< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 窓の外は良い天気だった。

 明日もきっと晴れるだろうな〜

 

 無意識のうちに手元のシャープペンを、指の間に挟んで回しながら。

 私は昼食後の授業を、半分眠った頭で聞いていた。

 

「ラピスさん、次のページを読んで下さい」

 

「・・・」

 

「ラピスさん?」

 

 国語の先生の口調が少し高いものに変わる。

 不審に思った私は、隣の席に座っているラピスちゃんの方を見ると・・・

 

「ク〜、ク〜・・・」

 

 ・・・気持ち良さそうに眠ってた。

 普段の元気な姿も人気があるけど、大人しくしている姿はまた違った可愛さがある。

 学校指定の同じ制服を着ているのに、薄桃色の髪と白い肌に凄く似合ってるように見える。

 今は閉じられているけど、金色の瞳と並んで、その髪の色は学校でも有名だった。

 

 まぁ、あのルリさんとラピスちゃん、それにハーリー君は色々な意味で有名なんだけどね。

 

 そのハーリー君と何時もは休憩時間とかに遊んでるけど、ハーリー君以外の男子とは滅多に遊ばない。

 それだけに、ハーリー君との仲がよく噂されてる。

 けど、本人に尋ねたら凄く怒るの。

 

 何故か、お父さんも・・・

 

『ハーリーとラピスちゃんが付き合ってるぅ〜?

 それは無い、絶対に無い、あったら恐い。

 もしそれが現実になったら、地球が滅んであの二人だけが生き残った場合だな。

 ・・・いや、それでも無理かもなぁ・・・絶対、人類が滅ぶ方を選びそうだよなぁ』

 

 と、力一杯断言してた。

 

 まあ、私の家での会話はおいとくとして。

 

 ラピスちゃんの容姿はまさに絵本の中の妖精そっくり。

 だからクラス中の男の子が狙ってるんだけど・・・相手にしてないんだよね。

 私やハーリー君は知っているんだけど、その細い身体からは想像も出来ないような槍の達人なんだ。

 

 ・・・この前、悪戯を仕掛けてきた大柄な男の子を、一撃で叩きのめしてから、女の子中でも人気者になってた。

 その男の子が、女子に悪戯を繰り返す嫌われ者だったのも、大きな理由だった。

 

 でも、相手がハーリー君なら、殴られても10秒後には復活するんだけど・・・その男の子は保健室に直行だった。

 改めて、ハーリー君の凄さと、ラピスちゃんの恐さを知った瞬間だったわ。

 

 

 で、現在夢の国のラピスちゃんに、国語の先生(3〇歳、独身だって)がツカツカと足音高く歩いてくる。

 私は心の中でラピスちゃんが早く起きる事を願った。

 

 それはもう一生懸命に・・・

 

「う〜ん、アキト〜・・・(は〜と)」

 

 でも、願いは全然届いていないみたい。

 願った星が悪かったのかな?

 そしてラピスちゃんの寝言を聞いて、国語の先生の口元がピクピクしている。

 私は次の瞬間、自分の耳を塞いだ。

 

 

「ラピスさん!!」

 

 

「ひゃっ!!」

 

 耳元で大声で怒鳴られ、一気に目を覚ますラピスちゃん。

 そのまま周囲を見回し、国語の先生の小言に首を竦める。

 

「まったく、いくら学校内で一番成績が良いとはいえ、授業中に居眠りは駄目ですよ!!

 ・・・それとも、マキビ君の夢でも見てたのかしら?」

 

「・・・」

 

 大人しく怒られていたラピスちゃんの表情が、その瞬間凄く怖いモノ変わっていく。

 教室中の他の生徒達も、一番のタブーに触れた先生を、哀れみの目で見ていた。

 

 そう、三日前も・・・同じ様な事件があったから。

 

 あの時は、理科の先生(4〇歳、離婚済み)が同じ様に、ハーリー君とラピスちゃんの関係をからかったの。

 その時、ラピスちゃんの顔は無表情になって・・・

 

「先生ぇ、寒い北海道と暑い沖縄の・・・どちらがお好きですかぁ?」

 

「何の質問だそれは、ラピス・ラズリ?

 まあ、個人的には常夏の島が好きだがな」

 

「・・・そう、常夏ね」

 

 その時のラピスちゃんの笑顔を見て、私達と・・・先生はその場を一歩退いた。

 ・・・次の日、その先生は学校に来なかった。

 風の噂では、赤道直下・・・とにかく、凄く暑い国でボランティア活動として無償で先生をしてるらしいけど。

 

 ちなみに、その風の噂の元は―――薄桃色の髪をした同級生だった。

 

 そして、クラスメイト達が見守る中・・・ラピスちゃんはあの時と同じ様な質問をした。

 

「先生ぇ、月と火星と木星・・・どれが一番お好きですかぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、国語の先生が変わっていた・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラピスちゃんが居眠りするなんて珍しいね。

 どうかしたの?」

 

 居眠りを注意された日の帰り

 私とラピスちゃんは連れ立って、ラピスちゃんの家・・・ミスマル家に向かっていた。

 理由はラピスちゃんお薦めのマンガを借りる為

 

 ・・・でも、ラピスちゃんのマンガの趣味って幅が広いから。

 私に理解出来るような少女漫画ならいいけど、熱血漫画は勘弁してほしい。

 

 そんな事を考えながら、私はラピスちゃんの隣を歩いていた。

 

「う〜ん、ちょっと家でね・・・ユリカのお手伝い。

 何時もならルリと一緒に手早く終らせるんだけど、昨日はちょっと複雑なお手伝いだったから」

 

 ・・・複雑なお手伝い、って何だろ?

 ここで突っ込んで聞いた場合、後が恐そうなので私は止めておいた。

 

「あ〜あ、今日はお師匠様の所に行かないといけないのに。

 もっと気合を入れないと駄目だね」

 

「・・・お師匠様って、今日は槍術のお稽古なの?」

 

「うん」

 

 楽しそうに笑うラピスちゃんは、やっぱり私とは感覚が違うんだろうな。

 私には理解出来ないもん、自分を鍛える意味が・・・

 

 

 

 

 

 その後も、学校の先生の話題や授業で分からなかった事、それにクラスメイトの話題を振り撒きながら歩いた。

 学校から私達の足で歩いて30分・・・そこがミスマル家のある場所

 

「さ〜てと、今日は何を着ようかな?」

 

 ラピスちゃんの部屋で渡された漫画(内容の判断が難しい)に軽く目を通していると、添え付きのクローゼットが開かれる。

 そこにはラピスちゃんの趣味に合わせた服から、明らかに遊びで手渡されたと思える奇抜な服が並んでいる。

 煌びやかな光を放ってるドレスなんて、アイドルの衣装と見間違えそう・・・まあ、ラピスちゃんなら似合うかもしれないけど。

 

 

 外には着て歩けないね。

 

 

 ・・・ラピスちゃん、そんな服本当に着るの〜?

 

 ま、まあ人の趣味に口を挟む気は無いけど。

 どうして看護婦さんの服や、軍服とか警察の制服があるの?

 

 もしかして・・・私のお父さんからの贈り物?

 

 その可能性が非常に高いだけに、私はラピスちゃんに聞く勇気は無かった。

 視線をクローゼットの中に固定している私の前に、ラピスちゃんが取り出したのは綺麗な刺繍がされたチャイナ服だった。

 他の洋服と違って、洗練された感じがそのチャイナ服にはあった。

 

 そして、私はとうとう好奇心に負けて、ラピスちゃんに質問をしてしまった。

 

「ねえ、ラピスちゃん。

 ・・・そのチャイナ服をどうするの?

 確か槍のお稽古なんだよね?」

 

「うん、コレを着ていかないとお師匠様はお稽古をつけてくれないんだ」

 

 ・・・ああ、つまりお父さんの同類なんだ。

 何故か私は納得してしまった。

 

 

 

 ―――そんな大人しか、ラピスちゃんの周りには居ないのかな?

 

 

 

 冷汗をかいている私の前で、ラピスちゃんは青色に染め上げられたチャイナ服を自分の身体に当てている。

 どうやら、今日はそのチャイナ服でお稽古に行くつもりみたい。

 

「ま、まさか・・・お父さんがそのチャイナ服を用意したんじゃないよね? ね?」

 

 多分、涙目になりながら私はラピスちゃんに尋ねていたと思う。

 

「違うよ〜、これはエリナとレイナに用意してもらったんだ。

 運動をしても大丈夫なように、ネルガル製の新素材で編まれてて、軽くて丈夫なんだから」

 

「へ、へ〜、そうなんだ」

 

 とりあえず、安心した。

 

「ウリバタケさんから貰ったチャイナ服は、えっと・・・コレだったかな?」

 

 そう言って、ラピスちゃんがクローゼットの奥から引き出してきたモノは・・・

 何と言うか・・・私の知っている言葉では言い表せないモノでしたぁ(涙)

 

「私も・・・流石にコレは着たくないな・・・だから一番奥にしまってるんだけどね」

 

 そのチャイナ服を掴んでいるラピスちゃんの顔にも、困惑の表情があります。

 それはそうだよね・・・コレだもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お母さん、お父さんはまた人の道を踏み外してますぅ(涙)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、変わったお師匠様だね・・・その人」

 

 少しの間、意識を失っていた私は、ラピスちゃんが運んできてくれたアイスティーを頬に当てられて正気に戻った。

 さっきの出来事は、帰ってからお母さんに報告しておこう・・・

 

「そうかな?

 まあ、私の知り合いの人って、どっか変わってる人が多いから、別に気にならないよ」

 

 ・・・他の知り合いの人とも、あまり会いたくないな・・・私

 アイスティをストローから飲みながら、私は心の中でそう思っていた。

 

「ま、ハーリー並に面白い人は、流石に3〜4人ほどしか知らないけど。

 ナオさんでしょ、ヤマダさんでしょ、ゴートさん・・・う〜ん、アオイさんはちょっとジャンルが違うかな?」

 

 聞いちゃ駄目だ、聞いちゃ駄目だ、聞いちゃ駄目だ

 ・・・その人達の事を聞いちゃ駄目

 

「ナオさんは天井を走れるし、ヤマダさんは不死身だし、ゴートさんは目に見えない人とお話出来るし。

 う〜ん、アオイさんはハーリーに並ぶ不幸者だね。」

 

 ・・・天井を走れるって何、重力は?

 どうやって不死身だと試したの?

 目に見えない人って何者?

 ハーリー君並の不幸って、どういう意味?

 

 

 ああああああああああ、何か凄く興味が湧いてくるんですけどぉ・・・

 

 

 その後も、延々と私はラピスちゃんの知り合いの話を聞かされた。

 しかも、全員お父さんの知り合いらしいし・・・

 

 ―――お父さん、一体あの2年間の出張中に何があったのぉ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手提げ袋一杯に漫画を詰めて、家に帰る途中・・・

 何気なく、青空を見上げて呟いてしまった。

 

 

「ハーリー君、元気かな・・・」

 

 

 帰ってきたら、絶対に旅行の時の話をしてもらうんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その11に続く

 

 

 

 

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