< 時の流れに >

 

外伝  漆黒の戦神

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が私服から軍の制服に着替え終わり。

 オペレータールームに着く頃には戦闘は始まっていた。

 

「敵戦力の報告をします!! チューリップ2つ、無人兵器が約400です!!」

 

「よし!! エステバリス隊は無人兵器の破壊に集中!!

 チューリップはアイツに任せる!!

 地上兵器、空戦部隊はエステバリス隊の援護!!」

 

 シュン隊長の命令が私達オペレーターから、各隊員に伝わる。

 まあ、一人例外がいるけど。

 でも、アイツで済まされるなんて・・・まあ、いろいろとあるんでしょうね軍にも隊長にも。

 

「アリサ機が戦闘に入りました!!

 ・・・続いて後続のエステバリス部隊も戦闘に入ります!!」

 

「了解した。

 空戦部隊はどうした?」

 

「フォーメーションを維持しつつ、無人兵器と戦闘に入ります!!」

 

 次から次へと戦場の情報を隊長に伝える私達。

 

「カズシ、地上兵器の配置はどうだ?」

 

「ギリギリですね。

 ・・・チューリップ2つだと配置が終る前にアイツが沈めてますよ。」

 

 隊長の言葉に返事を返しながら肩を竦める大柄な副官。

 そうよね・・・2つだものね。

 ちょっと前までは、その2つのチューリップの破壊が出来なかったのだけど。

 

 

 チュドドドドォォォォォォォォォォンンンン!!!!

 

 

 その時、チューリップが一つ破壊される音がオペレータールームに響き渡る。

 ・・・まずは一つ、ですか。

 

「チューリップ一つ撃沈!! 無人兵器も現在で183機の破壊を確認しています。」

 

 私が隊長に現在の戦況報告をします。

 

「・・・やっぱり無駄ですかね?」

 

 カズシ副官が隊長に意見を求める。

 

「それでもアイツは軍属ではないんだ。

 俺達は俺達の仕事をするまでだ。」

 

「了解。」

 

 隊長の返事を聞いて、再び地上兵器の配置を始めるカズシ副官。

 でも、意外な人がこの場に現れた。

 

「お〜、これがアキトの戦闘シーンか。

 やっぱり生で見ると迫力が違うね〜」

 

 ・・・どうやってこの部屋に入ったんですかナオさん?

 

「・・・ヤガミ君、君の仕事はガードじゃないのかね?」

 

 隊長が頭をかきながら注意をする。

 そう言う問題でしょうか?

 

「いや〜、噂の『漆黒の戦鬼』テンカワ アキトの戦闘ですよ?

 これは見ないと損じゃないですか。

 タダでさえ戦闘シーンは公表されてないんですしね。」

 

 もしかしてナオさんって・・・物見遊山をしにこの基地に来たのでは?

 

『・・・見るのは勝手だが。

 アンタの仕事はちゃんと遂行しろよ。』

 

 珍しい事にアキトからの通信がオペレータールームに入る。

 普段の戦闘では絶対に通信なんて入れないのに。

 

「ああ、アキトお前の花嫁は俺が絶対に守ってやる!!」

 

 

 

 

 シィィィィィィィンンンンンンンン・・・

 

 

 

 

「なに〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 バゴォォォォォォンン・・・

 

「アキト機左腕を損傷!!

 ・・・戦闘には支障は無さそうです!!」

 

 取り敢えず固まってる皆さんを無視して、私は報告を続ける。

 そしてディスプレイに映る、被弾した漆黒の機体を見ながら・・・

 

「おお、結構動揺したみたいだな。

 ・・・面白い奴だよなアキトってさ。

 そう思わない、サラちゃん?」

 

 ナオさんの発言により、オペレーター室は完全に機能を停止・・・

 アキトも一瞬動きが止まった為に左腕を損傷した。

 

「・・・戦闘の邪魔をするのなら帰って下さい。

 それと私が何時、貴方に私を名前で呼んで良いと言いましたか?」

 

「あれ? 冷たいね〜サラちゃん。」

 

 結構馴れ馴れしいですね・・・ナオさん。

 これは注意をしても聞かないタイプの人間ね。

 

『ね、ね、ね、姉さん!!』

 

 あ、やっぱり通信が入って来た。

 

「何ですか、アリサ中尉。

 なお、戦闘中の私語は禁止されてます。」

 

 

『そう言う些細な問題じゃないです!!』

 

 

 やっぱり誤魔化すのは無理か。

 

「はいはい・・・帰って来たら詳しい説明をしてあげるわ。」

 

『う〜〜〜〜、了解しました。』

 

 そして再び訪れる沈黙・・・

 

「じゃ、俺はこれで・・・さらば!!」

 

 その間隙をついて逃げ出そうとするナオさん・・・

 だが。

 

「ちょっと待てい!!」

 

 

 ガシッ!!

 

 

 カズシ副官に肩を掴まれ捕獲されるナオさん。

 そのナオさんに隊長が質問をする。

 

「・・・で、誰とアキトが結婚するんだ?」

 

 目が恐いですよ隊長・・・

 ナオさんもちょっと頬が引き攣ってるし。

 

「え、いやこれが実は (候補が(ボソッ)) 一人じゃないんですよ、あはははははは・・・」

 

 そのナオさんの発言に・・・再び凍り付くオペレータールーム。

 

 

 ガスゥゥゥゥゥゥンン・・・

 

 

「ア、アキト機続いて右脚に被弾!!

 どうしたのアキト!!」

 

『お、俺は、俺は・・・』

 

 かなりの精神的ショックを受けているみたい。

 ・・・大丈夫かなアキト?

 

「そうか・・・重婚か・・・

 アキト、お前の国籍って重婚が可能なところなのか?

 でも俺はちゃんと仲人はやってやる!! 安心しろ!!

 例えそれが・・・人の道を外れていようと俺はお前の味方だ!!」

 

「まったく・・・若いってのは羨ましいね。

 俺ももう少し若ければ・・・」

 

「そうですよね、本当に手が早い奴だよなアキトはさ。」

 

 上から隊長、カズシ副官、ナオさんです。

 それを聞いたアキトは・・・

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!』

 

 ザシュゥ!!

                   ドシュゥ!!

                                   ザン!!

 

 

 ・・・キレたみたい。

 何時にも増して凄い勢いで敵をDFSで切り裂いていく。

 で、アリサのエステバリスは・・・

 

『重婚? そんな!! でも私もその一人なんですよねアキトさん・・・』

 

 トリップしてる。

 白銀のエステバリスがイヤンイヤンをしてる姿はかなり滑稽だった。

 でも、何か勘違いしてないアリサ?

 

「はっはっはっ!!

 面白い所だなこの部隊は。」

 

 ・・・騒ぎの元凶が声高々に笑ってる。

 知りませんよアキトが帰って来てからどうなっても。

 

 

 

 チュドドドドォォォォォォォォォォンンンン!!!!

 

 

 

 あ、最後のチューリップが破壊されたみたい。

 

「敵戦力の90%の破壊を確認しました。

 ・・・エステバリス隊は残敵の掃討に入ります。」

 

 アキトは帰還するみたいね。

 珍しく被弾したものね・・・無理をしないのは良い事だわ。

 

 ・・・もしかしたら、ナオさんに止めを刺しに帰ってくるだけかもしれないけど。

 迷わず成仏して下さいね、ナオさん。

 

 

 

 チ〜〜ン!!

 

 

 

 

 

 

 

「か、軽い冗談のつもりだったんだよ!!」

 

「・・・」

 

「む、無言で睨むなよ、な?

 俺が悪かったからさ!!」

 

「・・・」

 

「こ、こっちに来ないでくれ〜〜〜〜

 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからナオさんは全身打撲の怪我をした。

 ・・・まあ次の日には全身湿布に包まれて食堂に現れたけど。

 アキトも最後の止めまではしなかったみたい、ちぇっ!!

 

「・・・今、恐い事考えてなかったサラ?」

 

「あら、私の心が読めるのレイナ?」

 

「・・・まあ、表情を見ればだいたい(汗)」

 

 このレイナも・・・昨日はかなりご機嫌だった。

 アキトの専用メカニックと言っても、あのアキトのエステバリスなのだから。

 エステバリスに戦闘で傷が付く事は滅多に無い。

 だからレイナの仕事は何時もメンテナンスだけと言ってもいい。

 それが昨日の戦闘で珍しくアキトのエステバリスが中破して・・・

 

「御免、修理を頼むよレイナちゃん。」

 

「うん、任せておいてよアキト君♪」

 

 アキトのお願い、プラス、徹夜の作業になったのでアキトの手作り夜食付き。

 もう、上機嫌で先程から私に自慢している。

 ・・・私の機嫌が悪のは、ナオさんの無事な姿だけとは決して言えない。

 

 そう・・・レイナ、貴方も私のなのね。

 

 

「よう、アキト!! 今日はカツ丼が食べたい気分だな俺は。」

 

 どうしてカツ丼なんですかナオさん?

 

「・・・どうしてそう元気なんですか、ナオさん。」

 

 ナオさんの挨拶を受けて疲れた表情をするアキト。

 ちなみにナオさんの周囲は湿布の匂いが凄い為、誰も近寄らない。

 

「はあ・・・今は食材が底をついてるんですよ。

 もう少ししたら食材の配達が来ますから、それまで我慢して下さい。」

 

「やれやれ、ここに来てからついて無いね俺も。」

 

 ・・・自分から不幸を呼んでませんかナオさん?

 アキトも呆れた顔をしてるし。

 

 さて・・・

 

「アリサ!! 何時までトリップしてるつもりなの?

 貴方はこの時間はトレーニングなんでしょ!!」

 

「え!! あ、姉さん・・・

 もうこんな時間なのですね、じゃあ私はトレーニングに行って来ます。」

 

 再起動を果たし、手に持つ書類を大事そうに胸のポケットに入れて食堂を去るアリサ。

 食堂を出る時に、猛禽類の目でアキトを一瞬睨んだのは・・・気のせいだと思う。

 

 しかし、アリサにトリップする癖があったなんて知らなかったわ・・・

 

「恐いほどそっくりよね、サラとアリサってさ。

 外見から性格から・・・」

 

「失礼ね、外見以外で私とアリサの何処が似てるのよ。」

 

「いや、サラもよくトリップするじゃない。」

 

 ・・・嘘、だと思いたい。

 

 

 

 

 

 ガタッ・・・

 

 椅子が動く音に反応してそちらを向くと。

 今迄、アキトをからかって遊んでいたナオさんが、懐に手を入れて静止していた。

 顔はサングラスをしているので解らないけど・・・

 何やら真剣な雰囲気を感じる。

 

「・・・関係無い、ですよ。」

 

「・・・ま、アキトがそう言うならそうなんだろうな。」

 

 アキトの一言を聞いて元の体勢に戻るナオさん。

 何があったんだろ?

 

「アキトお兄ちゃん!!」

 

 突然・・・アキトの後ろから女の子の声が聞えた。

 二人はこの子の事を話していたのか。

 ・・・一応、仕事はしてるんだナオさんって。

 

「やあ、メティちゃん!!

 びっくりしたじゃないか!!」

 

 そう言ってから、厨房に屈み込んで女の子と話しているみたい。

 ここからじゃ見えないわね・・・

 

「おいおい、幾らアキトでも守備範囲が(ガコ!!)」

 

 ・・・アキトの飛び回し蹴りをくらって後ろに倒れ込むナオさん。

 本当にこの人は役に立つのかしら、お爺様?

 

「ねえねえ、アキトお兄ちゃん!!

 あそこで倒れてるおじちゃんだれ?」

 

 床に倒れているナオさんを指差して、無邪気にアキトに質問するメティちゃん。

 その声に反応して・・・

 

「お、おじちゃんは酷いなお嬢ちゃん・・・これでもお兄さんは28歳だぞ。」

 

 いきなり復活するナオさん。

 ・・・結構、丈夫なんですね。

 

「私は十歳だもん!!

 私から見たら28歳なんて、おじちゃんで十分よ!!」

 

 その言葉を聞いて涙するナオさん。

 この人っていったい・・・

 

「・・・じゃあ、私はおばちゃんなのかしらメティ?」

 

「あ、お姉ちゃん!!」

 

 そう言って私の知らない女性が食堂に入って来る。

 その女性を見て・・・メティちゃんが厨房から飛び出してきた。

 

「済みません、妹が失礼な事を言ったみたいで。」

 

 髪の色は栗色、目の色はちょっと暗い藍色だった。

 長い髪を後ろに流している・・・なかなかの美人。

 年齢は22〜24歳くらいかな?

 

 メティちゃんは、その女性の小さい頃を見てる様な容姿だった。

 この子も将来は美人になるでしょうね。

 

「あれ? 今日はお父さんは来ないんだ?」

 

「ええ、アキトさん。

 父がこの基地への配達なら、アキトさんがいるので大丈夫だと言って。

 今はいろいろと忙しいらしいので私が配達に来たんです。」

 

 仲良く会話をする二人にちょっと苛立つ。

 ・・・私も変わったものね。

 

 だからレイナ、その怯えた瞳は何?

 

「アキトやっぱりお前の守備範囲は・・・止めておこう、まだ俺も死にたく無い。」

 

「賢明な判断ですね。」

 

 何時の間にか右手に装着していた出刃包丁を、まな板の上に戻すアキト。

 ・・・ヤッちゃって良かったのに。

 

 だからレイナ・・・泣きそうな顔で私を見ないでよ。

 

「じゃあ・・・早速荷物をチェックしましょうか。

 ・・・手伝ってくれますねナオさん?」

 

「・・・アキト、それは要請じゃなくて強制だろ。

 解ったからその右手に持つ柳葉包丁をしまってくれ。」

 

「あれ? こんなモノを何時の間に?

 いや〜、無意識の行動だったみたいです。」

 

 朗らかに笑いながら包丁を片付けるアキト。

 それを見ながら冷や汗をハンカチで拭っているナオさん。

 ・・・何をしてるんだか。

 

 そして4人は食堂の裏にあるトラックから品物を運び出す。

 降ろした商品を一つ一つチェックするアキト。

 その隣ではメティちゃんが嬉しそうにアキトにじゃれついている。

 

「・・・サ、サラ?

 相手は十歳の子供なのよ、落ち付いて、ね?」

 

「そう・・・十歳なのよね。

 十年後・・・いえ7年後には脅威になるわ。」

 

「ちょ、ちょっとサラ!! 落ち着きなさいってば!!」

 

 レイナの言葉を聞きながら私は状況判断に務めた。

 ・・・メティちゃん、これは予想外の敵ね。

 そのお姉さんは・・・

 

「ねえねえ、君の名前はなんて言うのかな?」

 

「え? 私の名前ですか?

 ・・・ミリア、ですけど。」

 

 ・・・ナオさんにナンパされていた。

 ナオさん貴方って人は・・・ナイスです。

 初めて仕事らしい仕事をしてますね。

 

「・・・サラ、その笑い方はアキト君の前でしない方がいいよ。」

 

「え!! ・・・笑ってたかしら私?」

 

「・・・うん。」

 

 そうなの? 全然自覚は無かったけど・・・

 ・・・レイナ、その気の毒そうな顔は何?

 

 

 そして、さんざんアキトに甘えて満足したメティちゃんと。

 とことんナオさんに付き纏われて・・・それでも余り嫌な顔をせずに対応していたミリアさんは。

 夕方になってから実家へと帰って行った。

 

 後には、ちょっと疲れた顔のアキトと・・・

 自分の戦果(ミリアさん家の電話番号その他)に御満喫なナオさんが残った。

 

 それをずっと眺めていた私も私かもしれないけど・・・

 

「ね〜、サラ〜、今日一日私達って食堂から動かなかったね。」

 

「・・・私を置いて行けばよかったのに。」

 

「そんな事出来ないわよ。

 サラを一人にしたらアキト君に絶対例のサインを迫るもの。」

 

 ・・・やっぱりそれが目的だったのね。

 完璧に貴方も敵ねレイナ。

 

 

 

 

 こうして、私の振替休日(前日の戦闘で休暇が消えた為)は終った。

 まあ、今日一日も楽しく過ごせたからいいけどね!!

 

 

 

 

 二週間後・・・私達の部隊に一つの命令がされた。

 遊撃部隊としての各地への出撃。

 部隊名は 「Moon Night」

 月・・・これはアリサを表している。

 しかし月夜・・・

 これは・・・

 アリサを、私達を包み込み守護してくれる漆黒の存在を表している。

 私達はそう考えた。

 アリサも同意見だった。

 自分が彼に対する鎖みたいに見られていて嫌です、と言っていたけど。

 でも、彼は私達についてくる・・・絶対に。

 そういう人だもの。

 御免ねメティちゃん・・・アキトを連れて私達はここを去るわ。

 こんな形でアキトと別れるなんてね。

 本当に御免・・・最後に会った時にアキトに泣き付いてた姿が忘れられない。

 でも絶対に、ここにまた帰って来るから・・・私達もアキトも・・・ 

 それまでは・・・さようなら、ね。

 

 

 

 私はアキトをずっと見詰めていたい・・・

 誰よりも不器用で誰よりも優しくて、誰よりも謎が多い人だけど。

 出来れば一番近くで。

 誰よりも長く。

 この碧の瞳で・・・

 

 彼を・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

第五話へ続く

 

 

 

 

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