< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初日 その他のクルー

 

ゴート ホーリの場合

 

 

 

「ねえ、ゴートさん。

 本当にこの設定でいくの?」

 

 シートベルトを締めている俺に、ディア君が確認をしてくる。

 

「うむ。」

 

 緩い場所が無いか、細かなチェックをしながら俺はディア君の問に頷く。

 

「でもこれって・・・シミュレーションレベル マイナス 3だよぉ?」

 

「俺は基礎から学ぶ必要がある―――先の失敗で思い知ったからな。」

 

「・・・基礎にも限度があると思うけど。」

 

 ジト目で俺を見詰めるディア君。

 そんなに珍しい事なのか?

 

「普通の成人男性は、平均してレベル5から始めるよ。

 小学校レベルの子供が、無重力に慣れる為のプログラムがレベル1

 はっきり言って、ゴートさんがするシミュレーションのレベルだと。

 ・・・自分で操作するのは前進後退、それと停止だけだね。」

 

「それで充分だ。」

 

 自信満々にディア君に頷く俺。

 

「・・・取りあえず始めるよ?

 まあ、規定点数に達したら勝手にレベルが上がるから。」

 

「うむ。」

 

 バーチャル装置の内部が暗黒に支配され。

 俺の目の前には、CGで合成されたナデシコの格納庫が現れた。

 

 チャラリラララン!!

 

 唐突に鳴り響く、シミュレーション開始のチャイム。

 

『レベル マイナス 3 スタート します。

 画面の指示に従って、スロットレバーだけを上下してください。』

 

 画面の文字を目で追う―――

 

『では、スロットレバーに手を添え―――』

 

「全力前進だな。」

 

  ゴン!!

 

  ドウゥンンンンンン!!!!!!!

 

『GEAM OVER

 ナデシコは格納庫内の火災により、甚大な被害を受けました。

 パイロット 死亡

 整備員  死者  39人  重軽傷者  78人』

 

「む・・・」

 

 ピッ!!

 

「む・・・、じゃないでしょ!!」

 

 俺の独り言を聞いて、突然現れるディア君。

 その表情を見る限り、かなり御立腹のようだ。

 

「どうしてそこでスロット全開なのぉ?

 画面の指示では、スロットレバーに手を添えるだけだったよね!!」

 

「・・・むぅ」

 

 そういえば、そんな文字が出ていたような気がするな。

 どうも、宇宙船のコクピットは圧迫感があって駄目だな。

 地上では万能な俺も、宇宙では勝手が違うということか・・・

 

「・・・ふっ。」

 

「何一人で自己完結してるかな!!

 あたしもナオさんに頼まれて訓練に付き合ってるんだから!!

 それなりに使えるようになってもらうよ!!

 もう、特訓よ特訓!!」

 

 両手を振り回して俺の特訓を決意するディア君。

 どうやら、かなり怒らせてしまったらしい。

 

 ―――俺の休日はシミュレーションで潰されそうだ。

 

 しかし、ナオの奴・・・前回の事を根に持っているな。

 意外と器の小さい男だ。

 

 

 

 

「でも、よくこんな腕でナオさんと一緒に連絡船に乗ったね?」

 

「ああ、あの時はナデシコ内ではやる事が無かったからな。

 ナオは話し相手として連れ出しただけだ。」

 

「・・・それだけの理由で?」

 

「うむ。」

 

「ナオさん・・・絶対にトラウマになってるよぉ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

ウリバタケ セイヤの場合

 

 

 

「お〜い、帰ったぞ〜〜〜〜」

 

 俺は久しぶりに自宅に帰り、自分の帰宅を家族に知らせる。

 そして、工場の裏手にある家の方から慌しい足音が聞えてきた。

 

    ババタバタ!!

 

「とうちゃ・・・ん?」

 

「あな・・・た?」

 

 玄関に立つ俺を見て、息子のツヨシと妻のオリエの動きが止まる。

 我ながら・・・実に感動的な場面だな〜

 

 戦場から帰ってきた父親の雄姿に驚く息子!!

 生きて帰ってきた夫に感動する妻!!

 

 う〜ん、これぞ漢の浪漫!!

 さあ、俺の胸に飛び込んでこい!!

 

「・・・あなた、ついに捕まったのね。」

 

「・・・は?」

 

 オリエが顔を下に向けて、そっと涙を拭う。

 俺はオリエの言っている事が理解できず、頭の中をハテナマークで埋め尽くしていた。

 

「父ちゃん・・・俺、父ちゃんがお勤めを果たすまで待ってるよ。

 大丈夫、俺―――苛めなんかに負けないから!!

 母ちゃんとキョウカの事は守ってみせるよ!!」

 

「・・・おい。」

 

 小学三年生になったはずの息子が、小さな拳を握り締めてそう宣言する。

 お勤めって―――何だよそれは?

 まるでヤクザの刑務所入り(むしょいり)じゃないか。

 

 呆然とする俺をよそに、オリエは俺の背後の人物に涙目で尋ねる。

 

「それで―――この人の刑期はどれ位になるんでしょうか?

 犯した罪は償うのが世の理です・・・

 ですが、せめて・・・せめて顔を隠すくらいの温情は頂けないでしょうか。」

 

「あの奥さん・・・我々はネルガルのシークレットサービスの者でして、警察じゃないんですよ。」

 

 黒服にサングラスの大男が、多少顔を引き攣らせながらそう返事をする。

 

「え!! じゃ、じゃあ主人が犯罪を犯したので、それを捕まえにきた刑事さんじゃないんですね?」

 

 意外そうな顔をして、黒服の返事を確認する妻。

 

 ・・・お前が俺をどういう目で見てたか良く解ったよ。

 自分の額に青筋が浮かぶのが解る。

 

「あのな・・・今、俺の立場はちょっと微妙なんだよ!!

 だけど随分お前達に会ってないからと思って、無理言ってここまでガードしてもらったんだよ!!」

 

 俺が叫び声をあげるように、今日我が家に帰ってきた理由を話す!!

 

「ちぇっ、つまんないの!!」

 

 そう言って、頭の後ろで両手を組んで自分の部屋に向かう息子。

 ―――ツヨシ、後で父の偉大さを嫌と言うほど思い知らせてやる。

 

 俺はその場で不気味に笑い出した。

 

 

 

「・・・本当に、この人がそんな重要人物なんですか?」

 

「ええ、信じられませんが・・・昔から天才と何とかは紙一重と言いますし。」

 

「あ、それなら納得できますね。」

 

 

 

 お前等・・・後で覚えてろよ。

 

 

 

 

 

 

 

ヤマダ ジロウの場合

 

 

 

「えっと、これとあれとそれと―――」

 

 ピ〜ンポ〜ン

 

 実家に持って帰るモノを選別していた俺に、来客のチャイムが聞えた。

 

「鍵なら開いてるぞ〜」

 

 プシュ!!

 

「やっほ〜、元気にしてるヤマダ君?」

 

 俺が旅行用バックの中に、荷物を詰めていると部屋のドアが開いた。

 そしてそこには普段着姿のヒカルがいた。

 

「おう、ヒカルか。

 ―――何か用か?」

 

 俺はバックのチャクを締めながら、背後のヒカルにそう尋ねる。

 よし、これで準備は終わり、っと!!

 

「別に用事はないんだけどね〜

 皆、実家に帰る準備で忙しくて話し相手も居ないんだ。

 まあ、パイロット以外なら結構ナデシコにも残ってるけどね・・・流石に気軽に話せないし。

 ルリルリ達は何だかアキト君が帰ってこないからって、殺気だってるし。

 気分転換に外を出歩くにも、あんな大人数の黒服さんを引き連れるのも馬鹿らしいしね。」

 

 滅多に見せない気弱げな声と表情でそう呟くヒカル。

 そう言えば、ヒカルには両親も兄弟もいないんだったな・・・

 

 手に持つ旅行バックが、急に重たく感じた。

 帰りを待つ家族がいない―――それはどんな感じなんだろうか?

 少なくとも、俺には両親も兄貴も実家で元気に過ごしている。

 周りが家族との再会に浮かれる中、ヒカルはどんな気持ちでいたのだろうか?

 

 ・・・悩むのは俺らしく無いな。

 

 俺は俺で、何時もの様に向こう見ずに突っ走るだけだ!!

 

「どうせ暇なんだろう?

 俺の実家の近くなら、観光案内ができるぜ。

 それに、一人より二人の方がガードの奴等も楽できるだろうしな。」

 

 何時もの笑顔で俺はヒカルを誘った。

 

「何それ? 女性を誘うにしても芸が無さ過ぎ!!」

 

 言葉は否定的だったが、ヒカルの顔は―――笑っていた。

 

「嫌なら別にいいんだぜ?

 俺の取って置きのコレクションを見せてやろうと思ってたんだけどな〜」

 

 ニヤニヤと笑いながら俺は簡単に折れる。

 

「あ、さっきの発言は却下!!

 ヤマダ君の家族にも興味があるし!!

 私も暇を持て余してたから付いて行くよ!!」

 

「正午には出発するぞ、同行するんなら早く準備をしろよな。」

 

「了解しました!!」

 

 プシュ!!

 

 そう言って、ヒカルは俺の部屋から出て行った。

 ま、普段世話になってるからな・・・ちょっとした恩返しになるだろうさ。

 

 しかし、俺らしく無い気の使いようだぜ。

 やっぱり、魂の名前を封印されたからか?

 

 俺は自室で苦笑をしながら頭を捻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・着々と仲が進展してますね。」

 

「・・・これからどうなるんだろう?(わくわく)」

 

「・・・ヤマダさん (一人だけ幸せになろうなんて・・・許さないよ!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十三話 その5へ続く

 

 

 

 

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