< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕達は大切な友人を失った!!

 彼女は木連の未来を憂い、卑劣な地球人にも手を差し伸べる優しい女性であった!!

 正に木連魂の鏡と言えよう!!』

 

『地球人は和平交渉という罠を使い!!

 僕を狙い!! そして僕を庇った彼女の命を奪った!!

 この暴挙はまさに僕達の御先祖が受けた仕打ちに等しい!!

 いや、それすらも超えている!!』

 

 

 わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

 

『最早僕達に残された道は唯一つ!!

 正義と言う二文字を、あの極悪卑劣な地球人に思い知らせてやるだけだ!!

 その為にも皆!! 今は苦しくとも頑張って乗り切ってくれ!!

 全ては正義の為に!!

 レッツ!! ゲキガイン!!』

 

 

『ゲキガイン!!』

 

 

 

 

 

 

「・・・茶番、だな。」

 

「・・・そして、死して英雄となりけり、か。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そちらの準備はどうだ、源八郎?」

 

 俺は草壁閣下の演説を複雑な心境で聞いた後、源八郎の戦艦「かんなづき」に来ていた。

 俺が現在受け持っている戦艦「ゆめみづき」は既に発進準備は終っている。

 既に木星に帰り着いてから一ヶ月が経つ。

 その間にも木連軍は大きく変わっていった。

 

 そして・・・後は、火星を経由して地球に向かうだけだ。

 

 だが、何故草壁閣下は火星に向かうのだ?

 近頃は草壁閣下の行動の一つ一つに俺は疑問を抱いてしまう。

 九十九の裏切りに対しても、具体的な説明は何もなかった。

 そして舞歌様の死因の説明すらも・・・

 

「まあ、順調に進んでいるさ。

 ただ、飛厘に顔を合わすことが出来なかった事が心残りだな。」

 

「・・・俺も京子殿には会えず仕舞いさ。」

 

 そう、優華部隊は・・・解散された。

 元々からして、舞歌様の直属の部下だった彼女達。

 その舞歌様が亡くなった今、その籍は氷室殿の直属となり・・・

 今は何をしているのかすら、俺達には教えてもらえなかった。

 氷室殿に詰め寄ったところ、一言―――

 

「それぞれの得意分野で働いて貰っている。」

 

 と、説明をされただけだった。

 

 実際、会えないだけであって連絡は何とか取れる。

 だが、通信機越しの会話だけであり。

 その居場所を俺達が知ることは無い。

 それにどうやら自分達のしている事を俺達には話せない状態らしい。

 

 ・・・何処からか、圧力が掛っているのか?

 それはつまり。

 

「つまるところ・・・人質、か。」

 

「源八郎!!」

 

 源八郎のその一言に、俺が過剰に反応する!!

 この一ヶ月、俺達はさり気無く監視を受けていた。

 俺も源八郎もかなりの腕を持つ身だ、幾ら気配を殺していても監視者の存在を誤魔化せない。

 いや、それを知った上で俺達に監視者を派遣していたのだろう。

 

 つまり、これは警告だった。

 裏切り者 白鳥 九十九の友人の俺達に対する。

 

 そして、今は大切な女性すらその身を拘束されたのだ。

 

「すまん、少し頭に血が昇っていたみたいだな。

 ・・・少し部屋で落ち着くか。」

 

「そうだな。」

 

 そう言って艦長室に移動する俺達。

 自分の艦内にあって、何故か敵陣の中に思える。

 いや、木連と言う軍自体が既に俺の知る軍ではなくなりつつあった。

 

 プシュ!!

 

 艦長室に入り、壁に背を預けたまま俺は話を切り出した。

 源八郎も心得たもので、椅子に座りながら俺の話を聞いていた。

 

「既に、今回の討伐軍の動員数は過去最高の数にのぼっている。

 その為に、木連のコロニー各地で深刻な人手不足がおこっているそうだ。」

 

「・・・元凶は、山崎のチームが発明した空間歪曲場の保護による、空間跳躍の可能化が原因だろう。

 俺達の様に遺伝子に手を加えずとも、人を空間跳躍で運べるのだからな。

 それに今回の演説だ、木連男児なら・・・喜んで参戦をするだろう。」

 

「・・・そうだな。」

 

 源八郎の返事を何処か他人事の様に聞き流す。

 

 普通なら・・・いや、少し前の俺なら今頃は血気盛んに叫んでいただろうな。

 

 何時からだろう、こんな風に自分の周りを疑い出したのは?

 何故だろう、木連の行いに疑問を持ち出したのは?

 

 そう、全ては―――

 

「源八郎、お前は本当に・・・奴が事の張本人だと思うか?」

 

「それは・・・分からん。

 お前と九十九は相対した事があるが、俺は一度も会った事は無いからな。

 どんな男なのか、全く予想はつかんよ。」

 

「・・・確かに、馬鹿な事を聞いてしまったようだ。」

 

 アイツは背筋が凍り付くような『力』の持ち主だった。

 それも、北斗殿と互角に戦っている時点で、俺では相手になっていない事は分かる。

 だが、その戦いには―――木連式柔に通じるモノがあった。

 

 正々堂々の真っ向勝負

 

 どちらかと言うと、俺や九十九に近い感じを受けていた。

 そんな奴が突然・・・あのような行為に走るのか?

 それも裏切り者の烙印を押された九十九を引き連れて、ナデシコに帰るなど・・・

 不利な条件を自分から引き入れるだけではないか?

 

 やはり、真実は九十九・・・お前と共にありそうだな。

 これは是が非でも、九十九を問い詰める必要がありそうだ。

 

 ピッ!!

 

『失礼します!! 秋山少佐!!』

 

 突然、源八郎に通信が入った。

 俺は邪魔にならないように口を塞ぐ。

 

「何だ?」

 

『実は先程緊急連絡が入りました!!

 氷室殿より至急発進されたし、との事です!!』

 

 ・・・何か動きがあったという事か?

 

「・・・随分と急だな。」

 

『はい!! 何でも火星にあのナデシコが現れたそうです!!

 現在は南雲殿が奮戦をし、敵を押さえ込んでいますが・・・そう長くは持たないとの事!!

 我々優人部隊は先陣をきって火星へと跳ぶ、との事です!!』

 

 どうやら、火星にはなにか大きな秘密があるらしいな。

 草壁閣下の最初の目的地は火星だった。

 そして、あのナデシコも地球ではなく火星に現れた。

 全ての事象が―――火星に集いつつある。

 

 俺と源八郎は無言で頷き。

 それぞれの持ち場へと帰って行った。

 

 何かが終わり、何かが始ろうとしている予感だけが、俺の中で高まってきていた。

 

 

 

 

 そして九十九よ、お前も火星で俺達を待っているのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドゴォォォォォォォォォォ!!!

 

「リョーコ君!! フォーメーションが崩れてきてるよ!!」

 

『分かってるよ!! そんな事は!!

 でも仕方が無いだろうが、一体戦力比がどれだけあると思っていやがる!!』

 

 僕の言葉に反論をしながらも、無人兵器の猛攻を凌ぎ。

 不用意に近づいてきた無人兵器を纏めて赤雷の一撃で叩き斬るリョーコ君。

 しかし、多勢に無勢な現状は・・・まだまだ改善されそうになかった。

 じりじりと敵の数は減ってきている。

 フルバーストを使えば、次の瞬間には一掃出来るだろう。

 

 ・・・しかし、僕達の目的は無人兵器の破壊じゃない。

 遺跡の奪還こそが、本来の目的なのだ。

 レイナ君とウリバタケ君が、総力をあげて作成したジャンプ・フィールド&ディストーション・フィールド発生装置。

 そして、艦長とイネスさんによるボソンジャンプ。

 

 僕達は無事に火星へと辿り付いた。

 だが、それは同時に火星を占領している木連軍との戦闘の始まりでもあったのだ。

 

 そして、今の戦場にテンカワ君の姿は無い。

 

 何故ならば―――

 

 

 

 

 

『・・・そうか、遂に皆に正体がばれたのか。』

 

 ボスッ・・・

 

 少し眉を顰めた後、ベットに再び倒れ込むテンカワ君。 

 

『勝手な事をして悪かったね。』

 

『ケース バイ ケースさ。

 どうせ、何時かは話さないといけない事だった・・・

 逆に、俺が自分で話さなかっただけ気が楽だったかもな。』

 

 僕の謝罪の言葉に対して、苦笑をしながらそんな事を言う。

 テンカワ君が目覚めたのは、例の説明をしてから10日後・・・

 既にジャンプ・フィールドとディストーション・フィールドの強化は形になりつつあった。

 テンカワ君が目覚めた以上、不要かと思ったが―――

 

『どうする、直ぐに火星に跳ぶかい?』

 

『・・・無理だな』

 

 僕との問いは素気無く断られた。

 そしてテンカワ君はベットに寝転んだまま、目を閉じている。

 

『それはまた、どうしてさ?』

 

『あのな・・・一応俺は重症なんだぞ?

 しかも腹にはつい最近まで大穴が開いていたんだ、今無茶をして怪我を悪化をさせてどうする?』

 

 ・・・そう言えば、常人なら即死の大怪我だったんだよね。

 今現在、僕と会話が出来ているだけでも、まさに奇跡らしいし。

 

 テンカワ君の怪我の凄さを思い出し、ちょっと後頭部に汗が浮かぶ。

 僕も馬鹿な事を言ったもんだね。

 

『・・・不本意だが、火星へのジャンプはイネスさんとユリカに任せる。

 俺は完全に傷を治して、北斗との決着に備えなければならないからな。』

 

『やっぱり、説得は無理かい?』

 

 説得が出来れば、最早怖いモノなしなんだけどさ。

 どうにもこうにも―――テンカワ君の傷を見る限り、問答無用に思えるね。

 もっとも、テンカワ君も北斗自身にかなりの深手を与えたそうだけどさ。

 

『無理・・・だろうな。

 北斗も枝織ちゃんも、育った環境のせいで・・・ある意味『純粋』過ぎる。

 与えられる情報は少なく、選択肢は限りなく少なかった。

 また、それに疑問を持たないように育てられてきたんだ。

 どうしても他人の情報に踊らされやすい・・・北辰と山崎の目的の為には、そう育てるしかなかった。』

 

『つまり、テンカワ君を敵だと信じ込んでいる、と?』

 

 僕の問い掛けに、暫く考え込むテンカワ君だった。

 

『いや・・・半信半疑、かな?

 信じたい、だが信じられない。

 更に裏切られる事を恐れるから。

 だがこれは北斗の思いだ、ここに枝織ちゃんが加わった時―――どうなるのかは俺には分か・ら・・ん。』

 

 その返事と同時に、眠りにつくテンカワ君。

 どうやら身体は休憩を欲しているのだろう。

 ・・・ここはこれ以上無理をさせないべきだね。

 

『と言うわけで、皆も自分の部署に戻るように。

 テンカワ君のお見舞いはまた今度にね。』

 

 カーテンの向こう側に集まっていた女性陣に僕が宣言する。

 全員揃って、不機嫌な顔をしているが・・・テンカワ君の状態が状態なので納得してくれたみたいだ。

 ぞろぞろと連れ立って医療室を抜け出していく。

 

 ・・・少なくとも、あのテンカワ君の過去を知っても嫌いにならなかったみたいだね?

 

 テンカワ君が自分の過去を知られる事を恐れていた事を、僕は知っている。

 それはそうだろう、あれだけの事をしてきたのだ。

 彼の心に傷が無いはずがない。

 最後の最後になって、一人で死ぬ事を選んだのがもっともたるところだ。

 

 だが、現在のナデシコはそんなテンカワ君さえも認めた。

 

 静かに眠るテンカワ君を一度だけ見て、僕は押し殺した声で笑った。

 嫌なことや心苦しい事件が続く中で、久しぶりに心から笑えた気がする。

 

 このナデシコを守りたかった君の気持ちは、僕も理解出来るよテンカワ君。

 

 

 

 そして、今―――

 

 

 対北斗戦の為にテンカワ君を温存し。

 僕達だけで無人兵器の相手をしていた。

 今の僕達になら、不可能ではないはずだから・・・

 

 

 

 

   ピッ!!

 

『敵陣の後方にボーズ粒子の拡大を確認しました。

 ・・・木連からの増援、と思ってまず間違いないでしょう。』

 

 ルリ君が落ち着いた声で報告を入れてくる。

 

 そう、これは予想された事だった。

 テンカワ君自身が北斗との決着に拘った結果、選ばれたのがこの方法。

 木連の人間も、ナデシコが攻めてくれば―――テンカワ君の事を思いつくだろう。

 そして、救援を求める事が出来る人物といえば・・・北斗しか居ない。

 

 多分、後に控えているであろう草壁もまず北斗を当てる事で、テンカワ君の無力化を計るだろう。

 彼の立場からすれば―――ナデシコさえ落とせば、大幅に勝利への近道になる。

 火星の遺跡を独占し、意気消沈した地球連合軍を駆逐。

 そして、その野望は留まる事を知らずに走り出すだろう。

 

 自らの信じる『正義』の名の元に。

 

 だが、生憎と僕にはその『正義』が容認できない。

 なにより、窮屈そうだ。

 

「さて、と・・・皆、今後はナデシコを守りつつ後退。

 後は見物させてもらおうか、あの二人の戦いをね。」

 

 

 そして、それは向うの陣営も同じだったらしく―――

 

   ズササササササササササササ!!!

 

 火星の空を埋め尽くしていた無人兵器達が道を開け。

 真紅の機体がゆっくりとこちらに向かって飛んで来る。

 

 そして、ナデシコからは漆黒の機体が静かに立ち上がる所だった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十五話 その7へ続く

 

 

 

 

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