< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・コンテストが終ってるのに、皆の姿が見えないと思ったら。

 展望室で何をやってるのかしら?

 

 私はそう思いつつ、展望室に足を運んだ。

 皆の居場所は、ディアちゃんに聞いて初めて知ったのだった。

 

 プシュー!!

 

「ちょっと艦長!!

 もう交替の時間は過ぎて・・・」

 

 そこには、オモイカネの作り出したウィンドウに集中している皆の姿があった。

 どうも、声を掛けづらい雰囲気ね。

 これは、アキト君の失踪関係みたいね。

 

 ・・・なら、何を言っても無駄、か。

 

 そう判断しつつも、情報を求めて私は隣にいたナオさんに話し掛ける。

 

「ナオさん、この映像は何?

 どうやらこの港の周辺にある街みたいだけど・・・

 どうしてこんなモノを上映してるの?

 もしかして、アキト君の失踪に何か関係があるのかしら?」

 

「ああ、ミナトさんか。

 ・・・まあ、見ていれば解るよ。」

 

 そう言って、ナオさんは肩を竦めた。

 その肩に担いでいる真っ赤な槍が凄く気になるのだけど?

 

「あ、ううううう―――――」

 

「がぁ、ぐぅ―――」

 

「あががが―――――」

 

 ・・・目の前の十字架から聞こえてくる声は無視。

 この人達なら、ほっとけば何時の間にか復活してるでしょ。

 

 地面にもヤマダ君が倒れてるけどね。

 

 そして、ウィンドウでは物語が始まっていた。

 

『さて、この港の近くの町に何と!!

 怪奇現象がおきたそうです!!

 現場は町の商店街!!

 そこで私、突撃レポーターが現地にやってきました!!』

 

 ・・・ジーパンに、Tシャツそれと野球帽の姿だけど。

 

 アカツキ君よね、あのレポーター。

 隣にいる少女は、優華部隊の一人・・・零夜ちゃんね。

 零夜ちゃんも、パイロットスーツじゃなくてピンク色の可愛いワンピースを着てる。

 

『すみませ〜ん、ネルガルTVの者なのですが。』 

 

『はあ? TV局の人?』

 

 人の良さそうなおじさんに、アカツキ君が軽い口調で話し掛ける。

 

『そうなんですよ〜

 一つお聞きしたのですが、今朝ここで怪奇現象がおきたらしいですね?』

 

『ああ、あの事件か。

 確か4時間ほど前かな?

 突然、商店街の外灯が砕けたんだよ。

 それも一斉に!!

 いや〜、早朝で人が少なかったのが幸いしたな。

 そのお陰で、怪我人だけは出なかったんだよ。』

 

『それの何処が怪奇現象なんですか?』

 

 零夜ちゃんが可愛い仕草で、おじさんに尋ねる。

 ちょっと顔を赤らめるおじさんが、良い味を出してるわ。

 

『それがさ、電球の交換をしようとして外灯を調べると・・・

 なんと、外灯の上部に人の足跡が二つも付いてたんだよ!!

 それも割れた外灯全部にだよ?

 近所の人の話だと、順番に外灯が割れた音がしたそうだから。

 つまり、誰かが外灯で幅跳びをしたという事さ。

 でも外灯自体の高さは10m、隣の外灯までの幅は30m・・・とても、人間が跳べる代物じゃないね。』

 

『そ、そうですか、それは確かに怪奇現象ですね。

 では、情報を有り難うございました!!』

 

 ・・・あの二人なら、可能な芸当よね。

 外に出るな、とは言わないけど都市伝説なんて作らないでよね。

 

 呆れた顔で私が周りを見回すと・・・全員の顔にも、そんな表情が浮かんでいた。

 

 そして、場面は移り。

 

『この湖畔に、謎の生物が現れたそうです!!

 その時間帯は霧が発生していた為、はっきりとした目撃はされませんでしたが・・・』

 

『朱金の輝きを放つ人物と、蒼銀の輝きを放つ人物が。

 湖畔の上を疾走していたそうです。

 ・・・偶然、貸しボートに乗っていた大学生カップルからの証言です。』

 

『はははは、水上を走る謎の人物ね・・・』

 

『・・・確か、体重を限りなくゼロに近づける事が出来る、って北ちゃんに聞いた事があります。』

 

『やっぱり・・・人間じゃないね、うん。』

 

 今度は湖畔の未確認生命体、ね。

 まあ、観光スポットになると思うから、村興しには最適よね。

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 ・・・じゃ、なくて!!

 一体何をしてるのよ、アキト君は?

 

 それはその場にいる全員の心にあった台詞だと、私は確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、二人の鬼ゴッコは続いていたわ。

 ・・・当の本人達にとっては、ただの鬼ゴッコかもしれないけど。

 

 砂浜を時速60kmで走れる人間は普通じゃないわよ?

 平地でも、その速度で走り続ける長距離ランナーは存在しないわ。

 

 それに、壁を走るのは止めなさいね、行儀が悪いわよ。

 アカツキ君の取材先にあった壁の模様・・・あれは貴方達の足跡でしょ? 

 

 それと高速道路を走る、車の屋根で遊ばない事。

 事故が起きなかったから良かったけど、確実に心霊スポットに登録されたわよ。

 

 ・・・でも、結局二人の姿は見付からなかったのね。

 まったく、アカツキ君も頼り無いわね。

 

「ねえ、イネスさん。

 そう言えば三郎太君や、ジュン君はどうしたの?」

 

 ミナトさんが私にそう質問をしてきた。

 そう言えば、確かあの二人は・・・

 

「三郎太君は、何故か笑ったり泣いたりと怪しいから、薬で意識を奪っておいたわ。

 付き添いの優華部隊の娘が不在の時に投薬をしたから、今頃はその娘が看病してるでしょ。

 ・・・この場にその娘が来てないしね。」

 

「そ、そうですか。」

 

「アオイ君は、コンテストの後遺症で自意識が崩壊寸前だったから、薬で意識を奪っておいたわ。」

 

「・・・それ、治療じゃないですよ。」

 

「いいのよ、あの二人なら十分な睡眠をとれば治るわよ。」

 

「それもそうね。」

 

 ・・・そこで納得するミナトさんも、流石ね。

 後ろで冷や汗をかいてる、優華部隊の面々が見えるけど――――無視する。

 

 あ、一人頷いてる娘が居るわね?

 確か飛厘と言う名前だったかしら。

 何処か、私と似ている雰囲気を持ってるのよね。

 

 実際、話をしても話題が合いそうね。

 私の科学者の勘が、そう告げているわ。

 

 

 

 

『何と!! その後二人は何故かヤクザの事務所を強襲!!

 そして、事務所が入っていたビルを半壊させたそうです!!』

 

 ・・・ウィンドウでは、焼け焦げたビルが映し出されていた。

 

『重症のヤクザに職務質問がされたところ・・・

 歩いている赤毛の美少女に声を掛け、事務所に連れ込んだ瞬間!!

 一人の男性が殴り込んできて、ヤクザ全員を一瞬でなぎ倒したそうです!!

 ・・・声を掛ける相手が最悪だよね。』

 

『枝織ちゃんなら、今頃ヤクザさん全員の命が無かったですよ。

 それを考えると幸運ですね。』

 

『そ、そう考えると確かに幸運なのかな?』

 

 トラブルメーカーを、地で行ってるわね二人共。

 軍施設に紛れ込まない事を祈るわ。

 

 私は頭を振りながら、そんな感想を思いついた。

 ・・・もし、エステバリスに乗り込んだら絶対に日本が半壊ね。

 

「イネスさん、そろそろシュン隊長が帰って来ると時間だと思うけど?」

 

 ナオ君が、私にそう確認をしてきた。

 ・・・どうでも良い事かもしれないけど、何時までそのを持ってるの?

 自慢だけど、それは小型のフィールド・ランサーなのよ。

 それも、ラピスちゃんに頼まれて作った超軽量タイプなのだから。

 欲しかったら後で、私に直接交渉してね。

 格安で作ってあげるわ。

 

「あら、もうそんな時間なの?

 ・・・午後10時、か。

 確かに、オオサキ提督が帰ってくる時間ね。」

 

 腕のコミュニケを見て、現在の時間を確認してから私は驚いた。

 展望室に入ってから、既に2時間が経過している計算になる。

 

「じゃ、俺迎えに行ってきますね。

 軍の会議場まで結構距離がありますし。

 ナデシコの関係者は、どうも軍には目の敵にされてますからね。」

 

 そう言い残して、ラピスちゃんに槍を手渡し。

 ナオ君は展望室を出て行った。

 不真面目に見えるけど、押える所は押える人だしね。

 彼に任せておけば、オオサキ提督とカズシ補佐官は安全でしょう。

 

 

 

 

『・・・その後、二人はこの山に入ったそうなのですが。』

 

『・・・ブッシュ戦ですね。

 本気であの二人が気配を絶ったのなら、とてもじゃないけど見付けられない。』

 

『そうだね〜』

 

       カァ〜、カァ〜・・・

 

 二人は途方に暮れた表情で、夕日が沈む山を眺めていたわ。

 ・・・本当に、何をしに行ってたのアカツキ君?

 

 しかし、その後偶然にもアキト君達の目撃者が現れたのだった。

 アキト君にしては珍しいミスね?

 

『君がその人達を見たのかい?』

 

『うん、そうだよ!!

 僕が山で迷子になっていると、赤い髪のお姉ちゃんが助けてくれたんだ!!』

 

『へ〜、そうなんだ。』

 

『それにね!! その後、お姉ちゃんが僕を背負って空を飛んでくれたんだ!!

 凄いんだよ!! 身体が金色に光ってたんだから!!』

 

『・・・まあ、あの人物なら子供を背負ってても、枝から枝に跳べるよな。』

 

『でもね、お姉ちゃんも道に迷っちゃってさ・・・』

 

『・・・間違い無く、枝織ちゃんね。』

 

『ちょっとの間、止まって考えてると、後ろから青い光が見えてきて。

 僕がそっちを見てから後ろを見ると、お姉ちゃんの姿が無かったんだ。』

 

『それで、その後はどうしたんだい?』

 

『そのお兄ちゃんに迷子なんだ、って言うと。

 僕を背負って、家の近くまで運んでくれたんだよ!!

 このお兄ちゃんも、身体が青色に光っててさ!!

 凄い速さで走れるんだ!!』

 

『それは凄いね。』

 

『うん!!

 でも・・・パパもママも信じてくれないんだ、僕の話。

 でもねでもね!! 爺ちゃんに話したら、それはきっと昔話に出てくる良い鬼だよ。

 て、教えてくれたんだ!!』

 

『うん、きっとそうだよ!!

 私もそう思うよ。』

 

『まあ、ある意味鬼には違いないよな・・・』

 

 

 ・・・今度は民間伝承を築いたわけね。

 この調子だと、この港周辺が記者団に囲まれる日も近いわね。

 

 しかし、その後の捜査は難航をし・・・

 結局二人は、午後7時にはナデシコに帰って来たのだった。

 そして、私達に捕まる、と。

 

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 ・・・どう考えても、アカツキ君が元凶だと思うのだけど?

 

 

 

 

 

 

 

 結局、有力な手掛かりは得られないまま、映像は終了しました。

 私達はそのやるせない気持ちを抱えたまま、目の前で繰り広げられるお仕置きを見ています。

 

 ・・・でも、もう真夜中を過ぎてます。

 今日は、もう寝る事にしましょうか。

 睡眠不足は女性の天敵ですしね。

 

「千沙、そろそろ部屋に帰らない?」

 

 私はそう判断をして、隣に立っている千沙に提案をする。

 すると千沙は少しの間考えてから、私に返事を返してきた。

 

「そうね、これ以上は有益な情報も無さそうだし・・・

 枝織様の行方を捜す情報網も無いしね。

 ここは、テンカワ アキトが枝織様を連れ戻してくれる事を祈るしかないわね。」

 

「でも、無事に帰ってくるのか?

 ・・・あのテンカワアキトだぞ?」

 

どういう意味での無事なのかは――――聞かない事にしておくわ。」

 

 千沙が頭を抱えつつ展望室から退出する。

 それに続いて、私達も展望室を出て行く。

 

 でも、考えてみたら実力行使で枝織様を止められるのは、テンカワ アキトだけなのよね。

 

 ――――貞操は死守してくださいよ、枝織様

 

 あのテンカワ アキトに責任を取らせるのは、至極困難だと思いますから。

 

 背後から聞こえてくる悲鳴に、そんな事を心配する私だった。

 

 

 

 そして、次の日の朝

 

 

「おはよう、皆。」

 

「あ、おはよう京子。」

 

 まだ少し眠い頭を振りつつ、朝の挨拶を千沙と交わす。

 飛厘はもう食堂に行っているらしく、姿は見えない。

 隣に寝ていた(昨日まで縛って転がしていた)百華は―――――

 

「ナオ様〜〜〜〜〜〜〜〜ムニャムニャ」

 

 ・・・布団に抱きついて、未だ夢の中だ。

 この娘、実は低血圧なのよね。

 

「起きたのなら都合がいいわ。

 実は、ナデシコの艦長からお招きがあったのよ。

 何でも、枝織様に関する情報を入手したんだって。」

 

「あ、そうなの。

 解ったわ、私も直ぐに支度を済ませるわね。」

 

 そういう訳で、急いで支度を終えたのだが・・・

 実は、ナデシコの皆さんは凄い状態になっていた。

 

 

 

 

 

「――――まず、これを見てください。」

 

「は、はい。」

 

 立上る、圧倒的な殺気に――――

 あの気の強い千沙が気圧されていた。

 私も、その異常なまでの殺気に背中に冷たい汗をかいている。

 

 ピッ!! 

 

 そして、空中に表示されるウインドウ。

 

「この映像は、昨日の午後10時時点のものです。

 私達が頼りにしている、『ダッシュ』と言うAIが二人を見付けた時の現場です。」

 

「じゃ、じゃあ二人の姿は確認できたのですか?」

 

      ゴワッ!!

 

 私がそう確認をした瞬間!!

 艦長を含む周りの女性陣から殺気が放出される!!

 

 な、なにが彼女達にこれ程の殺意を抱かせたのだろう?

 

 そして、問題の映像が始まった・・・

 

 

 

 

『やっと捕まえたよ、枝織ちゃん!!』

 

『むっ!! 流石だねアー君、私を追いかけっこで捕まえるなんて。

 じゃ、次は何をしようかな〜』

 

『ふう、今日一日中逃げ続けたんだ。

 もう、十分遊んだだろ?』

 

『う〜ん、そう言えばもう真っ暗だね。

 ・・・汗も結構かいちゃったし、お風呂に入りたい。』

 

 あれだけの運動をすれば誰でも汗をかきます!!

 と言うより、その場から動けなくなってますよ!!

 

 やはり、信じられない程の実力の持ち主ですね、二人揃って・・・

 

『そうだろ? じゃあ、早くナデシコに帰らないとね。

 君は本来ならこの場にいない筈の女性だからね、警察とかに捕まるといろいろと厄介なんだよ?』

 

『でも皆の所まで帰る道が、分かんないよ・・・』

 

『俺が覚えているよ、電車にでも乗って帰れば今日中に帰れ・・・何処に行くんだい?』

 

 本当、何処に行くのでしょうか?

 何を見付けたのか、嬉しげにテンカワ アキトの先を歩く枝織様。

 

 そして、指差したモノは―――――

 

『ほらほらアー君!!

 ココ、ってバス・シャワー・カラオケ・ゲーム機を完備だって!!

 ねえ、入ろうよ?

 休憩と宿泊が出来るんだって。』

 

『そこは入っちゃ駄目!!』

 

『え〜、だって枝織はお風呂に入りたいんだもん♪』

 

『だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!

 絶対に駄目なんだってば〜〜〜〜〜〜〜!!』

 

      ピッ!!

 

『2名サマ、ゴアンナイ、デス。

 イツモ、トウホテル「ガラスの城」ヲ、ゴリヨウイタダキ・・・』

 

 そこから先の合成音は、私の耳に届かなかった。

 まさか逆バージョンとは―――――予想外ね。 

 

 と、馬鹿な事を考えつつ、私は隣の千沙を見る。

 

 ・・・呆けていた。

 

 当分、この世界には帰ってこないでしょう。

 私もその状態になりたいわ。

 

 でも、取り合えずこれだけは言っておかないと駄目よね。

 

「皆さん――――ちゃんとテンカワ アキトには責任を取らせて下さいね?」

 

 

「それは、こっちの台詞です!!」 × 女性陣

 

 

 ・・・無事に私達は、ナデシコから降りれるのかしら?

 多分――――――無理だと思う。

 元一郎様、先立つ不幸をお許しください。

 

 

 

 

 

 

 

 

第十九話 LessonXへ続く

 

 

 

 

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