< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第十九話.明日の『艦長』は君だ!

 

Lesson W だから注意をしたんです!!

 

 

 

 

 

 

 

 とうとう俺は、獲物を追い詰めた・・・

 アイツは、その身体を必死に物陰に隠そうと頑張っている。

 そして、少しでも俺との距離を離そうと、無駄な足掻きを続けている。

 

 無駄な事を・・・

 復讐の炎に焦がれる俺には、慈悲の心なぞ欠片も無い。

 俺は獲物の哀願する声を無視して、その手を掴んだ。

 

 限りない憎悪を込めて――――――――

 

「これで、ジ・エンドだ。」

 

「くっ!! だが、まだ俺には秘策が残されている!!」

 

「あの三人衆の事か?

 残念だったな・・・今の俺には足止めにもならん。」

 

「ま、まさかあの三人を倒したというのか!!」

 

 俺の台詞に、ウリバタケ班長の顔が歪む。

 

「ああ、『手加減』という言葉は、遠い昔に捨てたからな。」

 

「お、鬼・・・」

 

 最後の抵抗を止め、ウリバタケ班長はその場に崩れ落ちた。

 後は、艦長達に引き渡すだけだな・・・

 

「で、お前は百華ちゃんにナニをされたんだ? ナオ?」

 

    ゴスゥゥゥゥ!!

 

 俺の一撃を後頭部に受け、愚か者は沈黙した。

 

 

 

 

 

 

 

 展望台に容疑者を運ぶと、そこは見慣れぬ風景になっていた。

 そう、ある丘の上で、ある人物のように、俺も良く知っている少年が十字架に磔にされていた。

 十字架の下では、ラピスちゃんが「赤い槍」を持って楽しそうに笑っている。

 

 ちなみに、十字架は合計で3本立っている。

 まあ、残りの磔予定の二人のうち、一人は俺が襟首を掴んで運んできているのだが。

 

「あ、ナオさんお帰りなさい。」

 

「流石に本気になれば優秀よね、もうウリバタケさんを捕まえたんだ?」

 

 サラちゃんと、アリサちゃんが展望室に入って来た俺に向かって、そう言った。

 

「ああ、これで残りは一人・・・さて、ハーリー君。

 もうそろそろ、アカツキの居場所を教えてくれないかな?」

 

 ちなみに、口調はソフトだが俺の目は笑っていない。

 

「ひっ!!」

 

 ハーリー君が俺の視線を受けて怯える。

 気の毒だが、今の俺には自制は効かないんだよ。

 なにしろ例の証拠写真を全て、ルリちゃんとラピスちゃんに握られてるからな!!

 

 俺とミリアの為に泣いてくれ!! ハーリー君!!

 骨は俺が責任を持って、日本海に捨ててやる!!

 希望があれば、インド洋でもナイル河でも黄河でもOKだ!!

 

「・・・ううう、もう直ぐ帰ってくるとの連絡が先程ありましたぁ。」

 

 遂に、ハーリー君が泣きながらアカツキの行方を白状した。

 そうか、ナデシコ艦内には居なかったのか。

 どうりで、あらゆる所(優華部隊の部屋は除く)を捜しても見付からない訳だ。

 

「オモイカネ?」

 

 ルリちゃんの命令を聞いて、オモイカネが周辺を探索する・・・

 コンテストが終って、フリーズ状態から復帰を果たしたらしい。

 

 ピッ!!

 

『小型の飛行機が、現在こちらに向かってる。

 ・・・ネルガルの所有する連絡船だね。

 ナデシコ到着まで、後30分弱。』

 

 オモイカネがそう報告をする。

 

「そうですか、じゃあ格納庫で全員でお出迎えをしましょう!!」

 

 艦長が元気良くそう発言をし・・・

 

「そうですね、暖かい拍手で迎えてあげようかしらね。」

 

 エリナさんが穏やかな微笑でそう提案をする。

 

「ふふふ、楽しみね。」

 

 何が?

 

 思わずイネスさんの発言に突っ込みをいれたが、言葉にはしなかった。

 ・・・これ以上、俺も不幸にはなりたくないからな。

 

       ガヤガヤガヤ―――――――

 

 その後、女性陣は賑やかに話をしながら格納庫に向かっていった。

 多分、アカツキがこの場所に連行されるのも、時間の問題だろう。

 

 そして、俺は手早く気絶しているウリバタケ班長を十字架に磔にし・・・

 床に突き立っていた、例の槍を抜いて肩に担ぎ。

 オモイカネが作成してる、例の丘の風景を楽しんでいた。

 

 しかし、本当に切れ味がいいなこの槍・・・合金製の床に突き刺さるなんてさ。

 

 そんな事を思いつつ、俺はこの後のに思いを馳せる。

 そう・・・これから処刑されるのは、聖者ではなく愚者なのだ。

 

「ナオさ〜〜〜〜ん、助けて下さいよ〜〜〜〜

 幼児虐待で訴えますよ〜〜〜〜〜〜」

 

「心配しなくても、ナデシコ艦内は治外法権みたいなもんだ。」

 

 

「全然安心できませんよ、それ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ブュシュゥゥゥゥゥゥ・・・

 

「いや〜、実に有意義な旅だったね〜」

 

「枝織ちゃん―――グスグス」

 

「ははは、まあ今日中には帰ってくるよ、零夜君。

 今日はもう遅いし、あの二人を見つける事は不可能さ。

 それにテンカワ君も、彼女達の怖さは知り尽くしてるしね。」

 

「ほう・・・

 それは詳しい話を聞きたいですね。」 (女性陣)

 

「ひゃ!!」

 

「・・・いやはや、皆さんお揃いで。」

 

「アカツキさん、覚悟は良いですか?」

 

「・・・はい。」

 

 

 

 

 

 

 予想通り、30分後にはアカツキは艦長達に連行されていた。

 俺は無言で、アカツキを十字架に磔る。

 

「あの・・・無言、無表情で作業をされると怖いんですけど?」

 

「・・・」

 

 サングラスを外し、そのままアカツキの目を直視する俺。

 

「・・・サングラスを掛けたままでいいです。

 と言うか、是非とも掛けてください。」

 

 そして、アカツキは真中の十字架に吊るされた。

 ハーリー君はその右隣に、ウリバタケ班長は左隣だった。

 

「さて、アキトが何故ナデシコ艦内に居ないのか・・・知っている事を全部話して貰いましょうか?」

 

 口調は穏やかだが、目が笑っていない艦長の言葉に・・・

 

「アカツキさ〜〜〜〜ん〜〜〜〜〜」

 

「アカツキ・・・今日はマジでヤバイ!!

 早急に事態を解決して、艦長達と和解を結ぶべきだ!!」

 

 本気で怯えているハーリー君と、ウリバタケ班長の悲鳴が展望室に響き渡る・・・

 

「そ、そうだね・・・でも、これは僕達だけの問題じゃないからさ。

 優華部隊の皆も呼ぶべきだと思うよ?」

 

 精一杯の虚勢を張りながら、そう提案するアカツキ。

 目が泳いでいるのは、いざとなれば優華部隊に泣き付くつもりだからだろう。

 

 ・・・姑息な手を使う。

 

 まあ、十五人の女性の冷たい視線に晒されればそれも無理は無いか。

 俺は殺気を込めた目で睨んでるしな。

 ちなみに、身体からは鬼気を放出している。

 

 プシュー!!

 

 その時、展望室の扉が開いた。

 

「その話・・・確かに私達にも関係があるみたいね。」

 

 そこにいたのは、優華部隊の面々だった。

 

 

 

 

 

 

「プロテクトは・・・この時間帯だと『TAに天誅を』をキー入力してログオン。

 その後、テンキー入力で『1234253142425』を入力。

 最後に画面外に設置してある入力欄にカーソルが移動するので。

 『死して屍拾う者無し』を入力・・・です。」

 

 ハーリーの言葉を聞きながら、私は展望台に運び込んだウリバタケさんのPCを操作する。

 しかし、まあ個人所有のPCに、よくここまで多重のセキュリティをかけるね?

 使い勝手が悪いと思うけどな〜

 よっぽど、後ろ暗いことが詰ってるんだ?

 

 ・・・後で、オモイカネにハードディスクの中身を丸ごとコピーさせよっと。

 

 ピッ!!

 

 あ、ファイルが開いた。

 

「ルリ、パスワードの承認が通ったよ。」

 

「では、アキトさんの今回の失踪に関するデータを探して下さい。

 それと、何か私達の不利益になりそうなファイルがあったら・・・構いません、そのまま消して下さい。」

 

「はぁ〜い。」

 

 元気良く返事をする私。

 

「シクシクシクシク・・・」 × 3

 

 ・・・なにやら男泣きをしている、後ろの受刑者達は無視。

 

 途中、信じられないようなファイルを発見。

 そのたびに、後ろの誰かさん達は皆にお仕置きを受けてた。

 

 そして・・・遂に私はアキト失踪の手掛かりを掴んだのだった。

 それはオモイカネの記録ファイルの一部。

 どうやらハーリーが細工をして、その部分だけをすり替えていたみたい。

 幾らコンテストの準備で忙しかったからとは言え。

 私やルリに気が付かれずに、これだけの事をするなんて・・・

 

 むう、近頃のハーリーの進歩には、侮れないモノがあるね。

 今後はもっと監視の目をキツクしないと駄目だね!!

 

「お、これは今朝の映像だな?」

 

「・・・何時の間に、展望室に来たんですかヤマダさん?」

 

「違〜〜〜〜う!!

 俺の名前はダイゴウジ(ガス!!)」

 

「・・・騒ぎに来ただけなら、地面で眠ってろ。」

 

 ルリの質問に、何時もの返事を返そうとして・・・ヤマダさんは、ナオさんの一撃により沈んだ。

 今のナオさんはかなり危険。

 だって、ミリアさんとの関係がかかってるからね!!

 

「じゃ、オモイカネ経由で映像を出すよ〜」

 

「お願いね、ラピスちゃん。」

 

 ピッ!!

 

 ユリカさんの言葉を合図に、オモイカネがウィンドウを開き・・・問題の映像が蘇る。

 えっと、どんな理由でアキトは姿を消したのかな?

 

『ねえねえ!! アー君遊ぼうよ!!』

 

『御免枝織ちゃん、俺まだ厨房の仕事があるからさ。

 朝は定食の仕込みで忙しいんだ。』

 

 タッタッタッタ・・・

 

 そう言い残して、その場を離れるアキト。

 後に残された北斗・・・じゃなくて、枝織は凄く不満そうな顔してる。

 

 ちなみに、ナデシコに来てからずっとアキトに付き纏う枝織に。

 私は勿論良い感情を持ってはいない!!

 

 ・・・でも、単純な戦闘能力では絶対に勝て無いんだよね。

 というか、ナデシコ艦内で枝織と対等に戦えるのはアキトだけだし。

 

 そんな理由もあって、私達は枝織の処置に困り果てていた。

 何時も枝織の隣にいる零夜が、最後の頼みの綱とも言える。

 

『ぶぅ〜〜〜〜〜〜』

 

『枝織ちゃん、テンカワさんが困ってるよ?』

 

『でもアー君、遊んでくれるって言ったもん!!』

 

『やあやあ、そこのお嬢さん。

 そんなにテンカワ君に遊んで欲しいのなら、コレを持って逃げたまえ。』

 

『貴方、誰?』

 

 ・・・本当、何を考えてこんな変装をしてるんだろう?

 

『はははは、通りすがりの親切なお兄さんさ(キラン!!)』

 

『枝織ちゃん・・・怪しすぎるよ、この人。』

 

 歯が光った時点で、この変装をした人物の正体が判明。

 

『で、この封筒には何が入ってるの〜?』

 

『やっぱり・・・聞いてないし(涙)』

 

 好奇心に目を光らせる枝織を見て、零夜は溜息を吐いた。

 ・・・結構、気苦労が多そうだねこの人。

 

『ふっ、それはテンカワ君の隠し撮り写真さ。

 ある人達から、テンカワ君が必死で取り返したモノでね。

 それを僕が偶然、廊下で拾ったのさ。』

 

 ・・・無茶苦茶な話だね、それ。

 

『わ〜、そうなんだ?』

 

『・・・(ひたすら、怪しい人物よね、帽子サングラスで顔を隠しているし)』

 

『・・・〜ツキ、お前何て事をしてくれるんだ〜〜〜!!』

 

               ・・・ダダダダダダ!!

 

 あ、アキトが厨房の方から走ってくる。

 でも信じられないスピードだね!!

 一度、正確に測ってみたいな〜

 

『むっ!! ほらテンカワ君がやってきたよ!!

 早く逃げるんだ、枝織ちゃん!!』

 

『うん!! じゃあに逃げるね!!』

 

『『・・・へ?』』

 

 ウィンドウ内のアカツキさん零夜、そしてそのウィンドウを見ていた私達の声が重なる。

 

『大丈夫!! 絶対に捕まらないんだから〜・・・』

 

 シュタタタタタタ・・・

 

 

 

 そして、例の封筒を抱えたまま、枝織はナデシコから脱走した。

 どう考えても、誰にも止められない人物だし・・・

 そして枝織を追うアキトの姿を最後に、ハーリーが保存していた画像は終っていた。

 

 

 シ――――――――――ン・・・

 

 

 静寂が、辺りを支配した。

 

「・・・ねえ、アカツキさん。

 何を考えて、枝織にあの封筒を渡したのかな?」

 

 私が、疑問に思った事を頭上に居るアカツキさんに質問する。

 

「はははは、ラピス君それは何の事だい?

 僕には君の質問の意味が解らないよ?」

 

 あの変装で、本当に私達を誤魔化せると思ってたのかな?

 それはそれで馬鹿にされてるみたいで、腹が立つけど。

 

「じゃあ、どうして零夜と一緒に外に出掛けていたんです?」

 

 優華部隊の一人、京子さんの質問に黙り込むアカツキさん。

 

「・・・全ての記録は、このテープにあります。」

 

 そう言って、一本のテープを差し出したのは・・・話題の主、零夜だった。

 

「アカツキさん♪

 後で、フルコース + スペシャルコースね♪」

 

 メグミさんが嬉しそうに、後ろに手を組んだ状態で。

 下からアカツキさんの顔を覗き込みながら、そう宣言をする。

 仕草は可愛いけど、目は笑っていないの・・・

 

 何がフルコースで、スペシャルコースなのかは、今更説明するまでも無いよね?

 

「・・・うう、ほんの悪戯だったのに。」

 

 アカツキさんが涙を流しながらそう独白してる。

 

「ナオさんの逆バージョンを考えていただけなのに。」

 

 ハーリー、近頃考えている事がウリバタケさんに似てきたね?

 

「アキトもナオの二の舞になる予定だったのに。」

 

 と、言ったのはウリバタケさん。

 

「ほう・・・貴様等、揃いも揃って命が惜しくないらしいな。」

 

           ゴキゴキ・・・

 

 ちなみに、今日のナオさんに冗談は通じなかった。

 拳を鳴らしながら、凶悪な笑みを浮かべて三人に向かって歩き出す。

 

 ちなみに、誰もナオさんを止めようとしない。

 というか、煽ってる。

 

「ナオさ〜〜ん、もうギタギタにしてあげて!!」

 

 レイナさんが嬉しそうに応援してる。

 

「艦長が許します、死なない程度なら何処までもOKです。」

 

 ユリカさんも応援してる。

 

「「「「「ナオさん、今後の為にも手加減しないでね♪」」」」」

 

 ホウメイガールズの皆も応援してる。

 

「おう、任しとけ。

 今日の俺は一味違うぜ・・・」

 

 

「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――――」」」

 

 

 ・・・

 ・・・

 ・・・本当に、一味違ってた。

 詳しい描写はあまり楽しくないので止めとく。

 

 

 で、肝心のビデオの内容だけど・・・

 これはつまり、逃げた枝織を追い掛けて行ったアキトの、追跡記録だった。

 

 出だしはこんな感じ――――――

 

 

 

 タララッ!! タッタッタラ〜♪

 

『やあやあ良い子の皆!! 元気にしてたかな?』

 

『――――枝織ちゃん。』

 

『今日は、ある青年の魔の手から逃げ出した女性と。

 それを追う、青年の執念の追跡劇をお送りするよ!!

 15歳未満のお子様は、ココから先は見ちゃ駄目だよ?

 これは、お兄さんとの約束さ!!』

 

『グスグス・・・』

 

『何しろ、二人共が人並み外れた――――

 じゃなくて、最早化け物と呼ばれる人物で(ゴス!!)

 

『北ちゃん・・・じゃなくて、枝織ちゃんは化け物じゃありません!!』

 

『・・・はい。』

 

『ううう、それでは二人の追跡を始めたいと思います。

 ちなみに、枝織ちゃんは凄い方向音痴なので、追跡は困難な事が予想されたりしちゃってます。

 オープニングの司会は私、紫苑 零夜と―――――』

 

『戦うお兄さんの二人でした!!』

 

 

 ・・・本名を隠しても、あの変装を解いてる状態だと意味が無いじゃない。

 本気で私達を馬鹿にしてるのかな? アカツキさん?

 

 

 

 

 

 

 

 

第十九話 LessonW その2へ続く

 

 

 

 

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