< 時の流れに >
学校からの帰り道、私とルリルリは並んで歩いていた。
今日は終業式だった。
明日からは楽しい楽しい夏休みだ。
・・・まあ、彼氏が居ない身にとっては虚しいだけの夏かもしんないけどね。
「で、明日の誕生パーティは何時から始るの?」
「そうですね、皆さんお仕事の都合があるそうですから・・・
大体、3時から4時頃で考えています」
結局、ルリルリの正体を知った後も・・・私のルリルリへの態度は変わらなかった。
ルリルリ自身がそれを望んでいた事を分かっていたし、何より敬遠をする理由がない。
―――と言うか、大きな貸しがあるんだけどね。
そんな事を考えていると・・・
帰り道に途中にある喫茶店が、私の目に入った。
「さてさて、何を奢ってもらおうかな〜♪」
洋風に整えられた喫茶店内で、私は上機嫌だった。
女二人という状況に少し不満はあるけど、今は色気より食い気だ。
メニューと睨めっこをする私の対面では、ルリルリが複雑な表情をしていた。
この喫茶店の代金はルリルリ持ちである。
つまりは奢りな訳である。
私のお財布さんからは、誰も旅立たないのである。
・・・ここで食べないで、何時食べる?
「あの・・・私は確かにお金持ちかもしれませんが、使える額に制限が掛っているんですよ?」
ウェイトレスに出された水を飲みながら、ルリルリが小声でそんな事をのたまった。
「はっはっはっはっ
・・・か弱い女の子を貞操の危機に陥れておいて、何を言ううかな〜こいつぅ(ゴツン!!)」
あ、ちょっと力が入りすぎたかな?
私の突っ込み(グーでしたのグーで)に、頭を抱えて、涙目で抗議をするルリルリ
男性ならイチコロかもしれないその可愛さも、私には利かない。
・・・つ〜か、利いて堪るか。
「ふふふふふ、ルリィルリィ〜
まさか、あんたの国で・・・身代わりをしてあげたこの私に、そんな事を言うんだ?」
「だ、だからあれは・・・予想外のアクシデントだったんですよ」
ちょっと吊り目になった私に、座っていた椅子ごと後ずさりながら。ルリルリが弱々しく反論する。
しかし、事件の当事者としては・・・そう簡単に許せるものではない。
事の詳細はこんな感じだった―――
ルリルリの誕生パーティが終ったその日・・・
私はルリルリの部屋に遊びに来ていた。
着慣れない、窮屈なドレスは既に着替えており・・・これまた上等な寝間着に代わっている。
落ち着かないのは仕方が行けど、着替えなんて持ってくる暇、無かったもんね。
とにかく、私はルリルリの部屋(正確な広さは分かんない・・・)に遊びにきていた。
まあ、現実の王子様に幻滅しただの、料理はどれそれが美味しかったとか、白鳥先輩って健気だね〜とか。
メイドさんが用意をしてくれた紅茶を呑みながら、私達は話しに華を咲かせる。
そのメイドさん、多分ルリルリの部屋の隣の部屋で待機をしていると思う。
だって、昨日もそうだったし・・・う〜ん、メイドさんも大変な仕事なんだな〜
そして・・・そんな話をしているうちに、何時の間にか12時になっていた。
そう、時計の針が12時になった瞬間―――
コンコン!!
・・・ルリルリの部屋の窓がノックされたのだ。
ちなみに、ルリルリの部屋は4階
それもタダの4階じゃなくて、一つ一つの階の天井が高い為、実際の高さはビルの6〜7階に相当する!!
しかも、ノックをされたと思われる採光用の窓には、ベランダ等は付いていなかった筈?
もしかして鳥? 鳥さんがノックしたの? 嘴で?
「あ、来られたみたいですね」
・・・・・・誰が?
心の中で思わず突っ込む
この事態にまるで焦らないルリルリに、私は改めてルリルリに対する認識を変えた。
そして、ルリルリはまるで警戒する様子も無く、その窓を開けた。
・・・そこには、長い赤毛を一括りにした美女が、ちょっと不機嫌そうな顔でぶら下がっていた。
―――勿論、壁に
「・・・北斗さん、ですか?」
「ああ、枝織の奴は充分パーティを楽しんだらしいからな。
ココから先は、俺が楽しませてもらう」
赤毛の女性・・・北斗さんと呼ばれた人を部屋に招き入れるルリルリ
私はこの事態に付いて行けず、呆然としていた。
しかし、改めて良く見ると。
黒い長袖のシャツに、これまた黒いチノパンを履いたその女性は・・・美人だった。
う〜ん、ルリルリの知り合いには美人が多いな〜
「時間が無い、直ぐに出るぞ」
「はい、分かりました。
あ、その前に友人に頼み事をしておきますね」
トテトテと私に駆け寄って来るルリルリ
その目には、実に楽しそうな笑みがあったりした・・・
―――私は悪寒に襲われていたけど。
そして真夜中―――
不貞寝をしていた私のベットに、誰かが潜り込む感じがした。
不審に思った私が悲鳴を上げるより先に、その口が塞がれる!!
部屋の中が暗闇に満たされているため、相手が誰なのか分からないけど・・・男性である事だけは、圧し掛かってくる体格から分かった。
私としては、分かりたくもなかったけど。
「ルリ姫、このご無礼の程をお許し下さい・・・」
許せるかい!!
しかし、口を塞がれた状態では、人違いだと騒ぐ私の声は「ムームー!!」としか相手に届かない。
「あああ、私の身分では貴女様と結ばれない事は分かっています。
ですが、身分の壁さえなければ、私ほど貴女に相応しい男性は存在しないでしょう」
その上、この男性・・・自己陶酔型ときている
まるで映画や小説の悪役の様な台詞に、思わず凍り付く私
それを何を勘違いしたの、この男性・・・一気に私の寝間着に手を掛けてくれた!!
「やはり、ルリ様も私の事を―――」
一度、病院(精神科がお薦め)に行って来い、アンタ!!
「ムガ〜〜〜〜〜〜!!!!」
激しく抵抗を再開する私を、こればかりは感心するほど器用な手付きで寝間着を脱がしていく男性A!!
いや、こんな奴はAで充分だ!!
それよりも私ピンチ? 貞操の危機? しかもルリルリの身代わりで?
アンニャロ〜!! 何が平和裏に日本に帰る為に、身代わりを頼みます、だ!!
この国に来ているヤガミさんとネルガル会長さんが、見張られてて頼りにならないからって、私を身代わりにすんな、コラ!!
ああああ、こんな事考える間に下着姿だよ、私!!
「良いですか? 良いですね? 分かりました、姫・・・」
あんたも自己完結すんな、A!!
こんな初体験を認められるか〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
流石に涙を流しながら抵抗する私に、Aが圧し掛かって来て―――
ドサッ・・・
そのままベットから落ちた?
一瞬、何が起こったのか分からず・・・呆然とする私
「ったく、あの王妃様も洒落にならない事するな〜」
流石にこの暗闇にサングラスは不要なのか、珍しく素顔でベットの隣に立っているのはヤガミさんだった。
そして、私は新しい寝間着に着替え・・・ヤガミさんから事情を聞いた。
メイドさんが持ってきてくれたココアを飲むと、少し気持ちが落ち着いた。
・・・Aはナオさんが楽しそうに足を引っ張って部屋から消えている。
消息を聞く義理も趣味も私には無かった。
「あ〜、まあ、何だ・・・俺とネルガル会長で、北斗とルリちゃんの逃走のサポートをする予定だったんだけどな?
いや〜、王妃様はお見通しでさ、はははははは・・・ネルガル会長が捕まりやがってさ。
俺が一人で警備兵その他を引き付けているお陰で、この部屋の監視が緩くなってしまったんだ。
そこをあの馬鹿がチャンスとばかりに・・・
すまん、本当にすまん!!」
心の底から謝り、頭を下げるヤガミさんに、その時は少しは気が晴れたけど・・・
この後も、私の現状って更に悪くなっていったのよね。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!
私はルリルリのタダの友人なんだってば〜〜〜〜〜〜〜!!」
「待ちやがれこの野郎!!」
「僕達の目の前で誘拐とは、良い度胸だね!!」
「待ちなさい!!」
「ああああ、アカツキさ〜〜ん・・・は頼りにならないから、ヤガミさん、千沙さん助けて〜〜〜〜〜〜!!」
「・・・あのね」
と、誘拐される事―――2度
「じゃあ、ルリルリの身代わりをお願いしますね(ニッコリ)
大丈夫ですよ、遠くのテラスから国民に手を振るだけですから(再びニッコリ)
髪の毛は染めて、体格も似ていますからドレスの手直しも直ぐ済みますね(三度ニッコリ)」
「は、はいぃぃ(涙)」
・・・王妃様のお願いにより、ルリルリの身代わりをする事―――5度
体格の似た美少女なら、この国も一杯いるでしょうにね。
私には拒否権は存在していなかった、それは何故か?
いや、私が売ったルリルリの隠し撮りを持ってたのよ・・・この王妃様
侮り難し、王族
でも、余り国王様のイメージは強くないのよね・・不思議と?
そして、ルリルリ脱出から5日後・・・
私は立派にお勤めを果たして、我が祖国の土を踏んだのであった。
勿論、帰国したその足でルリルリの下宿先を襲ったのは記すまでも無い。
そうそう、意外と言えばカズヒサ君
なんとヤガミさんに頭を下げて、武術を教えてもらっていた。
その前に、アカツキさんに何やら突っ掛かっていたのを見たけど・・・何があったんだろう?
「ああ、まるで走馬灯のようにピースランドでの日々が頭に浮かぶわ〜
国民の皆様方に、思いっきり顔と名前を売ってきちゃったもんね〜」
遠い目をしながら、アイスティーを一口飲む。
一度最高級の味を堪能したために、私は普通の生活に順応するのに随分と苦労したもんである。
・・・ついでに学校の授業も進んでたし
「で、ですからあれは母とヤガミさん達が遊んでいた結果で・・・」
冷房の効いた喫茶店内なのに、ハンカチで額の汗を拭うルリルリ
流石に残された私がそこまで酷い目にあうとは、考えていなかったらしい。
・・・5日も帰国が遅れてたんだぞ?
気付きなさいよ、親友
「ふ〜ん、私ったら弄ばれたんだ?
ルリルリの母親と、その親友に?
私って不幸!!(およよよ)」
テーブルに泣き崩れる私
勿論、嘘泣きだ。
「あのあのあのあのあの・・・大声でそんな危ない台詞は言わないで欲しいんですけど」
周囲の視線を一身に受けて、更に顔色を悪くするルリルリだった。
でも、当分苛めてやるもんね。
私もそれだけの目にあったんだし〜
とりあえず、何時もの日常に私は帰ってきたのだった(まる)