、高杉さんは応えた。

 

 そう、資料によればピースランドは、その銀行に口座を持つ企業や国からガードを雇う。

 彼等は、雇い主の知られたくない口座や秘密を守る為の存在。

 勿論、ピースランドがその弱味を使って雇い主を脅せば・・・

 即座にテロリストに変ずる、獅子身中の虫でもあるらしいの。

 その為に、彼等の実力は侮れないレベルにある。

 お互いに牽制をしあう間柄の組織も少なくないから。

 そして、その微妙なバランスと、プレミア国王夫妻の手並みによって、ピースランドの平和は有る。

 ピースランドは自国の軍隊を持たないし、他国に戦争を仕掛ける事は無い。

 それは軍隊など必要が無いから・・・その経済力と国家のネットワークは、下手な軍隊より強力。

 

 そして、今から私達はたった8人でその王城に忍び込む。

 高杉さんが緊張するのも、仕方が無い事よね・・・

 

 臨時作戦会議をその場で開き、一応の作戦は決まった・・・

 ほとんど、実行不可能だと言いたいモノだったが。

 

「さて、と・・・ドレスの準備はOK?」

 

 高杉さんが自分の着たタキシードをチェックしながら、私達に聞いて来ます。

 

「まあ、汚れる事を前提に購入しましたし・・・」

 

 と、千沙さん。

 

「動き易いモノを選んだし・・・」

 

 これは万葉。

 

「サイズ・・・よく有りましたよね。」

 

 自分のドレスを見て感心する、百華ちゃん。

 

「武器は諦めるしかなか・・・」

 

 ドレスの裾を持って、動きを確認する三姫。

 

「でも、お城の舞踏会ですよ?」

 

 京子が遠い目をする。

 

「女の子の憧れ、よね・・・」

 

 飛厘さんが、溜息を吐き・・・

 

「なのに・・・」

 

 私が視線を高杉さんに向ける。

 

「「「「「「「どうして、私達のエスコートが高杉さんなんですか?」」」」」」」

 

 それが、私達の心の叫び・・・

 

 

「悪かったな!! 俺で!!」

 

 

 そして・・・ちょっと、不貞腐れる高杉さんでした。

 少し、苛め過ぎたかな? 

 

「さあさあ、時間は残り少ないぞ。

 早く王城に忍び込もうぜ!!」

 

「・・・おう。」

 

 万葉ちゃんの檄に、元気なく応える高杉さん。

 

「でも、北斗殿はどんな手段でテンカワ アキトに近づくつもりなんだ?」

 

「それは・・・二通りが考えられますね。」

 

 高杉さんの疑問に、千沙さんが暗い表情で応えます。

 そう・・・二通りの手段が有る。

 一つは強行突破。

 もう一つは・・・でも、北斗殿・・・北ちゃんはきっとあの人に・・・

 

「どういう、意味だ?」

 

 私達の暗い表情を見て、高杉さんの表情が引き締まりました。

 

「実は、これは最高機密なのですが・・・」

 

 そして、千沙さんの口からある機密が語られ・・・

 高杉さんが驚きの表情をしました。

 

「それは・・・本当か!!」

 

 高杉さんの声が辺りに響き・・・

 

「私も信じられませんでしたが・・・本当です。」

 

 千沙さんの悲痛な声が、それを肯定します。

 

 私達は・・・間に合うのでしょうか?

 せめてこれ以上、北ちゃんが傷付かない事を・・・私は祈ります。

 

 

 

 

 

 

「逃げたわね・・・テンカワ君。」

 

「そりゃあ逃げるだろう、あれだけの目に会えばな。」

 

 私の独り言に返事を返したのは、シュン提督だった。

 連合軍の礼服に身を包んだその姿は、結構似合っていた。

 

「あら、旧知の仲への挨拶は終りですか?」

 

「まあ、な・・・でもアイツがまさか、アフリカ方面軍の重鎮になってるとはな。」

 

 苦笑をしながら、そう呟くシュン提督。

 確かに、シュン提督が過去にアフリカ方面軍に所属していたのは聞いている。

 そして、今日・・・

 そのアフリカ方面軍の参加者の中に、昔の友人を発見したらしい。

 先ほどまで、その友人と話をしていたみたいだけど。

 

 ・・・何か、私はシュン提督の口調に引っ掛かるモノを感じたわ。

 

「結構、縁が深い人なのかしら?」

 

「・・・俺の嫁の、弟さ。

 昔、一緒に住んでた。」

 

 返す言葉は・・・無かった。

 シュン提督の妻と子供が、戦闘に巻き込まれて死んだ事は知っていた。

 その後、何かしらの理由があってアフリカ方面軍から、西欧方面軍に転属した事も・・・

 

「俺のポストを用意しているらしい。

 帰ってきて欲しい、だとさ。」

 

「あら、じゃあナデシコの提督は辞めますか?」

 

「馬鹿な事を言う。

 ・・・俺はアキトの活躍を、一番近い場所で見たいんだ。

 それに、まだまだ未熟者だからな、アイツは。」

 

 万感の想いの篭った言葉だろう・・・

 テンカワ君と、亡くなった息子さんの歳は近いらしい。

 きっと、この人には・・・テンカワ君が息子の様に思えて仕方が無いのだろう。

 

 この話題は、これ以上聞く必要は無いでしょう。

 人は、心に大切な領域を持ってる・・・その人だけが触れる事が出来る領域を。

 

「さて、その未熟者ですけど・・・何処に行ったんでしょうね?」

 

 私は話題の変更を提案する。

 その事に気が付いたのか、シュン提督も直ぐに返事を返してきた。

 

「さあな〜、逃げ足も桁外れだからなアイツは。

 ・・・そんなに、そのチャイナドレスを自慢したいのか?」 

 

 苦笑をしながら、シュン提督は私に質問をする。

 

「あら折角の一張羅に、絶妙のタイミングですもの。

 私はチャンスは逃さない主義ですの。」

 

 そう言って私は、手に持っていた扇子で口元を隠して笑う。

 今日の私は黒のチャイナドレスに、金糸の刺繍が所々に入ったモノを着ている。

 スリットも少し深めで、自慢の足のラインが良く見える。

 後は足の白さを強調する為に、金のアンクレットを付けているわ。

 

 ・・・お陰で、有象無象の視線が煩わしいけどね。

 

「似合っているのは、今更言うまでも無いが・・・

 肝心のお相手が、他の女性と一緒だぞ?

 しかも・・・絶世の美少女ときたもんだ。」

 

   おおおおおお!! 

 

 呆れた口調でそう言うシュン隊長の視線の先には。

 周囲の人々の感嘆の溜息に包まれながら・・・

 長い赤毛を高い位置に結い上げた、真紅のドレスを纏う美少女の手をひくテンカワ君の姿があった!!

 

 ここからでも、そのカップルがどれだけ注目されているか解る。

 イメージカラーである、漆黒に金糸銀糸で縁取られたタキシードを着こなしているテンカワ君。

 スラリとした体付きに、隙の無い足運びで隣の美少女をエスコートしている。

 そして・・・相手の美少女もかなり際立っていたわ。

 その燃えるような赤毛は結い上げていてもなお、背中を越える長さをしている。

 身に纏うドレスは、これも見事な紅に染め上げられ。

 鳶色の瞳は、無邪気な微笑を浮かべてテンカワ君を見ていた。

 

 ・・・肝心のテンカワ君も、照れながらその娘に微笑んでいる。

 

 容姿なら負けない自信が私にはある。

 けど、この娘には・・・そう、邪気が無い。

 まるで、幼い子供の様にテンカワ君に笑いかけている。

 だからだろう、テンカワ君も困った顔をしても、その娘の手を放せないでいる。

 

 だからと言って、テンカワ君のが消えたわけでは無い!!

 

「・・・良い度胸よね、テンカワ君。」

 

「・・・せめて、ナデシコに帰るまでは手加減してやれよ。」

 

「勿論、解ってますわ。」

 

「・・・本当かよ。」

 

 私の顔を見ながら、シュン提督は溜息を吐いた。

 ・・・失礼ね。

 

「・・・あ、サラ君とルリ君が睨んでるな。

 アキトの奴、五体満足でナデシコに帰れるのか?

 ・・・ナオの奴は楽しげに笑ってやがるし。」

 

 そんなシュン提督の呟きも、今の私には関係無かったわ。

 

 

 

 

 

 

「しかし、よく逃げられたもんだな。」

 

「・・・なら見てないで、助けて欲しかったですね。」

 

 包囲網から逃げ出したアキトを連れて、俺達はバルコニーに出ていた。

 春の少し肌寒い風が、人込みでのぼせた頭に気持ちいい・・・

 

「で、感想は?」

 

「・・・侮れないな、流石に。

 俺を値踏みする目で見てたよ、どう評価したのかは知らないけどな。」

 

 俺達の会話が指している人物は・・・言うまでも無いがクリムゾンの会長だ。

 

「何か仕掛けてくると思うか?」

 

「それは確実だろうな・・・それに、実はダッシュとの連絡が一時間前から途絶えた。」

 

「何!! 本当か?」

 

 俺はアキトの話に驚いた。

 ダッシュ・・・ルリちゃんや、ラピスちゃん達が使っているコンピュータだが。

 オモイカネと同じレベルの性能があるらしい。

 オモイカネが、ナデシコの運行・戦闘管理に特化した進化をしたのに対し。

 ダッシュはネットワーク管理に特化し、地球上のネットワークの殆どを掌握した。

 残りは完全に独立したネットワークを誇る、クリムゾン・グループの中枢コンピュータだけらしい。

 

 そのダッシュとのネットワークが、切断されたと言うのか?

 

「どうやら、ピースランドに全戦力を投入したみたいだな。

 ルリちゃんの予想だと、クリムゾン・グループの全コンピュータがハッキングを仕掛けているらしい。

 ダッシュだからこそ、持ち堪えているのが現状さ。

 ルリちゃんか、ラピス、それかハーリー君がこの場にいれば話は別だが・・・」

 

 ルリちゃんは今は公務が忙しくて無理だろう。

 そして、ラピスちゃんとハーリー君はここにはいない。

 

      コンコン・・・

 

 そこでアキトは、自分のコミュニケを軽く人差し指で叩く。

 

「通信網も一時間前から、見事に切断されてる。

 多分、今夜だけの為に全戦力を投入したみたいだな。

 これではラピス達に連絡も出来ない。

 それに、他のSP達に動揺が見られないところを見ると・・・事前に根回しはしていたみたいだな。

 ・・・侮っていたよ、ここまで形振り構わずくるとはな。」

 

「陸の孤島、か・・・ここまで大掛かりな手で来るとは。

 流石は、大企業の会長様だ。

 羽振りがいいな。」

 

「おいおい、ナオさんの昔の雇い主だろ?」

 

「・・・その割には、給料は安かったな。」

 

 俺たちはお互いに苦笑をした。

 現状では、焦っても仕方が無い。

 少なくとも、クリムゾンの会長自らがいるパーティー会場では無茶はしまい。

 ・・・もっとも、アキト個人に対する襲撃は別問題だがな。

 

 その時、俺達の背後に気配が生まれた!!

 

「誰だ!!」

 

 俺の誰何の声に・・・

 

「あ、あの〜、お邪魔でしたか?」

 

 赤い髪をした美少女が、困惑した表情で俺達の前に現れた。

 むう、ルリちゃん達が成長すれば、こんな美少女になるんだろうな。

 

 ・・・性格は別問題だが。

 

「いや、別にそんな事は無いけど。」

 

「良かった〜

 私、こんな大きなパーティー初めてだったから・・・ちょっと人込みに酔っちゃって。

 バルコニーにも出れないとなると、窒息しちゃいます。」

 

「ああ、その気持ちは解るよ。

 俺達もそうだったからさ。」

 

 そう言って、美少女に微笑みかけるアキト。

 

 ・・・おい、アキト。

 お前、また犠牲者を増やすつもりか?

 しかも、会場にはルリちゃん、サラちゃん、エリナさんが待ってるんだぞ?

 俺はフォローしないからな。

 

「そうなんですよね。

 あんなに沢山の人がいて、ビックリしちゃいました!!」

 

 無邪気に微笑む少女を見て。

 俺も思わず微笑んでしまった。

 

 う〜ん、今時珍しい程に天真爛漫だな。

 あの艦長と同レベルなんじゃないのか?

 どうやら性格も良いらしい。

 

「あ、私の名前は枝織(しおり)です。

 宜しければ、お二人のお名前を教えて貰えますか?」

 

「あ、俺の名前はテンカワ アキト。」

 

 ・・・お前、教訓が全然活かされてないぞ、アキト。

 なんか俺、頭痛がしてきたな。

 

「・・・俺の名前はヤガミ ナオだ。」

 

「えっと、アー君に・・・ヤーさんですね。」

 

    ズルッ!! × 2

 

 いや、本気でバルコニーから落ちる所だったぞ、俺達は。

 

「ア、アー君?」

 

「ヤーさん?」

 

 お互いに指差しあい、何とも言えない表情で呟く俺達だった。

 

「えっと・・・私って人の名前を覚えるの、苦手なんです。

 だから、一文字だけで覚えちゃんですよ。」

 

 そう言って、可愛く笑う枝織ちゃん。

 

 ちょっと待て、そういう問題か、おい?

 アキトはまだいいさ、アー君だったらさ。

 俺・・・ヤクザ屋さんみたいじゃないか!!

 

「ヤーさんは、外見がヤクザ屋さんみたいだし。

 ピッタリですよね?」

 

「・・・」

 

 無邪気な微笑と共に、俺に渾名の由来を告げる。

 確かに細身の長身で黒のスーツ、瞳が見えないサングラス。

 ヤクザの条件は備えているが・・・な。

 

 確信犯かい、枝織ちゃん?

 悪気が無いだけに、怒り様がないぞ・・・

 

 お前も笑ってるんじゃね〜よ、アキト!!

 

 俺達と枝織ちゃんが、自己紹介をしてる間に・・・

 会場ではダンスが始まったみたいだ。

 

 う〜ん、このまま逃げ続ける訳にはいかんだろうな。

 アキトは主賓クラスの人間だしな。

 多分、ルリちゃんか王妃様から探索の依頼が来るだろうな。

 

 あ、今は通信が死んでるんだったな・・・ちっ。

 

 しかし・・・枝織ちゃんはアキトの事を知らないのか?

 この年頃の娘ならば、アキトの存在は憧れの対象だろうに? 

 

 アキトが名乗っても態度が変わらなかった枝織ちゃんに、俺は少しだけ驚いた。

 

「ダンスか〜、楽しそうですね。」

 

 バルコニーから会場内を覗いて、そう呟く枝織ちゃん。

 

「枝織ちゃんなら、踊ってくれる人なんて選り取りみどりだろ?

 君の誘いを断る男は、男じゃないね!!

 そんな奴は俺が後で泣かしてやる!!」

 

 なんだか、俺の台詞までヤクザ化してるな。

 俺がそう言うと・・・枝織ちゃんは少し考え込んで。

 

「じゃ、頑張って誘ってみます!!」

 

 と言って、アキトの方に歩いていった。

 

 ・・・俺、もしかして取り返しのつかない事をした?

 

「・・・踊って、くれます?」

 

 優しい微笑みと共に・・・

 優雅に差し出された枝織ちゃんの手を。

 

「・・・喜んで。」

 

 一瞬の躊躇いの後、アキトはゆっくりと掴んだ。

 そして、枝織ちゃんをエスコートしてバルコニーから出て行く。

 

 バルコニーから去り際に、視線でアキトは俺に言った。

 

 後で泣かす、と。

 

 ・・・俺は、一足先にナデシコに帰ろうかと真剣に考え込んだ。 

 そして、俺は自棄気味の笑いを浮かべて会場内に戻ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十八話 三日目その4へ続く

 

 

 

 

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