< 時の流れに >
ドォォォォォォォォォオオオオオオンンンンンン!!!
「お〜、初っ端から飛ばしてんなぁ〜」
北斗のダリアが、問答無用で北辰の夜天光に攻撃を仕掛ける。
DFSの一撃を受け止めた錫杖から、物凄い衝撃波が発生した。
それにしても正面からDFSの一撃を受け止めるとは、何で出来てるんだあの錫杖?
こっちにも一本、分けて欲しいぜ。
襲い掛かる衝撃波に逆らわず、勢いを逸らしながら周囲を見る。
最初はフォーメーションを組んで、俺達は六連と戦う予定だったが・・・
「・・・こうなっちまったら、仕方がねぇよな!!」
それぞれの中心に居た北斗と北辰がぶつかる事で、背後に居た俺達は左右に吹き飛ばされた。
元々、先行気味だった俺は、目の前に居る三機の内の一つに狙いを絞る!!
・・・俺の背後に居る面子を考えると、連携なんて絶対に無理だぜ!!
「一機は引き受けたぜ!!
後の二機は、そっちで対処してくれよ!!」
『ふざけんなよ、ヤマダ!!
テメー、今までの訓練を何だと思ってやがる!!』
『そうですよ、少しは成長して下さいヤマダさん!!』
通信ウィンドウを開き、耳元で怒鳴るアリサとリョーコ。
そうは言っても、俺達の練習したフォーメーションは六人揃って初めて有効になるもんだ。
前衛、後衛の役割がそれぞれ綺麗に分かれているからな。
背後で指揮をとるサブロウタの奴がいなければ、俺達の連携なんて穴だらけだ。
それに一番の問題が時間が無ぇ事だ・・・北斗の攻撃で吹き飛ばされた無人兵器が戻ってくる。
相手の強さを考えると、片手間に無人兵器を倒しながら対処なんて無理だ。
一度戦った事があるだけに、俺にもこの程度の判断は出来た。
「うるせぇ!! 前衛ばっか三人揃ってて、フォーメーションも何も無いだろうが!!
それとも三人並んで突撃か?
相手の機動力と連携の上手さを考えてみろ、当たる攻撃も当たらねぇよ!!
一人一機だ!! くぅ〜、3年前を思い出すぜ!!」
『・・・そりゃそうだ』
『あの・・・私一応中距離もこなせますが?』
アリサの台詞は無視した。
それに、既に目を付けていた六連との交戦域に入ってる。
余計なお喋りは、また後ですればいい!!
「それとな・・・・俺の名前はダイゴウジ ガイだ!!
ちゃんとガイと呼べぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
そう、これは本当に俺の名前だ。
最早、誰にも否定はさせねぇ!!
『あ〜、はいはい・・・』 × 2
『おぉぉぉぉぉぉおおおおおおお・・・りゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
ヤマ・・・ガイさんが凄い勢いで先行し、六連の一機に体当たりをしながら彼方に消えます。
パーソナル・カスタムを更に改良しただけあって、出力もかなり増えています。
何だかんだと言いながらも、ガイさんの実力も超一流・・・それも前回の雪辱戦ですし、気合が違います。
一対一ならば、そうそう遅れはとらないでしょう。
勿論、ガイさんが焦っている理由も気付いています。
散り散りになっていた無人兵器達が、半分はナデシコ、残りがこちらに向かっているのですから。
「さて、こちらも負けてられませんね」
『そうだな、ガイに言われたのは癪だが・・・一人一機。
上等じゃねぇか、今までの鬱憤を全部ぶつけてやるぜ!!』
相手もこちらが二機残った事に気が付いたのか、飛んで行ったガイさん達を追わず、その場で留まっています。
ヒカルさん達の話を聞く限り、相手の実力は以前とは段違いとの事・・・
―――油断は出来ませんね。
「様子見は無しです、全力で行きますよ!!」
『反対なんかしねぇよ!!』
それぞれの得物・・・ヴァルキリーランスと赤雷を構えて、私達は突撃します!!
リョーコが右、私は左に!!
相手の錫杖が、あの夜天光と同じモノならば油断は出来ません。
どのような原理かは知りませんが、DFSを受け止めるという信じられない代物です。
まずはその武器を無効化するべく、六連の手を狙った一撃を―――
「―――っ早い!!」
予想以上のスピードで接近され、そのままの勢いで錫杖が私の操る『ルナ』に襲い掛かる!!
手元のヴァルキリーランスを引き上げ、何とかその一撃を逸らしつつ、機体も右側に捻ります!!!
ガリガリガリ!!
耳障りな音がアサルトピットに響き渡る。
・・・どうやら右腕の装甲を削られる程度で済んだみたいです。
それにしても、ディストーションフィールドの抵抗を、まるで無視していたような攻撃です。
フィールドが効いていれば、装甲を削られる事も無かったでしょうに。
「無効化・・・効かないって事ですか、ディストーションフィールドが?」
ぶった斬る
自分の推測に驚いている暇はありません。
素早く体勢を整えた六連が、錫杖を半円を描くようにして打ち込んできたからです。
予想通りにフィールドが効かないとしたら、直撃だけはなんとしても避けなければなりません!!
機体を後方にむけて加速させ、一旦六連との距離をおきます。
『アリサ!!
こいつらの武器!!』
「ええ、多分ディストーションフィールドを無効化してます。
なるほど、DFSも受け止められるはずですね・・・」
・・・目の前の敵が強敵である事を、私達は再認識しました。
「無茶苦茶な動きをしやがって・・・本当に人間が乗ってるのかよ!!」
背後から襲い掛かってきた攻撃を、ギリギリのタイミングで避ける。
気を抜けば、一瞬にしてアサルトピットを貫かれてしまいそうだ。
相手の馬鹿げた機動と、次々と繰り出される攻撃に・・・俺は防戦一方だった。
アリサやガイの奴から通信が無いのは、あちらも苦戦している証拠だろうな。
多分・・・サブロウタ達も、同じような状況だろう。
「前回、ヒカル達が不覚をとったのも仕方ねぇか・・・こりゃ、不意打ちでこられたら手も足も出ねぇよな!!」
左側から突き出された突きを、赤雷の峰の部分で弾く。
そのまま相手の内側に回りこみつつ、斬り込んだ赤雷を錫杖が受け止める。
・・・勿論、刃に薄くDFSを纏った一撃だ、以前ならこの攻撃で沈まない敵はいなかった。
力比べをするつもりは無いのか、お互いに一瞬静止した後、目の前の六連が下に沈む。
次の瞬間、頭部を狙ってきた一撃をさがる事でなんとかかわす。
そのまま追い詰めるように連撃を放つ六連に対し、ギリギリの間合いで避けつつ距離をとる。
冗談抜きに・・・相手は手錬だった。
相対前は、三年前の六連のイメージがどうしても抜けなかったが、今では俺が格下扱いだ。
「でもよ・・・負けられねぇんだよな、今回もよ!!」
赤雷を鞘に戻し、腰溜めに構える『マルス』を見て・・・六連が動きを止めた。
視界の端で、凄いスピードで交戦をしている機体を見付けた。
距離的にいえば、あれはアリサの『ルナ』だろう。
それにガイの奴なら、もっと直線的な動きを多用するはずだしな。
・・・無人兵器の存在を考えると、長時間の戦いは不利だ。
幾ら雑魚とはいえ、目の前の強敵を相手にしながらでは、致命的な隙を作りかねない。
アリサやガイの奴も、それを分かっていて短期決戦に持ち込んだ。
それに、余力を考えて勝てる相手じゃないみてーだしな。
「三年間、遊んでた訳じゃ無い事を教えてやるぜ。
―――マルス、フルバースト」
コォォォォォォォォォォォォ・・・
光翼を纏い、力の奔流に荒れ狂う『マルス』を、前傾姿勢にして赤雷の鯉口を切る。
今の『マルス』の出力なら、この距離を一瞬にゼロに出来る。
相手もその事は分かっているのか、錫杖を両手に持って防御の構えをとる。
余程・・・あの錫杖の能力に自信があるんだろう。
「面白れぇ、この一太刀・・・外したら俺の負けかよ」
3年前の戦い以来、爺さんには徹底的修行をつけてもらった。
あの時、フルバーストを使わずに六連を倒せていれば・・・いや、終わった過去を悔いても仕方がねぇ。
今は目の前の強敵をぶった斬るだけだ!!
「ちぇりゃぁぁ!!」
―――ドン!!
気合一閃
一瞬で相手との距離を詰めた俺は、最高のタイミングで居合いを放つ!!
フルバーストの影響を受け、赤雷の刀身には眩いばかりの赤光が宿っている!!
ガギィィィィィィィィィ!!
ほぼ予想通り、相手の錫杖が胴を薙ぐ寸前に赤雷を受け止める。
機体の勢いと、打ち込みの威力が拮抗し―――
―――バガン!!
過負荷に耐え切れず、赤雷の刀身が砕ける!!
機体が前に泳いだ瞬間、錫杖がそのままアサルトピットを貫くように奔るのが見える!!
「―――まだだ!!」
ザン!!!!!
「はぁはぁはぁ・・・くっ、3年前とは・・・違うんだよ!!」
刀身を無くしても、なお光り輝く赤い刃を手に、俺は胴から上下に分かれた六連に呟いた。
「少しくらい、隙を見せて欲しいです」
同じタイプの棒状武器なのに、こちらは突く事を主体にした武器です。
勿論、修練もその目的に添ったものを主にしています。
・・・相手のように、円を描く軌跡の攻撃は、ヴァルキリーランスには向きません。
ガキィィ!!
「くっ!!」
避け切れないと判断した相手の攻撃を、ヴァルキリーランスを使って受け止めます。
その衝突による衝撃で、アサルトピットが激しく揺れ動く。
無茶をすれば・・・機動力では互角。
しかし、この超接近状態では、明らかに私が不利!!
ドン!!
「しまった!!」
思わぬ攻撃を受けて、機体が後方に吹き飛びます!!
錫杖に注意を払っていた私を嘲笑うように、敵は接近戦から肘を使ってきました。
攻撃自体は、ディストーションフィールドで軽減出来たものの、大きな隙が出来てしまいます。
「破損箇所・・・また、右腕ですか」
警告を表示しているウィンドウを見て、私は唇を噛む。
そして、相手はそれを見逃してくれるほど、甘くは無かった。
素早く追い討ちをかけ、接近戦を嫌う私から距離を取らせません。
無意識のうちに右腕を庇っていたのでしょう、相手は執拗に右腕を狙います。
実際、左腕でヴァルキリーランスを扱いきる自信は・・・少々ありません。
相手が無人兵器なら問題は無いのですが、ここまで実力が拮抗している場合はハンデにしかなりません。
「このまま時間が過ぎても、無人兵器が現れて終わりですね。
・・・勝負を賭けますか」
ここで迷ってる暇はありません。
このまま追い詰められるよりも、勝利の可能性のあるほうに賭けるべきです。
「ルナ、フルバースト」
キィィィィィィンンンンン・・・
一瞬、棒立ちになった私を狙い、六連の錫杖が振り下ろされる。
しかし、フルバースト前の加速を考慮に入れた攻撃では―――今の私を捉えられない!!
ズドン!!
錫杖が機体に届く寸前に、逆に前方にダッシュをした私が、ヴァルキリーランスの柄を叩き込む。
吹き飛ばされる六連を追って、今度はこちらが追撃を仕掛けます。
フルバーストの使用時間には限りがあります・・・
これが最後の切り札である以上、ここで決めなければ終わりです。
私は光翼をはためかせ、相手の動き牽制しつつ意識を集中させました。
「これで―――決めさせてもらいます!!」
真紅のDFSを纏ったヴァルキリーランスを振り上げ、最大威力の攻撃を仕掛けようとした時!!
ドガン!!
「なっ!!」
逃げられない・・・そう悟った敵は、最大の武器である錫杖を『ルナ』の右腕に投げ付けました。
既にダメージが溜まっていた右腕は、その一撃で破壊され、ヴァルキリーランスを掴んだまま宇宙に漂います!!
そして敵は私の動揺を見越したように、逆に拳を振りかぶって襲い掛かってきました。
体勢を立て直す事も無理、最大加速をしている分、急制動も無理。
そして、モニター一杯に六連の拳が迫り―――
―――ズドン!!
「ふぅ・・・・・・・・ギリギリの勝負でしたね。
残念ですが、射撃もそれなりに得意なんですよ・・・私」
コクピットの辺りに大穴を開けて、六連が動きを止めています。
相手が油断をして、これだけ近付いてくれれば、左腕に持ったフェザー弾装備のハンドカノンでも当たります。
どちらかというと、早撃ちより狙撃の方が得意なんですけどね。
・・・しかし、流石にフルバーストで撃てば、銃身の方が持ちませんか。
結局、これも一発勝負だったわけですね。
私は爆発に巻き込まれないよう・・・壊れたハンドカノンを捨て。
右腕とヴァルキリーランスを回収して、その場を離れました。
『よう、随分やられたな?』
「ちょっと分が悪い戦いでしたね。
でも、ナオさんにフェザー弾の使い方をレクチャーしてもらってて、助かりましたよ。
やっぱり切り札は、多数用意しておくものですね」
『ま、それもナオさんの受け売りだったよな。
さてと、後は・・・ガイの奴か』
「・・・あの人にも、帰りを待つ人が居るんです。
そう簡単に負けませんよ、きっと」
『そう、だな』
「それよりも、ナデシコの防衛に付きましょう。
フルバーストを使った機体では、タカスギさん達の手伝いも出来ません。
ましてや・・・」
『どうせ、北斗の手伝いなんか出来るかよ。
それに手を出そうもんなら、逆に攻撃されるぞ?』
「・・・・・・・・・それは確かに、有り得ます」