< 時の流れに >
十七日目 その他クルー
アカツキ ナガレの場合
「ふ〜、仕事が終った後の珈琲は格別だね〜」
エリナ君の煎れてくれた珈琲を飲みながら、僕はそんな感想を述べた。
「・・・その台詞の割には。
それほど仕事は進んで無いわね。」
しかし、エリナ君からの返事は痛烈を極めていた。
久しぶりに勤労意欲に燃えてみたが―――あまり仕事は進まなかったのだ。
元々からして、エステバリスライダーと会長職が兼任できるはずが無いのだ。
それが今までやってこれたのは、やはりエリナ君のサポートが良いからだろう。
「いや、あのね、僕も色々と忙しいんだけどね。」
取りあえず、良い訳じみた事を言ってみる。
「ふ〜ん、『裏』の事情かしら?」
エリナ君はそんな僕の言葉を聞いて、あまり触れて欲しくない話題を振ってきた。
これは・・・どうやら薮蛇だったみたいだね。
「・・・エリナ君、こちらの事情は詮索しないで欲しいな。
僕が初めて―――自分で望んでついた地位なんだから。」
そう、エリナ君にはあまり係わって欲しくない世界だ。
だからこそ、釘は刺しておかなければね・・・
「そう、ね。
確かに私にはその事について、貴方を責める権利は無いわね。
でも、早くそちらの仕事を手伝ってくれる人を捜しなさいよ。
事務仕事はそれほど得意じゃないでしょ?」
僕の意思を汲み、素直に引き下がるエリナ君。
だが、その指摘は確かに正しかった。
僕は苦笑をしながらエリナ君の意見を認める。
「残念な事にこんな世界に女性を連れて行くほど、自分の腕に自信は無いからね。
結局、男性の秘書を雇うしかないのかな〜
嫌だな〜、それは〜」
「贅沢言ってるんじゃない。」
ふざけた返事を返す僕を軽く睨みながら、そんな返事をする。
だが、その後で直ぐに笑いだした。
「はいはい、でもクリムゾンの動きは少なくとも止めれたよ。」
「嘘? どうやって?」
僕の意外な発言を聞いて、驚きに目を大きく開くエリナ君。
僕は悪戯が成功した事に気を良くしたが―――クリムゾンに打った手に関しては話すつもりは無かった。
「それは秘密。」
「何よそれ? 教えなさいよ!!」
そう言われても、これだけは話せ無いんだよね〜
そして暫くの間、執務室には誰何の声とそれをはぐらかす声が響いていた。
プロスペクター & オオサキ シュンの場合
私はオオサキ提督に呼ばれて、提督の部屋へと向かった。
何か重大な話があるらしいですが?
はてさて、何でしょうか?
ピンポーン!!
『プロスさんか?
鍵は開いてるから入ってくれ。』
呼び出しのベルを押してから直ぐに反応があった。
どうやら、オオサキ提督も準備万端で待っていたみたいですな。
「では、失礼しますね。」
プシュ!!
聞えていないと分かっていても、ついつい習慣で挨拶をしながら私は部屋に入った。
部屋の中ではオオサキ提督が難しい顔で書類を睨んでいました。
「私に何か御用ですか?」
とにかく用件を聞き出す事にする。
私が話しかけると、オオサキ提督は書類から顔を上げて目の前のソファに座るように指示をしてきました。
「ああ、とにかく座ってくれ。
多分、長い話になると思うからな。」
・・・オオサキ提督の顔を見る限り、本当に長い話になりそうですな。
まったく、近頃は色々と面倒な事が続きます。
それだけ、この戦争も終わりに近いと言う事だと思いますが。
内心で溜息を一つ吐きながら、私はオオサキ提督の勧めるままにソファに座りました。
「まず、今後の事なんだが―――クリムゾンに対する警戒レベルを一つ下げてもいい。」
「ほぉ、それはそれは・・・私としては嬉しい話ですが、理由はどうしてでしょうか?」
いきなりのオオサキ提督の話に、私は目を細めながら聞き返します。
現在クリムゾングループに対する、シークレットサービスの警戒レベルはSクラス
つまり、ナデシコクルーの家族とその親戚関係までを警備しているのですが。
その警戒レベルを一つ下のAランクにすれば、クルーの家族までが警備対象となります。
そうなれば大幅にシークレットサービスの仕事は軽減されるでしょう。
ですが、オオサキ提督はどんな理由があって警戒レベルを下げるのでしょうか?
私は目でオオサキ提督に説明を請いました。
「理由はな・・・クリムゾンの爺さんも自分の不利を知ったからさ。
まあ、こちらもニ、三の条件を飲まされたがな。」
何故か楽しげに話をするオオサキ提督。
そこには先程の苦悩する表情は、欠片も見られませんでした。
「つまり、それは―――」
「ま、今から詳しい説明をするさ。
取りあえず、プロスさんにも関係ある事だしな。」
「はあ。」
その後、オオサキ提督の説明を聞き。
私も苦笑をしながら部屋を退出しました。
しかし、どうにもこうにも・・・世の中は案外、上手く出来てるみたいですな。
もっとも、本人にとっては良い迷惑かもしれませんが。
「さてさて、早く準備をしておかなければいけませんね。」
私はそう言いながら、軽い足取りで自分の部屋へと向かいました。
それはそうでしょう、確実に私の仕事が減ったのですからね。
白鳥 ユキナ & アオイ ジュン & ハルカ ミナトの場合
「・・・どうして俺がこんな目に。」
「はいはい、アオイ君も愚痴を言ってないでちゃんと荷物を持ちなさいよ。」
私の後ろでジュン君がそう呟き、それに対してミナトさんが注意をしている。
今、私は地球のデパートに来ていた。
何故か今日の昼頃、チョビ髭を生やした眼鏡の人が来て外出許可をくれたのだ。
実はミナトさんが少し前から申請をしていたらしい。
何でも私に地球の事を少しは理解して貰おうとする心遣いみたい。
・・・ま、私の気分転換が一番の目的らしいけどね。
結構、見た目以上に気がまわるんだ。
私も地球の店に興味があったし、何よりもミナトさんが服を買ってくれると言うので飛びついたのだった。
私もやっぱり女の子、オシャレにはそれなりに興味がある。
それに、何故か私を守るなんて宣言した変な人もいる事だし。
―――本当、何故だろう?
後を振り返ると、不貞腐れた顔で大荷物を持つジュン君が見える。
手に持つ荷物は、全て私が買ったもの。
何故かあのナデシコに居て孤立していた人。
その危うげな雰囲気が気に掛り、私がお節介をやいた人。
そして、思い詰めた顔をしながら私を守ると言ってくれた人。
不思議な人だね、本当に。
「しかし、ユキナちゃんが言ってた男性が・・・まさかアオイ君だったとはね。」
何時の間にか私の隣に来ていたミナトさんが、私に向かって小声で話しかけてきた。
私はその声に混じる感嘆の響きに首を傾げる。
「え〜、そんなに危ない人だったの?」
そんな風には見えなかったけど?
私には傷付き、疲れ果てた様にしか感じられなかった。
そう、心の中で泣いている様に見えたのだ―――あの射撃訓練場で、両腕を血に染めながら。
「逆よ逆。
優しすぎるくらい優しい人よ。
・・・だから、自分を責める事しか出来なかった。
詳しい事はアオイ君から聞きなさい。
私には話す権利は無いからね。」
理由を問おうとする私の先手を打って、そんな事を言うミナトさん。
どうやら逃げられてしまった様だ。
・・・と言っても、私の知っているジュン君は捻くれた性格してるからね。
素直に私が聞いたところで、答えてくれないだろうな。
・・・
・・・・・
ああ、もう!!
考え込むのは私に似合わないわ!!
あまり話したくない内容の話なんて、どうせろくな内容の話じゃないだろうし。
忘れ様!!
「ほら、ジュン君!! 次の店に行くよ!!」
「・・・もう、好きにしてくれ。」
「ふふふ、アオイ君はユキナちゃんに勝てない様ね。
でも、この前までの状態よりよっぽどマシね。」
「・・・ふん。」
ゴート ホーリの場合
「だ、誰か・・・水を・・・食べ物を・・・」