< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終日 ????の場合

 

 

 

 

「ふう、何とか準備は終ったな。」

 

 俺はブローディアのアサルトピット内で最後のチェックをしていた。

 最後の最後までドタバタとしていた一ヶ月だったが。

 ・・・今、思い返せばなかなかに味わい深いモノがある。

 俺の両親も生きていれば、俺の事を心配してくれただろうか?

 無いものねだりだと言う事は分かっている。

 ただ、そんな事を思わせるほど・・・皆の両親はそれだけ子供を愛していた。

 

「テンカワ君!! お疲れ様!!

 そうそう、お父さんからメールが来てね。

 今度は負けないってさ。」

 

「・・・元気そうで何よりだよ。」

 

 俺は苦笑をしながら食堂に向かった。

 そろそろ昼飯の支度をする時間だったからだ。

 

 

 

 食堂ではウリバタケさんとホウメイガールズが居た。

 

「え〜〜〜〜!!

 これがウリバタケさんの奥さんとお子さん?」

 

「似てない〜〜〜〜〜!!」

 

「煩いな!!

 ほっといてくれ!!

 誰が何と言おうと俺の家族だよ、こいつらは!!」

 

 パスケースに入っているウリバタケさんの家族の写真を見て、どうやら盛り上がっているみたいだ。

 そう言えば、確かにオリエさんは美人だったもんな。

 俺とユリカの結婚式の仲人を頼みに行った時、初めて見たオリエさんの事を俺は思い出していた。

 

 やがて、騒ぎが収まり。

 ウリバタケさんはパスケースを胸元に仕舞うと、俺に向かって歩いてきた。

 

「おう、テンカワ。

 息子にお前を一度家に連れて帰ると約束しちまってよ。

 この戦争が終ったら、一度家に寄っていけよ。」

 

「ははは、分かりましたよ。

 父親も大変ですね。」

 

「ま、な。」

 

 そして笑いながらウリバタケさんは食堂を出て行った。

 今日も整備班長として、忙しい日を送るのだろう。

 

「ほらテンカワ!! 何時までぼさっとして立ってるんだい!!

 もう直ぐ昼飯を求めて整備班の奴等が襲ってくるよ!!

 早く下拵えをしないかい!!」

 

「了解!!」

 

 俺はホウメイさんの檄を受けて、急いで厨房へと向かうのだった。

 

 

 

「そう言えば、ゴートさんが怪しい宗教に染まってるって話を聞きました?」

 

「はぁ?」

 

 お昼御飯を食べに来ていたメグミちゃんが、思い出したようにように俺に話し掛けてくる。

 しかし、余りに突拍子の無い内容に俺は首を傾げてしまう。

 

「何でも神を見たとか、俺は選ばれたとか、危ない発言を連発しているそうです。」

 

「・・・何があったんだ、ゴートさんに。」

 

「さあ?」

 

 

 

 

 

「アキト、今日の定食は何?」

 

「アキトさん、今日は何かお勧めのメニューは有りますか?」

 

 サラちゃんとアリサちゃんが連れ立って食堂に入って来た。

 どうやらアリサちゃんが、メグミちゃんと交替するサラちゃんを持っていたみたいだ。

 そして二人共に俺の目の前にあるカウンターに座る。

 

「そうだな〜

 定食は魚のフライだけど、お薦めは昨日から煮込んでるおでんだな。」

 

 俺は手元の鍋をかき混ぜながらそう断言した。

 

「おでん?」

 

「何ですかそれは?」

 

 そうか、二人はおでんは食べた事がないのか。

 

「まあ、騙されたと思って食べてみなよ。

 味は保証するからさ。」

 

「う〜ん、アキトがそう言うなら大丈夫よね。

 うん、私はそれでいい。」

 

「なら、私もお願いします。」

 

「了解。」

 

 そして、おでんとセットのおむすびを二人の前に出し。

 首を捻りつつ、フォークでおでんを食べる二人。

 まだ箸の扱いには自信が無いようだ。

 

「あ、味が染み込んでて美味しい!!」

 

「そうですね、なんだか素朴な味で好感が持てます。」

 

 どうやら好評を得たらしい。

 俺は厨房からその様子を見て喜んだ。

 

「そうそう、アキトさん一つ変な噂を聞いたのですが。」

 

 アリサちゃんが何かを思い出した様に、俺に向かって話し出す。

 

「あ、ゴートさんの話なら聞いたよ。」

 

 俺は先手を打つ事にした。

 そう何度も聞きたい話ではない。

 

「その話と違うのよ。

 何でもアオイさんが・・・その・・・ロリコンに走ったって。」

 

 しかし、サラちゃんの口からは意外な事実が話された。

 

 ズルッ・・・

 

 あ、あやうく倒れるところだった・・・

 ジュン、お前そこまで堕たのか?

 

「ル、ルリちゃんとラピスに気を付けるように言っといてよ。」

 

「うん、分かった。」

 

 俺は頭を抱えつつ、サラちゃんにそう頼むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・昼食の忙しい時間が終わり、俺も自室で一休みしようかと思っていると。

 突然、召集がかかった。

 

 ピッ!!

 

『アキト、メインクルー全員に通達事項がある。

 至急ブリッジに来てくれ。』

 

「分かりました。」

 

 シュン隊長の連絡に従いブリッジを目指す。

 しかし、何か問題でも起こったのだろうか?

 

 

 

 

 

 そして、ブリッジには殆どのメインクルーが勢揃いしていた。

 ただ、ジュンとゴートさんが居なかったのが不思議と言えば不思議だ。

 ・・・噂の真相を確かめるチャンスだったのだが。

 

「さて、簡単に現状を説明するぞ。

 前日まで政治部・軍部共に大きな混乱に包まれていた。

 原因は皆が知っている通り、木連の正体を明かしたからだ。

 このために、あらゆる場所で論議が飛び交った。」

 

 そう、投げ入れられた事実の波紋は大きく。

 一時期はこのまま連合軍は分解するのかと思えるほどに荒れた。

 だが、それも既に手を打っていたミスマル提督とグラシス中将、そしてガルト大将の活躍により回避する事が出来た。

 政治部の方は、何でもシュン隊長が直接交渉をした人物の力により、何とか危機を脱したらしい。

 

「この騒動も何とか治まり、現在では地球の総意を代表して和平を唱える事が出来る。

 だが、それもナデシコ一隻により交渉が成功すればの話だ。

 直接木連の和平派と連絡を取れれば問題は無い。

 しかし、残念な事に俺達の初めの交渉相手は―――草壁中将、つまり木連交戦派のトップだ。」

 

 シュン隊長の言葉に全員が黙って頷く。

 自分達が今までさんざん邪魔をしてきた相手に、和平交渉を申し出るのだ。

 その時にどんな軋轢が生まれるのか―――想像も出来なかった。

 

「全員、気を引き締めて臨んで欲しい。

 この出航が終った時、全員がこの場に残って居る事を願う。」

 

 最後にシュン隊長はそう締めくくった。

 俺達は黙り込んだまま、シュン隊長の言葉の意味を考えていた。

 

 これが、最後の戦いになる―――そうなる事を祈りつつ。

 

 

「あ、そうそう。

 実はある人物に協力を要請した見返りに、ちょっとした事を頼まれたんだ。」

 

「はあ? 何ですかそれは?」

 

 急に軽くなったシュン隊長の言葉に付いていけず、ユリカが首を捻りながら尋ねる。

 それを聞いたシュン隊長は、何故か笑いながら俺を見る。

 

 ・・・その瞬間、例の予感が俺の背筋を駆け巡る。

 

 まさか、またとんでもない事が起こるんじゃないんだろうな?

 

「アキト済まん、避けては通れない問題だったんだ。」

 

 先に謝るシュン隊長。

 ちょっと待て、シュン隊長のその態度は無茶苦茶不安を煽ってくれるぞ?

 

 加速する嫌な予感に震える俺の肩を、誰かが気安く叩く。

 振り向くとそこには沈痛な顔をしたアカツキが居た。

 

「テンカワ君、僕としても努力の限りは尽くしたんだ。

 でも、この提案を呑まないことにはクリムゾングループの脅威を取り除けなかった。

 ・・・済まん!!」

 

 そう言ってから、両手を合わせて頭を下げるアカツキ。

 

「お、おい、ちょっと待て・・・二人してそこまで言う事態って何だよ?」

 

 震える声で詰問する俺に、アカツキは視線を逸らしながら・・・

 何やら話し出した。

 

「ネルガル、クリムゾンに並ぶグループはもう一つ存在するんだ。

 名前だけは知ってると思うけどね。

 今まではネルガルとクリムゾンの暗躍を傍観者の立場で見ていた。」

 

 そこから先はシュン隊長が続ける。

 

「本人は覚えているが、お前は忘れていたらしいな。

 もう少し早く気付いていれば、もっと楽が出来たんだが・・・

 まあ、とにかくグループの助力があってクリムゾンの活動は止まった。

 流石に自分と同レベルの相手を、二つ同時に敵に回すのは得策で無いと判断したんだろう。」

 

    ゴクリ・・・

 

 高まる緊迫感に俺は我知らず喉を鳴らしていた。

 なんなんだ、この場を支配する雰囲気は!!

 

「オオサキ提督―――つまり、またなんですね?」

 

 ルリちゃんが冷たい目で俺を見ながらそんな発言をする。

 

「そう、残念だがまただ―――ホシノ君。」

 

  ギン!!

 

 ブリッジ内の空気が凍り付く・・・

 その瞬間、確かに俺は殺気が走りぬけたことを感じた!!

 

「では、紹介しよう・・・

 地球連合軍及び政治部が選んだ和平使者―――」

 

 シュン!!

 

 シュン隊長が指差した先のドアが開き、一人の女性が入って来た。

 

「初めましてナデシコの皆さん、カグヤ オニキリマルです。

 そして―――やっと会えましたね、アキト様♪」

 

 

 長い黒髪をもった美女が涙目になりながら俺を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

「こんにちわ、カグヤ オニキリマルです。

 和平の使者としてナデシコに乗り込み、アキト様との時間を楽しむ私に邪魔が入ります。

 皆さん中々に手強く、くじけそうになることもありましたが、ある事件を切っ掛けに和解をしました。

 その事件とは―――あの赤毛の強襲です。

 通常手段では、どうやっても排除できない相手を前に私達は団結する事を誓います!!

 待ってて下さいねアキト様!!

 きっと、このカグヤがその赤毛から救ってみせます!!

 和平使者? そんな仕事は二の次です!!

 次回、時の流れに 第二十四話 どこにでもある『正義』・・・想いを貫く力」

 

 

 

 

 

第二十四話へ続く

 

 

 

 

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