< 時の流れに >
真紅と漆黒が舞う・・・
軽やかに、とどまる事なく・・・
互いの位置を変え、離れては結ばれ、また離れる・・・
お互いに、相手の行動を熟知してるかの様に・・・
相手の一歩先の行動を、既に知っているかの様に・・・
かけがいの無いパートナー同士の様に・・・
二人は会場の中央で、華麗に舞っていた。
「・・・むう、あの娘もライバルの一人か、サラよ?」
私の質問に・・・
「あんな娘は知りません!!
・・・また、引っ掛けたのねアキト!!」
サラは不貞腐れた表情で応えた。
こらこら、そんな顔をしては美人が台無しだぞ?
しかし・・・本当に手が早いな、テンカワ君は。
これだけの美女、美少女に想われてもまだ満足ではないのかね?
私は視線でテンカワ君を責めているサラと、エリナ君とルリ姫を見て苦笑をした。
彼の受難に終わりは無いらしい。
ドン!!
「おっと、失礼・・・」
私は上座に座っている、ルリ姫を見ていたため前方が不注意だった。
その為、飲み物を運んでいる給仕に肩からぶつかり・・・
カシャン・・・
給仕の持つトレイのグラスが倒れた。
軽快なワルツが響く会場で、その音に反応する人物などいないと思っていた。
しかし、この音が一人の英雄を救ったのだ。
「ぐっ!!」
何が起こったのかは解らない。
しかし、一瞬テンカワ君の表情が歪み・・・
相手の赤毛の美少女も驚いた表情を作った。
そして、曲が終り。
二人は離れ・・・
テンカワ君が戦闘の構えをとった!!
「・・・枝織ちゃん、君は何者なんだい?」
「アー君のお友達だよ。
でも、それは今日だけのはずだったのに〜
・・・どうして、痛い思いをしてまで避けたの?」
ツー・・・ ポタッ!!
枝織と呼ばれた少女が、可愛い仕草で首を傾げながらそう言った瞬間。
テンカワ君の右腕から血が滴った!!
その瞬間、辺りが騒然となる!!
「グラシス中将の驚く声が聞こえた。
その確認に一瞬、視線を君から外した時に・・・君の繰り出す凶器が見えたんだ。」
「ふ〜ん、凄い偶然だよね。」
感心した顔で、テンカワ君の返事を聞く少女。
「だが、問題はそんな事じゃ無い!!
君は・・・何故殺気も無く人を殺せる!!」
「だって、お父様に言われてたんだもん。
テンカワ アキトを楽にしてあげろ、って。
お父様の言う事は、ちゃんと守らないと駄目なんだよ?」
微笑みながら、テンカワ君にそう告げる少女には・・・殺人を行う者の暗い影は無かった。
それ故に、私には少女の異常性が目立つ!!
「そんな、理由で君は・・・人を!!」
「だって、どうせ今日が終ったらもう会わないでしょう?
なら、別にアー君が死んでも、私には全然関係無いじゃない。
それに、アー君を殺してあげないと、私が父様に怒られちゃう。」
無邪気に微笑みながそう言いきる少女に、罪悪感は感じられなかった。
いや、父親に怒られる言った瞬間、少し悲しい顔をした。
だが、逆にその表情が少女の異常性を増す。
そして、テンカワ君の気が変わる・・・
優しい少年から、戦士へ。
人の身から、「漆黒の戦神」と呼ばれる存在に。
ゴウッ!!
その身体から放出される圧倒的な闘気に、私を含めパーティー参加者が身動きを封じられる!!
くっ!! これが、本気のテンカワ アキトなのか!!
しかし、外野の私達ですら身動きが出来ない状況だと言うのに・・・
「君は・・・危険すぎる。
殺意が存在しなければ、俺にも君の攻撃は捌けないだろう。
殺気がなければ、君の動きは捉えられないだろう。
だから、本気でいかせてもらう!!」
その闘気を正面から叩きつけられているはずの本人は、笑ってテンカワ君の言葉に返事を返した!!
「怒っちゃ嫌だよ、アー君♪
でも、何だか怖いから今日はさよならね!!」
ヒュン!!
何の予備動作も無く少女の手元から、銀色の何かが飛ぶ!!
・・・それも、私に向かってだ!!
「まさか、君の親とは!!」
キィン!!
私に辿り付く前に、銀色の何かはテンカワ君の掌打によって弾き飛ばされた。
私には、何時テンカワ君が移動したのか解らなかったが。
だが、そんな事よりも・・・私が視線を向けた先には。
あの少女の姿は既に無かった・・・
「・・・この逃走手段、そしてあの手並み。
まさか、娘までいたとはな、予想外だよ北辰!!」
そう言って、テンカワ君も会場の出口に向かって走り出した!!
「グラシス中将、シュン提督!!
すみませんがプレミア国王夫妻に掛け合って、会場の人達を避難させて下さい!!」
「うむ、任せておきたまえ。」
私がそう応えながら頷き。
「解った、しかし・・・油断するなよ。」
シュン提督がそう言って、テンカワ君を送り出す。
「はい!!」
そう返事をして、テンカワ君は会場を飛び出していった・・・
その後ろを、ナオ君とゴート君が追いかけている。
サラとエリナ君はルリ姫の元に向かっていた。
そして、シュン提督が私に向かって歩いてきた。
「だが、何者だ。
あの少女は・・・」
そう言って、シュン提督が床から拾ったモノは・・・
「・・・そんなモノで、あのテンカワ君に手傷を負わせたというのかね?」
血に染まった、食事用のナイフだった。
「一流の暗殺者は、事前の用意が無くともその場の道具で人が殺せます。
しかし、今回は狙った相手が相手だ・・・あの少女、只者じゃないですよ。」
そのナイフを青い顔をした給仕に預けながら、シュン提督は述べる。
「みたいだな・・・あのテンカワ君に、危険な存在だと言わせた手並み。
どうやら、一筋縄ではいかんみたいだな。」
私達は頷きあった後、それぞれの仕事をする為に散っていった。
その為、この男の呟きを聞く事は無かった・・・
「さて、これからがショータイムだな。」
ワイングラスを片手に、SPに囲まれながら楽しそうにクリムゾンの会長は呟いていた。
タッタッタッ・・・
「・・・やられたな。」
「ああ、全く殺気が感じられなかった。
今、俺が生きているのは奇跡だな。」
後ろを追い掛けている俺に、前方からテンカワとナオの話し声が聞こえる。
しかし、あのテンカワに手傷を負わせるとは・・・何者だ、あの少女?
この廊下は一本道なので、少女の逃走ルートは今は限られている。
しかし、この廊下の先は左右に分かれたT字型だ。
自然、俺たちは二手に分かれなければならない。
・・・ここに在中している雇われ兵や、衛兵ではあの少女の足止めにすらならないだろう。
そう考えた俺達は、暗殺者の存在を連絡したが。
手は出さないようにと指示をした。
そう、一時期不調だった通信機器も、今では正常に戻っていた。
不調の理由が不明というのが気に掛るが・・・
それと、他に暗殺者がいないとは限らない。
だがそうゴロゴロと、テンカワと同レベルの敵がいるとは思えない。
そっちは衛兵達に対処をしてもらおう。
「ゴートさん!! そう言う訳です!!
あの娘を見たら、攻撃せずに俺に連絡を下さい!!
・・・俺も、本気にならないと危ないかもしれない相手です。」
「心配するな、お前に怪我を負わせるような敵と、正面から戦うほど無謀ではない。」
「・・・誉められてるのかな?」
俺の返事に苦笑で応えて、テンカワは走るスピードを上げた。
それに少し遅れて、ナオが続く。
俺は・・・かなり遅れているが、辛うじて二人を見失わない距離を保って走る。
くっ!! 基礎体力ですら化け物か、あの二人!!
そして、T字の通路で俺達は予想外の敵を見た。
それは右側の通路に待ち構えていた。
「・・・女性が、3人?」
「しかも、やる気満々みたいだぜ!!」
ババババババ!!
テンカワの呟きと、ナオの言葉を合図に前方の女性達が一斉に発砲をする!!
「おっと!!」
俺達は発砲と同時に、再びT字の通路に飛び込む。
片手を付いて素早く体制を整え、胸元からブラスターを取り出す!!
ナオも同様にブラスターを構えるが・・・テンカワは無手のままだった。
まあ、今更この男に関しては何も言うまい。
「どうやら、衛兵達の武器を奪ったらしいな。
全員、同じ武器をもってらっしゃるぜ!!」
「と言う事は、この国の雇われ兵より手強い、って事だな。」
俺とナオが軽い口調でそう言い合う。
そして、テンカワは・・・
「時間が無い、援護をお願いします。
俺が強行突破をして道を開く・・・あの少女は危険だ、この場で決着を付けないといけない。」
・・・ここまでテンカワが焦るとは。
本当に、洒落にならない相手みたいだな。
隣のナオも、驚いた顔をしている。
「可愛い顔して・・・侮れないって事か。」
「そう言う事で・・・」
ピィ、ピィ、ピィ!!
テンカワの台詞は、緊急通信の音により遮られた!!
「何だ!!」
俺が代表で、その通信に出る。
ピッ!!
『大変です!! たった今、王城内の二箇所で爆発物の反応が検出されました!!
場所は王城内庭園と、客人の連絡船の停泊所です!!』
何・・・だと!!
庭園はパーティ会場からさほど離れておらず、しかも王城の中心地に近い!!
ここを大きな爆弾で狙われれば・・・危険すぎる!!
それに停泊所だと?
そこには当然、予備の燃料タンクを存在する!!
もしそれごと爆破されれば大惨事だ!!
「了解した、こちらで対策は練ってみる。
取り敢えず、パニックを避ける為にプレミア国王夫妻とシュン提督にだけ連絡をいれろ。」
『了解しました!!』
ピッ!!
俺の命令を確認して、通信は途絶えた・・・
「・・・だ、そうだ。
どうする?」
「どうするもこうするも・・・
あの正面を突破しない事には、どちらの爆弾の元にも行けないぜ。」
チャキッ!!
膝立ちになり、ブラスターを構え直しながら、ナオがそう呟く。
「それも、そうだな・・・」
俺は苦笑をしながら、テンカワに視線を向けた。
「・・・ゴートさん、多分彼女達は諜報員じゃない戦闘員だ。
どう考えても、その場その場で対応を迫られているようにしか見えない。
こんな場所で俺達を足止めする理由も不明だしな。
それに諜報員なら逃走経路から武器の用意まで、もっと綿密に行ってるはずだ。」
テンカワが自分の考えをそう述べる。
「確かに・・・・現地で敵の武器を奪う、逃走経路は一本道を選ぶ、連携も中途半端。
多分、爆弾を仕掛けられている事も知らないと思うぜ、そこの娘さん達はさ。」
そのテンカワの意見に、同意をするナオ。
「なら、複数の敵が存在すると言う事か?」
「多分ね。」
「やれやれ、だ。」
俺の返事に、即答をするテンカワに・・・天を仰ぐナオ。
ピィ、ピィ、ピィ!!
そして、また緊急通信が入る!!
「今度は、何かな・・・っと!!」
ババババ!!
敵の様子を探っていたナオに、彼女達から一斉に攻撃がされる。
その攻撃をギリギリのタイミングで避け、通路に身体を引き込み。
「やれやれ、腕は確かだぜお嬢さん達。」
「でなければ、ここに来れないだろうさ。」
ナオとテンカワの軽口を聞きながら、俺は通信を入れる。
ピッ!!
「俺だ。」
コミュニケに通信を入れると・・・
『ゴートさん?
一体どうしたんですか、本館から銃声が聞こえますけど!!』
ジュンの姿が映し出され、慌てた声で俺達の現状を聞いてきた。
・・・そう言えば、姿が見えなかったな。
「今、何処にいるんだジュン?」
俺の質問に・・・
『僕ですか? 王城の庭園ですけど。』
ジュンは意外な答えを返してきた!!
「何!!」
「ジュン、逃げろその近くには・・・君は、チハヤ!!」
ジュンの後ろに映った少女を見て、テンカワが驚いた声を上げる。
『え、チハヤって・・・彼女の名前はアヤノだよ、テンカワ?』
首を傾げて、不思議そうに質問をするジュン。
しかし、現状はそれどころではない!!
「君が!! 爆弾を仕掛けたのかチハヤ!!」
『・・・そうよ、私が仕掛けたわ。』
『そんな!! アヤノ君、どう言う事だい!!』
『・・・御免なさい、さよなら!!』
そう言って、後ろの少女の姿は画面から消えた。
「ジュン、その娘を止めるんだ!!
爆弾を持っているはずだ!!」
ナオがそう叫ぶ。
『・・・そんな、彼女はそんな娘じゃない!!
今さっきまで、僕の話を聞いて笑ってくれてたんだ!!』
「馬鹿野郎!! そんなのは諜報員にとっては、ただの演技だよ!!
惑わされてる暇は無いんだ!!」
ナオがうろたえているジュンに喝を入れる。
しかし、テンカワは・・・
「・・・ジュン、彼女がそんな娘じゃ無いと思うなら。
絶対に捕まえて説き伏せろ!!
彼女もそれを待っているはずだ!!」
「な、アキト・・・お前何を考えてるんだ?」
突然のテンカワの発言に、驚きを隠せないナオ。
俺も、その発言に驚いていた。
『う、うん・・・それは追い掛けるよ。
でも、テンカワがそこまで言うなんて、彼女との間に何があったんだい?』
「それはまた後で話してやる。
・・・最後にアドバイスだ。
闇は、闇を知り理解する事は出来る。
だが、闇を救えるのは・・・光のみだ!!」
テンカワが珍しい事に・・・吼えた。
『な、何だよ!! そんな謎かけみたいなアドバイス・・・』
動揺するジュンに・・・
「つまり、俺では彼女を救えないという事だ・・・じゃあな。」
ピッ!!
テンカワが強引に俺のコミニュケを操作して、ジュンとの通信を打ち切った。
「・・・庭園の爆弾はジュンに任せる。
俺達は、正面の敵と枝織・・・そして停泊所の爆弾を処理する。」
「了解。」
「・・・了解だ。」
テンカワの静かな闘気に、俺達は気圧されながら返事を返した。
「はっ!!」
ダン、ダン、ダン!!
テンカワが・・・壁を走る!!
バババババ!!
それを追う様に、彼女達から発砲がされる、が!!
しかし、その銃撃を危なげなく避けるテンカワ!!
瞬く間に、彼女達との距離が縮まる!!
そして、彼女達の隙を逃さず俺とナオがブラスターでサポートをする!!
ガゥン!!
ドゥン!!
俺達の姿を確認した瞬間、彼女達は素早く地面に伏せる。
かなり・・・訓練を積んでいるみたいだな。
考えるより先に、身体が反応している。
そして、彼女達の反撃を警戒した俺も、素早く通路に身体を隠す。
それでも、テンカワの動きは止まらない!!
俺は壁の後ろから援護の機会を伺いつつ、テンカワの信じられない体術を見ていた。
「はい!!」
「はー!!」
「やはり、いたか伏兵!!」
ガシッ!!
ゴッ!!
地面に伏せた状態の、彼女達の頭上を飛び越えようとしたテンカワを・・・
空中で二つの影が迎え撃った!!
しかし、その二人の攻撃を軽く捌きつつ、テンカワは彼女達の頭上を飛び越える!!
スタッ!!
そして着地した瞬間・・・テンカワとその二つの影が消える!!
シャッ!!
ジャッ!!
ゴスッ!!
「おっと、君達じゃあアキトの相手は役不足だぜ。
ここは、この俺が相手をしてやるよ!!」
小柄な体付きで、髪の毛を団子状にしチャイナドレスを着た少女の腕を掴み。
そう宣言をしたのは、何時の間にか彼女達との間合いを詰めていた・・・ナオだった。