< 時の流れに >
外伝 漆黒の戦神
デート(俺はそう思ってる)は別段たいしたトラブルも無く。
平和な時間を過ごして終った・・・
俺とミリアは、な。
「ど、どうしてレイナちゃんがここにいるんだ?」
「あれ、アキト君じゃない?
私は街にパーツの買出しに来たんだけど。
アキト君こそ何をしに街に出て来たの?」
「はははははははははは・・・」
「あ、アキトさん!!
丁度良かった、姉さんとはぐれてしまったんです!!
・・・一緒に捜してもらえませんか?」
「はははははははははは・・・」
「アリサ!! ああ、良かった・・・
はぐれた時の待ち合わせ場所なんて、決めてなかったからね。
あら? アキトじゃない。
どうしたの街に出て来るなんて? 珍しいわね。」
「はははははははははは・・・」
「お姉ちゃん達!!
今日はアキトお兄ちゃんとメティはデートなんだから!!」
「はははははははははは・・・」
「じゃあ、お姉ちゃん達も混ぜてもらおうかな?」 × 3
「・・・どうするの、アキトお兄ちゃん?」
「はははははははははは・・・」
「どうします? アキト(さん)(君)?」 × 3
「はははははははははは・・・はぁ(溜息)」
なんて微笑ましい会話があったが・・・
俺はミリアを連れてさっさとその恥ずかしい集団から逃げ出していた。
・・・まあ護衛はアキトがいれば必要無いだろう。
と、言うか考える限り最強のボディーガードじゃないか。
いや〜絶対に就職に困らないねアキトの奴はさ。
で、俺とミリアは(俺的には)幸せな時間を過ごした。
「なあ、ミリアは装飾品はあまり好きじゃ無いのかい?」
「ええ、余り興味が無いので・・・」
ミリアの母親はメティちゃんを生んで直ぐに亡くなったらしい。
その為、メティの面倒は全てミリアが見てきた。
ミリアにとってメティは妹であり・・・娘なのだろう。
ミリアは今年で24歳だそうだ。
14歳の時からそんな生活をしていれば・・・やはり普通の女性とは違う感性を持つのだろうか?
俺のモーションにも良く意味が解っていないみたいだ。
・・・だから夢中になってるのか? 俺は?
馬鹿な事を考えてるな俺も。
「そう言えばミリアの誕生日って何時なんだ?」
「私、ですか?
2月18日ですけど。」
う〜む、誕生日イベントは来年か。
・・・それまで俺は無事に生きてるかね?
まあ先の事は誰にも解らんさ。
そして、俺達は夕食を食べてから別れた。
・・・何やら一部騒がしい一団が隣にいた為に、ムードも何も無かったがな!!
「こんな所で喧嘩はするなよ〜(泣)」 By モテモテ男
帰りの車内・・・
俺は軍の駐屯地に向けて車を走らせていた。
まあ、軍の駐屯地と言っても直ぐそこなんだがな。
無茶をして10分、安全運転で40分ってところだ。
・・・出来れば無茶はしたくないが。
辺りは月明かりに照らされ薄っすらと森の外観が見えている。
気温は下がる一方だ・・・暖房の効いている車内からは出たくないものだな。
俺は暇だったので、助手席でくたばっている相棒に声をかけた。
「・・・大丈夫かアキト?」
「・・・全然大丈夫じゃないですよ。」
ガタガタ・・・
さすが軍の備品から借りた車だ、乗り心地は今にも天国に行けそうな程に最高だった。
街に出掛ける途中で3回パンクをされた時には、次にパンクをすればここで廃車にする決意をしたもんだ。
その決意が伝わった為かどうか解らないが・・・それ以降パンクは無かった。
しかし・・・本当に軍用の車かよ? コイツ?
などと思ったのが気に障ったのか・・・
バスン!!
俺の運転する車は左に傾いて止まった・・・
「また・・・ですか?」
「ああ、まただ。」
後部座席では三人の美少女が眠っている。
・・・ま、それなりに彼女達も楽しめた様だ。
たまには息抜きも必要さ。
「さて、お姫様達を起こさない様に頑張って修理をするか!!」
「そうですね・・・
ところでどうして俺がメティちゃんと会いに行くのを、彼女達が知ってたんでしょうね?」
「さあな〜、まあ楽しめただろ? お前さんも?」
俺が笑いながらそう応える・・・
まあ、確信犯だったけどな。
「・・・ま、ミリアさんを素直に呼び出せ無い気持ちは解りますがね。
俺を何時までもダシにしないで下さいよ。」
・・・気付いてるのか?
でも人の事は良く解っても、自分の事は絶対まるっきり解ってないだろ?
はあ、鋭いんだか鈍いんだか本当に解らん奴だな・・・
俺達は車の外に降りてパンクの修理をしようとした時・・・
近頃アキトに師事したおかげで鍛えられた俺の勘に・・・何かが引っ掛かる。
俺は薄暗い森の一箇所を睨みつけた。
アキトも同じ方向を睨み付けている。
暫しの沈黙・・・
俺の緊張が高まり、先手を打とうと身体に力を込めた時。
そいつは俺達に話し掛けてきた。
「はははは、さすが稀代の英雄様だな。
俺が隠れている事なんてお見通しか。」
そう言いいながら森から出て来た男は・・・
「お前は・・・クリムゾン諜報部の、テツヤか!!」
「おや? 久しいなナオ。
シークレット・サービスを止めて軍に入隊したのか?」
何を抜け抜けと・・・お前が俺の情報を知らない筈は無いだろうが。
しかし、こんな所でコイツに会うとはな。
「で、用件は何だ?
ご丁寧に車をパンクさせてまでの御招待だ・・・まさかナオに再会の挨拶ではあるまい。」
隣のアキトの殺気が増大していく・・・
俺に向けられている訳ではないが、悪寒が身体中を走り抜ける!!
まったく、つくづく化け物だと思うよ。
「良い殺気だ・・・それでこそ『漆黒の戦鬼』と呼ばれるだけの事はある。
俺達が街で見張っていた時とは全然顔付きが違うな。」
さらりと重要な事を発言するテツヤ。
おい・・・俺達を見張っていた、だと? 俺は視線を感じなかったぞ?
アキトは何故かちょっと上を睨み・・・
「・・・監視衛星、か?」
「御名答!! 頭も回るらしいな。
では、俺の用件も解っているんだろう?」
・・・テツヤの用件。
こいつの仕事を知っている俺には解る。
「・・・アキトをクリムゾン・グループに引き抜くつもりか。」
俺が答えた為に不機嫌になるテツヤ。
「おいおい、折角の余興を潰すなよナオ・・・
まあ、本人も理解していたみたいだけどな。
少なくとも軍隊に出向するよりは破格の扱いを約束しよう。
勿論給料は英雄様の言い値でOKだ。
アンタにはそれだけの価値があるからな。
ネルガルより余程居心地は良い事は保証するぜ。
・・・で? 答えは?」
「断る。」
おお、さすがに即答だなアキト。
だがこの男はそれ程甘い奴じゃない・・・何か仕掛けを用意している筈だ。
「さすが英雄様、誘惑にお強い。」
俺はテツヤのこの芝居がかった物言いが大嫌いだった。
・・・コイツはこの芝居の裏で相手を常に馬鹿にしている。
今度は・・・何を言い出すつもりだ?
「では・・・大切な妹さんの命と引換えならどうする?」
「貴様!!」
「メティちゃん・・・だったかな?
もうそろそろナオの携帯にお姉さんから電話が入るな。」
トルルルル!! トルルルルル!!
その時・・・タイミング良く俺の携帯が鳴る・・・
「出たらどうだナオ?」
くっ!!
テツヤから視線を外さず俺は携帯にでる。
ピッ!!
「もしもし・・・」
「・・・ヤガミさん? ヤガミさんですか!!
大変なんですメティが!! メティがさらわれたんです!!
どうして? どうしてメティが!!」
悲痛な声が俺の心を抉る・・・
さすがだよテツヤ、アキトの唯一と言っていい弱点を突きやがって。
「落ち着くんだミリア。
何か手掛かりは無いのか?」
ミリアから情報を引き出そうとする俺の横で・・・
殺気は鬼気へと劇的に変化していく・・・
こっちもリミットギリギリか。
俺としては止めるつもりも無いが、今は俺達が余りに不利だ。
アキトには我慢してもらうしか無い。
「ははは!! かなり悔しいそうだな?
大切な妹の居場所は明日の昼にでも、ナオの携帯に連絡してやるよ。
それまでに決断をしておく事だな・・・それではさらばです、英雄様。」
優雅に・・・悪意に満ちた礼をしてテツヤは森の中に消えた・・・
後には携帯から聞えるミリアの悲痛な声と。
拳から血を流すほどに手を握り締めているアキト・・・
そして自分の迂闊さを呪う俺がいた。
そして次の日の昼・・・
軍の待合室にメティちゃんの父親とミリア、そして軍の関係者が集まった。
一同が注目する中、テツヤから連絡が入る。
「で、返事は?」
「・・・場所を言え、アキトがそちらに向うそうだ。」
俺が代表してテツヤと交渉をしている。
・・・俺の横ではミリアが今にも泣きそうな顔をしている。
この交渉は始めからこちらが後手に回り過ぎている。
この差を挽回する為には・・・力技しかない。
だが、このテツヤの性格からすると・・・
「ふん、エステバリスで襲撃されるのを待つ程俺はお人好しじゃないんでね。
その部隊内にも俺達のスパイはいるんだぜ?
エステバリスが待機状態なのは、こっちも確認済みだ。
さすがに『漆黒の戦鬼』と真正面から戦う愚は犯さんよ。
それに、それがアキトの返事と俺は受けとるからな。
・・・もうそろそろ逆探知も終る頃だろ?」
「くっ!!」
俺とアキト・・・そしてシュン隊長達の顔が引き攣る!!
「ああ、最後に英雄様に伝えておいてくれよ。
・・・自分一人で何でも出来ると思うなよ、ってな。
そうだな、今から急いで飛んで来れば最期くらいは看取れるぜ。
じゃあな。」
ガチャ!!
そしてテツヤからの電話は切れた・・・
俺達の希望の糸を切って。
あいつは殺る・・・俺は知っているテツヤの本性を・・・
笑いながら人を殺せる男だ・・・幼子ですら。
俺達を嘲笑っているあいつの声が聞える。
「メ、メティは!!
メティはどうなるんですかヤガミさん!!」
俺に縋り付くミリアに・・・俺は何もしてやれる事は無かった。
そう・・・何も・・・
俺は無力感に包まれ黙り込む。
そして・・・アキトの心が壊れた。
「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」
ガゴォォォンンン!!
「殺してやる!! 殺してやる!!
テツヤァァァァァァァァ!!!」
アキトの拳の一撃に部屋の壁が砕け散る。
そしてアキトは待合室を飛び出して行った!!
このままアキトが暴走すると危険だ!!
「隊長!! 俺はアキトを追います!!
隊長は部隊内のスパイの摘発と、アキトと親しい人達を保護して下さい!!」
「解った!! ・・・アキトを頼むヤガミ君。」
「ええ・・・」
そして漆黒のエステバリスが飛び立った後・・・
俺は逆探知で発見された場所に向けて車で急行した。
俺が到着した時・・・全ては終っていた。
倒壊しかけたビルの一室にアキトはいた。
自分の上着で包まれた小さな子供を抱いて・・・
「見るんじゃ、ない・・・」
「ああ。」
その一言にアキトの想いが篭っていた。
俺は背中を向けて部屋の外で待機する・・・
そんな俺の足元に一通の手紙が投げ付けられた。
手紙はテツヤからアキト宛てだった、その内容は・・・
アキトはこれを読んだのか?
・・・つくづく、ゲスな男だなテツヤ!!
「俺の・・・存在が全ての原因なのは知っていた。
・・・知っていたのに、俺はそれを忘れて。
昔からそうだ、大切な人を不幸にするんだ。
何時も守りきれないんだ、守るって約束をしても!!
俺が殺したんだ!! 俺が!! 俺が!!!」
「落ち着けアキト!!
お前のせいじゃない!!
・・・テツヤは初めからこの子を殺すつもりだったんだ!!」
俺は慰めにもならない事をアキトに告げる・・・
いや、せめてテツヤの真意を知らせなければ・・・アキトが壊れてしまう。
・・・こんなに脆かったんだなアキト、お前の心は。
「・・・初め、か、ら?」
「ああ、お前を追い詰める為にな・・・
あいつの常套手段だ。
親しい人を殺害してターゲットを動揺させる。
そして、その心の隙を突いて攻め込んでくるんだ。」
だが・・・ここまで酷いのは俺も初めて見る。
テツヤ、お前は何を考えているんだ?
・・・アキトに個人的な恨みでもあるのか?
「・・・だからって、どうしてメティなんだ?
まだ、10歳なんだぞ?
俺が駆け付けた時にはまだ息があったんだ。
最後に俺の方を見て・・・微笑んで・・・そして・・・そのまま・・・」
「もういい!! 止めるんだアキト!!」
俺が制止の声を上げたとき・・・
その声は薄暗い室内に響き渡った。
『いやいや・・・もう少し悲劇の主人公を演じさせて上げればいいじゃないか?
せっかくの名演技が台無しになっちまうぞ、ナオ。』
「テツヤ!!」
俺は大声でその声の主の名を叫んだ!!
何処かに隠しカメラとマイクを設置してやがるな!!
アキトの苦しむ様を見る為だけに!!
「名演技・・・だと?」
『ああそうさ、英雄の義務ってやつだよな・・・
自分を慕う子供が死ねば、悲しむ振りくらいしないと世間体が悪いよな?』
アキトの身体から・・・鬼気・・・いや、何だコレは?
俺には理解出来ない気配がアキトの身体から沸き出て来る!!
「俺が、悲しんでいないと言うのか!!」
『まあ、そう興奮するなよ。
あんたが最初の交渉でOKを言っていれば、その子は死なずに済んだんだ。
なら、あんたの責任だろ?
健気な子だったね〜「アキトお兄ちゃんが絶対助けに来る!!」って叫んでたぞ。
残念な結果に終ったがね。』
ジャリリリリ・・・
アキトの指先が・・・爪を剥がしながらも床のコンクリートを抉る。
俺はアキトの狂気に打たれて身動きすら出来ないでいた。
「貴様は・・・貴様はその言葉を聞いておきながら!!」
『契約違反をしたのはそっちが先だろ?
もっとも、エステバリスで来るなとは言って無かったな。』
そして楽しそうに笑うテツヤの声が室内に響く・・・
何がお前を・・・そこまで駆り立てる?
『では商談の続きだ・・・俺は殺ると言ったら殺る男だと解っただろ?
所詮、英雄と言った所で限界はあるんだよ。
人一人で巨大企業に勝てると思ってるのか?
ましてやこっちにはもっと凄いバックがいるんだぜ。』
そしてアキトが無言のまま・・・時間が過ぎる。
『まだ決心が着かないのか?
やれやれ・・・
じゃあ、一つ良い事を教えてやるよ。
何故、お前さんがこの最前線に配属されたと思う?
ナデシコの戦いは常に驚異だったからな、注目度も凄いもんさ。
テンカワ アキトの存在をネルガルが幾ら隠しても直ぐにバレる。』
「何が、言いたい・・・」
強く噛んだ唇から血を流しながら、アキトが搾り出すような声で答える。
『あの馬鹿提督のお陰で、合法的にあんたを引き離す事が出来た。
ここに配属されたのも、ナデシコから引き離されたのも全部うちの会社の仕業さ。
そして、あんたが配属されてからの戦闘記録は残さず俺が回収してる。
最初は噂の英雄のテストだった。
その結果・・・本社は欲しくなったのさ、あんたの存在がな。』
なら・・・全ては仕組まれた事だったのか!!
『つまりだ・・・お前さえいなければその可愛い女の子も死ぬ事はなかったし。
女の子の姉さんが悲しむ事も無かった訳だ。
まあ、次の交渉の席では態度が変わっている事を祈るよ。
俺としてもあまり赤の他人を手に掛けたく無いからな。
所詮、英雄と言った所であんたはただの道化師なんだよ・・・』
ガァァァァンン・・・
俺の撃ったブラスターの一撃で砕け散るマイク・・・
俺達は無言のままに時間は過ぎ。
俺はアキトを残して部屋を出る。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」
俺の背後から獣の叫び声が聞える。
いや、自分自身に対する怨嗟の声かもしれない・・・
しかし、俺には何も手助けをしてやる事は出来なかった。
そう・・・何も・・・
「・・・ミリアに、何て言えばいいんだよ。」
やり切れない気持ちを持て余し。
俺もその場で壁に渾身の力で拳を叩き突ける。
ガッン・・・
・・・拳よりも心が、痛かった。
何時の間にかビルの外は黄昏になり。
俺達を・・・哀れな道化師達を照らしていた。