< 時の流れに >
演算ユニットに取り付けられた取っ手・・・
それをブローディアが掴んだ時、それは活動を開始しました。
『何!!』
アキトさんの驚愕の声と共に、正方形だった演算ユニットがその形を変え襲い掛かります!!
一瞬にしてブローディアの両手を包み込み、凄い速度で触手のようなモノを伸ばしていきます!!
『くっ!! 何なんだこれは!!』
驚きから立ち直ったアキトさんが、ブローディアを激しく動かしても、その触手は離れません!!
『ルリ姉!! システムが・・・私達がハッキングを受けてるよ!!』
『駄目だ!! プロテクトが全部突破される!!』
泣きそうな声でディアとブロスが私に通信を入れてきます!!
しかし、こちらからは・・・全然ディア達の状況が分かりません!!
何故なら通信以外の電波が全てキャンセルされているからです!!
「ルリ!! ブローディアを中心にジャンプフィールドが発生してる!!」
ラピスが悲鳴のような声で私にそう告げます!!
一体、何が起こっているのでしょうか?
『・・・ルリちゃん、ナデシコもジャンプフィールドを展開するんだ!!
ディストーション・フィールドの展開も頼む!!』
「アキトさん?
そんな、まさか!!」
私は驚いた顔でアキトさんを見ます。
『・・・遺跡自身が、ブローディアを取り込みつつジャンプを決行しようとしている。
遺跡を破壊をするわけにはいかない以上、ナデシコをジャンプさせる機会は今しかない!!
さあ、早く!!』
「ルリちゃん!! 今はアキトの指示に従って!!」
「・・・はい。」
アキトさんと、ユリカさんの説得に従い・・・私は艦内に緊急通信を入れます。
確かに迷っている時間すら、惜しい状況です。
私は急いでジャンプフィールドと、ディストーション・フィールドの展開をしました。
『間に合えよ―――ジャンプ!!』
アキトさんの叫びと共に、私達はジャンプをしました。
そして―――
私達がボソンジャンプを終えた時・・・
目の前には地球がありました。
漆黒の宇宙に浮かぶ青い星。
―――そして、ナデシコと地球の間に浮かぶ、遺跡と融合を続けるブローディアが。
「アキト!! 今ならジャンプで逃げられるよ!!」
ユリカさんの叫びに・・・
『・・・駄目だ、俺のジャンプイメージは全て遺跡にキャンセルされている。
ナデシコを連れてのジャンプは出来たのにな。
どうやら、俺個人を逃がすつもりはないようだ。』
淡々と現状を述べるアキトさんに、私達は絶句しました。
つまり・・・アキトさんに逃げ場は無いと言うのですか?
やっとここまで来たのに。
あれだけ辛く苦しい思いを抱えて、遂に和平が成ろうとしているのに!!
次の瞬間、ブローディアを中心に再びジャンプフィールドが形成されます!!
「アキトさん!!」
『・・・システムを完全にハッキングされたようだな、流石オリジナル、と言ったところか。
くそっ!! 何か手は無いのか!!』
アキトさんもアサルトピット内で、色々と脱出する手段を探しているようですが。
完全にシステムは乗っ取られた状態の様で、私のハッキングも受け付けません!!
「ルリちゃん!! ナデシコをブローディアの近くに寄せて!!
ジャンプフィールドに接触していれば、私達も同じ場所にジャンプできるんでしょ?」
「はい!!」
『それは止めろ!!』
ユリカさんの提案を止めたのは、アキトさんでした。
『もう、間に合わない・・・
それに、何処とも知れぬ場所に皆を連れて行きたくはない。
皆の帰りを待っている人が、地球には居るんだぞ。』
「そんな・・・アキトさんを残して帰れません!!」
意味が無いんですそれでは!!
私が・・・私達が何の為に戦ったと思っているんですか!!
それなら、せめて私だけでも一緒に!!
私がそう叫んでいる間にも、ブローディアは虹色の輝きに包まれていきます。
・・・何時ものジャンプとは微妙に違うその光景に、嫌な予感だけが募ります。
「テンカワ!!」
「アキト!!」
「アキトさん!!」
異変を察した人達が、急いでブリッジに集まり。
そして、虹色の光芒に包まれた・・・ブローディアを見て固まります。
「一緒に・・・連れて行ってよ・・・アキト。」
「そうですよアキトさん、また私を置いていくのですか。」
「アキト、ずっと一緒に居るって言ってくれたじゃない!!」
私とユリカさんとラピスが涙を浮かべながら哀願します。
何処に跳ばされてもいい・・・ただ、アキトさんの側に居たいのです!!
『・・・それは無理だ。』
「アキトさん!!」
私の叫びを聞き、アキトさんは優しく微笑みながら・・・
『知ってるだろ?
ウリバタケさんが、何時も家族の写真を持っているのをさ・・・
ユリカにも親父さんが、ルリちゃんにも御両親がいる。
他の皆も地球で待ってる人が居るんだ。』
「私はそれでもアキトと一緒に行きたいよ!!
それに・・・ラピスちゃんはどうするの!!」
ユリカさんが泣き叫ぶように訴えます!!
確かに私の我儘に付き合って、ナデシコクルー全員がジャンプする訳にはいきません・・・
ですが、私とユリカさんやラピスくらいなら、ブローディアに乗り込めば―――
ドサッ・・・
ブローディアのシートに背を預け、目を閉じるアキトさん。
そして、呟くように話を続けます。
私達は一言も聞き逃さない様にと、息を飲んでアキトさんの言葉に耳を傾けました。
『済まんな、ユリカ・・・ラピスを頼む。
お前なら、ラピスに『家族』というものを教えてやれる、それに皆もいるしな。
俺の記憶を持っているだろう?
本当に楽しかったんだ、あの時は―――
ルリちゃんと3人で、ラーメンの屋台を引いてさ、たまに皆が集まって来て、一緒に騒いで。』
「だったら!!
また一緒に住みましょうよ!!
今度はラピスも一緒です!!
皆さんが・・・皆が揃っているんですよ!!
あの時の想い出を、もう一度取り戻せるんです!!」
何時の間にか・・・私は涙を流しながらアキトさんに叫んでいました。
あの時の想い出は、私が初めて身近に『家族』を感じた瞬間でした。
その想い出を糧に、どれだけの日々を過ごしたでしょうか?
アキトさん達が消えた後、眠れぬ夜に何度あの公園に訪れたでしょうか・・・
もしかしたら、お二人が・・・アキトさんがそこに居ると思って。
『・・・ジャンプが最終段階に入ったようだな。』
周囲の変化に目をやり、決められた事実を述べるように平坦な声でアキトさんが呟きます!!
「アキト!!
また皆を置いて行くの!!
あの火星の後継者との戦いの後で、私とルリちゃんを置いて行ったみたいに!!」
ユリカさんの言葉を聞き、アキトさんが顔を上げ―――
『ユリカ!! 俺が何時、諦めると言った!!
皆は地球に帰るべき場所がある、だからこそ俺は一人で消える!!
それでも!!』
素早くブリッジに居る人達に視線をあわせ。
全てを残さず記憶するかの様に、真剣な目で私達を見詰めた後・・・
明るく笑いながら・・・
『俺が帰るべき場所は・・・ナデシコだ!!
皆が揃っているナデシコだ!!
何処に跳ばされようと、俺は絶対に帰って来る!!
例え、遥かな距離だろうと、時を超えても―――』
パシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
最後の約束の言葉を残しつつ・・・
ブローディアは・・・アキトさんは消え去りました。
後には虹色の光芒の残滓だけが残されて・・・いました。
私はその光景を、呆然とした顔で・・・
ただ、見つめていました。
大切な人が再び消え去った現実を認めたくなくて。
過去で再会をしてから、今までの日々・・・
アキトさんがあれだけ傷ついて、苦しんで、欲した和平がやっと成ろうとしているのに。
何故、こんな事に?
だけど―――
「・・・勝ち逃げは許さんぞ、アキト。」
何時の間にかブリッジに入って来ていた北斗さんが、ウィンドウを睨み付けてそんな事を言います。
他の皆も信じられないという顔で、アキトさんが消えた画面を見ています。
そして、私は―――
「帰ってこなかったら追っかけるまでです。」
「ルリルリ・・・」
「だってあの人は・・・」
全員が注目する中で、私はあの時と同じ言葉を言います。
「だってあの人は大切な人だから!!」
一度は何も告げられずに、あの場を去られました。
でも、今度は再会の約束を私達にしてくれたのです。
ならば、その贈られた言葉を信じて待ちます・・・
でも、時間が掛かるようでしたら―――
覚悟して下さいね、アキトさん。
私は必ず・・・貴方を見つけてみせますから。
必ず―――
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本当に長い間、有り難う御座いました
END