< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 煌びやかな世界に憧れた事はある。

 私も普通の女の子だもん、そりゃあ白馬の王子を夢見た事もあったもんね。

 

 でもさ、本物の王子様の列なんて見たくなかったな。

 

 ・・・全然、希少価値無いもん。

 夢も鬼謀(あ、意味が違か)もあったもんじゃないわ。

 

「次は何処の国の王子様かなっと」

 

 事前に渡されていた、来客リストを取り出しルリルリに挨拶をしている王子様のプロフィールを見てみる。

 最早ノリは映画の鑑賞に近い。

 舞台装置も王宮の一角のパーティーホール・・・何故か私まで最高級のドレスを着ているのは、忘れる事にした。

 ドレスを気にしてたら、まともに歩けないし折角のご馳走も食べれん!!

 既に私の一生の中で最大級のイベントでしょ、これ?

 

 しかし、世界に誇れる友人を持って私は幸せだぁね・・・全く・・・

 他人に話しても、信用してもらえるとは思わないけど。

 

「ハーリー君、そんなに血走った目で見なくても、ルリルリ全然相手にしてないよ」

 

「いえ!! 油断は禁物です!!

 あの人達からすれば、ルリさんはまさに宝くじに等しいんです!!

 金の成る木です!! 歩く国家予算です!! 空飛ぶ極楽鳥なんですよ!!」

 

 ・・・最後の極楽鳥の意味は理解出来ないけど。

 つまりハーリー君にとってルリルリは人間ではないと?

 だって一言も『人間』の例えが無いんだもんね。

 でも宝くじって・・・当たるかどうかは別問題、って事?

 

「・・・後でルリルリに報告しておくか」

 

 私はパーティーホールの一角から、上座のルリルリを見守るハーリー君を残して、その場から去った。

 確かにこんな誕生パーティーは両親に会う以外、ルリルリには意味が無いんだろうな〜

 色々な国の人達からすれば、ルリルリの持つ『力』って・・・凄く魅力的なんだろうね。

 でも、ルリルリ本人を見てるとは思えない。

 

 綺麗にお化粧をされて、愛想笑いをするルリルリが可哀想だな、と思ってしまった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 このお城に着て、既に5日が経っている。

 色々と見所が満載なお城だけど、私のお気に入りは庭園だった。

 いや〜、広いし綺麗だし見てて全然飽きないのよね、家にも欲しいくらいだわ。

 

 ・・・この庭園の所有面積だけで、私の家が十個ほど入っちゃうけどね。

 

 誕生パーティーの人込みに嫌気が差した私は、その庭園まで散歩をする事にした。

 今の常態ではルリルリに『おめでとう』の一言も言えないし。

 私からのお祝いは、日本に帰ってから予定されている身内の誕生パーティーにしようっと。

 

 誕生日の挨拶のおかげで、外はすっかり暗くなってしまった。

 ついでに言えば、お腹も少し空いたなぁ・・・

 

「あ〜あ、カズヒサ君は不貞寝しちゃってるし。

 白鳥先輩はアオイさんの追っ掛けで忙しいみたいだし。

 ・・・ハーリー君は論外だしねぇ」

 

 この国での知り合いを思い出してみる。

 実はこの三人の男性以外にも、二人ほど知り合いはいるのだ。

 ただ、その二人にも相手は存在している・・・と言うか私とは年齢離れすぎ。

 

 ヤガミ ナオさん 31歳

 オオサキ シュンさん 41歳

 

 しかもそれぞれに美人のパートナー随伴

 

 ええ、ええ、どうせ私は寂しい独り身ですよぉ〜だ

 自分でも馬鹿な事を考えてるな・・・と思いながら、私は庭園に向かって歩いていた。

 そう言えば、ルリルリの知り合いの影護さんと紫苑さんも、あの会場では見かけなかったな?

 あんな綺麗な人だったら、あの会場でも楽しく過ごせるんだろうな〜

 

 真紅の髪を綺麗に編み上げ、澄んだ鳶色の瞳で私に挨拶をしてくれた美人を思い出す。

 ルリルリの知り合いは誰もが皆、一癖も二癖もあるけど、私の周りにはまず見られない大人が多い。

 一般的な『大人』とはモノの見方とか、考え方が全然違うのだ。

 個性的と言えばそれだけだけど、私には凄く頼もしく見えた・・・

 

「私も美人さんに生まれたかったな〜・・・・・っと?」

 

 庭園の入り口で佇む人影を見つけて、私は首を傾げた。

 その人物が何処かの国のお偉いさんとかだったら、回れ右をして帰っただろう。

 でも、目の前で庭園の入り口を護っているのは・・・白鳥先輩だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昔ここでね、ジュン君は好きになった女性と出会ったんだ」

 

 物陰から覗いている私を見つけて、白鳥先輩は手招きをしてきた。

 気恥ずかしさもあったが、ここで逃げ出すのも変だと思い、そのまま先輩の下まで歩いて行った。

 そして先輩に庭園の入り口にいる事情を聞くと、先程の応えが返って来た。

 

「え、でも今の彼女は先輩でしょ?」

 

「う〜ん、多分そうなんじゃないかな?

 でも、そうだと良いな〜」

 

 私の質問に、先輩は弱々しい笑顔で返事をする。

 ・・・今まで元気一杯な先輩の姿しか知らない私には、その姿はかなり意外だった。

 

「・・・もしかして、相手の人が凄い美人だとか?」

 

 恐る恐るそんな事を尋ねてみる。

 でも私から見て、綺麗なパーティドレスを着た先輩は、美少女と言っても間違いでは無いと思うけど。

 

「とびっきりの美女・・・ではなかったそうだよ。

 ただ、お互いに色々あったんだ、ジュン君とその人はね」

 

「ふ〜ん、そうなんですか」

 

 もっと色々と質問をしたかったけど・・・先輩の雰囲気はそれを拒んでいた。

 先日忠告をされたばかりだし、他人の事情を余り探るのもよくない。

 でも、先輩の横顔を見てついつい言葉が漏れてしまった。

 

「辛く・・・ないですか?」

 

 好きな人が自分以外の女性しか見ていないとしたら・・・私ならさっさっと諦める

 

「私はまだ良いほうだよ、恋する相手が目の前に居るんだからね。

 ・・・本当に辛い恋をしてる人を、沢山知ってるから余計に、ね」

 

 

 そう言って微笑んだ先輩が、凄く年上に私は思えた。

 

 

 

 

 

 そしてそれ以上、私には先輩に質問をする事もその場に残る事も出来ず。

 

 ―――静かにその場から去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホールに帰ってみると、そこはダンスの真っ最中だった。

 勿論、私にはダンスのスキルなんて持ち合わせていない。

 ・・・普通の一般家庭に育った女子中学生に、そんなスキルを求める方がどうにかしてるわ。

 

 そういう訳で、とち狂った男性からのダンスの誘いを断り、私はテラスに逃げ出していた。

 目を付けていた料理を、取り皿一杯に満載して。

 

 食べれる時に食べるのは、生きていく上での基本です。

 

 ・・・ルリルリに聞かせると、痛烈な皮肉で返されそうだけどね。

 

 山間から吹く涼しい風を感じながら、私はガラス越しにダンスの様子を見ていた。

 本当ならこの場に私は居ない存在で、相応しくない立場なんだろう。

 たまたま、親友が強国の王女で、しかも王位継承者だっただけ。

 

 ・・・無茶苦茶大人物だね、改めて考えてみると。

 

 少し背中に冷たい汗が浮かんだ。

 知らなかったとはいえ、今考えると私もかなり無礼な事してたよな〜

 まぁ、ルリルリが今まで通りを望んでいたから、態度を変えるつもりはないけど。

 

 ・・・今更、引き返せないし。

 

 御免なさい国王様、ルリルリに悪い遊びを教えたのは私ですぅ

 許して下さい王妃様、ルリルリの隠し撮り写真を男子に売ったのは、金欠病のサイフが悪いんですぅ

 

「それで許されると思っているのですか?」

 

 

 

 

 

 

 ・・・幻聴が聞えたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お腹も一杯になり、カズヒサ君の様子でも見に行こうとと思った時

 テラスの手摺に置いていた、料理の取り皿が風に吹かれて落ちそうになる!!

 その瞬間、カズヒサ君に聞いていた皿の『お値段』が脳裏に走り、私は飛びつくように皿を掴んだ!!

 

   ガキッ!!

 

「ほぇ!!」

 

 瞬発力には自信があったけど、履き慣れないハイヒールの強度は耐えられなかったらしい。

 そのまま踵のとれた勢いで、私は手摺を支柱に・・・・三階のテラスから空中に飛び出す!!

 

 一瞬、状況を把握しきれず呆然とした私が、次に気が付いたのは。

 凄い力でテラスの上に引き戻された後だった。

 テラスの上に勢い良く引き戻された私を、優しく背後の人物が受け止めてくれた。

 

 そして、私の目の前には一人の男性が居た。

 

「・・・たかだか皿一枚で命を失う気か」

 

 掴んでいた私の手を放し、呆れた口調でそう呟く。

 

「あ、あの、あの、あの」

 

 流石に自分自身の命が危なかっただけに、咄嗟に受け答えが出来ずに取り乱す私・・・

 そんな私の頭を目の前で男性は肩を竦めると、そのまま何も言わずに立ち去ろうとした。

 

「御免なさい!! 助けてくれて有り難う御座いました!!

 あの、このパーティの参加者の方ですよね?」

 

「・・・さて、な」

 

 一瞬だけ立ち止まり、私に視線を向けた後・・・その男性はテラスからホールに消えた。

 私があの男性を参加者と思えなかった訳は簡単

 彼がスーツや礼服ではなく、黒いマントとサングラスをしていたからだった。

 それに、何人も見てきた参加者達とは根本的に何処か違う雰囲気を持っていた。

 

 そう、どちらかと言えばヤガミ ナオさんに近い様な・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、せめて名前位聞いとけば良かったな〜」

 

 ま、パーティの参加者なら、ルリルリに聞けば分かるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オフィス然とした室内に、二人の男性と一人の女性が居た。

 女性は高級そうなスーツを身に着けており。

 男性の一人はスーツ姿であり、もう一人は・・・室内にも関わらず、黒のマントを羽織っていた。

 

 しかし、それを見るもう一人の男性と女性も何も彼に注意をしたりはしない。

 

「悪かったな・・・月に行きたかったそうだが、ピースランドの方が手薄でね」

 

「気にするな、何時でも彼女を見る事は出来る」

 

「でも、余り目立つ動きは止めて下さいね。

 そろそろ彼等も此方の存在を疑い出してますから。

 彼等の実力は貴方が一番良く知ってるでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、分かってる・・・分かってるさ。

 アイツ等と戦うのは二回目だからな」

 

 大きなバイザーの下にある歪んだ口だけが、彼の心情を物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十三話に続く

 

後書き・・・

皆さん、お久しぶりです。

多分、忘れ去れていると思いますが、Benです(苦笑)

前回の話に色々と至らぬ点がありましたので、修正版をアップする事にしました(爆)

まあ、今後はこんな形式で頑張ろうと思いますっす。

 

では、さようなら〜

 

 

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