< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、連絡船で飛べる所まで飛んで・・・

 後は光学迷彩のマントを纏って、飛び降りるしかないな。」

 

「そうだな、連絡船を着地させている時間が惜しい。

 ところで、その『光学迷彩のマント』・・・とは何だ?」

 

「・・・お前等、自分達を基準に話を進めるなよ!!

 一応言っておくがな、俺は高度何百メートルから飛び降りたら死ぬ身体なんだぞ!!

 お前達みたいに体重を消したり、昴気で衝撃を相殺したり出来ないんだからな!!」

 

 テンカワと北斗の会話を聞いて、ナオの奴が吠える。

 ・・・まあ、その気持ちは分からんでも無い。

 組んだ相手が悪かった、としか言えんな。

 

 でも、近頃はナオの奴も人間離れした動きをしてたと思うが・・・

 

「ウリバタケさん!!

 何かこう・・・便利な発明品は無いんですか?

 空を飛んだり浮いたり出来るやつ!!」

 

 俺の両肩を掴んで激しくシェイクをするナオ。

 どうやら二人は本気で身体一つで、連絡船から飛び降りるつもりだったらしい。

 だが生憎と、俺もそんなに都合良く発明をしているわけがない!!

 だから俺がナオに言える事はこれだけだ!!

 

「根性だ!! 根性さえあれば空も飛べる!!」

 

「飛べるか!!」

 

 どうやら俺の回答は気に入らないみたいだ。

 ま、俺も絶対に不可能だと思うが。

 

「あの・・・班長?」

 

「ん、何だ?」

 

「昔、冗談で作った背負い式のロケットブースターが使えるのでは・・・」

 

 おお!! そういえばそんなモノを作ったよな!!

 某同盟の襲撃からの緊急脱出を目的とした発明品だ!!

 ただ、余りに初速が強烈過ぎて・・・実験用の人形が粉々になったんだよな。

 

 チラリ、とナオの奴を見る。

 ・・・こいつなら、下手なマネキンよりよっぽど丈夫だろう。

 瞬間的に10Gが掛かったとしても、耐えれると思う・・・多分。

 

「そのロケットブースターを使えば、無事に地表に降りれるんだな?」

 

「その通りだ。

 着地する手前で噴射をすれば十分に減速が出来る!!」

 

 俺の言葉を聞いて顔を輝かせるナオ。

 

「よっし!! それを頂いていくぜウリバタケ班長!!」

 

「・・・なら、俺達もその手でいくか。」

 

「そうだな、今は無駄な体力を使う訳にはいくまい。」

 

 この二人は別格として。

 ナオの奴は無事に地表に辿り付けるかどうかは・・・神のみぞ知る、だな。

 

 ガッポーズをしているナオを横目で見ながら、俺は整備班の一人に品物を用意させる。

 ロケットブースターが3つに、光学迷彩のマントが3つ。

 俺達が準備に追われている間に、テンカワと北斗はレイナちゃんと打ち合わせをしていた。

   

「レイナちゃん、どれくらいでブローディアを戦闘に耐える位に修復出来そうだい?」

 

「難しい質問ね・・・

 今は通常の小型相転移エンジンが止まっているのを、二つ目のエンジンを動かす事で補ってる。

 だから、出力的には通常時と同じだけ搾り出せる計算だけど。

 最後の激突で受けた衝撃で、機体自体にかなりの歪みや回路の断線が起きてるわ。

 チェックの時間と修理を考えると・・・どんなに早くても2時間。

 でも、これは動かせるようになるだけに必要な時間よ?」

 

「それも、仕方が無いな・・・

 御免だけど、直ぐに修理に入ってくれ。」

 

 ブローディアの故障個所を示したスキャンを見ながら、レイナちゃんが難しい顔で答えている。

 その答えを聞いて、テンカワは肩を少し落とした。

 そして北斗はブローディアの隣に置かれているダリアを見上げ、何かを考えている。

 

 現在、優華部隊と共同戦線を張ったエステバリス隊が奮戦をしている。

 単純な計算では戦力は2倍になった。

 そして、舞歌嬢の登場により木連軍の本体は混乱状態だ。

 ・・・今は六連、とテンカワが呼んでいた機動兵器と無人兵器だけを相手にしている。

 しかし、無人兵器の数が数な為、未だに優位とは言えない。

 そして嵯峨菊からの相転移砲の攻撃は、今もなお続いているのだ。

 

 

 

 

 

 

 準備が整い、連絡船にテンカワ達が乗ろうとした時・・・

 テンカワを呼び止める声が格納庫に響いた。

 

「アキト様!!」

 

「カグヤさん?」

 

 手に大きなバスケットを持って現れたのは、カグヤちゃんだった。

 何故かエプロンを着けている。

 いや、似合ってはいるが・・・なかなかに新鮮だな。

 

「実は食堂のお手伝いをしているんです。

 おにぎりを作っておきましたから、手が空いた時にでも食べて下さい。

 沢山作ってありますから、ヤガミさんと・・・北斗さんもどうぞ。

 ちょっと・・・形は不細工ですけど。」

 

 カグヤちゃんが少し照れながら差し出したバスケットを、テンカワが嬉しそうに受け取る。

 その心使いが、嬉しかったのだろう。

 

「有難う、移動中に食べさせて貰うよ。」

 

「・・・私は戦闘時に使える技能を持ち合わせておりません。

 ですから、こんな形でしかアキト様の応援は出来ません。

 後は精一杯、無事を祈らせて貰います!!」

 

「帰ってくるよ・・・絶対にね。」

 

 バスケットを片手に連絡船に乗り込むテンカワに、カグヤちゃんが話し掛ける。

 その声援を聞いて、テンカワは大きく頷きながら連絡船に消えていった。

 ・・・後は、あの三人だけの戦場に向かうだけだ。

 俺達には本当に祈る事くらいしかしてやれない。

 

 連絡船を発射口まで誘導しながら、俺達は声援を送り続けた。

 テンカワ達が無事に帰ってくる事を祈りつつ。

 

 

 

 そして、連絡船は戦場へと旅立った。

 この戦争の元凶となった遺跡へと向かって・・・

 

 

 

 

 

「で、カグヤちゃん。

 俺達も結構お腹が空いてるんだけど?」

 

「あ、大丈夫ですよ。

 ホウメイガールズの皆さんが、もう直ぐ沢山の差し入れを持って来られます。

 私はアキト様の為に、一足早く格納庫に来ただけですから。」

 

 ・・・よく喧嘩にならなかったな。

 全員がテンカワの奴に差し入れしようと考えると思ったが。

 

 口に出しては言わなかったが、顔に出ていたのだろう。

 カグヤちゃんは俺の疑問に答えてくれた。

 

「私は・・・本当に料理なんて出来ません。

 ですからホウメイさんに頼んで、おにぎりの作り方だけ教えて貰ったのです。

 この戦闘状態のナデシコでは、私の居場所なんてありません。

 ですが・・・何かアキト様の手伝いになる事をしたかったんです。

 ホウメイガールズの皆さんは、ホウメイさんの手伝いで今は大忙しですから。」

 

「・・・人にはそれぞれの役割、ってモノがある。

 俺は機械の整備しか出来ねぇ、ナオも戦う事しか知らねぇ。

 テンカワもそうだ、艦長もな。

 足りない場所を誰かが補っているんだ。

 カグヤちゃんの仕事は、和平が成った後にくるんだろう?

 今はホウメイさんの手伝いをしているだけでも、大助かりさ。」

 

 俺の言葉を聞いて、少し考えた後。

 カグヤちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

『東 舞歌!!

 お前の今までの所業は全て覚えているぞ!!

 ここにその証拠は揃っておる!!

 お前こそ木連を地球人に売った売国奴だろうが!!』

 

『何を勝手なことを!!

 私は木連の存続の為を思い、地球人との和平を進めたまで!!

 自分の野望の為に、地球からの和平使者を殺人犯に仕立て上げ!!

 なおかつ、氷室君を問答無用で殺すその冷酷さ!!

 手段を選ばぬ咎人とは、貴方の事でしょうが!!』

 

 二人の舌鋒の中、木連の軍勢は揺れていた。

 死を告げられていた舞歌嬢の登場・・・

 そして、氷室の死・・・

 しかし、舞歌嬢が実は地球人と懇意の仲であった事。

 幾たびも、地球の・・・俺達ナデシコと接触を持っていた事に驚いている。

 

 今、彼等は自分達の正義に疑問を持ち出しているのだ。

 昔、俺達がテンカワにこの戦争の意味を問われたように。

 

『・・・元一郎!! 源八郎!!

 俺は舞歌様を信じる!!

 何より氷室殿の遺志を守ってみせる!!』

 

 突然、その二人の舌鋒に割り込んだのは・・・白鳥だった。

 どうやら、ブリッジに上がり通信に割り込んだようだな。

 

『白鳥少佐・・・貴様も地球人の女の色香に迷い、大義を見失いおったか!!』

 

 

 

『人が人に惚れて何が悪い!!』

 

 

 

 白鳥の一喝に・・・草壁の声が初めて止まった。

 

『・・・人に惹かれるのは、人間として当然の事だ!!

 確かに自分はハルカ ミナト殿に惹かれている!!

 だが、草壁閣下の理想に共感をし、その元に集った事も本心からだ!!

 氷室殿もまた然り!!

 舞歌様の力になるために、その身を捧げた!!

 なのに草壁閣下・・・貴方は何故そんな私達を、捨て駒の様に扱ったのですか!!』

 

『説明をすれば、納得をしたのかね?

 木連の存続の為に、捨て駒になれと命令をすれば。』

 

 冷ややかな声で、草壁は白鳥の質問に逆に聞き返してきた。

 その返事を聞いて、白鳥が搾り出すように心情を語る。

 

『・・・自分は、舞歌様を殺害した犯人の一人に仕立て上げられました。

 そして、それは和平を潰す為の手段でしかなかった。

 それも草壁閣下の理想に反する、という理由だけで・・・

 本当にこの戦いに『正義』は存在するのですか?』

 

『私の考えこそが確固たる『正義』だ。

 貴様の様な腑抜けには、永遠に理解は出来ないと思うがな。』

 

 そう断定すると同時に、草壁は通信を切った。

 後には呆然とした表情の俺達が残されていた。

 

 

 

 

 

 

「ルリルリ、今の戦況はどうなんだ?」

 

『・・・月臣さんと秋山さんが、白鳥さんの檄に同調して下さいました。

 それと、舞歌さんからの情報では、西沢さんの縁の方が味方につかれるそうです。

 その他にも草壁と舞歌さんの演説を聞き、草壁側から抜け出している方々もおられます。

 しかし、それでも舞歌さんの部隊の総戦力は木連軍の3割程度。

 今はお互いに、下手に動けない状況です。』

 

 俺の問いにルリルリは直ぐに答えてくれた。

 どうやら、絶望的状況―――まではいってないみたいだな。

 この戦況を動かす鍵は、やはりアイツか。

 

 俺はもうそろそろ連絡船からダイビングを敢行している、テンカワの事を思い出していた。

 やはり最後の最後まで、テンカワが決着を付ける事になるらしいな。

 

 

 

 

 ―――頑張れよ、テンカワ

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十六話 その5へ続く

 

 

 

 

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