< 時の流れに >

 

外伝  漆黒の戦神

 

 

 

 

 

第五話 黄昏の道化師

 

 

 

 

 

 俺の足元には無人兵器の残骸が山となっている。

 この残骸を築いたのはたった一人の少年・・・

 そして・・・

 

 俺の視線の先にある歪な形の山・・・チューリップと呼ばれるモノの成れの果て。

 二つに切り裂かれ完全に破壊されたモノ。

 

 この無人兵器達が何処から来て、何を目的にしているのかは謎だ。

 ただ執拗に地球を・・・人類を攻撃するのみ。

 俺達の敵は何者なんだ?

 俺達は何と戦っているんだ?

 そして、あの戦鬼と呼ばれる少年は・・・

 

 

 

 

 

「おい、アキト!!

 ・・・この移動キャンプに来てまで料理かよ?」

 

 ジャッ!! ジャッ!!

 

 携帯コンロの上で鍋を振りながら、俺の質問に応えるアキト。

 

「こんな所だからこそ・・・

 美味しい料理が食べたいと思いませんか、ナオさん?」

 

 ま、不味い料理を食べるよりはマシだけどな。

 ・・・アキト、お前は夕方の戦闘に参加してたじゃないか?

 休むべき時に休むのも兵士の務めだぜ?

 

 でも、こんな事を言うとまた殴られるだろうな。

 コイツは何故か軍関係と並べられると、機嫌が悪くなるからな・・・

 取り扱いの難しい奴だぜ、まったく。

 

「それに・・・料理をしている時にしか。

 俺が落ち着ける時間は無いんですよ。」

 

「はぁ? 何だそりゃ?」

 

 俺はアキトの言葉を聞いて頭にハテナマークを作る。

 

 そんな俺を見て笑いながら。

 鍋をかき回していたお玉である方向を指すアキト。

 そのお玉の先には・・・

 

「・・・あれってアキトのテントだよな?」

 

 俺の視線の先には激しく形を変え続けるテントがあった。

 そのテントからは女性の声が聞えてくる。

 

「ええ、二人用のね・・・

 今は三人の人間が入ってますが。」

 

 ・・・サラちゃん、アリサちゃん、レイナちゃんか。

 羨ましい奴だねまったく。

 

「・・・で? どうしてアキトがここにいるのかな?」

 

「いや・・・何でも遊びに来たそうですから。

 しかもほぼ同時に。

 俺は考え事があったのでテントを譲って、ここで料理を作る事にしたんですよ。

 ・・・何故か俺が出て行った後に、三人で喧嘩を始めましたがね。」

 

 そりゃ喧嘩もするよ。

 お目当ての人物が真っ先に逃げ出したんだからな。

 ・・・しかも、その人物は喧嘩の理由に気が付いてないし。

 まさに最強の男だな、お前ってさ・・・

 

「よっし!! 完成と!!

 配給品にちょっと手を加えただけの、簡単な料理ですが食べますナオさん?」

 

「ああ、御相伴させて貰うよ・・・

 でも彼女達はいいのか?」

 

 俺は急に静かになったテントを気にしながら、アキトに質問する。

 アキトは調理に使用した鍋を洗いに河に向う所だった。

 

「あ、それじゃあサラちゃん達も呼んで上げて下さい。

 俺はこの鍋を洗ったら直ぐに帰って来ますから。」

 

 手に持つ鍋を軽く振ってアキトがそう応えを返す。

 ・・・俺があのパンドラの箱(テント)を開けるのか?

 凄く興味深いが・・・激しく不安だぞ・・・俺は。

 

 と、思いつつも旺盛な好奇心に勝てず・・・

 俺はテントの扉を大きく開いた!!

 

 

 バッ!!

 

 

「あ!! アキト(さん)(君)!!・・・違う!!」

 

 

 ・・・凄かった、うん。

 

 

「キャァァァァァァァァァァ!!」 × 3

 

 

 そして俺の意識は途絶えた。

 ・・・三人共手加減しろよ、頼むからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 10分が経過した・・・

 俺が意識を取り戻してからな。

 まだ、身体は自由に動かない。

 

 そしてアキトはこちらに向って歩いて来るところだった。

 俺の横向きの視界に、首を傾げるアキトの姿が確認出来る。

 

 地面に横倒しになっている俺を見て不思議そうに質問をする。

 

「・・・どうして地面で寝てたんです?」

 

「・・・聞くな。」

 

 俺はやっと身体を地面から引き離す事が出来た。

 そしてそのまま地面に座り込む。

 大分、空気も冷えてきたな・・・

 あのまま気絶してたら・・・止そう、恐い想像になりそうだ。

 

 しかし・・・レイナちゃん、君は何時もスタンガン(多分改造済み)を持ち歩いているのかい?

 

「でも、今は11月の半ばですよ油断したら風邪ひきますよ。」

 

「ああ、そうだろうな・・・」

 

 誰が好き好んでこの季節に外で寝るか・・・

 だが、アリサちゃんのハイキックは効いたな。

 ・・・身体が電撃で痺れて防御が出来なかったし。 

 

「・・・で、晩御飯が残って無いんですけど?」

 

 空の皿を指差して俺を睨むアキト・・・

 俺じゃないぞ!!

 ・・・乙女の自棄食い、ってやつだ・・・多分な。

 

「・・・じゃあ皆で食べちまったんだろうな。」

 

 サラちゃん・・・良い身体付きだったな。

 でもグーで殴るのは止めて欲しかった、お気に入りのサングラスが壊れてしまったじゃないか。

 

 足元に転がるサングラスの破片を俺は悲しい目で眺めた。

 

「急に笑ったり落ち込んだりしないで下さいよ・・・気味が悪いな。

 でも晩御飯どうしましょう?

 そう言えば彼女達は何処に行ったんでしょうね?」

 

「さあな・・・っと!!」

 

 俺は掛け声をかえて身体を起こし・・・

 身体の機能チェックをする。

 ・・・両手、両足・・・手首、足首・・・指先までOKだな!!

 どうやら痺れは完全に抜けたらしい。

 まったく・・・レイナちゃんのスタンガンて電圧がどれくらいあったんだ?

 

「そうそう、これから一つ手合わせでもしないか?

 食前の軽い運動を兼ねてさ。」

 

「本気ですか?」

 

 俺の提案を聞いて驚いた顔をするアキト。

 だが、俺は本気だ。

 

「勿論!!

 俺としてはアキトにいろいろと教えて欲しいからな。

 お礼に配給係からくすねた缶詰を奢るぞ。」

 

 それは俺の本心だ。

 俺としてはアキトの強さに興味が尽き無い。

 アキトはこの若さで、既に俺を軽く越える強さを持つ・・・

 俺もそれなりに、この世界では有名な男だったんだけどな。

 このままじゃ駄目だ、と言う事だ。

 せめてアキトに一泡吹かせるくらいにならんとな。

 

「ふう・・・本気のようですね。

 まあいいでしょう、お相手しますよ。」

 

 そして俺とアキトの間に沈黙が落ちる・・・

 既に勝負は始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ザッ!!

 

 

 先に動いたのは俺の方だった。

 前回の時の様にアキトの鬼気に気圧された訳では無い。

 いや、むしろ今のアキトからは鬼気どころか殺気すら感じられ無い。

 ・・・どう言う事だ?

 

 アキト相手に牽制の一撃などは意味が無い。

 相手が明らかに自分より達人の場合、下手な牽制はそれだけで命取りだ。

 ・・・今の俺の実力では、ただ無心に攻めるのみだ!!

 

 

 シュッ・・・ バッ!! バッバッ!!

 

 

 基本の右のローキックを繰り出してから、身体の重心を軸足の左から右に移しつつ。

 身体を半回転してアキトの顔に向けて左の裏拳・・・

 そしてその裏拳を囮にして・・・さらに半回転。

 間合いを一挙に詰めて本命の右拳でのボディと、顎へのショート・フックの連撃!!

 

 全部、紙一重で避けられるとはね〜、しかも目を閉じててさ。

 本当・・・自信喪失しそうだよ、俺。

 

「前より攻撃が鋭い・・・

 結構努力家だったんだな。」

 

 目を開きながらそんな感想を言うアキト。

 ・・・やっぱり余裕かよ?

 悲しいよお兄さんは!! 

 

「お褒め頂き光栄ですよ。

 で、先生の採点は幾つですか?」

 

「60点。」

 

「あ、そ・・・」

 

 俺は隙を見せずに肩を落した振りをする。

 が・・・引っ掛からないよな、こんな手にはさ。

 

 さて、次なる手段は・・・

 

 

 

 

 そして、俺とアキトの攻防は10分ほど続いた。

 もっとも俺の攻撃はアキトの身体に、まともに当る事などなかったが。

 ここまで実力差があると笑えてくるね、まったく・・・

 

 全力の攻撃が全て徒労に終り・・・

 少々息を整えていると。

 

「じゃあ、次はこちらから・・・いくぞ!!」

 

 突然の宣言と共に行動に出るアキト!!

 そして・・・

 

 

 フッ・・・

 

 

 冗談では無く・・・アキトの姿が俺の視界から消える!!

 幾ら時間帯が夕暮れ時で、辺りが薄暗くても・・・

 いきなり姿が消えて見える様な歩法を、使えるものなのか?

 くっ!! この化け物が!!

 

 ゾク!!

 

「!!! 右か!!」

 

 俺は殺気を感じ、自分の勘を信じて左に飛ぶ!!

 

 

 ブゥン・・・ 

 

 

 俺の先程までいた位置にアキトの中段蹴りが通り抜ける・・・

 

「ふっ・・・やるな。」

 

 そしてアキトは俺に呟き、軽く微笑んで・・・

 

 

 フッ・・・

 

 

 またその姿を・・・

 急激に暗くなる周囲の風景に同化させた。

 

 ・・・そうか!! 俺の視界の死角へと常に移動しているわけか。

 しかし、理解は出来ても相手の体術が簡単に防げ無い事が解っただけだ。

 こんな攻撃を・・・次はどう防ぐ?

 何時までも勘に頼って避けれる相手じゃない。

 

「結論は・・・目で追える相手じゃ無い、ってか?

 じやあ余計な情報は切り捨てるに限るな。」

 

 そして俺は目を瞑り、腰を少し落した自然体で周囲の気配を探る。

 ・・・微かな空気の流れを感じる。

 俺の感覚が、今迄に無い程研ぎ澄まされていくのが解る。

 

 アキトと闘わなければ、俺がこの境地を知る事は無かっただろう。

 アキトの闘いを直に見て、闘ったからこそ実践出来る戦法だ。

 

 ・・・くる!!

 

 

 バッ!!

 

 ガシィィィィィ・・・

 

 

 捉えた!!

 

 俺はアキトの右フックをブロックし横に流しつつその腕を巻き込み、肩の関節を極めようとする!!

 この関節を極めれば俺の勝ちだ!!

 

 

 グゥン!!!

 

 

「な、何!!」

 

 俺の身体が軽く宙に浮く!!

 そして・・・

 

 

 ドガッ!!

 

 

「がっ!!」

 

 そのまま勢いよく地面に叩きつけられた・・・

 嘘だ、ろ? 

 俺の体重は少なくとも70kg前後だぞ?

 それを無理な体勢から片手で持ち上げて、地面に叩きつけるだと?

 

 俺は立ち上がる事が出来ず・・・地面に大の字になっていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 背中を強打して息を詰らせている俺に、その元凶が心配そうに聞いてくる。

 どうやら・・・戦闘モードからは抜け出したらしい。

 しかし、馬鹿力では済まされないぞ今の攻撃は。

 

「幾らなんでも・・・人間技とは思えんぞ今の攻撃は。」

 

「立派な人間技ですよ。」

 

 俺の質問に笑って応えるアキト・・・

 本当にあれが人間技か?

 大人一人を片手で軽々と振り回しやがったくせに。

 

「人間って普段は潜在能力の30%程度の力しか使って無い事は、御存知ですよね?」

 

「ま、初歩的な学問だよな。

 全開にした筋力には骨格が耐えられないからな、無意識にセーブがかかるよな。」

 

 今時の中学生が習う保険体育レベルの問題だぞ・・・

 

 ・・・ちょっと待て?

 じゃあ、アキトが先程見せた怪力の正体はソレなのか?

 

「俺の習った流派では、短時間なら100%の力を発揮する術を持ってるんですよ。

 ・・・更に瞬間的になら、その5倍の筋力を得る事が出来ます。」

 

 ・・・なら見かけは小柄でも、力で俺を軽く凌駕できるわけだ。

 計算すれば通常の3倍の筋力に、瞬間的なら15倍だ。

 何処まで非常識なんだよ、まったく。

 

「さて、このまま寝ていたら風邪をひきますよ。

 ・・・何時まで拗ねてるんですか?」

 

「野郎に慰めて欲しくなんかないやい。」

 

「・・・はいはい。」

 

 しかも、俺を落ち込ませた張本人だし・・・

 あ〜あ、道は遠いな〜

 

 で、アキトの奴は結局俺を置いて何処かに行きやがった。

 冗談すら通じないのか? おい、アキト?

 

 ・・・5分後、やっと背中の痛みが引いた俺は地面から立ち上がる。

 だが、流石にちょっと悔しいぞ。

 何か復讐の手段は無い物だろうか?

 

 そこでアキトの弱点を考えてみる。

 戦闘・・・返り討ちが決定している。

 トラップ・・・遊撃軍の敷地内でそんなものを仕掛けたら利敵行為と思われてしまう。

 薬物・・・アキトは自分で調理をしているのに、どうやって混入するんだ?

 その他いろいろと考えたのだが・・・

 腹が立つほど隙が無かった。

 

「・・・虚しい。」

 

 俺は自分がかなり無駄な時間を過ごしている事に気がつき、そう呟いてしまった。

 その時!! 俺の脳裏にあるアイデアが閃く!!

 あるじゃないかアキトの弱点が!!

 俺が直接手を下す必要は無かったんだ!!

 

 そして俺は懐から携帯電話を取りだし。

 慣れた手付きで何時もの番号をプッシュする。

 

 

 ピッ!! ピッ!! ポッ!! パッ!!

 

 

 暫く呼出し音が鳴った後・・・

 

 

 ガチャ!!

 

 

『はい、どちら様でしょうか?』

 

「や、今晩はミリア。」

 

『あら、今日は電話をくださるのが早いのですねヤガミさん?』

 

「いやだな〜、ナオと呼んでくれと言ってるでしょ?」

 

『だって・・・ヤガミさんは年上ですし。』

 

 なかなか打ち解けてくれないな〜

 ・・・アキトはどうやって女性の警戒心を解いているんだろ?

 ああ、あれは天然だったよな。

 

「そうそう、明日の昼頃にはミリアの街の近くに軍がキャンプを張ると思うんだ。

 俺の時間の都合が取れれば、会えるかな?

 アキトも連れて行くからさ、メティちゃんも連れて来ればいいよ。」

 

 メティちゃんには絶対に参加して欲しいんだけど。

 ・・・でも、俺がミリアに会いたいと言うのも本当なんだよな。

 俺も素直じゃないね。

 

『え!! そうなのですか・・・じゃあ、また明日時間が取れれば電話を下さい。

 メティも喜ぶと思います。』

 

「ああ、それじゃあ明日の昼頃に連絡をするよ。

 それじゃあ。」

 

『はい、それでは明日・・・』

 

 

 ガチャ・・・ツーツーツー

 

 

 さて、明日のデートの予約は取れた事だし。

 後はアキトのセッティングだな。

 俺は最初にサラちゃんのいるテントに向った。

 

 ・・・どうやら都合良く三人共このサラちゃんのテントにいるみたいだ。

 目的のテントからは聞き覚えのある三人の声がする。

 前回の教訓を活かして、まずは中にお伺いをたてる。

 

「お〜い、サラちゃん、アリサちゃん、レイナちゃん。

 いるかい?」

 

「・・・何か御用でも?」

 

 うっ、アリサちゃんが返答してきたか・・・

 それも、(私怒ってます)モードの声だし。

 

 しかし、ここで俺は彼女達を巻き込まなければアキトへの復讐は達成出来ない。

 それに彼女達にとって悪い話しでは無い筈だ・・・多分。

 

「明日の事なんだが・・・

 俺とアキトでちょっと出掛けようと思ってるんだけど。」

 

 勿論アキトに承諾は取っていない。

 まあ、メティちゃんの名前を出せば絶対に付いて来るだろう。

 ・・・そういう奴だ、テンカワ アキトという男は。

 

 

 バッ!!

 

 ズテン!!

 

 

「詳しく聞かせてもらえます?」 × 3

 

 

 テントから飛び出した誰かの手に襟を掴まれ・・・

 そのまま地面に引き摺り倒される俺。

 う、動きが見えなかったぞ、おい。

 

 取り敢えず俺の服の襟首を掴んでいる手首を外そうと・・・(レイナちゃんだった)

 外そうとしても外れなかった。

 ・・・恐るべきは恋する少女の力、か。

 アキト済まん、洒落ですまないかもしんない。

 

 

「それで・・・何時の話しですか?」 × 3

 

 

 俺は全てを白状した・・・

 人間素直が一番だ、うん。

 今回はアキトに泣いてもらおう!!

 ・・・俺としてはミリアと二人っきりになれて丁度いい。

 実に明日が楽しみだな。

 

 横目で明日の計画を練っている彼女達を見ながら。

 俺はその場を退散した・・・

 次の目的はアキトを拘束する事だ。

 

 

 

 

 今、気が付いたんだが・・・俺ってこんな事していていいのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五話 その2へ続く

 

 

 

 

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