< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十日目 ラピス・ラズリ

 

 

 

 今日、やっとアキトは帰ってきた。

 随分、憔悴した顔で―――

 

    ドサッ・・・

 

 部屋に帰ってくるなり、布団に倒れ込むアキト。

 近頃はずっとこんな調子。

 

「ねえ、アキト。

 何か飲む?」

 

「・・・」

 

 ・・・返事をする気力も無いみたい。

 

 

『ねえアキト!! お水でも飲む!!』

 

 

 ありったけの意思力を込めて、アキトの脳裏に直接言葉を叩きつける。

 

 ビクン!!

 

「あ・・・」

 

 一度だけ痙攣を起こして、アキトは夢の世界に旅立ってしまった。

 どうやら、本格的に疲れていたみたい。

 

 

 

 結局、アキトが目を覚まさないまま3時間が経った。

 どれだけ疲れていても、短時間で復活出来るアキトにしては珍しい事だと思う。

 余程、疲れていたんだな〜、と私は予想した。

 

 まあ、寝ていても引っ切り無しに通信が入ってくるんだけど・・・

 

 今は私が側に居るので、通信は全てカットしている。

 誰にもアキトの睡眠は邪魔させない。

 

 ドンドンドン!!

 

「アキト〜〜〜!! 次、私の番だよ〜〜〜〜〜!!」

 

 ・・・部屋のドアの前で、ユリカが何か叫んでいたけど、それも無視。

 今、アキトはお休み中だからね。

 それにマスターキーも効かない様に、既にオモイカネに交渉済み。

 物理的手段(つまり破壊)に出ない限り、絶対に部屋のドアは開かないね。

 

 勿論、私はアキトの隣に潜り込んでご満喫中だった♪

 

ピッ!!

 

『ラピス!! 通信拒否のレベルを下げてなさい!!

 緊急通信だけを繋ぐなんて、非常識ですよ!!』

 

 ちっ、一番厄介な人物が残ってたねそう言えば。

 私はここは物理的な障壁(つまり布団)を展開し、敵(ルリ)の視線から逃れた。

 

『ラピス!! 何処に隠れているんですか?

 ・・・と言っても、隠れる場所なんて限られてますよね。』

 

 ふふん、分かってるんなら早く消えてよね。

 アキトの睡眠の邪魔だよ。

 ついでに言うと、私とアキトの睡眠だけど。

 

 私はルリの怒鳴り声でアキトが起きる事を危惧して、渋々ながら布団から顔を出す。

 

『ラピス!!』

 

「しぃ〜、そんな大声だとアキトが起きちゃうよ。」

 

『くっ!!』

 

 私の注意を聞いて、小声になるルリ。

 どうやら、まだ辛うじて理性は残っているみたい。

 

 ここは追撃を掛けるべきね。

 少なくとも、あと二日は口を出せないように。

 

「アキトも連日の警護で疲れてんだから、少し休ませてあげようよ。」

 

 勿論、私はアキトが何故疲れているか正確に知っている。

 だって、始終呻き声が頭の中に響いていたんだもん。

 

 でも、皆個性的な親だよね〜

 この親にしてこの子有りって感じかな?

 アキトが始終振り回されていたもんね。

 

『ですが、スケジュールが大幅に遅れているんですよ?』

 

「あ、ルリはアキトの健康より仕事のスケジュールの方が大切なんだ?

 ふ〜ん、そうなんだ〜、アキト可哀相〜」

 

『むっ!!』

 

 私の返事を受けて、かすかに眉を顰めるルリ。

 この後のアキトの予定は―――

 

 ユリカ → リョーコ → サラ & アリサ → ルリ となっている。

 

 アキト自身が休む予定が入っていないけど、それは里帰りが早く終れば休めると考えたから。

 ・・・アキトの思惑では、1週間ほどで警備の仕事は終る予定だった。

 

 で、現実には予定の半分も消化しないまま、既に1週間以上が過ぎている。

 絶対、考えが甘いって―――アキト

 

 もし、このまま時間が経過してしまえば・・・場合に寄ると、アキトと一緒にルリはピースランドに帰れないかもしれない。

 だからルリは焦っているのだ。

 それもこれも、ジャンケンで負けたルリが悪いんだけどね。

 

 そして、私の帰る場所―――帰るべき場所は、アキトの側

 

 だから私としてはナデシコの中にアキトが居て欲しい。

 アキトを引き止める理由はそれだけ。

 

 別に嫌がらせがしたい訳じゃ無い―――多分

 

『・・・後、3時間したらまた伺います。』

 

「了〜解♪」

 

 ピッ!!

 

 不機嫌な顔のルリに向けて、私はピースサインを繰り出した。

 それを見たルリが、少し表情を変化させたが―――特に何も言わずに通信ウィンドウを閉じてしまった。

 

 ・・・う、ちょっと調子に乗りすぎたかも?

 きっと、陰険な仕返しを考えてくるよ。

 

 まあ、その時はその時だよね。

 

 私は今後の不安を紛らわせるかの様に、再びアキトの側で丸くなる。

 既に、過去に跳んできてから一年と半年近くが過ぎ去った。

 ・・・未来でも、私はアキトの側にあった。

 そして、この世界でも。

 

 でもそれは当たり前。

 

 私の居場所は、アキトの隣にしか無いのだから。

 

 この先もきっと、ずっと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十三話 その10へ続く

 

 

 

 

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