< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日目 メグミ・レイナード

 

 

 二日目はメグミちゃんだった。

 前回の事件の事もあり、俺は何も文句を言わずメグミちゃんの頼みに従い―――北海道の観光をした。

 そう、メグミちゃんの実家は北海道なのだ。

 ジャンプのナビをしているラピスから、観光場所のナビ指定をする度に沸々と怒りの念が届くが・・・

 

 今は帰ってからの事を考えるのは止め様。

 問題を先送りにするのは、誰しも一度はすることだ。

 

 俺はその回数が、少し人より多いだけだ。

 

 

 

 ・・・多分

 

 

 

 

 

 やがて、昼を少し過ぎた頃に俺はメグミちゃんの実家に到着した。

 お昼御飯に食べた海鮮丼は絶品だった、是非もう一度食べたいものだ。

 おっと、思考を戦闘状態に切り替えないとな。

 

 メグミちゃんの実家は、ごくごく普通の家だ・・・外見は。

 ただ、実家が農業を営んでいる為に敷地が凄く広い。

 お陰でブローディアを心置きなく待機させる事ができた。

 

 現在、北海道は3月半ばで冬の猛威が未だ残っている―――

 辺り一面を純白に染めた大地を踏みしめ、俺達は玄関に辿り付いた。

 

「ここが私の実家なんですよ、アキトさん。」

 

「ふ〜ん、そうなんだ。」

 

 また、何か問題がおきたりしないかと構えていた俺は、取りあえず普通の門構えに安堵の溜息を吐く。

 ま、そうそう個性的な『お父さん』がいたら困るよな・・・うん。

 

 ついでに言えば、臨戦体勢を解くつもりは絶対にないが。

 

「じゃ、両親とお姉ちゃん達に会っていって下さいよ。」

 

「・・・解ったよ。」

 

 メグミちゃんに笑顔でそう誘われて、断るほどの根性は―――俺には無かった。

 

 

 

 

 

 

 ・・・・訂正、やっぱり一筋縄ではいかないや。

 

 

 ドドドドドドッドドドドドッドドド!!!

 

「ハナコ!! その外道を踏み潰しちまいな!!」

 

「だから誤解ですってば〜〜〜〜〜!!」

 

 今度はお母さんが―――女傑だった。

 例によって例の如く、俺の事を紹介する時にメグミちゃんは・・・

 

「えっと、この人は職場の同僚のテンカワ アキトさんです。」

 

 なんでも、両親が心配するからという理由でナデシコに乗っている事は黙っているらしい。

 親孝行なんだな、メグミちゃんってさ。

 

「あ、どうもテンカワです。」

 

 柔和そうな顔の小柄な体付きのお父さんに、ニコニコと笑っているこちらも小柄な体付きのお母さん。

 どうやら、普通の夫婦らしい。

 

 俺は人知れず心の中で喝采を上げた。

 昨日の事件は思った以上に俺の心に負担を強いたらしい。

 

「で、このテンカワさんとは・・・どんな関係何だい、メグミ?」

 

 興味深そうに、俺の隣に座っているメグミちゃんに尋ねるお母さん。 

 ちなみに、俺達は今大きな掘り炬燵の中に入っている。

 俺の正面にはメグミちゃんの両親が居る状態だ。

 

 二人のお姉さんは、今は友達の所に遊びに行っているそうだ。

 ・・・しかし、この手の質問は絶対にされるものなんだな〜

 

「え〜? 知りたいのお母さん?」

 

「そりゃ、もしかしたらこの農場を継ぐかもしれない人だろう?」

 

 ゴン!!

 

 その場で炬燵に頭をぶつける俺・・・

 

 しかし、そんな俺のリアクションなど無視をして、話を続けるレイナード一家。

 なんというか・・・逞しい人達だと、俺は感じ入ったね。

 

「テンカワ君、みかんを食べないかね?」

 

「あ、頂きます。」

 

 現実逃避を始めた俺に、お父さんがみかんを一つ勧める。

 何と言うか・・・達観した感じのあるお父さんだった。

 その落ち着いた言動に釣られるように、俺の心も平静を取り戻す。

 

 シュン隊長と何処か似た雰囲気を漂わせる人だな〜

 

 俺はみかんの皮を剥きながら、正面でお茶を啜るお父さんを見ていた。

 

「へ〜、コック見習なんだ。」

 

「そうなの、見習だけど腕も確かなんだから!!」

 

 隣の会話を何気なく聞きつつ、俺とお父さんはTVを見ている。

 もはや、お互いに女性陣の会話に加わるつもりはない様だ。

 

 多分・・・

 

 ピンポンパンポ〜ン!!

 

 ん? 臨時ニュースだと?

 地震でも起きたのかな?

 

 俺は目の前のTVの上部に流れるテロップに注目をした。

 

『北海道に凶暴な狐浮気性の狼が出没しました。

 それを追う為に、5人の捕獲隊員が編成され、1時間以内に動き出すそうです。』

 

「・・・狐は珍しくないが、狼なんてとっくの昔に絶滅したはずなんだがな?」

 

 お父さんの呟きを聞きながら、俺は額に冷汗を流していた。

 ・・・つまり、これは彼女達からのメッセージなのだ。

 コミュニケは場所が場所なので、緊急通信以外は着信拒否になっている。

 そのため、全国ネットでこの臨時ニュ−スを流したのだろう。

 

 多分・・・

 『凶暴な狐』      = メグミちゃん。

 『浮気性の狼』     = 俺(誰が浮気性なんだよ・・・)

 『5人の捕獲隊員』  = 次に運ぶ予定のホウメイガールス

 『一時間以内』     = そのままの意味で一時間以内に戻れ、と言ってる

 

 俺は即断即決した。

 

「メグミちゃん、そろそろ皆の所に帰ろうか?」

 

 ちなみに俺達は今、社員旅行で北海道を訪れている事になっている。

 メグミちゃんは実家が近いので、暫く会っていない両親に会う為に抜け出して来た・・・と言う設定だ。

 

「・・・レイナちゃんとエリナさんの時には、晩御飯まで食べて帰ってきたくせに。」

 

 炬燵から立ち上がった俺を、座ったままの状態で下から見詰めるメグミちゃん。

 う、機嫌を損ねた様だ・・・

 

 俺の背筋に嫌な予感が走る!!

 

 そしてこの手の予感に関して―――俺の的中率は実に十割に達するのだ!!

 言い換えれば、絶対に悪い事が起こるって事だよな。

 

「誰なんだい、そのレイナちゃんにエリナさんって?」

 

 お母さんが首を傾げながらメグミちゃんに質問をする。

 俺は何となく・・・メグミちゃんの返事を予想できた。

 

「あ、テンカワ君が付き合ってる人達よ。

 他にも沢山の女性とお付き合いしてるんだから。

 ね?」

 

 ・・・ね?、って。

 俺にどう答えろというんだい、メグミちゃん?

 

 シーン・・・

 

 そして再び、あの耳が痛くなる様な静寂が広がる。

 TVから聞えてくるバラエティ番組の司会の大声も、気のせいか小さなものになっていく。

 

「・・・た、大切な娘をよくも、よくも、よくも!!

 覚悟は出来てるんだろうね!!」

 

「ま、またこのパターンかよ!!」

 

 俺が振り向いた先には夜叉がいた。

 年季が入っている分、普段見慣れている夜叉より怖さは1.45倍だ!!

 

   ユラリ・・・

 

 そして炬燵から立ち上がるお母さんは、既に戦闘状態に入っていた。

 

 

 

 

 

 話は冒頭に戻り・・・

 

 現在はレイナード家の畑を、飼い牛のハナコと一緒にマラソンをしている。

 ちなみに、出刃包丁を持ったお母さんがハナコの背に乗っている。

 実に見事な乗牛ぶりだ、その姿はまさに女傑の名に相応しいだろう。

 

 ・・・絶対、遅刻だなこれは。

 帰ったらどんな言い訳をしようか。

 

 

 

「待ちなさい!! この人でなしが〜〜〜〜〜!!」

 

「だから誤解ですってば〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

「ンモォォォォォォ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「母さんも楽しんでる様だな。

 しかし、電話で彼とお前の仕事を聞かされた時は、どんな人物かと思ったが。

 とても、噂通りの男とは思えんな。」

 

「そりゃもう、ね。

 でも普段はあんな姿なんだよ、全然威張らない人だし。

 私も正直言ってかなり危ない目にもあったけど・・・今更、諦められないよ。」

 

「ま、面白い青年ではある。

 だが・・・一つの処に落ち着ける人物では、最早あるまい?」

 

「それでも私は着いてくよ、何処までも―――

 例えそれが宇宙の果てでも、ね。」

 

「・・・お前の言葉を信じないわけじゃ無いが、母さんに似て頑固だな。

 態々、あんな厄介な男性に惚れるとは。

 しかし、あの英雄が息子になるのか―――それもまた面白いか。」

 

「へへへ、親孝行でしょ?」

 

「そんな台詞は『彼』をちゃんと捕まえてから言え。」

 

「は〜い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、何とか和解したお母さんと、友人宅から帰ってきたメグミちゃんのお姉さん達に説得され。

 俺とメグミちゃんがナデシコに帰ったのは、次の日の昼頃だった。

 

 ナデシコに帰ってからの出来事は―――言うまでもないだろう。

 ・・・と言うか、聞かないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十三話 その6へ続く

 

 

 

 

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