< 時の流れに >
「ルリルリ、誕生日オメデトウ〜〜〜〜〜!!」
多数の参加者達・・・
少なからずルリルリに縁のある人達が、艦長の実家・・・ミスマル家に集まっていた。
ルリルリの学校の友人や、旧ナデシコクルーのブリッジ要員も揃っている。
まあ、数人は個人の事情とかで不参加みたいだけど。
―――アカツキさん達は仕事かな?
パアパァン!!
スパパパパパンンン!!
一斉に鳴らされたクラッカーに耳を塞ぎながら、ルリルリがケーキの上にある蝋燭の火を吹き消す。
十五本の蝋燭は見事に吹き消えた。
・・・ちなみに、ラピスちゃんが当初はケーキに蝋燭を20本立てようと用意をしていたけど。
ルリルリの笑顔での一睨みを前に、スゴスゴと退却していった。
まあ、旧ナデシコクルー以外の参加者も居るし、説明に困るからそれはそれで良かったと思うけど。
「ヒカル、飲んでる?」
「イズミちゃん、息がお酒臭いよ〜」
私に突然おぶさってきたイズミちゃんに、私は抗議の声を上げる。
「おらおた、お前も飲めよヒカル!!」
「ちょっと、ペース速すぎだって、リョーコ!!」
私のグラスには引っ切り無しに、リョーコがシャンパンやワインを継ぎ足していく。
折角の一級品もこれでは味わう暇が無い。
まあ、この二人が何かと私に気をかけてくれる理由は分かっているんだけどね〜
事の本人としては、特別動揺もしてなかった。
多分、向うもそう思ってるだろうな。
どうせ、時間の問題だったと思うし。
お互いの後援者の事を気遣ったのか、私と同じ様に招待をされていた万葉ちゃんの姿はここには無かった。
・・・ヤマダ君の姿も無いけどね。
「しかし、ヤマダの奴も―――」
「ストップ!!
リョーコ、今日はルリルリが主役の誕生パーティだよ?
私達の問題は持ち込まないの。
それに、私がそんなに落ち込んで見える?」
私が正面から少し強い口調でリョーコを睨みつけると、リョーコもばつが悪そうな顔をした。
どうやら、この場では相応しくない会話だと自覚はしてくれたらしいね。
「イズミちゃんも、OK?」
ポロロン♪
・・・せめて言葉で返事をしようよぉ、イズミ
その後は参加者の隠し芸や、艦長が隠れて作っていた料理を食べたアオイ君が倒れたり。
アオイ君の介抱をするユキナちゃんを皆でからかったり、ラピスちゃんのマジックでハーリー君が怪我をしたり。
そのハーリー君を介抱するキョウカちゃんに、ウリバタケさんが怒鳴ったりしてた。
私はそんな騒ぎを笑いながら見ていた。
確かに世間ではヤマダ君は二股男にしか見えないだろう。
でも、彼から迫ってきた事は無いのだ・・・
ただあの時・・・私はアルコールのせいで弱気になっていた。
もしかしたら、万葉ちゃんの方が好きなんじゃないか、って。
だから、ホテルに誘った
そして一夜を過ごしてしまった
言ってみれば、責任は半々だと言ってもいい。
逆にどちらかと言うと、意識を何とか保っていた私の方が悪いかも・・・
その事でヤマダ君を縛り付ける気は無いし、勿論責任を問うつもりもなかった。
ただ、周りは騒いでいたけど。
お陰で、この事は万葉ちゃんの耳に入ってしまった。
それが時間の問題だったとしても、この事件が万葉ちゃんの行動を促したといえる。
―――結局、自業自得なのだ
ヤマダ君や、ヤマダ君の家族温もりを欲し、誘惑に負けたのは私
そして、それは万葉ちゃんも一緒だろう。
私達はお互いに、今までの育ってきた環境や経験を話していた。
それだけに、万葉ちゃんが実は家族を欲しがっている事を知っている。
万葉ちゃんも、私の心を知っている・・・
そして、ヤマダ君はそのとばっちりに似た被害を受けている。
だけど、理解しているのかどうか分からないけど・・・ヤマダ君は私達を責めなかった。
周りの騒ぎを一人で引き受けて、一人で悪者役をしている。
確かに私達から一人を選ばなかったヤマダ君にも、非があったかもしれない。
でも、ヤマダ君からの入ったコミュニケのメールには・・・
『すまん、今はまだ選べない・・・大切なんだ、二人共
とにかく、当分はこのままでいかないか?
応援団には俺から直訴に行くからさ?』
思わず泣きながら笑ってしまった。
確認して安心してしまったのだろうか、あの男は私も万葉ちゃんも大事だと言い切っている。
きっと万葉ちゃんも自分の行為を悩んでいただろう。
でも、このメールを見れば、きっと私と同じ様に笑ったと思う。
その後で、晴れやかな気分になれただろう。
少なくとも、また同じ様な日々が訪れるだろう。
でも、以前とは違う関係を私達は築いているだろう。
最後にはどうなるか分からない・・・
だけど、まだ結末を急ぐ必要だけは―――無いと思ってる。
そう私達、3人は―――
阿鼻叫喚と化していく戦場を見ながら、私は静かに料理を作っていました。
・・・う〜ん、ちょっと薄味すぎますね。
台所から調達してきた調味料を加えて、自分の好みの味に変えていきます。
しかし、流石先輩の実家ですね唐辛子から胡椒まで何でも揃っています♪
「はい!! 次の罰ゲーム!!
敗者のハーリーには、イツキ特製トムヤンクンを食べて貰いま〜す!!」
オ〜!!
パチパチパチ!!
突然のラピスちゃんの宣言に沸きあがる歓声
私は聞いていなかった事態に、驚くだけです。
そして呆然とする私の手から、出来たばかりの特製トムヤンクンをラピスちゃんが奪っていきます。
まあ・・・もう一度作ればいいので、大人気なく怒るつもりはありませんが。
「ハーリー君、ガンバ!!」
「骨は拾ってやるぞ、ハーリー君!!」
楽しそうに野次を飛ばすヤガミさんやメグミさん達
何故か旧ナデシコクルーは、実に楽しそうに渡しの料理が運ばれてくるのも見ています。
・・・そう言えば、私にトムヤンクンを作るように頼んだのは先輩でしたよね?
これがその真意だったのでしょうか?
「あああ、ハーリー君がハーリー君が!!」
私の作ったトムヤンクンを見て、悲鳴に似た声を上げるキョウカちゃん。
確かに見た目は少し悪いかもしれませんが、自慢の一品なんですよ?
「や、やだよ!! そんなの食べたら死んじゃうよラピス!!
何だよそのマグマみたいに煮立った物体は?
唐辛子しか入って無いんじゃないの?
作った人は絶対に味覚がおかしいよ!!」
ウリバタケさんに羽交い絞めにされたまま、そんな失礼な事を言っちゃったりしてくれるハーリー君
ピキッ!!
・・・ちょっと、キましたね。
うふふふふふふふふ
私はエプロン姿のまま、ハーリー君とラピスちゃんの側に立つと。
自らスプーンを使ってトムヤンクンを一匙掬い上げ・・・
「さあ、ハーリー君・・・あ〜ん♪」
最高の笑顔でハーリー君に口を開けるように頼みました。
言われ無き誹謗中傷を潅ぐためにも、ハーリー君には是非『美味しい』の一言を言ってもらわなければ・・・
私は料理に少しは自信があるだけに、この皆さんの態度は許せません。
ブンブンブンブン!!
涙目になって必死に首を左右に振るハーリー君
その頭を、私が視線で頼んだヤガミさんが掴んで固定をします。
しかし、最後の抵抗とばかりに口を堅く結ぶハーリー君・・・
美味しいのに美味しいのに美味しいのに美味しいのに美味しいのに
私の心の中にリフレインする言葉
「ハ〜リ〜、駄目だぞぉ〜好き嫌いをしちゃ♪」
そう言いながら、身体を持ち上げられているハーリー君の足の裏をくすぐる高杉大尉
ちなみに、奥さんである三姫さんと一緒に出席をされてます。
まあ、ルリちゃんとは縁が深いですからね、この男性は・・・
「・・・・・・く、くはははっは―――アベシ!!」
その攻撃にも暫くは我慢をしていたハーリー君ですが、やっと口を開けてくれました(はーと)
私はその一瞬を逃さず、華麗にスプーンを操って特製トムヤンクンをご馳走します!!
美味しいでしょ?美味しいでしょ?美味しいでしょ?
ところで・・・アベシって、何ですか? ハーリー君?
私の目の前で―――ハーリー君は赤い煙を口と鼻から噴出しながら、カーペットの上に倒れました。
―――何故に?
「おいおい、ハーリーが一撃だぜ?」
「う〜ん、有る意味凄いね・・・この料理は。
艦長達とは別の意味で危険物だよ」
「水、水、水!!
ハーリー君、気をしっかり持ってぇ〜〜〜〜〜」
「予想以上の成果を上げたねぇ」
発言の順番は、ウリバタケさん、ヒカルさん、キョウカちゃん、ラピスちゃんです。
他の方は何とも言えない表情で私を見ています。
・・・そんな中、私はラピスちゃんから返された特製トムヤンクンを一口
「うん、美味しいじゃないですか?」
「・・・いや、同意を求められても困るんだけど(ですけど)」 その場の一同
何とかハーリー君も気絶から立ち直り・・・
その後も和気合い合いと誕生パーティが進む中
招待客の一人である、ルリちゃんの友人が漏らした言葉が
・・・その場の全員の動きを止めました。
「ねえ、ルリルリ。
帰ってきてから聞こうと思って忘れていたんだけど。
ルリルリの国のパーティで、全身黒尽くめの格好をした人に、危ない所を助けてもらったんだ。
こんな大きなバイザーをした男の人なんだけ・・・ど?」
その命の恩人の特徴を述べる毎に・・・鋭くなるルリちゃんの眼差しに。
言っている本人すら、凄い圧力を受けたような気分になったのか、黙り込みます。
それは彼女の周囲に居る私達の、無言の圧力も一役かっているでしょう。
「・・・その話は本当ですか?」
搾り出すようなルリちゃんの質問。
「う、うん・・・もし名前が分かるなら、お礼をするのに教えて貰おうかなと思っていたんだけど」
「残念ですが、そんな特徴的な格好をした出席者はおられません。
そうですよね、ヤガミさん?」
サングラスで分かりませんが、多分鋭い目付きをしていると思われるヤガミさんに、ルリちゃんが尋ねます。
そのルリちゃんの質問に、軽く頷くヤガミさん。
「ああ、参加者の服装の特徴等は全て目を通してある。
そんな酔狂な格好を誕生パーティでする奴はいなかったはずだ。
そして・・・俺もそんな男は見なかった」
それはつまり、ルリちゃんの誕生パーティに不審人物が忍び込んでいた事を示しており。
また、その不審人物がヤガミさんの指揮する警戒網を、突破する実力者であることを示していました。
勿論、私達の脳裏に浮かぶ・・・その様な人物は限られており・・・・
「どうやら・・・何かが起きそうだな」
ヤガミさんの一言に、関係者達は静かに頷くのでした。
このルリちゃんの夏休みが終る頃には、事態はどう動いているのでしょうか?