< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では!! 木連の和平使者の方々の到着と!!

 地球・木連間の和平成立を願って!!」

 

 

「乾杯〜〜〜〜〜〜!!」 

 

 

 ナデシコ艦長の音頭にあわせて全員が一斉に乾杯の声を上げた。

 気絶から回復したばかりの私も、その勢いに釣られて手に持つコップを振り上げる。

 

 ところで・・・どうして、私は展望室なんかに居るの?

 

 

 

 

 

「あ、目が覚めたのかい零夜ちゃん?」

 

「えっと・・・誰でしたっけ?」

 

「おいおい、酷いな〜僕の事忘れちゃったのかな?」

 

 私に話し掛けてきた長髪の男性・・・確かに見覚えはあった。

 地球で枝織ちゃんを追跡する時に、一緒に出歩いた人だったよね。

 随分とその場のノリで動いていた人だったけど。

 

 ・・・あ、そう言えば千沙さんにちょっかいを掛けてる人だ。

 飛厘さんが楽しそうにこの前話してくれたし。

 

「思い出しました!! 確かアカツキさんでしたっけ?」

 

「そうそう。」

 

「この戦艦の専属レポーターさんですよね。」

 

「・・・君は戦場で会った事あるでしょうが・・・僕と。」

 

 あれ? そうだったけ?

 そう言えば聞き覚えのある声よね。

 通信は開いていても、映像では見た事が無かったから。

 それに、インパクトが薄いし・・・アカツキさんって。

 まあ、周りの人物の個性が余りにも強すぎるせいかもしれないけど。

 

 ・・・それが一番不幸なのかな?

 

 

 

 

 

 あれから落ち込むアカツキさんを慰めていると。

 

「アカツキ・・・お前、まだ懲りていないようだな・・・あぁん?」

 

 目付きの悪い、作業服を来た男性が絡んできた。

 思わずアカツキさんの背後に隠れる私・・・

 

「ウ、ウリバタケ君!! これは誤解だよ!!」

 

「ほっほぉ〜?

 俺には暴漢から女性を庇うナイト様にしか見えんぜ? ん?」

 

 自分の事を暴漢って自覚してる人って、実は確信犯かもしれない。

 

 怪しく眼鏡を光らせる男の人を見ながら、私はそんな感想を抱きました。

 結局―――その後、アカツキさんは沢山の男性に引きずられて会場を去って行きました。

 その男性達が時々「裏切り者」とか、「貴方こそユダに連なる者なんだな!!」とか言ってました。

 ・・・私には意味がよく分かりませんでしたけど。

 

 とりあえず、開き直って今は枝織ちゃんの隣に居ます。

 アカツキさんの行方はこの際、綺麗に忘れる事にしました。

 だって、何処に連れて行かれたのか知らないんだし。

 

「ねえねえ、零ちゃん!!

 これ、この料理が美味しいんだよ〜♪」

 

「あ、本当だ。」

 

 楽しそうに笑いながら料理を勧める枝織ちゃんの隣で、私は食事を堪能していた。

 木連の戦艦では考えられないほど贅沢な食事・・・

 いえ、木星でもこれほどの料理は中々食べられない。

 地球と木星との根本的な『力』関係は、こういった所でも確認出来てしまう。

 この戦争が長引けば長引くほど、木星の人達の生活は苦しくなる一方なのに・・・

 なのに、戦争を止めようとしない人達がいる。

 本当に木星や地球を支えているのは、一番無力な人達のお陰だというのに。

 

「零ちゃん、何かゲームが始まるらしいよ?

 一緒に見に行こうよ!!」

 

「ちょっと待ってよ枝織ちゃん!!

 私もまだ食べたい物があるんだから〜〜〜〜」

 

 今は深く考える事を止め様。

 少なくとも、一歩ずつでも和平に向けて私達は歩んでいるのだから。

 その為に、今精一杯の努力してるのだから・・・

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちわ、皆さん!!

 今回のレクリエーションの司会を担当しているヤガミ ナオでっす!!」

 

 何時ものサングラスに何時もの黒いスーツ姿。

 そのスタイルで臨時会場の上でマイクを片手に声を張り上げるヤガミさん。

 

「・・・ナオさん、あんた逃げきれたんだ?」

 

「余計な突っ込みはノーサンキューだ、アキト。」

 

 司会の第一声と、その隣に何故か居るアキトさん。

 呆れた表情をしながら、頭の後ろで手を組んでいます。

 服装は何故か黄色の制服にエプロンです・・・何だか着慣れてません?

 

「では、今回の取って置き!!」

 

「あ・・・」

 

 ヤガミさんが声を張り上げた瞬間―――アキトさんが天井を見上げました。

 

   ドサッ・・・ 

  

 そして会場の天井から、何か黒い物体が落ち。

 全員が思わず見守る中、暫くビクビクとのたうっていた物体が・・・小声で発言をしました!!

 

「うううう、酷いや・・・僕は何も悪い事をしてないのに・・・」

 

「ハーリー君、危ないから天井で遊んじゃ駄目だよ?」

 

「・・・なんか発言がズレてるぞ、アキト。」

 

 いえ、ヤガミさんの発言もズレてると思います、私は・・・ 

 

「ナオ様ぁ・・・」

 

   ビクッ!!

 

 地獄の底から聞えてくるような怨嗟の声・・・

 その声に反応して体を振るわせるヤガミさん。

 

 全員が声のした方を向くと、そこには!!

 

「お恨み・・・申し上げますぅ・・・」

 

 右手に小刀、左手にクナイの束を握り。

 青い顔をした―――百華ちゃんが舞台上に居ました。

 その立ち姿は・・・まさに鬼女と呼んでも差し支えは有りません。

 

 そして、その百華ちゃんを見て唖然とする私達。

 

「・・・ナオさん、その・・・随分と身体を張ったレクリエーションだな?」

 

「んな訳あるかい!!」

 

      バッ!!

 

 アキトさんの感想にそう突っ込んだ後、ヤガミさんは舞台上から消え去りました。

 ええ、綺麗さっぱりに一瞬にして?

 

 ・・・どうやって消え去ったんだろう?

 

「ふふふふ、また逃げるんですね?

 私という者がありながら、地球で結婚まで約束した女性を作るなんて・・・うふふふふふ。」

 

 ユラリと揺れながら、静かに狂気を募らせていく百華ちゃんに話掛ける事が出来る人物は少ない。

 実力胆力共にトップを行くこの人だからこそ、今の百華ちゃんに話し掛ける事が出来るのだ。

 

「あ、あのね?

 ナオさん一応、前からミリアさん一本だけだったんだけど?

 それは俺が保証するからさ?」

 

 それでも額に少し汗を掻きながら、百華ちゃんに注意をするアキトさん。

 

「貴方にそんな事を言われても、全然説得力がありませんね。」

 

 

「そりゃそうだ。」 × 会場の全員

 

 

 百華ちゃんの突っ込みにその場の全員が速攻で頷いた。

 勿論、私も。

 例外を上げるとすれば、話に付いていけず不思議そうに百華ちゃんとアキトさんを見ている枝織ちゃんくらいだ。

 そして百華ちゃんの一言と、会場の総意に心を打たれ―――

 

「いいもん〜、どうせ俺なんてさ・・・へへへへ、何時か何処かで復讐しちゃる・・・」

 

 アキトさんも別の世界に旅立った。

 舞台の袖の方で壁に指で穴を開けてる・・・

 

 そして百華ちゃんを制止する人物は消え去り、静かに百華ちゃんは展望室から退出したのだ。

 ・・・ヤガミさん、大丈夫かな?

 でも百華ちゃんを止めるのは私には無理だから、心配するだけなんだけどね。

 

 

 

 

 

「ねえねえ、アー君どうしたの?

 百華ちゃんとナオさん、何処に行っちゃたんだろう?」

 

「・・・また艦内を走りまわってるんだろ、きっと。」

 

「では、この私プロスペクターが新しい司会を努めさせて貰います。

 いやいや、やはり私にはこういう役が一番似合いますな〜

 そう思いませんか、テンカワさんに枝織さん?」

 

 何故か一人で納得しながら蝶ネクタイを締めなおすプロスさん。

 そして舞台上には・・・これまた何故か所在なげに立っているアキトさんと枝織ちゃん。

 いえ、少なくとも枝織ちゃんはアキトさんと遊べて楽しそうだ・・・

 つまり全然プロスさんの言葉を聞いていません。

 

「でね、アー君、どうして私達がここに立ってるの?」

 

「・・・俺が知りたいよ。」

 

 ・・・ま、それも何時もの事か。

 

「・・・さて、話を進めましょうか。

 やはりこの様なパーティの場合、必ず行なわれるのがビンゴ大会ですな。

 大は政界の政治基金集めのパーティから、小は町内会の年末年始助け合いパーティまで。

 実に幅広く活躍している伝統あるゲームです。」

 

 さすがナデシコクルーの一人。

 全然、枝織ちゃんの行動に動揺をしていない。

 そのまま、まるで何事も無かったかのように司会を続ける。

 

 でも・・・ビンゴ大会って何?

 

 

 

 

 

 簡単な説明をプロスさんから聞いて、私は一人納得していた。

 でも、納得していないのが舞台上の二人・・・

 

「なあ、プロスさん。

 それじゃあ俺と枝織ちゃんは抽選係なのか?」

 

「むぅ、枝織もビンゴがしたかった・・・」

 

 やたらと巨大なビンゴマシーンを見て、複雑な顔をしながらアキトさんが尋ねます。

 ちなみに枝織ちゃんは片手間にそのビンゴマシーンを操って遊んでいます。

 

    グルングルングルン・・・

 

 そして・・・予想以上の加速をした、ビーチボール位の大きさの白いボールが一個。

 

   スポン!!

 

 籠の出口から勢い良く飛び出し、舞台袖で気絶していた物体(ハーリー君と呼ぶらしい)に凄い勢いで激突します。

 

    メキョ!!

 

「!!!!!!」

 

         ドスン!!   ・・・・ゴロゴロゴロゴロゴロ

 

 ・・・どうやら、プラスチック製の軽いボールだと思っていましたが。

 着地音を聞く限り、かなり硬質な―――そうビリヤードのボールに使う様な材質のボールみたい。

 実際、着地後に床を転がるボールの音は決して軽くは無かった。

 

 ちなみに、出た番号は4番

 

 その光景を見ていた全員が、無言で手元のビンゴカードから4番を抜き出しました。

 残念な事に私は外れ。

 

 

 

「いえいえ、お二人にそんな役は望みませんよ。」

 

 しかし、アキトさんの質問に微笑みながら答えるプロスさん。

 目の前で起きた先程の事件は、無視する事に決めたみたい。

 アキトさんの後ではビンゴに飽きたのか、枝織ちゃんが拗ねた目でプロスさんを見ている。

 考えてみたら、あの二人と正面から交渉するなんて・・・凄い人だね、プロスさん。

 

「じゃ、プレゼントを配る係か?」

 

 背後に山の様に積まれたプレゼントを見て、溜息を吐くアキトさん。

 ついでに言えば、何故かその景品の山の中から二人の人物の顔が出ている。

 そう、枝織ちゃん命名の『白鳥さん』達が動かない体を更にロープで縛り上げられ、景品と一緒に並んでいた。

 

 ・・・良いのかな、アレを景品にしちゃって?

 

「ふふふふ、これで恨みっこ無しですね、ミナトさん」

 

 何処か逝っちゃってる目で商品(白鳥さん)を眺めてる千沙さん。

 

「ほほほほ、そうね、千沙ちゃん。」

 

 千沙さんに釣られ、怪しい雰囲気を振り撒いてるミナトさん。

 

「・・・いや、まあ、貰えるなら・・・断るつもりはないが。」

 

 ちょっと顔を赤らめながら、ビンゴカードを片手にウロウロとしている万葉さん。

 

「ま、色々と使い道はあるしね〜」

 

 万葉さんとは対照的に、落ち着いた物腰で戦闘に挑むヒカルさん。

 でも眼鏡越しに見える瞳の奥には・・・何でもないです、はい・・・

 

 この4人の周りには誰も近づこうとしなかった・・・

 私も近づきたくなんかない。

 

「・・・あの人達を抑えるのが俺達の仕事?」

 

「・・・何かヤだな、枝織も。」

 

 疲れた顔で千沙さん達を眺めるアキトさんと、枝織ちゃん。

 その気持ちは良く分かる。

 

「どう考えても、テンカワさん以外に適任は居ないと思うのですがね?

 もし断られるのなら・・・」

 

「なら?」

 

 そこで眼鏡を掛け直すプロスさん。

 

「・・・景品になってみますか?

 お二人をセットにして?」

 

 わ〜、当たったら太陽系を支配できそうだね、その景品

 ちなみにプロスさんの顔は恐いほどに真面目だった。

 ついでに言うと、その場に参加してる全員の視線も凄かった。

 

「・・・頑張ろうか、枝織ちゃん?」

 

「・・・う〜みゅ・・・」

 

 あの二人に敗北感を与えるなんて・・・偉大な人だね、プロスさんって。

 

 その後ビンゴ大会は大した混乱もなく終った。

 ・・・ニ度ほど青い顔をしたヤガミさんが乱入してきて、それぞれ枝織ちゃんとアキトさんに撃退されていたけど。

 相手が悪過ぎるよ、ヤガミさん。

 それ以前に、どうして乱入するかな?

 余程追い詰められていたんだろうな〜、今回の百華ちゃん『必殺』モードだったし。

 

 

 結果発表

 

 私、ゲキガンガーグッズを1セット

 ・・・艦に帰ったら、男性クルーの人にあげよう。

 

 話題の中心、『白鳥さん』達を引き当てた人はいうと・・・

 『白鳥さん』其の壱、怪しい眼鏡のオジサン、ことウリバタケさん。

 同上 其の弐、大男のゴートさん。

 

 以下、その時のコメント・・・

 

「げっ!! 『白鳥さん』かよ!!

 ・・・ところでアンタ、どっちだ?」

 

「ふっ、我が神の僕となるべき定めをお前は持っていた。」

 

 3分後、二人共に謎の襲撃にあい殲滅

 私は犯人を目撃したが、彼女達の名誉の為に見て見ぬ振りをする事にした。

 

 だって・・・自分の命は惜しいもん。

 

 

 

 

 さんざん、騒いで。

 美味しい料理を堪能して。

 戦争中なのに、その戦争を一時の間だけど忘れる事が出来て。

 

 凄く―――楽しかった。

 

 こんな日々が何時までも続く事を、私は切に願う。

 

 

 ポン・・・

 

 物思いに耽る私の肩に、誰かが手を置く。

 不思議に思いながら振り向くと、そこには穏やかに笑う飛厘さんの顔があった。

 

「あ、飛厘さん。」

 

「零夜ちゃん、格納庫の件は忘れてないわよね?」

 

    ピキッ!!

 

「勿論、私も居るわよ♪」

 

           バキィィィィィィンンン!!

 

 飛厘さんの背後から現れるイネスさんを見て、私は自分が気絶をした理由を思い出した。

 そして、既に逃げ場は残されていなかった・・・

 

「「さ、医療室にでも行きましょうか?」」

 

 その後の事は・・・覚えていない。

 多分、記憶を消されたんだと思う。

 何処も改造をされていなければいいんだけれど・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十四話 その6へ続く

 

 

 

 

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