< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凄く・・・複雑な気持ちだった。

 

 あのアキトさんは、余りに普段のアキトさんとは違いすぎて。

 まるで『悪夢』が具現化したような、掴み所が無い存在感―――

 だけど、木連の兵士達を私達の目の前で『消滅』させたのは現実で・・・

 

 でも、最後の最後で私に向けた手を止めた時の瞳には、何時もの優しさが見えた気がして。

 

 結局、私の答えが出ないうちにアキトさんは、新しく現れた敵に向かって歩き出した。

 悠然と、死を運ぶ為に・・・

 

 そして私は隣で震えているラピスちゃんの手を引き、一番近い位置にある脱出ポッドに向かう。

 ラピスちゃんは絶対に助けてみせる。

 それが、今の私が挫けずに歩いていける理由だった。

 照明の光度が落ちた廊下に、私達の足音だけが響いた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか、アキトさん・・・捕まっちゃったんだ。」

 

   コクン

 

 清潔だけど小さな部屋に、私とラピスちゃんは背中合わせで座っていた。

 無言で頷くラピスちゃんの動きが、背中越しに伝わる。

 

 アキトさんが来てくれた事は、正直に言うと嬉しい。

 だけど、その為に地球は―――ナデシコは信じられない程の苦境に陥る。

 それが痛いほどに解るだけに、胸が締め付けられるように苦しい。

 

 この時だけは、アキトさんの優しさが悲しかった。

 見捨てられたくないと思う自分も確かにいる・・・

 けど、結果として和平に賭ける皆の想いを否定された事が―――悲しい。

 最後の最後に選択をしたのがアキトさんでも。

 その選択を迫ったのは、私達の存在なのだから。

 

 背中越しに伝わるラピスちゃんの震えを感じて、私は振り向いてラピスちゃんを抱き締めた。

 震える小さな肩を抱き締める事くらいしか・・・今の私には出来なかった。

 

  プシュ!!

 

 その時、私達の部屋に一人の女の子と一人の男性が入って来た。

 

「何塞ぎ込んでるのよ、メグミさんらしくないわね。

 最初にラピスちゃんを庇って、北辰に噛み付いた威勢はどうしたのよ?」

 

 部屋に入ってくるなり、その少女は私にそう話し掛けてきた。

 口調は乱暴だが、その言葉の裏には私達に対する気遣いが感じられた。

 

「・・・時と場合によるわよ、私もか弱い女の子なんだからね。」

 

 自分でも青ざめていると思う顔をあげ、私はショートカットの少女―――ユキナちゃんに、そう返事をした。

 

 

 

 

 

 この戦艦に連れてこられるまで、私達の意識は無かった。

 それはつまり、ラピスちゃんを経由してアキトさんが私達を救出にこれないと言う事だった。

 そして気が付いた時には―――既に多数の軍人に取り囲まれた状態だった。

 

「ふむ、これが地球の遺伝子細工の結晶か。

 確かに金色の瞳―――人外の存在ではあるな。」

 

 気絶しているラピスちゃんの顔を掴み、その瞼を無理矢理こじ開ける男。

 その男は、以前ナデシコに侵入してきた・・・あの、北辰と呼ばれる男だった!!

 

  ドン!!

 

「その手を―――離しなさい!!」

 

 両手は括られていたが、両足は自由だった。

 私はその場に立ち上がり、ラピスちゃんを掴む北辰の腕に体当たりをする!!

 

 しかし、私の体当たりでは小揺るぎすらしない―――

 北辰は冷たい目で私を一瞥した後、ラピスちゃんの身体を私に向かって放り投げた。

 

 幾ら子供とはいえ、そこそこの体重はある・・・

 

 でも、ラピスちゃんに怪我が無いように下敷きになる形で、私はラピスちゃんを庇う。

 床とラピスちゃんの身体に挟まれ、一瞬呼吸が止まり・・・やがて痛みが身体の奥から襲い掛かってきた。

 

「ゴホッ!! こ、子供相手になんて事をするんですか!!」

 

 涙目になりながら、私が北辰に抗議をする。

 しかし、北辰は相変わらずの冷たい目で私を見下ろし―――笑った。

 

「地球の女にしては良い度胸をしておるわ。

 いいだろう、どうせテンカワが来るまでは手出しは出来ん。

 その人形に艦内のシステムをハッキングされるのも困りものだしな。

 ・・・当分の間、その実験体の面倒はお前が見ろ。」

 

「だ、誰が実験体ですって!!」

 

 しかし、私の問に応える事無く・・・薄く笑ったまま、北辰は背を向けて歩き出した。

 最早、私には興味が無いとばかりに。

 

 そして、私は意識の無いラピスちゃんと一緒にこの部屋に閉じ込められたのだった。

 はっきりと言えば、助かる見込みは皆無だった。

 アキトさんの立場を考えれば、ただの通信士の私と・・・娘とは居え、ラピスちゃんの存在では比較にならない。

 悔しいけれど私達には―――替えが効くのだ。

 そして、地球と木連の人達の今後の戦争での被害者の数を考えれば、答えは自ずと解ってしまう。

 

 和平に向けて旗印となりつつある存在と、一介の通信士とサブオペレーター

 ―――どちらを優先すべきか。

 

 地球と木連を繋ぐ存在として、悲しみを乗り越えるか。

 人として、自分の身を危険に晒してまで私達の救出を実行するのか。

 

 オオサキ提督なら、アキトさんを止めるだろう。

 いや、止めて欲しいと思う・・・もし、アキトさんが来れば縋ってしまうから。

 本当は、今の状況が怖くて仕方が無い。

 味方と呼べる存在は無く、私達に害意を持っているとしか思えない人しか見当たらない。

 せめて、ラピスちゃんだけでも守りたい。

 だけど、私は余りに無力で・・・

 

「怖いよ・・・アキトさぁん・・・」

 

  プシュ!!

 

「おなか空いたでしょ? 御飯持ってきてあげたわよ。」

 

 無愛想な表情で・・・でも、興味深々という雰囲気をかもし出しながら、その少女は入ってきた。

 

 

 

 

 

 

「貴方、凄い度胸をしてるわね〜

 知らなかったと思うけど、あの爬虫類男って木連でも一、二を争う危ない男なんだよ?」

 

「知ってるわよ、一度ナデシコで見たもの。

 もう少しで皆殺しにされるところだったわ。」

 

 私の返事を聞いて、少女の笑顔が凍り付いた。

 

「マ、マジ?

 それでよく突っ掛かっていけたわね。」

 

「大切な仲間を実験体呼ばわりされたんだもの、怒りもするわよ。」

 

 この状況で、今更毒など入れないだろう。

 そう判断した私は、少女が持ってきてくれた食事に手をつけた。

 味気の無い食事・・・普通の軍隊では、これが当たり前なんだろうな。

 ナデシコが余りに特異な存在なのだと、私はつくづく思った。

 

「私の名前は白鳥 ユキナ、貴方の名前は?」

 

「メグミ・レイナードよ、そしてこの娘の名前がラピス・ラズリ」

 

 自己紹介をした後で、私は床の布団に寝かせてあるラピスちゃんの事も紹介した。

 ラピスちゃんの意識は未だ戻っていない・・・

 先程の北辰の言葉からすると、ラピスちゃんのハッキングを恐れて深く眠らしているのだろう。

 彼等のその用心深さにより、私達は二重の意味で危機に陥っている。

 ラピスちゃんさえ無事なら―――アキトさんにリンクを通じ話し掛ける事が出来るのに!!

 

「・・・地球人にしては優しいのね。

 私達が聞いてきた地球人は、冷血で情の欠片も無いといわれてるけど。」

 

「当てはまる人もいるけど、地球人全員がそんな人じゃないよ。

 ちゃんと優しい人も、親切な人も・・・面白い人もいるわ。」

 

 一瞬、ヤマダさんの顔を思い出し、小さく笑ってしまう。

 考えてみれば、ヤマダさんは何時もあの調子でいることで、一種のムードメイカーになっていた。

 それはハーリー君やウリバタケさんにも言える事かな?

 

 でも、その心地よい場所は遥か彼方にあるわけで―――

 

「ねえ、ユキナちゃんはどうして戦艦に乗り込んでるの?

 見たところ、まだ13歳か15歳よね。」

 

「正解、私は13歳だよ。

 で、理由は簡単―――人手不足だよ。

 まあ私は自分から立候補して軍に入ったんだけどね。」

 

 笑いながらそんな事を述べるユキナちゃんに。

 私は木連の現状を垣間見たような気がした。

 13歳の少女を戦艦に乗せる―――これは木連の深刻な人材不足を伺わせる。

 考えてもみれば、あまり木連の人達の姿を見た事は無い。

 戦闘も無人兵器が多数を占めている。

 もしかすると、人的物量という点においては地球の側が圧倒的に有利なのかもしれない。

 

「辛くない―――こんな戦艦に乗り込んでいて?」

 

「ん―――メグミさんを見てると戸惑いそうになるけど。

 地球人が私達の先祖にした仕打ちは忘れられない。

 それに、私のお兄ちゃんも頑張ってるんだもん、私も負けないように頑張らないとね!!」

 

 屈託の無いその笑顔に、私も思わず微笑み返していた。

 その後、他愛も無い話は続き。

 ユキナちゃんと意気投合をした私だった。

 

 私としても、何時までも落ち込んでいるつもりは無い。

 最後の最後まで足掻くのは、ナデシコクルーとしての私の意地なのだから―――

 

 

 

 そして、ラピスちゃんが目覚めたのはそれから3時間後・・・

 既に、アキトさんは捕らえられた後だった。

 

 

 

 

 

 

 これで私の回想は終り。

 現在、目の前には青い顔をしたユキナちゃんが居る。

 

 部屋に入るなり、ユキナちゃんは・・・

 

「メグミさん、落ち着いて聞いてね。

 テンカワ アキトが・・・狂ったわ。」

 

 そのユキナちゃんの発言に、私の背後にいたラピスちゃんの身体が震える。

 

「現在、この近くのブロックを移動中。

 人間とは思えない力で、次々に私達の味方を倒して・・・いえ、『消して』いるわ。

 とにかく、動いている者には無条件で襲い掛かってくるみたい。

 逃げる気力は残ってる?」

 

「勿論よ。」

 

 私はユキナちゃんの問い掛けに即答をする。

 今、この場に残ったところで―――何も出来ないと解っているから。

 それに、背後で震えているラピスちゃんだけは、何としてでも無事にナデシコに送り届けてみせる!!

 

 アキトさんは・・・きっと無事に帰ってきてくれる。

 そう信じよう―――そして、それだけの強さがあの人にはあるはずだ。

 

「時間が無い、早くここを出よう。

 脱出ポッドに乗り込めば、取りあえず『彼』の脅威からは逃れられるはずだ!!」

 

 ユキナちゃんの背後にいた・・・白衣を着た男性が、私達を急かす。

 そう言えば、この人は一体誰なんだろう?

 少なくとも、私は一度も会った事が無いはず。

 

「一応紹介しておくね、この人の名前はタニ コウスケさん。

 メグミさん達と同じ様に、私が世話をしてたんだけど。

 実はヤマサキの奴に反抗して監禁されてたんだよね。

 で、何かと便利そうだから連れてきたの。」

 

「連れてきたって・・・君ね・・・」

 

 ユキナちゃんのあまりの紹介の仕方に、肩を落とすタニさんだった。

 どう見ても30代・・・それも後半。

 なのに、13歳の少女にあしらわれるその姿は―――ゴートさんを思い出させる。

 

「でも、今がチャンスなのは確かよ!! さあ、早く!!」

 

「ユキナちゃん、でもどうして私達を助けてくれるの?」

 

 一番聞きたい事はそれだった。

 

 私達を助けてくれる事は嬉しい、だけどその為にユキナちゃんやそのお兄さんの立場どうなる?

 敵の逃亡に手を貸した罪は何よりも重い、裏切り行為に値するのだから。

 それは、13歳とはいえ軍属である限り逃げられない楔だった。

 

「気にしない気にしない!!

 どう考えても、あの山崎のやってる事はどう考えても『悪事』だもん。

 それに、お兄ちゃんが手紙に書いてた・・・地球人は必ずしも『悪人』だけではない、って。

 少なくとも、メグミさんは自分の身よりラピスちゃんの事を心配するような『良い人』

 なら、私としては―――助けてあげたいじゃい、その・・・友人なんだしね。

 まあ、いざとなればお兄ちゃんの戦艦に逃げ込めるし!!」

 

 赤い顔をしたユキナちゃんがそう言い放った瞬間。

 

「ほう・・・白鳥少佐も難儀な妹を持ったものだ。」

 

    ガチャッ!!   ガチャ!!

 

 部屋の入り口には―――何時の間にか武装をした兵士が4人で取り囲んでいた。

 引き攣った顔で両手を上げるユキナちゃんとタニさん。

 その顔には冷汗が流れている。

 

「だから、急げと言ったのに・・・」

 

「タハハハハ・・・御免なさい・・・」

 

 

 

 

 

 

「ほら、早く歩け!!」

 

「押さないでよ!! ラピスちゃんと私じゃ歩幅が違うんだから!!」

 

 私とラピスちゃんを先頭にして、後には木連の兵士と両手を縛られたユキナちゃんとタニさん。

 抵抗は―――無駄だった。

 職業軍人を相手にするには、私達の力はあまりに非力すぎる。

 結局、促されるままに廊下に出て・・・私達は兵士の誘導に従い、どこかに連れて行かれるところだった。

 

 パタパタパタ・・・ピタッ

 

 隣を歩いていたラピスちゃんの足が止まる。

 その場から動こうとしないラピスちゃんに、背後の兵士達から怒鳴り声が飛ぶ。

 

「何を止まっている!! 早く歩かないか!!

 言う事を聞く気が無いのなら―――」

 

 兵士の声は唐突に止まった。

 そして、目の前を凝視したまま震え出す。

 

 異変を感じ取った全員が視線を廊下の先に向けた。

 そこには―――完全な闇、『漆黒』が通路の全てを覆い尽くしてた。

 

 言葉では言い表せない恐怖が・・・心の底から湧きあがってくる!!

 

                              コツコツコツ・・・

 

 そして、微かに聞える足音―――

 

「と、止まれテンカワ アキト!!

 お前の大切な仲間と娘の命がどうなってもいいのか!!」

 

 震える声で私達に銃を突きつけ、闇の中に住まう人物に向かって脅し文句を言う兵士の一人。

 だが、その腕は激しく震え・・・今にも弾みで銃のトリガーを引いてしまいそうだ。

 そして私自身は、闇の中心から目を離せないでいた。

 

                   コツコツコツ・・・

 

 闇の侵攻にあわせて近づく足音。

 いやになるほど、ハッキリと聞えるその音が近づくと共に―――私の体温が下がっていく。

 既に私達の身体は『漆黒』に取り込まれていた。

 

          コツコツコツ・・・

 

「き、聞えているのか!! テンカワ!!」

 

 己を奮い立たせるように、ありったけの大声を張り上げる兵士。

 だがその声は闇に吸収され、そして闇からは何も返事は返ってこない。

 

 隣で自分の身体を抱き締めて震え出すラピスちゃん。

 私はその事に気が付くと、無意識のうちにラピスちゃんを胸に抱き締めていた。

 

「お前が我等の要求に従わない場合―――」

 

 そこで兵士の声は止まった。

 見上げた私の視界には・・・顔の中心を、人の腕に貫かれている姿があった。

 

 一瞬で絶命をし、力なく垂れ下がった腕から銃が床に落ちる。

 

「ひっ!!」

 

 そして背後に控えていた三人の兵士達が、仲間が殺された事を理解し反撃を試みる。

 

    ピィィン―――!!

 

 兵士の頭部を貫いていた腕の五指が弾く音が響く。

 それと同時に、兵士達の身体の一部が―――ズレる。

 

 一人は右腕が、一人は首が、一人は両足が。

 

         ドチャッ!!  

 

                    グチャッ!!

 

 両足の支えを失った兵士が床に倒れ。

 頭部を失った兵士が背後に倒れる。

 そして、右腕を切断された兵士が泣きながら、『彼』から逃げようと必死に後ずさる。

 

 何故、漆黒の闇に染まった世界でその光景が見えるのか?

 それは私には理解出来ない。

 ただ、その光景から目を離すことは出来なかった。

 

  コツコツコツ・・・

 

「ひぃ、ひやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

          ズッ・・・ 

 

 逃げ惑う兵士の背中に『彼』の右足が降ろされ・・・

 何の抵抗もなく、突き抜ける。

 

「きゃあ!!」

 

 それを見ていたユキナちゃんが、引き攣った声で悲鳴を上げる。

 

「た、助けてく・・・」

 

  ボシュッ!!

 

 涙目で私達に助けを求めた兵士の頭部が・・・左足の下に消えた。

 そして、『彼』は次の目標として―――私を見詰めた。

 『殺気』だけを漲らせた瞳が正面から私を見詰め、私の身動きは封じられたのだった。

 

 そこには悪夢と呼ぶに相応しい存在が居た。

 

 

 

 

 

 徐々に顔に近づいてくる、漆黒の腕

 その腕が触れた時、どの様な事が起こるのかはもう解っている。

 兵士達はその存在を―――『喰われた』

 指先は抵抗も無く人の身体を貫き、その掌の一撫では肉を削ぎ落とす。

 もはやその存在は戦神などではなく、枷から解き放たれた『死』そのもの。

 

 誰がこの存在に逆らえるだろう?

 

 私もラピスちゃんも、震える身体をお互いに抱き締める事しか出来ない。

 ユキナちゃんやタニさんも恐怖に縛られ、身動きがとれない。

 感情がまるで表れていない『彼』の顔を見詰め、私は震える腕でラピスちゃんを後に突き飛ばす。

 せめて、この隙に逃げ延びてくれれば・・・

 

 その場に座り込みそうになる膝を叱咤して、自分の気持ちを奮い立たせる!!

 

 『彼』がこうなった理由は、私達が捕まった事が関係しているはずだ!!

 なら、その責を受ける意味を込めても、この場は退かない!!

 死ぬ事は怖い、まだまだ遣り残した事は多い!!

 だけど、『彼』をまがりなりにも好きだと思っている以上・・・逃げるつもりは無い!!

 生き延びる事は大切―――けど、ラピスちゃんを手にかければ、きっと『彼』は耐えられない。

 でも、それが私ならば・・・

 

 私の存在が消えて、『彼』が正気に戻った時―――泣いてくれるだろうか?

 感謝の言葉なんて期待していない、だけど私の事を忘れないで欲しい。

 そんな事を願うのは・・・贅沢なのだろうか?

 

 圧倒的な威圧感を感じさせる指先が、私の顔に迫り・・・

 

「駄目!! アキト!!」

 

 ラピスちゃんが私の身体に体当たりをしてきたのは同時だった。

 不意の一撃を受け、私はその場に尻餅をつく。

 そして私の胸元で泣きじゃくるラピスちゃん。

 

 そんな私達を、アキトさんは黙ったまま見詰めていた―――

 

 

 

 

 

   ドゴォォォォォ!!

 

 突然、横手の壁が砕け散り・・・

 一人の男が現れる。

 

「よう、色男久しぶりだな―――

 女泣かせだとは聞いていたが、そんな子供を泣かすのは犯罪だぜ?」

 

 木連の兵士じゃない。

 大柄な男がそう叫びつつ、アキトさんに向かってタックルを仕掛ける!!

 

   ドカァッ!!

 

 予想外の一撃だったのか・・・それともわざとなのか・・・

 アキトさんはその男と一緒に壁を突き抜け、隣の通路へと戦場を移した。

 

「あれは・・・ジェイさん?」

 

「あ、ああ、そうだね。

 だけど、彼は調整中だったはずでは?」

 

 呆けたような表情で、そう呟くユキナちゃんとタニさん。

 しかし、私は逆にその言葉を聞いて冷静になった。

 

 ジェイ―――確かクリムゾングループが放った、アキトさん専用の刺客!!

 

「二人共、早く脱出ポッドに向かいましょう!!」

 

「は、はい!!」

 

「そうだね!!」

 

 私の一喝を受け、動き出す二人。

 床に倒れている兵士達を見ないようにしながら、私はラピスちゃんを連れて歩き出す。

 まだ、悪夢が終っていない事を実感しながら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十二話 その7へ続く

 

 

 

 

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