< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほえ〜、本当にアキトとDさんが戦って、こんな事になったの?」

 

 ウィンドウに映る場面は、大きく抉られた床に縦横に走るヒビ。

 そして、一際巨大な亀裂を刻み込んだ壁だった。

 何でもアキトの放った最後の一撃により、この壁の亀裂は刻まれたらしい。

 

 ・・・どうやって作ったんだろう?

 

 私は首を傾げながら、その風景に魅入っていた。

 

「遺跡の切り離し作業自体は、順調に進んでいます。

 ですが、切り離した演算ユニットを運ぶ方法が問題ですね。

 どうしますか、艦長?」

 

「えっえっ?」

 

 突然、私にそんな事を聞いてくるルリちゃん。

 咄嗟に私は返事を出来なかった。

 そして慌てる私の代わりに、ミナトさんがルリちゃんに質問をした。

 

「ルリルリ、見た目以上に重たいの、アレって?」

 

 目の前のウィンドウに映っている金色の演算ユニットを指差し、そんな事を尋ねるミナトさん。

 実はミナトさんは凄く機嫌が良かったりする。

 まあ、あれだけの大舞台で告白をされたらね・・・

 う〜ん、アキトも私にそれだけの事をしてくれないかな〜

 

「重さ自体はそれほどでもありませんよ。

 ただ、普通の運搬車ではあの起伏の激しい道を走れないんです。」

 

「じゃ、テンカワ君にブローディアで運んで貰いましょう。

 どちらにしろ、ブローディア以外のエステは現在稼動不可能だしね。」

 

 ルリちゃんの話を聞いていたエリナさんが、素早く決断をする。

 私も別に異論は無かったので、オオサキ提督の意見を聞いてみる。

 

「私もエリナさんの意見に賛成ですけど。

 オオサキ提督に何か案はありますか?」

 

「後は時間との勝負だからな・・・

 遺跡の切り離し作業が終わり次第、アキトに運ばせるか。

 床をこんな風にした責任の一端は、アキトにあるんだしな。」

 

「じゃ、私がアキトに連絡をしておくね〜♪」

 

 オオサキ提督の言葉を聞いて、ラピスちゃんが真っ先に動いた。

 しかも、コミュニケじゃなくて自分の足で・・・

 まあ、ラピスちゃんはそれほど忙しい状態ではないので別にいいけど。

 ・・・私も行きたかったな。

 

 

 

 こうして、アキトがブローディアで演算ユニットを運ぶ事が決まった。

 う〜ん、アキトがゆっくり休める時間は、もう少し先になりそうだね。 

 ・・・ご愁傷様、です。

 

 

 

 

 

 

 

「でも、地球に帰ってからが大変ですね、艦長。」

 

「ん〜、それは仕方がないよ。

 だけど、もう和平は目前だし、私達が戦う事はないとおもうな。」

 

 メグちゃんの言葉に返事をしながら、私は草壁さんの事を考えていた。

 もしかすると、まだ私達の出番はあるかもしれない。

 でも、それは草壁さんの判断次第だね。

 

「戦争もそうですけど・・・別の意味でも大変だと思いますよ。」

 

「あら、気が合うわねサラさん。

 私も今その事を考えていたところよ。」

 

 何故かサラちゃんとエリナさんが睨み合ってる。

 

「ふふふ、私もそう簡単に譲る気はありませんよ?」

 

「それは私も同じです。」

 

 メグちゃんが低い声で笑いながらそう宣言をし・・・

 ルリちゃんがそれに対抗するように名乗りあげる。

 

 そして・・・こそこそと、オオサキ提督がブリッジを抜け出し。

 ゴートさんは青い顔で何事か呟きながら、胸で・・・逆十字をきってる?

 ゴートさんの宗教って一体?

 

「ユリカ、俺は遺跡切り離しの現場監督をしてくる・・・それじゃ。」

 

「あ、ジュン君!!」

 

 ジュン君もそそくさとブリッジを出て行ってしまった。

 ・・・ハーリー君だけが、泣きそうな顔で周りを見回している。

 どうしたんだろう?

 

「酷いや、僕だけ置き去りにして・・・

 ううう、とばっちりがきませんように。」

 

 ぶつぶつと呟いているハーリー君を、不思議に思って眺めていると・・・

 ルリちゃんが笑いながら私に話し掛けてきた。

 

「艦長はアキトさんの事を諦められるんですね?」

 

「そんな事ないよ!!

 う〜、その話だったんだね。

 アキトに関しては地球に帰って、和平が成ってから決着をつけましょう!!」

 

「了解!!」

 

 私達は今まで十分に苦しんだ。

 アキトはその何倍も辛い思いをしてきた。

 ・・・なら、今度は楽しい思いをする番だ。

 

 ―――私はそのアキトの隣に立ってみせる

 

 

 

 

 

 

 オオサキ提督はナオさんのお見舞いに向かったらしい。

 医療室でイネスさんや、フィリスさん達と談話をしている。

 

 ゴートさんは未だ眼が虚ろだ・・・かなり怖い。

 地球に帰ったら、有名なその手の病院を薦めよう。 

 

 ・・・それより、アキトかナオさんに頼んで連れて行って貰おう。

 

 ハーリー君は何故か安堵の溜息を吐きながら、自分の作業を頑張っている。

 

 ラピスちゃんはアキトに存分に甘えた後、ブリッジに戻ってきている。

 私を含め・・・皆の鋭い視線を前にして、勝ち誇った顔をしている。

 

 メグちゃんやサラちゃん、それにミナトさんは会話に華を咲かせてる。

 一体、何の話をしてるんだろうか?

 

 エリナさんは私の隣で、遺跡の切り離し作業を見守っている。

 色々と思う事があるんだろうな〜

 

 プロスさん、アカツキさん、フクベ提督が食堂で真剣な顔で話をしていた。

 今後の予想でもしているのかな?

 

 食事をしている北斗さんを取り囲んで、リョーコちゃん、アリサちゃんが話をしている。

 これには結構驚いた・・・どんな話をしてるんだろう?

 

 食堂の片隅でヤマダさんを取り囲んで、ヒカルちゃん、イツキちゃん、イズミさんが責めている。

 どうやら、ヤマダさんの事で何か文句を言ってるみたい。

 

 ホウメイさんの手伝いを、カグヤちゃんとホウメイガールズがしている。

 きっと整備班への差し入れを作っているんだ。

 

 イネスさんの養母・・・イリスさんの病室では、タニさんが沈痛な表情で何かお話をしていた。

 

 

 

 

 一通り艦内の様子を私が見た時に、ルリちゃんが遺跡の切り離しの終了を教えてくれた。

 

「艦長、遺跡の切り離しが終了しました。

 ブローディアでも運搬が可能な様に、取っ手も付けられたそうです。」

 

「それならアキトに連絡を私が―――」

 

「もう私が入れました。」

 

「・・・ルリちゃんの意地悪。」

 

 拗ねながら私がウィンドウを見ると、アキトが乗るブローディアと入れ替えに。

 ウリバタケさんとジュン君、それにレイナちゃんが帰ってくるところだった。

 整備班の皆さんも、わいわいと騒ぎながら帰ってきている。

 

 後は地球に帰るだけなんだ、気持ちが弾むのは仕方が無いよね。

 まだ火星の上空では、舞歌さんと草壁さんが睨み合ってる。

 続々と舞歌さんの部隊に投降者がきているそうだ。

 ・・・草壁さんが判断を下す決め手は、やはり遺跡の喪失だと思う。

 遺跡が手の届かない場所にいけば、諦めもつくだろう。

 

 そして、全員がナデシコに乗り込み。

 アキトのブローディが演算ユニットに近づいた時・・・

 

 それは起こった―――

 

 

 

「アキト!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十六話 その13へ続く

 

 

 

 

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