< 時の流れに >
「こっちに落ちたんだな!!」
「ナオ!! お前は重症なんだぞ、大人しく救援を待ってろ!!」
「そんな事を言ってる場合か!!」
「ウリバタケ班長!! ナオ!! そんな事を言ってる間に捜せ!!」
「ああ、解ってるよカズシさん。」
「必死で探してるよ、こっちもな!!」
「―――皆!! 見付けたぜ!!」
「本当かヤマダ!!」
真夜中と言っていい時間だった。
だが周囲の捜査をするには、月明かりは充分に明るく。
また、無数の流星が流れる夜空は感嘆の溜息を吐かせるだろう・・・
もっとも、俺達は誰一人としてそんな心の余裕は持っていなかったが。
それは確かに俺達が乗っていた脱出ポッドと同じだった。
奇しくも、俺達と同じ様に砂浜に不時着をしていた。
だが、その扉の入り口には・・・人型の煤が残っており・・・
忘れたくても忘れられない悲劇を、俺達の心に思い出させた。
カエンの奴は最後の最後まで、俺を苦しめたいらしい・・・
「・・・開けるぞ。」
「ああ、やってくれゴート。」
俺達に意見を問うゴートに、カズシさんが代表して頷いた。
プシュー・・・
開かれた扉から、出てくる者はいなかった。
俺は皆を制して、一人でポッドの中に入る。
そこには―――
「・・・」
虚ろな瞳をした、ジュンがいた。
涙も枯れ果てたのか、それとも―――
「ジュン・・・迎えにきたぜ。」
縛られていた両手と両足を解放しながら、俺はジュンに話し掛ける。
「・・・」
しかし、ジュンからは何の反応も返ってこない。
俺は黙ったまま、ジュンに肩を貸して連れ出す。
その身体には、生きる意欲がまるで感じられない。
・・・それも、仕方が無い事かもしれない。
心が生きる事を否定する事だってある。
俺も目の前でミリアが死んだら・・・どうなっていたか解らない。
だが、もう一つの心配だけはしなくて済みそうだな。
ビクッ・・・
ポッドから出た瞬間、ジュンの身体が震えた。
そして俺の身体を強引に振りほどく。
「お、おいジュン!!」
「大丈夫かよ?」
皆の心配の声も無視をして、ポッドのある一点を見詰める。
そこには、人の手の形に煤が付いていた。
周りの皆が押し黙り、俺もその場で沈黙する。
「・・・う、うゎぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ガンガンガン!!
「ジュン!! 止めろ!!」
自分の両拳を、泣き叫びながら脱出ポッドに叩きつけるジュン!!
直ぐに拳の皮膚が破れ、血の刻印がポッドに刻まれる!!
「ああああああああああああ!!」
「お前が悪いんじゃない!!」
「じゃあ誰が悪いんだよ!!
結局、力が足りなかった僕が悪いんだ!!
守るって約束したんだ!! 笑ってくれたんだ!!」
全員でジュンを取り押さえながら、俺達はその言葉に耐えていた。
ジュンの非難は俺達だけでなく、自分自身を一番責めていたからだ・・・
ガツンガツン!!
「やめろ!! ジュン!!」
両手と身体を押さえつける俺達に対抗して、今度は額をポッドに叩きつけるジュン!!
直ぐに額が割れ、流血が始まる!!
「くっ!! 仕方が無いゴート!!」
その行為を止める為に、俺がゴートに合図を送り。
その合図に頷いたゴートが、ジュンの身体を持ち上げて海に放り込む!!
バシャァァァァンン!!
「・・・」
俺達が見守る中、ジュンが静かに立ち上がる・・・
額を流れる血が頬を滑り、まるで血涙を流しているように錯覚をする。
だが、ジュンの心の中では本当に血の涙が流れているのだろう。
「殺してやる・・・いや殺すだけでは赦さない!!
復讐をしてやるさ、チハヤ!!
君の人生を弄んだ奴等全員に!!
君と同じ苦しみを味あわせてやる!!」
血塗られた拳を、夜空に向かって振り上げそう宣言をするジュン・・・
俺達はその凄惨な姿と、今までとは明らかに違うジュンの気配に気圧されていた。
俺の心配事は見事に的中してしまったのだ。
満天の夜空の中・・・
数千、数万という流星の舞う中・・・
一人の復讐鬼が誕生した瞬間だった。
次回予告
「こんにちわ、皆さん、ホシノ ルリです。
アオイさんの豹変に驚く間もなく開かれる、アキトさんの審問会・・・
単身、その審問会に臨むオオサキ提督。
そして、未だ目覚めないアキトさん・・・
数々の悲しみと怒りを抱えたまま、ナデシコは宇宙に再び飛び立ちます。
しかし、その航海には既に次の危機が迫っていました。
アキトさん、私達は・・・間違っていませんよね?
次回、時の流れに 第二十一話 いつか走った『草原』・・・夢と消えし現実」