< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 私とヒカルは少しだけ出遅れた分、相対する二機の戦いには参加出来なかった。

 激しい機動戦を繰り広げる二機を前にして、私達は手を出しかねていた。

 ガイの『ガンガー』と対等に戦っている以上、相手の実力も機体もかなりのレベルだろう。

 実際敵機は見た事が無い機体だが、その機動力やディストーション・フィールドの出力は『ガンガー』に負けてはいない。

 

 そして、お互いに接近戦を得意とするのか・・・それともガイの戦い方に合わせているのか。

 少なくとも、今の二機の戦いは実力伯仲していた。

 

       ガシィィィ!!

 

 ガイが繰り出した左右の拳によるコンビネーションを払い、蹴りを放つ敵機。

 その攻撃を、ガイは払われた右手で逆に掴んでいた。

 

『・・・違う、アキト君じゃない』

 

 私と同じ様に戦いを見守っていたヒカルが、安堵とも溜息ともいえる呟きをする。

 その言葉を聞き、思わず目を敵機に向けた時―――ガイが掴んだ足の一部を握り潰していた。

 

『・・・テメェ

 安心半分、ガッカリ半分だぜ。

 こうなったら、きっちり正体だけは暴いてやるからな!!』

 

                 ゴウッ!!

 

 見事な加速力で敵の懐に潜り込み、次々と攻撃を繰り出すガイ!!

 しかし、相手も只者ではない・・・その攻撃を見事に避けていた。

 ガイの繰り出す攻撃を、最小限の動きで避け、またはライフルで攻撃を繰り出して止める。

 

 だがガイはなおも追い縋りながら、吼える!!

 

『確かに腕も良い、単機でこの包囲網に突入する根性も大したもんだよ!!

 だがな!! テメェを恐いとは感じねぇんだよ!!!!!!』

 

 

                 ドゴォォォォォ!!!!

 

 

 ガイの一撃により右腕を吹き飛ばされ、その勢いに負けたかのように後退する漆黒の機体。

 その勢いのまま、ガイに背を向けてコロニーへと向かう!!

 どうやらガイに破壊された右腕は、この場から逃げ出す為の犠牲だったらしい!!

 

「くっ!! 追い駆けるぞガイ!! ヒカル!!」

 

『了解!!』

 

『当然だ!!』

 

 そしてコロニー内部に入り込む漆黒の機体を追って、私達もコロニー内部へと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先行する漆黒の機体に追い縋る私達に、コロニー内に仕掛けられた罠が襲い掛かる。

 漆黒の機体はどうやら機動力を重視した設計らしく、コロニー内の罠が発動する前にその姿を奥へと進める。

 そして私達は逆に、その罠を丁寧に潰していかなければならなかった。

 

    ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

                      ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

           ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

 ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

       ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

          ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

               ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

    ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

   ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

     ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

         ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

                       ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

    ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

      ドガガガガガッガガガッガガガッガガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガ!!!!!!

 

 

『・・・・だぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!! 鬱陶しいんだよ、お前等!!』

 

 さしたる障害ではないが、その数に任せた攻撃により行く手をどうしても阻まれる。

 ガイがその内心の苛立ちを隠そうともせず、叫びながら次々と無人兵器を破壊していく。

 私とヒカルもそれに協力をしているのだが、敵の数は減ったようには思えなかった。

 

『ヤマダ君!!

 ここは私と万葉ちゃんが引き受けるから、アイツを追い掛けて!!』

 

「私もヒカルの意見に賛成だ!!」

 

『・・・よっし!!

 後は任せたぜ、二人共!!』

  

                      ゴウッ!!!

 

 一瞬だけ、私とヒカルの顔を見て考えた後・・・ガイは行きがけの駄賃とばかりに、無人兵器を蹴散らしながら直進する。

 後からガイを狙い撃ちしようとする無人兵器達を、私とヒカルの攻撃が破壊していく。

 

 ガイが射程圏外に出たせいだろうか、残りの無人兵器達が私とヒカリに集中する。

 

『さ〜て、どっちが先にヤマダ君に追いつくか競争しない?』

 

「ほぅ・・・何か賭けるか?」

 

『じゃ、この任務が終った次の休みの日のデートの権利

 勿論、二人っきりで』

 

「乗った!!」

 

 私とヒカルはお互いに笑いながら、目の前の無人兵器の群に突撃をしていった。

 大丈夫、ガイとヒカルが居れば・・・私はどんな窮地からでも生きて帰ってみせる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       ズズズズズズズ・・・・

 

「あ〜、また派手に戦ってるみたいですね。

 ここがコロニーだって事、分かってるんでしょうか?」

 

 俺の目の前にいる少年が、困った顔をして辺りを見回す。

 その姿は隙だらけだと俺は思ったのだが、隣のナオさんが動かない以上・・・俺も下手に動けなかった。

 つまり、それは俺には感じ取れないナニかを、ナオさんが感じ取っているからだろう。

 

「・・・で、イマリの奴は何処に居るんだ?」

 

「ああ、彼は他の用事があるので、この『ホスセリ』には居ません。

 イマリに何か用事でも?」

 

 不思議そうに首を傾げる少年からは、他の意図を感じられない・・・そう何故か真摯さがあった。

 そして俺に分かって、ナオさんにそれが分からないはずが無い。

 何ともやり難そうに舌打ちをしながら、次の質問をする。

 

「じゃあ、次の質問だ・・・お前達の名前は?

 モモセ君は知っているが、他は初対面だからな」

 

「あ、私の名前は九重と言います。

 イマリの姉で、モモセの妹になります」

 

 宜しく、と頭を下げる黒髪をセミロングで揃えた少女。

 その瞳が先程から閉じられたままである事に、俺はようやく気が付いた。

 しかし、本当にあのイマリと姉弟なのか?

 ・・・モモセ君と姉妹だというのは、納得出来るのだが。

 

「で、俺の名前は三輪 一矢です。

 先程ヤガミさんがご指摘された通り、この実行部隊のリーダーをしてます」

 

 こちらも礼儀正しく頭を下げる一矢に、益々やる気を削がれる俺達だった。

 ナオさんもどう反応していいのか分からず、黙り込んでいる。

 

「・・・で、そこでネルガル会長と睨み合ってる奴が千里と。

 後はこの場に居ないイマリを含めて5名で、実行部隊の全員なんですけどね」

 

「随分好意的だね?

 そんなに気前良く情報を教えていいのかい?」

 

 ナオさんと一矢の会話に割って入ったのは、睨み合いを中断したアカツキだった。

 その情報が本当に正しいのか分からないが、相手が好意的な態度に出ているのは確かだ。

 

 そしてアカツキに無視をされた形の千里は、面白くなさそうに小声でブツブツと文句を言っている。

 

「だって、個人的には貴方達を気に入ってますからね。

 まさかネルガル会長が本当に乗り込んでくるなんて、もう驚きですよ」

 

「そうですよ、千里君は絶対に来ないって、千沙さんに言い切ってましたからね」

 

 二人の視線(九重は相変わらず目を閉じたままだが)を受けて、一瞬嫌そうな顔をする千里。

 しかし、直ぐに真面目な顔になってこう言い切った。

 

「でも、それとこれとは話が別だろが一矢?

 どう話し合ったところで、俺達は・・・敵同士なんだ」

 

 その言葉を皮切りに、俺達の間に流れていた緩やかな流れは・・・張り詰めた殺気へと変わっていった。

 

 

 

 

 

 

「どうするんだ、ナカザト?

 モモセ君と話し合う余裕はなさそうだぞ?」

 

 隣に居る俺を肘で軽く突き、俺にそう言ってくるナオさん。

 ・・・俺としてもモモセ君と話はしたいが、あちらはどうなのだろうか?

 

 いや!! ここで弱気になってどうする!!

 俺がここまで来たのは何のためだ!!

 絶対に連れて帰ると、マスターにも約束しただろうが!!

 

「モモセ姉さん、随分と好かれてますね・・・」

 

「じゃ、二人きりにしてやろうか?」

 

 九重が一矢にそう呟き。

 一矢がそう返事をした瞬間―――

 

 

       ゴワァァァァァァァァァッァァァ!!!!!

 

 

「ちょっと、一矢君!!」

 

「な、何だ!!」

 

 俺とモモセ君は突風に吹き飛ばされ、隣の部屋へと押し戻されていた!!

 こちらも何故か都合良く開いていたドアが、俺達が床に落ちた瞬間に閉る。

 

 ・・・お化け屋敷か、このコロニーは?

 

 閉っていくドアを見ながら、俺は内心でそう呟いていた。

 

「全く・・・無茶な事しますね、彼も」

 

 薄く光る壁がモモセ君を守っていた。

 あの『イージスの盾』という能力で、落下の衝撃を殺したのだろう。

 

 ちなみに、俺自身は強く背中を打ったせいでむせていた。

 そんな状態の俺に気が付いたモモセ君が、慌てて隣に走り寄ってくる。

 

「大丈夫、ちょっと強く背中を打っただけだ・・・

 それより、帰る気は無いのか?」

 

 痛む背中を無視しながら、直接床に座り込み、俺は隣を指差す。

 それを見て少し躊躇った後・・・モモセ君は俺の隣に座り込んだ。

 

「・・・帰れませんよ、今更。

 マスターの好意や皆さんの事を裏切って、ハーリー君達を騙して。

 ナカザトさんの腕も、結果的には私が消し飛ばしたんですよ?」

 

 膝を抱えた状態で、そんな事を小声で話すモモセ君。

 一緒に働いていた時も、何か考え事をしている時は・・・このポーズをしていた事を俺は思い出した。

 

 もしかすると、彼女は自分達を騙している事に、強い罪悪感を感じていたのではないのだろうか?

 俺の想像だけかもしれないが、彼女は時々そんな表情をしていなかったか?

 

「じゃ、責任をとって貰おうかな・・・左腕一本分」

 

「・・・」

 

 顔を膝の間から上げて、俺の顔を正面から見詰めるモモセ君に、俺は真剣な口調で話し掛ける。

 これだけ緊張をしながら人に話し掛けるのは、生まれて初めての経験だった。

 

「マスターも待ってるし、俺も君と一緒に居たい。

 ―――帰ろう、あの店に」

 

 俺が差し出した手は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・駄目なんです、一緒には行けません」

 

 泣き顔のモモセ君に、掴んではもらえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その8に続く

 

 

 

 

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