< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは突然の通信でした。

 しかし、その通信から加速度的に全ては走り出しました。

 そう、それは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう―――今日も無事に、皆さん帰ってこられましたね。」

 

 つい先程まで、私達は木連の人達が放った無人兵器と戦闘をしてました。

 しかし、どうして木連の人達は、こうも断続的に戦闘を仕掛けるのでしょうか?

 私達の足止め・・・は無意味でしょう。

 どう考えても、ここに集中している戦力は木連軍の全兵力に近いです。

 もっとも、木星には未だ巨大な戦力を隠されていると思いますが。

 ここ数日の戦闘で、殆どのチューリップは破壊してしまいました。

 ですが、アキトさんが北斗さんと戦っている為に、思った以上に戦果は上がっていません。

 この戦場を指揮している、舞歌さんという人も本気で戦ってはいないようです。

 無人兵器を投入する事で、被害を最小限に抑えようとしています。

 ユリカさんも無理な戦法をとらずに、確実に戦果を重ねていかれました。

 本当に、何が狙いなのでしょうかね?

 

 そう言えば、北斗さんがアクセサリーを付けて『ダリア』に乗っていたそうですが。

 ・・・どうなってるのでしょうね?

 その事を私達に話しながら、首を捻って私達に質問をされたアキトさんでしたが。

 それは私達が聞きたいくらいです!!

 

 そんな事を考えていた時です。 

 私の目の前に、オモイカネがウィンドウを開きました。

 

 ピッ!!

 

『緊急メールが届いたよ。

 どうする、ルリ?』

 

 私とミナトさんが、戦闘後の後始末を兼ねてブリッジに残っている時に・・・その通信は入りました。

 

「あら、緊急メール?

 珍しいモノが届いたわね、ルリルリ。」

 

「はい、そうですね。」

 

 戦闘が終ったばかりなので、私もミナトさんも何処か緊張感がありません。

 そう簡単に負けない事は解っていても、やはり戦闘時には緊張をします。

 それにアキトさんの事も心配ですしね。

 ――――共同戦線を張っている連合軍の艦隊司令の、愚痴や指示も煩いですし。

 

 今回も煩く騒ぎ立てるので、ディアがもう少しで『ラグナ・ランチャー』を打ち込むところでした。

 まあ、アキトさんが慌てて止めてましたが。

 

 と、そんな事を考えている場合じゃないですね。

 今回届いたのは緊急メール。

 でも緊急メールにも、いろいろなランクがあるのですが。

 ・・・私が見ても大丈夫なランクなのでしょうか?

 

「メールの送り主と、宛先は誰ですか?」

 

 私がそうオモイカネに質問をします。

 もし、アキトさん宛てだった場合には――――相手によっては、ちょっとイケナイ事を考えてしまいますね。

 でも個人宛てに緊急メールが来るのは、余程の事なのですけどね。

 

 そして、オモイカネが私の質問に応えて、メールの送付者を告げます。

 

『送付者は、ナオさんだね。

 それと宛先は・・・ナデシコクルー全員。

 ランク・・・トリプルS!!』

 

「そんな!!」

 

「嘘でしょ!!」

 

 思わず、私とミナトさんの口から悲鳴があがります!!

 

 そうこのランクは、冗談で指定できるランクではありません!!

 一体、何が書かれているのですか!!

 

「オモイカネ!! 直ぐに私のウィンドウに、メールの内容を開いてください!!」

 

 トリプルS―――それは、ナデシコクルーにとって重大な危機が迫っている事を告げるもの。

 もしくは、戦況に大きな影響を及ぼす連絡事項を、クルーに知らせるものです。

 私でも、このランクの緊急メールを見るのは初めてです。

 しかも、送付者はナオさんです。

 実は、数日前からナオさんを始め、数人のクルーの姿が消えていました。

 何でもユリカさんの指示により、何処かに向かったらしいのですが・・・ 

 

 そのナオさんからの緊急メール・・・

 そして、簡単には出せないランクの緊急メール。

 

 このメールには―――一体、何が記されているのでしょうか?

 

 私は目の前に表示されたメールを貪るように読み・・・

 

 ―――戦慄しました。

 

「ちょっと!!

 これ―――本当なのルリルリ!!」

 

 私の背後からメールの内容を見ていたミナトさんが、思わずそう叫びます。

 

 私自身、その内容を信じられませんが――――

 ナオさんが冗談のつもりで、この様なメールを出すとは思えません!!

 

「オモイカネ!! 艦長を至急ブリッジに!!」

 

『了解!!』

 

「それと、アキトさん達主要クルーにも緊急召集を!!」

 

『解った!!』

 

 そして私は、呆然とした表情のままミナトさんに向き直ります。

 

「ミナトさん。」

 

「ルリルリ・・・これが本当なら、私達は止められるの? コレを?」

 

 青い顔のまま、そう呟くミナトさん。

 私も自分の顔色が悪い事を自覚しています。 

 ですが、私の口からは確かな保証は出来ません。

 

 ―――私自身、どうしたらいいのか困惑しているのですから。

 

「それは―――私にも解りません。」

 

「・・・そうよね、御免ね。

 取り乱しちゃって。」

 

 少し落ち着いたミナトさんが、溜息を付きながら微笑みます。

 しかし、直ぐにその表情も、硬いものに変わってしまいます。

 

「いえ、それが普通だと・・・思います。」

 

 そして、私はもう一度そのメールを読み返します。

 そこに書かれている内容が、目の錯覚でない事は解っているのに。

 

 

 

 

 

 

 

 ドンッ!!

 

「何を考えてるのよ!! 草壁閣下は!!」

 

 私の目の前では、舞歌様が怒りに肩を震わせます。

 机の上に叩き付けた手も、怒りの強さを表すかのように小刻みに震えています。

 

「千沙!! 本当なのその通信内容は!!」

 

「はい、先程三姫が受け取った、高杉殿からの通信ですが・・・

 所々に暗号じみた記入がしてあり。

 それを解読したところ―――高杉殿からの緊急メッセージでした。」

 

 三姫宛てに書かれた、他愛の無い文面に隠された情報。

 それは信じられないモノだった。

 それを知った瞬間、私達はその場で凍り付いた。

 そして、私は急いで舞歌様に面会をしに訪れたのだった。

 

「し、しかし、その様な作戦を舞歌様抜きで行なうなど・・・」

 

「甘いわよ氷室君。

 既に私がいろいろな疑惑を持たれている事は・・・確かよ。

 だけど、北斗や枝織がそれなりに軍の命令に従うのは、私だからと言っていいわ。

 テンカワ アキトがいる以上、北斗の戦線離脱は好ましくない。

 だからこそ、私に自由を与えていたの。

 ――――私自身、その隙を上手く利用するつもりだったけどね。」

 

 椅子に座り直しながら、自嘲気味にそう話す舞歌様。

 確かに、北斗殿や枝織様は舞歌様を信頼されている。

 それは幼少の頃からの付き合いであり、自分の身を本当に案じているの知っているからでもある。

 木連中の指揮官を捜しても、北斗殿に命令を下せるのは舞歌様だけと断言できる。

 

「でも・・・油断大敵ね。

 最早そんな事態では無いけれど、まさかこんな手段に出るなんてね。

 この宙域を戦場として指示してきた理由が、やっと解ったわ。」

 

 悔しげにそう呟き、黙り込む舞歌様。

 その沈黙に耐え兼ねて、私は舞歌様に話し掛けた。

 

「ですが、最小限の被害で済む予定との事ですが?」

 

 考え込む舞歌様に、私がそう質問をする。

 しかし、私の質問に応えてくれたのは氷室殿だった。

 

「その最小限がどの様なレベルなのか―――想像できるか?

 はっきり言って、全てが計算通りの動きをするとは思えない。

 ・・・下手をすれば。」

 

「私達が火星を追い出された時以上の惨劇になるわね。」

 

 目に強い憤怒を宿しながら、そう予言する舞歌様。

 その事を予想をして、青い顔になる氷室殿。

 そして、私も自分の顔から血の気が引いていくのが解った。

 

「どちらにしても・・・間違い無く、地球側に芽吹いた和平の意思など吹き飛ぶわ。

 この作戦が成功しても失敗してもね。

 ――――ここまでされては、私達の今までの行動など意味を失う。

 後に残されるのは、お互いの憎しみだけ。」

 

「防ぐ術は無いのでしょうか?」

 

 私自身、そんな術は無い事を知りつつ―――

 一縷の望みを託して、舞歌様に訪ねる。

 

「無いわ。

 いえ、有ったとしても、この宙域から地球まで全速力で2日。

 どう足掻いても、間に合わない・・・」

 

 私に背を向けて、そう言い切る舞歌様。

 こうやって議論をしている間にも・・・

 

 唇を噛み締めて、運命の理不尽さを堪える。

 一体、今まで私達が夢を見て、頑張ってきた事は何だったのだろう?

 少なくとも、こんな結果を招く為ではなかった筈だった。

 

「氷室君、取り敢えず進路を地球に向けて発進。

 それと、ナデシコにこの事を通信で送っておいて。」

 

「ですが、彼を怒らせるだけでは無いでしょうか?」

 

 舞歌様の命令に、思わず口を挟む氷室殿。

 しかし、それは確かにそうだろう・・・

 今、危機に晒されているのは、彼等の故郷なのだから。

 

 そう考えた私は、視線で舞歌様に問う。

 

「それでも、よ・・・せめて誠意は見せないとね。

 お互い、2日後にはどんな関係になっているのか解らないけど。」

 

 舞歌様が最後に私に向けた笑顔は―――

 今までに見た事が無い、疲れ果てた笑顔だった。

 

 私には舞歌様が泣いているように見えた。

 

「私の署名入りで伝えておいて・・・

 木連がサツキミドリ2号と呼ばれるコロニーを、地球に落とす、と。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブリッジに集まった皆は、その報告を聞いてから黙り込んだままだった。

 私自身、本当に木連の人がこんな手段を使うとは信じていなかった。

 そう、事態は私の予想を遥かに越えていた・・・

 

『放置されていたサツキミドリ2号が、艦長の予想通り地球に向かっている。

 俺達は木連の隙を狙って内部に潜入し、可能ならば推進ノズルの制御を奪い逆噴射をするつもりだ。

 それが不可能なら、落下する地点をせめて海上にしてみせる。

 ウリバタケさんの計算では、このままのスピードで行けば・・・・

 明日の午前0時に、サツキミドリは地球に落下するだろう。

 ―――では、成功を祈っていてくれ。          

                                   ヤガミ ナオ』

 

 それが、ナオさんからのメールの内容でした。

 全員が余りの事態に、何も言えなくなっている。

 もし、ナオさん達が推進ノズルの噴射に成功しても、その巨大な質量が止まるとは思えない。

 間に合わなければ、サツキミドリは――――

 

「アキト・・・ナデシコが全速力で向かっても、間に合わないよ。」

 

 ナデシコの相転移エンジンを全開にしても、地球に辿り付くのは明日になる。

 勿論、今現在も全速力で地球には向かっているけど・・・

 どう頑張っても、午前0時には間に合わない。

 

 残り時間は、後6時間程しか・・・ない。

 

「・・・」

 

 私の言葉にも、険しい表情をしたまま反応をしないアキト・・・

 今、アキトの心の中ではどんな感情が渦巻いているのだろう?

 

 その重苦しい沈黙のなか。

 自然と皆の視線は、アキトへと向かっていた。

 最後に頼れる人物は、やはりアキトだと皆が思っていたから。

 

 しかし、今回ばかりは―――アキトも険しい顔で黙り込んでいた。

 

「ナオさんと一緒に行動をされているのは。

 ウリバタケさんと、ゴートさん、アオイさん、カズシ補佐官、それとヤマダさんでしたな?」

 

 プロスさんが、目を光らせながら私に尋ねてくる。

 その口調は、流石に少し緊張を含んでいる・・・

 

「ええ、そうです。

 私の思い付きみたいなものだったから・・・あまり人員は割けなくて。」

 

「今となっては、早期に発見出来た事を喜ぶべきでしょう。

 彼等の活躍に期待をするとして・・・

 連合軍に直ぐに連絡をして、地球に残っている艦隊をサツキミドリに向かわせましょう。」

 

 プロスさんの提案に、直ぐに反論をしたのは・・・シュン提督だった。

 

「残念だが・・・無駄だった。

 既に艦隊司令にこの事を伝えたが、一笑に伏されたよ。

 証拠がこのメールだけでは、動くつもりはないらしい。

 それに・・・地球に残っている核ミサイルを使っても、あれだけの質量は簡単に破壊出来ん。

 ましてや準備を完了する頃には、サツキミドリは地球にかなり接近してるだろう。

 それをバリア衛星で支えきる事は、絶対に不可能だ。

 全長300m程のチューリップでさえ、止められ無いんだからな。

 もっとも、チューリップは自壊を防ぐ為に、減速をするが・・・」

 

 そう言って、ブリッジに集まっている私達を一通り眺め・・・

 

「約10kmの大きさを持つ、サツキミドリにすればバリアなど紙と同じレベルだろう。

 こっちは勿論、減速は無しだ・・・自壊するスピードも追いつかん。

 そして連合軍所属の宇宙軍は、この宙域に殆ど集まっている。

 今、地球に連絡をした所で・・・宇宙に避難する事は不可能だろう。」

 

「でも、落下地点の割り出しさえ出来れば、最低限の救助は出来るんじゃないの?」

 

 エリナさんが慌てた口調で、シュン提督に意見を述べてる。

 

「相手がギリギリの所で落下地点を変更したらどうする?

 推進バーニヤーが無事なら、軌道修正は遠隔操作で可能なんだぞ。

 そして、それに気が付けば・・・・世界規模でパニックが発生するな。」

 

「・・・でも。」

 

 唇を噛み、悔しさに耐えるエリナさん。

 私達は久しく感じた事の無い、巨大な無力感に襲われていた―――

 

「ナオさん達が頑張ったとしても、所詮足止め程度・・・

 むしろ、彼等の身が危険なだけ。

 それに脱出後は、下手をするとサツキミドリと一緒に、地球に落ちる可能性が大、だね。」

 

 今まで見た事に無い、真剣な顔でナオさん達の未来を語るアカツキさん。

 冷静そうに見えるけど、その握り締めた手は小刻みに震えている。

 

「ですが、クリムゾンの存在を考えれば―――そんな無茶をするでしょうか?

 彼等との関係を続けるつもりならば、地上の破壊も最低限に留めると思います。

 これは和平の阻止が目的なら・・・ですが。」

 

 ルリちゃんが、シュン提督に自分の意見を話す。

 

「ああ、多分それ程無茶な事はしないと・・・思いたい。

 しかし、現実にサツキミドリは加速をしながら地球に迫っている。

 木連の人間に、あれだけの質量を制御しきれると思うか?

 下手に爆破をすればそれこそ地上は火の海・・・壊滅だ。」

 

 シュンさんの言葉に、再びブリッジに沈黙が訪れます・・・

 もし、和平の阻止が目的ではなく、本当に連合軍への攻撃だったとしたら?

 

 ・・・それは、とても恐ろしい考えだった。

 

「くそっ!! 何とかしたいのは、俺も同じ気持ちだ!!

 だが、手段が無い!!

 どう考えても、あれだけの質量を止める手立てが無いんだ!!

 仮に爆破できたとしても、その破片を処理しきれない!!」

 

 そして悔しそうに心情を吐露する、シュン提督。

 地球に迫る危機を知りながら、打つ手が無い事に苛立ちを隠せない。

 私も先程からいろいろな可能性を考えているけど、良いアイデアは浮かばない。

 

 どうすれば、あのサツキミドリを止められるの?

 

 何の犠牲も無く、地球を救う事は不可能。

 それは解っている、解っているけど・・・

 

 ――――それは、最後の手段

 

 私はアキトを正面から見詰める。

 アキトも私を見詰めていた。

 

 そして・・・

 

 静かにアキトが、この場で初めての発言をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、俺は別に英雄願望の持ち主じゃないんだけどな〜」

 

 俺は苦笑をしながら、宇宙服を身に付ける。

 

「ならどうしてこんな無茶をするんだよ?」

 

 準備が既に終っているウリバタケさんが、暇そうに俺に質問する。

 流石に宇宙空間での作業に慣れているため、無重力でもその動きに淀みは無い。

 

 ま、俺は地に足が付いていないと落ち着かない人間なんだけど。

 ウリバタケさんは性格そのまま―――つまり、落ち着きが無い。

 

 と、こんな馬鹿な事考えている場合じゃなかったな。

 

「・・・ウリバタケさんこそ、奥さんがおられるでしょう?」

 

 こちらも宇宙服に着替え終わっているジュンが、ウリバタケさんに再度話し掛ける。

 ちなみに、俺達が乗る連絡船を操縦しているのも、ジュンだ。

 

 ヤマダはあらゆる意味で、同乗者の事を無視して操縦をするからな。

 

「はっ!! ここで逃げ出して、コイツが日本に落ちないかと心配するよりましだ。

 どうせなら俺の手で、太平洋にでも落としてやる!!

 それが、うちの家内とガキを確実に助ける方法だろうが。」

 

 最後は照れくさそうにソッポを向く。

 まったく、素直じゃないね。

 

「でも張り切りすぎて、西欧方面に落とさないで下さいよ?」

 

 俺は少しサイズの合わない袖口を直しながら、ウリバタケさんに釘をさしておく。

 もし、本当にあの土地に落とされては、何の為に頑張ったのか解らないぜ。

 

「それが本音かよ、ナオ。

 まあ、気持ちは解るけどな。

 ―――じゃあ、中間をとってアルプス山脈に落とすか?」

 

「もしそうなったら、ホシノ ルリの故郷が壊滅するな。

 ピースランドの両親共々。」

 

「・・・やはり、太平洋にしよう。」

 

 ゴートさんの突っ込みに、青い顔をするウリバタケさんだった。

 

「どうでもいいが、早く行こうぜ!!」

 

「ヤマダ・・・お前な〜、そんなに急いでも仕方が無いだろう?

 まだこの連絡船は、サツキミドリに到着してないんだからよ。」

 

「違う!! 俺の名前は!!」

 

「ヤマダ ジロウだろ?

 ディア君が俺の所にも報告に来たぞ。」

 

 カズシさんの突込みにより、ヤマダ轟沈

 

 さて、俺の準備も終ったし。

 もうサツキミドリも、目と鼻の先と言ってもいい。

 はっきり言って、トコトン不利な状況だ。

 だが、まだ諦めるつもりは無い。

 少なくとも、出来る事は全てやっておきたい。

 でなければ―――ミリアに会わす顔が無いじゃないか?

 

  ガゴォン・・・

 

「着きました・・・」

 

 ジュンが引き締まった表情で、俺に報告をする。

 今回の作戦は、何の因果か―――俺がリーダーになっていた。

 

 本当に、俺には不向きな役なんだけどな。

 だが、絶対にこの作戦は成功させてみせる!!

 

「さて、そろそろ覚悟はいいか?」

 

「何を今更言いやがる。」

 

「・・・うむ。」

 

「ここで俺が帰ったら、誰がヤマダにお面倒を見るんだ?

 シュン隊長から、目を離さないようにと命令されているからな。」

 

「おい!!」

 

「ま、僕がこんな状況を見て、それを忘れるなんて無理ですしね。

 それに、両親も日本にいる訳ですし。」

 

 それでも全員が笑っていた。

 誰もここで死ぬつもりは無かった。

 それぞれに、守りたいモノがあるのだ。

 俺もそうだ、ただ助けたい女性がいるからこの場に立っている。

 

 そう、それだけなんだ――――

 

「それじゃあ、行くぞ!!」

 

「おう!!」

 

 

 

 

 

 

第二十話 その6へ続く

 

 

 

 

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