< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

「カインは正面を突破!!

 イツキちゃんは、カインの右側を警戒!!

 俺は左側を守る!!」

 

『はい!!』 × 2

 

 俺の命令を受けて、二人が飛び出す。

 こちらも遅れる事無く、中央を駆けるカインの黒い機体の左側を守る。

 突破力でいえば、カインの機体はあのブラックサレナを元にしただけあって最強だ。

 とにかく、今はリョーコちゃん達と合流しない事には、俺達は余りに不利すぎる。

 接近戦・・・それも錫杖を使った超接近戦を仕掛けてくる六連には、遠距離攻撃が主体のこちらが不利なのだ。

 

 勿論、俺達に格闘戦が出来ないわけじゃない。

 だが、相手のレベルがレベルなので、互角に戦う事は不可能なのだ。

 

「右上!! 突っ込んでくるぞ、イツキちゃん!!」

 

『分かってます!!』

 

 信じられない速度で、複雑な軌跡を描く錫杖がイツキちゃんを襲う。

 その攻撃を、辛うじて避けたイツキちゃんが、相手のコクピットらしき部分めがけ、ハンドカノンを連射する。

 

             ドドドン!!

 

 しかし、既にハンドカノンの先には、敵機の姿は無かった。

 先ほどから、致命的な損傷はしていないが、こんな交戦の繰り返しだ。

 北斗殿との訓練がなければ、すでに集中力が切れて・・・撃墜されていただろう。

 相手にもこちらの意図は読めているのだろう、合流をさせまいと次々に攻撃を仕掛けてくる。

 

「くそっ!! とことん邪魔するつもりか!!」

 

 無理に突破をすれば、カインのサレナタイプが沈められる。

 相手の錫杖が、ディストーションフィールドを問答無用で中和させる事を、俺達は知っている。

 それぞれの機体の各所にある傷は、その錫杖で刻まれたものだからだ。

 フィールドランサーを使っても、数秒とはいえフィールドで攻撃を防げる。

 なのに奴等の錫杖は、タイムラグ無しに攻撃を撃ち込んでくるのだ。

 

 ・・・不利な要素ばかりだ、このまま仲間との合流に拘るのは危険だな。

 

「二人とも、こうなったらこの場で、目の前の三機を落とすぞ!!」

 

『異議無しですね』

 

『イツキに同じく、俺もその命令に従います。

 どちらにしろ、この三機を倒さない事には、何処にも行けません』

 

 ―――覚悟が決まれば、やることは一つだ。

 

 

 

 

 

 

 

              ドドドン!!

 

 俺達の撃ったライフルの弾は、鋭角的な動きでかわされた。

 何度も見た光景だが・・・つくづく馬鹿げた旋回能力だ。

 

「とにかく、動きを止める!!

 致命傷を避けて、攻撃を受け止めるつもりでいくぞ!!」

 

       ―――バガン!!

 

 次の瞬間、正面からきた錫杖を受け止めようとした、『ジャッジ』の左腕が切断された。

 ・・・それはもう、見事なまでの切り口だ。

 

「・・・訂正、絶対に攻撃を喰らうな」

 

『ど、努力します』 × 2

 

 右手に持つ切り札だけは、絶対に破壊されるわけにはいかない。

 追撃をしてきた六連の攻撃を大きく避けながら、俺は勝機を探っていた。

 今のところは、3人がお互いにサポートをしているので、何とか戦える。

 これでもし一人でも落とされようものなら・・・2対3では、話にもならないだろう。

 

 

 

 

「どうにもこうにも・・・ピンチだなぁ」

 

 

 

 


 

 

 

 

 ―――忍耐力を、やすりで削るような攻撃が続く。

 

 少しずつ、確実に、俺達は追い詰められていた。

 タカスギさんの機体は、左腕を完全に壊され、機体自身のダメージも増え続けている。

 目立った損傷はないが、一番動きが鈍いイツキの機体も、段々と敵の攻撃を捌けなくなっていた。

 俺自身も、イツキのカバーをしながら戦っているので、所々で大きく損傷をしている。

 

 敵を破壊する手段は有る。

 

 イツキの乗るエステバリス独特の機能、フルバーストを使えば逆転は可能だろう。

 だが、その為には三機の足を止め、一撃で倒せるポジショニングが必要になる。

 フルバーストが切れ、動きを止めたイツキを守りながら、残りの敵と戦う事は不可能だからだ。

 

『―――正面、突っ込んでくるぞ!!』

 

 タカスギさんの声を聞いて、正面に弾幕を張る。

 相手に避けられる事は予定済みだが、速度を落とす効果があるのだ。

 正面からきた一機が、素早く右に避けた。

 

「右!!」

 

『違う!! その後ろにもう一機!!』

 

 右に避けた敵を追っていた火線が、背後に隠れていた敵に向かう。

 イツキとタカスギさんがその二機目の相手をし、俺は右に避けた敵を追い掛ける。

 ・・・なら、敵の残り一機は?

 

『上に逃げたわ、タカスギさん!!』

 

『任せろ!!』

 

 二人の意識が一瞬逸れた時、俺はイツキの背後に襲い掛かる、最後の一機を見付けた。

 

 

 

 

 

「―――イツキ!! 避けろ!!」

 

 

 

 

     ドゥン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・動けるか?」

 

『・・・駄目、完全にスラスターをやられちゃった』

 

 サレナ特有の加速力を活かし、イツキのエステを弾き跳ばさなければ・・・アサルトピットを貫かれていただろう。

 命の代償として、エステはその下半身をほぼ全損していた。

 

『これじゃあ、私のエステなんて固定砲台にしかならない・・・』

 

「それで十分だ、俺がずっと抱いててやる」

 

 厳しい・・・どころの状況じゃないが、俺は嬉しかった。

 再会してからも、どうしてもお互いの距離を縮める勇気が持てなかった。

 拒まれる事は無いと、雰囲気から分かっていたが、どうしても駄目だった。

 

『だって、あなたのサレナタイプから機動力を奪ったら・・・良い的にしかならないじゃない!!』

 

「そうかもな。

 だけど諦めたわけじゃない、まだ奥の手は残っているじゃないか。

 敵を一機でも減らしておけば、後から来た仲間が助けてくれるさ。

 それに、また離れ離れになるのはゴメンだからさ。

 何のために、十年間もイツキを探し続けていたと思ってるんだ?」

 

 精一杯の告白に返事はなかった。

 だが、俺は通信ウィンドウを見なくても、顔を真っ赤にして黙り込んでいるイツキが予想できた。

 

 そうさ、やっと再会できたんだ・・・こんな所で終わらせはしない!!

 あの地獄のような研究所で、消えていった兄弟達の分まで絶対に幸せになってやる!!

 そして見返してやるんだ!!

 俺達には未来も夢も希望も必要無いと言った、あのヤマサキを!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・もしかして、存在を忘れられてるのかなぁ・・・俺?』

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 私のエステを抱え、最大の武器である加速を奪われたカイン。

 そして、私達のフォローに奔走するタカスギさん。

 ・・・勿論、私も自分のエステで攻撃をしているけど、今の状態では牽制にもなりはしない。

 次々に破損箇所が増え、軋む機体の中で私は最後のチャンスが必ず訪れると、信じて待った。

 敵が止めを刺そうとして、私達の周囲を取り囲んだ時も諦めていなかった。

 フルバーストを使って、一機でも『フェザー・カノン』で沈めれば、まだ持ちこたえる事が出来る!!

 

 相手を確実に仕留めるためには、動きを止めなければいけない。

 今のエステの状態では、『フェザー・カノン』は撃てても、当てる事のほうが困難だ。

 そして私の決意は、カインに伝わっていた。

 私のエステを背後に庇い、両手を広げるサレナ。

 それは自分の機体を犠牲にして、目の前の敵の動きを止めると・・・語っていた。

 

「・・・上手く、避けて下さいね」

 

『勿論、死ぬ気は無いさ』

 

 先程の話の続きを、詳しく聞きたいですし、ね。

 敵もこちらの意図を読んだのか、錫杖を腰に構えて突撃をするつもりのようです。

 下手をすると、一撃で私とカインの身体は貫かれるかもしれません。

 

 ・・・お互いに、正念場ということですか。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――勝機は意外な使者によって与えられました。

 

 

 

 

 

 

 

『どけどけどけどけぇぇぇぇぇ!!!!』

 

 

                ドガガガガガガガ!!!

 

 

 

 激しい攻防を繰りひろげながら、現れた二機が周囲の迷惑を顧みず爆走してます。

 そしてその暴走の嵐は、直線上に位置していた敵機を巻き込みました。

 

 

                     ―――ガゴン!!

 

 

 流石に直撃は避けましたが、思わぬ事態に一瞬動きを止める六連!!

 

「カイン!!」

 

『分かってる!!』

 

 エステの前から移動しつつ、射線上に敵が来るように調節をしてくれるカイン。

 阿吽の呼吸で、私達はそのチャンスを掴み取った!!

 

「白百合、フルバースト!!

 『フェザー・カノン』発射!!」

 

     ドガガッガガガガガッガガガガガガガ!!

 

 赤い嵐のような弾幕に晒され、目の前の六連に次々と穴が開きます。

 どのような人が乗っていたのか、分かりませんが・・・ここで私も死にたくないですから。

 

 ―――だから、倒させていただきます!!

 

 

 

 

           ドゴァァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

 

 大きな爆発の後には、あの錫杖だけが残っていました。

 

 

 

 

 

 

「残り二機!!

 このまま機体を旋回させて下さい、カイン!!」

 

『分かった!!』

 

 残りの弾薬を全て使い切るつもりで、『フェザー・カノン』を連射。

 流石にこの弾幕を抜け切る事は不可能なのか、残りの六連が追い立てられるように移動します。

 そして、彼等の行く先には・・・

 

『この時を待ってたぜ!!

 ジャッジ、フルバースト!!

 ラグナ・ランチャー発射!!』

 

 

 

 

              ドキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンン―――

 

 

 

 

 マイクロブラックホールに巻き込まれ。

 一機が消滅、もう一機も下半身を削り取られました。

 そして上半身だけになって尚、こちらに向けて錫杖を投擲しようとします。

 

 自分の命を顧みないその姿に・・・草壁の狂気を見たよう気がしました。

 

『・・・悪いけど、俺達は死にたくない。

 もう、草壁の狂気に付き合うのは・・・真っ平御免だ』

 

 

 

 

             ―――ドン!!

 

 

 

 

 カインの放ったハンドカノンに撃ち抜かれ、最後の六連は動きを止めた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「オラオラオラオラオラァァァァ!!」

 

 敵の持っている錫杖が、恐ろしく物騒な事は分かった。

 こちらから手を出すには、余りに危険な事も分かっている。

 だから俺は唯一、こちらからその武器を扱える部分を攻撃していた。

 

 つまり、錫杖を持つ敵の手の部分だ。

 

 俺は左手で錫杖ごと、敵の右拳を握り締めてやった。

 そして今は、残りの右手で相手を殴り続けている。

 敵も左手を上手く使って、俺の攻撃を捌き、かわしやがる。

 くそったれめ、敵ながら見事な腕前じゃねぇか!!

 

 途中、何だかイツキ達と睨み合ってる状態の六連を、轢いた気もするが・・・

 そんな些細な事に気を取られている余裕は、俺には無かった。

 今、この距離で左手を離せば、一気に決着がつくだろう。

 それが分かっているだけに、相手の攻撃は俺の左手に集中する。

 逆に俺は敵の邪魔をしながら、右手を相手の機体にぶち込む事しか考えていない。

 

「この手を放すわけには・・・いかねぇからな」

 

 さっきやりあって分かった事がある。

 それは、俺のガンガーでは、この六連のスピードに追いつけないという事だ。

 殆ど捨て身の攻撃で、現状のように錫杖を封じ込めたが・・・次は無理だ。

 リョーコやアリサより、俺の攻撃範囲は更に狭い。

 かといって、ライフル類でこの六連を沈める自信は無い。

 

 そう・・・これが最初で最後のチャンスなのだ。

 

 

 

 

 

                          ガシィィ!!

 

 左手を狙ってきた敵の腕を、こちらから掴み取る。

 錫杖を真中にして、俺と六連は力比べのような体勢に入った。

 今までもさんざん無理をさせてきたせいか、機体のあちこちから嫌な音が聞こえる。

 そもそも、六連の異常な旋回性能とスピードに、今まで振り回されて無事だった事が凄い。

 一緒に不本意なランデブーを経験した俺は、相手の腕前に舌を巻いたね。

 どんな奴が乗っているのかは知らないが、とんでもない腕前のパイロットだ。

 こんな奴がどうして草壁に付いてるのか・・・

 

 ま、人生色々って事か。

 

「でもよ、そろそろ終わりにしようぜ・・・」

 

 機体もそうだが、俺もそろそろ限界だった。

 無茶苦茶な機動に振り回されつつ、至近距離での攻防は疲れる。

 他に手は無かったとはいえ、馬鹿な方法を選んだもんだと、自嘲する。

 短期決戦を挑んだつもりが、どうやら俺が一番時間が掛かっているみたいだな。

 

 勝負を賭けてきたのは、向うが先だった。

 

 

                    バシュ!!

 

「うおっ!!」

 

 相手は左腕を使って、自分の右腕を切り落としやがった!!

 そして自由になった錫杖を掴み取り、体勢を崩して隙を作ってしまった俺に振り下ろす!!

 

「っの野郎!!」

 

 至近距離から膝蹴り―――かわされた!!

 だが、そりゃ予定通りだ!!

 

「ガンガー、フルバースト!!」

 

 

                           ヒィィィィィィィィィィンンンン・・・

 

 

 膝蹴りに使った右足を、そのまま頭頂まで伸ばす!!

 大幅に増強されたフィールドを、殆ど抵抗無く錫杖が振り下ろされてくる!!

 それでもフルバースト前に比べれば、若干速度が落ちているみたいだ!!

 

 そしてフィールドを抜けた後、差し出した右足を切り裂きつつ、アサルトピットに錫杖が襲い掛かる!!

 

 だが、その右足一本分―――遅ぇ!!

 

「こっちが先だぜ!!」

 

 右足は既に切り離してある。

 そして自由になった機体を懐に潜りこませ、俺は六連の頭を右手で掴んでいた。

 

「・・・これで、終わりだ!!

 ブラックホール・フィストォォォォォォォォォォ!!」

 

 

 

 

 

 錫杖を肩口にめり込ませながら、俺の拳が六連を頭頂から股下まで・・・真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁはぁ・・・くそっ、ボロボロじゃねーか。

 格好つかないぜ、ヒーローとしてはよぉ」

 

 だが、俺らしいといえば俺らしい勝利だな。

 元々、無傷で勝てる可能性など、殆どない戦いだったわけだし。

 他の仲間達も、大分傷ついているだろうさ。

 

 

 

 

 

「さぁてと、取りあえず合流するか。

 俺の助けを待っている奴が、いるかもしんねーし」

 

 

 

 

 

 

 

 

その9に続く

 

 

 

 

ナデシコのページに戻る