< 時の流れに >

 

外伝  漆黒の戦神

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が食堂に行った時。

 テンカワと知らない男性が会話をしていた。

 そしてテンカワの隣では、サラちゃんが当然の様に座っている。

 

 ・・・来るんじゃなかったな。

 

 しかし、俺はその知らない男性に興味を持った。

 テンカワとサラちゃんの二人なら惚気話しか聞けないのだが。

 この男性は自然な姿で、テンカワ達の雰囲気に溶け込んでいたからだ。

 

 その男性はテンカワの料理を食べながら、テンカワと話しをしている。

 時々、テンカワをからかって遊んでいるようだ。

 ・・・良い度胸をしてるな。

 

 俺は・・・

 この頃には、テンカワとまともに話した記憶は無い。

 食事は自分で自販機から摂ってたし。

 テンカワのエステバリスの整備は、レイナちゃんが専属でやっている。

 ・・・それに俺よりレイナちゃんの方が、メカニックとして優秀な事は知っている。

 

 俺は自分の居場所が削られていくのを感じた。

 何かある度に俺は自分とテンカワを比べた。

 そして、想像上のテンカワは常に万能であり・・・

 俺は惨めな負け犬だった。

 

 

 

 

 

 

「これって、婚姻届・・・」

 

 その言葉が耳に入って来た時は驚いた。

 テンカワが掠れた声でそう呟き、その手にある書類を見ている。

 俺の知らない男性は楽しそうにその姿を眺め。

 サラちゃんは・・・赤い顔をしていた。

 

 俺はその後の予想される騒動を疎ましく思い・・・

 そのまま食堂を出て行った。

 

 

 ドンッ!!

 

 

「キャッ!!」

 

 格納庫に続く廊下で俺は誰かとぶつかった。

 丁度曲がり角だったので相手が見えなかった。

 俺はちょっとよろめいただけだが・・・

 相手は尻餅をついていた。

 そして、俺がぶつかった相手は・・・レイナちゃんだった。

 

「イタタタ・・・大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ俺は大丈夫だけど・・・立てるかいレイナちゃん?」

 

「はい、大丈夫ですよ。

 あ、そうそう、テンカワ君が何処にいるか知りません?」

 

 無邪気に俺にそう質問するレイナちゃんに・・・

 

「・・・さあ、俺は知らないな。」

 

 俺は視線を逸らして嘘を付いた。

 ・・・まるで小学生だな、俺って奴は。

 

「う〜ん・・・じゃあ食堂かな。

 御免ねサイトウ君ぶつかっちゃって!!」

 

「ああ、別に・・・いいよ。」

 

 俺にそう言い残してレイナちゃんは去って行った。

 嬉しそうに小走りで食堂に向って。

 

 テンカワと話せる事がそんなに嬉しいのか?

 それに比べれば俺との会話なんて・・・

 

 胸に溜まった黒い感情を俺は持て余していた。

 

 その後、戦闘があった。

 戦闘自体は勝利に終わったが。

 珍しくテンカワが被弾をしていた。

 ・・・レイナちゃんが嬉しそうに修理をしている姿が、俺の記憶に残っている。

 

 その後、あの見知らぬ男性がサラちゃんとアリサちゃんのガードだと知った。

 名前はヤガミ ナオ。

 テンカワと良いコンビだと、何時の間にか基地内で有名になっていた。

 

 俺はそんなに気軽く、あのテンカワには近寄れないな・・・

 

 

 

 

「は、はじめまして!!」

 

『こちらこそ、はじめまして。』

 

 俺は友人の紹介である女性と知り合った。

 名前は・・・ライザと言うらしい。

 まだ電話で話した事しか無かったが・・・ 

 感じの良い女性だった。

 俺は必死に彼女の気を引こうと話した。

 何を話したかは・・・良く覚えていない。

 だが、彼女からテンカワの名前が出た時。

 俺の感情は爆発した。

 

 この女もテンカワが目当てなのか!!

 

『でも・・・テンカワさんって悪い噂も絶えないのよね。』

 

「そ、そうだよ!! 凄い女たらしでさ!!

 側で見ていても全然誠意が感じられないんだよね。」

 

 テンカワを貶める事に罪悪感は無かった。

 何でも出来るテンカワ。

 俺が少し位文句も言いたくなるさ・・・

 俺はテンカワに何一つ勝てないのだから。

 

 そう、自己弁護をしている自分に俺は気が付いていなかった。

 

「そうそう、テンカワってさ・・・もしかしたらロリコンかもしれないんだ。」

 

『え!! そうなの?』

 

「基地に配達に来る男性の娘と仲がいいんだよ。

 その娘さんは今年で10歳なんだけどね。

 ・・・異常に可愛がってるからさ。」

 

『・・・そう。』

 

 話しを続ける為に、俺はいろいろな話をした。

 ・・・今、考えてみれば滑稽な奴だな、俺は。

 

 

 

 

 

 

「その女性が?」

 

「ええ、多分連絡員だったと思います。」

 

「ふう・・・見事に心の隙を突かれたな。」

 

 

 

 

 

 

 そして、俺達の部隊は遊撃隊に編成された。

 立派な部隊名を貰ったが・・・

 内実はテンカワのサポート部隊だ。

 俺は、そう判断した。

 

 大分・・・この時には捻くれてきていたんだと思う。

 

 

「はあ、 ライザさんに会いたかったんですけどね・・・」

 

『そう残念ね。』

 

「またこの近くを通る事があれば、会って貰えますか?」

 

『ええ、喜んで。』

 

「やった!!」

 

 そして、あの忌まわしい事件が起こった。

 

 

 

 

「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!

 

 

 テンカワの叫びが・・・

 俺の待機している部屋にまで聞えた。

 駐屯地内にいた者は急いで外に飛び出し・・・

 

 

 ガゴォォォンンン!!

 

 

 轟音と共に崩れ去る壁を。

 怯えた顔で見ていた。

 そして・・・

 

 

殺してやる!! 殺してやる!! 

 テツヤァァァァァァァァ!!!

 

 

 壮絶な鬼気を発しながら、その部屋から飛び出すテンカワ。

 俺はその鬼気に打たれて身動きが出来なかった。

 そして・・・心の底から。

 テンカワに恐怖を抱いた。

 

 暫くすると、漆黒のエステバリスが大空に飛び立った。

 

 テンカワを追い掛ける様に、ヤガミ ナオが軍用車で駐屯地を飛び出して行った。

 

 その時、シュン隊長の声が聞えた。

 

「スパイだと?

 ・・・ふざけた真似をしてくれる!!」

 

「しかし・・・

 アキトのエステバリスの調整は、一部のメカニックしか知らなかった筈です。」

 

 これは・・・カズシ副官の声か。

 

「ああ、長距離用の補助バッテリーを積む作業は極秘で行なっていたからな。

 ・・・ならスパイはメカニックか?」

 

 俺はその場を逃げ出した。

 昨日の晩のライザとの会話を思い出す。

 

 

「何だか急に長距離用の補助バッテリーが必要になったらしくてさ。」

 

『そうなの?』

 

「ああ、必死に他の部隊の隊長と掛け合ってたよな。

 ま、その努力が実って今日の深夜には、補助バッテリーが届くらしいけど。

 そうそう!! これは機密事項だから他の人には話さないでね!!」

 

『うふふふ、私は特別なのね?』

 

「そうだよ!!」

 

『ありがとう。』

 

 

 俺は・・・大きな過ちを犯したのでは無いのか?

 テンカワなら少々の機密漏れくらいなら、力技で覆すと思ってなかったか?

 それが、こんな大事になるなんて!!

 

 俺は女性と話して浮かれていた自分が、何をしでかしたか・・・

 この時に初めて自覚をした。

 

 死人のような顔色をしたテンカワと・・・

 その腕に抱かれた少女。

 そしてヤガミ ナオが駐屯地に帰って来たのは。

 真夜中の事だった。

 

 

 それ以来・・・

 俺がライザに電話をする事はなかった。

 

 

 

 

 

 その事件から幾日か経ち・・・

 笑わなくなったテンカワを心配するサラちゃん達も気にならず。

 

 俺は部屋で震えていた。

 

 仕事でも小さなミスが続き。

 疲れているのだろう、と言われて休暇を貰った。

 だが仕事に没頭出来ない分・・・

 俺は良心の呵責と、テンカワのプレッシャーに押しつぶされそうだった。

 

 あれ以来・・・

 テンカワは常に鬼気を身に纏っていた。

 触れれば斬れる・・・なんてものじゃない!!

 自分の存在その物を消される錯覚を覚える。

 つまり、死・・・

 テンカワは死神と化していた。

 

 その俺に更に追い討ちがかかった。

 初雪が・・・降る日の事だった。

 ヤガミ ナオが左手を吊った状態で駐屯地に帰って来た。

 たまたま廊下で出会った俺は・・・恐怖を感じた。

 

 鬼人。

 

 ヤガミ ナオもまた、その身を復讐の炎で包んでいた。

 そして、この駐屯地内に復讐を目的とした・・・

 

 鬼神と鬼人が降臨した。

 

 ヤガミ ナオの変化が、メティス=テアの姉ミリア=テアによる物だと聞いた時。

 俺は・・・自分の逃げ道が更に狭まった事を知った。

 

 駐屯地から逃げ出す事は、自分が犯人だと宣言するようなものだ。 

 ・・・逃げ切れはしないだろう。

 今の彼等からは。

 俺は鈍痛を訴える胃を押さえながら、仕事を続けていた。

 確実に捜査の手は狭まっている。

 だが、恐怖に縛られた俺には・・・

 何も手の打ち様も。

 何の行動も起こす気にはなれなかった。

 

 

 

 

 

 

「そして・・・あの電話か?」

 

「はい、最後の決め手の電話は・・・あの男からでした。」

 

「隊長・・・第四防衛線が突破されました。

 最後の防衛線、彼女達の言葉が今の二人に通じるでしょうか?」

 

「・・・その理性を取り戻す為にも。

 彼女達の呼び掛けが必要なんだよ。

 今の二人は危険過ぎる。」

 

「志願制でしたが・・・

 三人共参加をしてくれました。」

 

「そうか・・・」

 

 

 

 

 

 

 それは突然の電話だった。

 部屋の隅で蹲る俺は、その音に過敏に反応する。

 近頃はろくに寝てさえいない・・・

 

 

 ジリリリリリリリンン!! ジリリリリリリリンン!!

 

 

  ガチャ!!

 

 

 送信相手のナンバーは表示されていなかった。

 その事を不審に思いながらも、俺は受話器を取った。

 誰か他の人の声が聞きたかったのかもしれない。

 

「もしもし・・・」

 

『よう!! 同士!!』

 

「貴方は誰です?」

 

『そうだな〜・・・

 まあ、一言で言えばライザの上司かな。』

 

「な!!」

 

 俺はその男性の言葉の意味を理解して・・・驚愕した。

 

『・・・さて、そこで商談だ。

 今更俺とライザの正体を明かす必要は無いだろう? 

 テンカワ アキトのエステバリスの全データ。

 これと引換えにお前さんを助けてやる。』

 

 心が揺らいだ。

 その提案の俺は飛び付きそうになった。

 だが・・・

 本当にこの男は信用できるのか?

 だいたい、俺はこの駐屯地を抜け出した後何処に行けばいい?

 俺のこの男に対する疑惑は、次々と膨らんでいた。

 

「商談の結果が・・・あの悲劇ですか?」

 

『ん? ああ、あの一家の事か。

 お前さんも一枚噛んでおいて、何を今更言ってるんだ?』

 

 この男は・・・

 あの悲劇を何とも思っていないのか!!

 俺の本能がこの男は危険だと叫ぶ。

 

「・・・」

 

『返事が無いな〜

 まあ良いか、それほど欲しい物じゃないしな。』

 

「なら!! どうして俺に電話なんて!!」

 

 俺は男の行動が理解出来なかった。

 

『理由か?

 もうそろそろ軍の探知に引っ掛かる頃だな。

 これであの二人にスパイの正体がバレた訳だ。』

 

 !!

 俺の頭の中が真っ白になる・・・

 

『じゃあな、有益な情報を提供してくれて感謝するぜ。』

 

 

 ガチャ!!  ツー、ツー、ツー・・・

 

 

 切れた電話を握り締めて佇む俺の部屋に。

 軍の保安部が入って来たのは3分後の事だった。

 

 

 そして、今。

 俺はこの取り調べ室にいる。

 

 

 

 

 

 

「これが・・・全てです。」

 

「そうか、解った。」

 

 そして部屋を静寂が支配する・・・

 

 

 ガゴォォォォォォオオオンンンン!!

 

 

 突然の大音響と共に「く」の字に折れ曲がるドア!!

 その隙間から俺はテンカワを確認した!!

 

「いかん!! ドアの側から離れるんだ!!」

 

 シュン隊長の言葉を聞いて、俺は急いで自分の座っている椅子から立ち上がった!!

 

 

 ドガァァァァァァンンンン!!

 

 

 そしてニ撃目の蹴りで、取調室のドアは吹き飛んだ。

 部屋の入り口には・・・

 鬼神と鬼人。

 

 

 

 

 

 

 死にたく無い。

 

 これが二人を見た時に、一番始めに思った事だった。

 今さっきまでは死ねば楽になると思っていた。

 だが、それは俺の本心ではなかった!!

 

 俺は死にたくない!!

 

 これが・・・俺の本当の本心だ!!

 

「ア、アキト、落ち着くんだ。」

 

「・・・」

 

「ヤガミ君落ち着きたまえ!!」

 

「・・・どいて下さい。」

 

 そのアキトの一言で・・・

 説得する事の不可能だと知る、シュン隊長とカズシ副官。

 

 誰か!! 俺を助けてくれ!!

 

 俺は唯一の出入り口を塞ぐ二人を、見る勇気さえ持てなかった。

 

「言い残したい事はあるか?」

 

 初めてヤガミ ナオが口を開いた。

 ・・・しかし、その言葉に俺は感情を感じる事は出来なかった。

 

「こ、殺さないでくれよ・・・知らなかったんだよ。」

 

 

「今更・・・何を言う!!」

 

 

 テンカワの一喝に、俺は雷に打たれた様に後ろに飛び跳ねた。

 ・・・しかし、俺の背後には白い壁しか無かった。

 

「今でも夢に見るんだよ。

 俺の手の中でだんだん冷たくなっていく、メティちゃんの身体を。

 抱き締めた俺に微笑んだあの顔を。

 俺の・・・最後の一言に安心して笑った顔を!!」

 

 その一言一言に、血を吐くような想いが込められていた。

 俺は・・・怯えてその言葉を聞くだけだった。

 

「お前は・・・どんな権利があって、あの子の未来を奪ったんだ?

 何故、俺の事を・・・スパイなんて・・・」

 

 自分の激情が抑えられないのか・・・

 アキトの手が、身体が、小刻みに震えている。

 俺は間近に感じる、その鬼気に打たれて震えるだけだった。

 

「アキト・・・サイトウの告白を録音したテープがここにある。

 聞いてくれ。」

 

 そう言って、シュン隊長は俺の告白が入ったテープを再生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ての告白が終って・・・

 俺は自棄になっていた。

 

「どうだ? 惨めだろ?

 あんたに比べれば俺の存在なんてゴミだよゴミ!!

 そうさ、俺は最低の男さ。

 あんたに嫉妬して勝手に自滅して。

 最後には女に騙されてスパイだぜ?

 笑ってくれよ、はははははははは!!!!

 だけどな・・・

 あんたも薄情な奴だよな。

 俺の名前なんて知らなかっただろ?

 いや、整備班の男性の名前なんて殆ど知らないだろ?」

 

 俺の長口上を聞いて・・・

 困惑するテンカワ。

 

「やっぱりな。

 あんたから見れば整備班なんて、その他多数なんだろ。

 あんたは輝く星で・・・俺達は地上を徘徊する動物って訳だ。

 気ままにお月様の彼女達と遊び。

 俺達は必死に空を見上げて羨ましがるだけさ。

 何も語らない、何も相談しない、自分で全てを片付ける。

 俺達にはお星様の考えなんて解るかよ。

 この悲劇は起こるべくして、起きたんじゃないのか?」

 

 少し息切れしながら・・・

 俺はテンカワへの不満を言い募った。

 

 そして後悔の念が沸く。

 これで俺は・・・絶対に殺される!!

 

 静かに・・・

 テンカワは俺の目の前まで近づく。

 そして腕を振り上げ。

 

 

 ガスゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

 頬への一撃で。

 俺の意識は消えかけた・・・

 いや、頭が胴体に付いているだけでも奇跡か。

 テンカワの一撃の威力は、あの変形したドアが物語っている。

 

 朦朧とした意識の中で、テンカワが再び腕を振り上げる姿が目に入った・・・

 これで、俺は・・・

 

 

 ドガァァァァァァァァァンンンンン!!!

 

 

 テンカワの一撃は・・・

 俺の背後の壁を粉砕していた。

 

「な、何故だ?」

 

「・・・星も地上に降りたいと願う事はある。

 宇宙には、孤独しかないんだからな。」

 

 そう言い残してテンカワは俺の目の前から去った。

 

 そしてヤガミ ナオは・・・

 右手に何時の間にか銃を構えていた。

 勿論銃口は俺に向けて。

 

「・・・これで、いいのか?」

 

「・・・メティちゃんの本当の敵は別だ。

 俺の驕りからでたこの事件の・・・彼も一応の被害者だ。

 それに・・・いや、何でもない。」

 

「そうか・・・」

 

 テンカワと短い会話を交わしたヤガミ ナオは・・・

 いきなり俺に向けて発砲した!!

 

「ひっ!!」

 

 ガァァァァァァンン!!

       

                ガァァァァァンン!! 

       

                          ガァァァァァァァンンンンン!! 

 

 

 俺の頭、胸、首・・・

 それぞれの部位に掠る様に弾丸が撃ち込まれる。

 いや、実際俺はその部分から血を流れを感じた。

 

「アキトの心情を汲んでやる。

 ・・・いいか、俺とアキトの中のお前は死んだ。

 もし俺達の前にもう一度現われて見ろ。

 次は・・・無い。」

 

 銃を握り締めて暫く俯いた後・・・

 ヤガミ ナオはそう言い放ち。

 テンカワに続いて部屋を出て行った。

 

「・・・奇跡、だな。」

 

「ええ、そうですね。」

 

 遠ざかる意識の中で・・・

 俺はシュン隊長とカズシ副官の言葉を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして・・・・

 今、俺は港に向かうバスに乗っている。

 二時間後、俺は意識を取り戻した。

 自室は・・・片付けられていた。

 荷物は故郷に送られたらしい。

 

 見送り・・・なんていない。

 会いたい人・・・も存在しない。

 いや、最後にちゃんとテンカワに謝るべきだったかもしれない。

 テンカワは自分が一番不幸だという事を、認識していない。

 だが・・・

 それを告げる役は俺には無理だ。

 第一それを告げる資格は永遠に失っている。

 それに最後の言葉・・・

 テンカワは逆に、俺の事が羨ましかったかもしれない。

 

「輝く星でも・・・孤独は嫌、か。」

 

 そして今、俺はバスの中でその孤独を感じていた。

 

 

 

 

 白でいることも。

 黒でいることも出来なかった。

 中途半端な灰色の俺は。

 故郷に向って旅を始めた。

 自分の罪を噛み締めながら・・・ 

 

 

 

 

 

 

 

 

第八話に続く

 

 

 

 

外伝のページに戻る