<真実への路> 第一部 第一話「始まりの別れ」 (4)
あたしの目の前に、一匹の魔族がいる。 人の姿に限りなく近い、その形から中級位の魔蔟に思える。 身体の色は、薄い紫色をしている。
また、魔蔟がらみのトラブルなのか・・・ いい加減、普通の生活が恋しいぞあたしは。
「で、こんどはあたしに何の用? いい加減、あたしを利用するのを、止めて欲しい物だわ。」
取り敢えずの牽制で、言葉をかける。 だいたい、魔蔟の用事は何故かあたしに集中する・・・ 人様には自慢出来る事ではない。 ・・・まあ、理由の一つや二つ位直ぐに思い付く、自分も嫌だが。 しかし、魔蔟の返事は予想外の物だった。
「・・・貴方を利用する? 何の事だか解りませんが、貴方に用はありません。 私が欲しいのは、ガウリイ=ガブリエフ・・・貴方の命のみです。」
その魔蔟の視線は、出現してから一度もガウリイから、目を離していなかった。 気にはなっていたが、まさか本当にガウリイの命が目的なのか?
「しかし・・・魔蔟のくせに、リナ=インバースを知らんとはな。 貴様本当に魔蔟か?」
ゼルのかなり失礼な質問が飛ぶ。
・・・おいゼル、あたしだって好きで、魔蔟間で有名になったんじゃない!! 後ろで頷いている、その他一同!! 後で覚えときなさいよ!!
「なかなか失礼な方ですね。 私は殺した人間の名前なぞ、興味はありませんが。 貴方達は殺された相手の名前位、知りたいでしょう。 私の名前はエウーカ。 それでは、皆さん死んでください。」
ゴッオォォォォォォ!!!
突如目の前に、炎の渦が出現する!!
「うわっちちちちちち!!」
いそいで後退するあたし達を、追う様にエウーカが炎から出現する。
「死になさい。」
静かに宣言しながら、炎を纏いつつガウリイに肉薄する!! 炎を纏う? まさかこいつが託宣の奴か!! それならば、光を導く者とはやはりガウリイ?
「なめるな!!」
間一髪、エウーカの攻撃をいつもの超人的な体術で、避けるガウリイ!! そして、一旦停止したエウーカに、あたし達の呪文が炸裂する。
「エルメキア・ランス!!」
ゼルの呪文は、炎に包まれた右手に消し飛ばされる。
「フェルザレード!!」
「ブラスト・アッシュ!!」
「ぬるい!!」
ルークとミリーナの呪文をその一喝で消し去る!! 結構力を持つ魔蔟みたいだな、こいつは。
「ならば、これはどうです!! ラ・ティルト!!」
アメリアが一瞬の隙を付き、ラ・ティルトを放つ。 その青い炎に包まれながら、エウーカは・・・
「ぐおぉぉ!! ひつこい人間達めが!!」
さすがに、ラ・ティルトはきついらしい。 しかし、身体に纏う炎を減少させながらも、ラ・ティルトの青い光から脱出する。 それでも、ラ・ティルトをくらってもまだ動けるのは凄い。 こいつは、やはりかなりの力を持つ魔蔟だ。
「今なら俺でも攻撃出来るぜ!! エウーカさんよ!!」
身体を纏う炎が減少したエウーカに、ガウリイの斬撃が追い討ちする!!
「ぬおっ!! こしゃくな、人間風情が!! 私をなめるな!!」
ドン!!
ガウリイの斬撃に、浅く切り裂かれながらも。 周囲に炎を伴った衝撃波を放つ!!
「ぐあっ!!」
「きゃあぁぁぁぁ!!」
この反撃は予想出来なかった、全員が少なからずダメージを負う。 そして、その衝撃波をまともにくらい、ガウリイが壁に叩き付けられる!! そんなガウリイに、多少ふらつきながらも、静かに歩み寄るエウーカ。
「生意気な事をした罰です。 大人しくしていれば、苦しまずに死ねたものを。」
そうして、まだ倒れているガウリイに向って右手を向ける。
「そう簡単に殺させますかっての!! くらえ!! ゼラス・ブリッド!!」
「なに!! 貴様先程攻撃を!! ぐわあぁぁ!!」
あたしの攻撃呪文に、まともに身体を貫かれるエウーカ!! そう、あたしは先程のエウーカの攻撃を予想して。 あらかじめ、バルス・ウォールを唱えて待機していたのだ。 だって、見るからに炎飛ばしますっ、て奴じゃん(笑)。
そして、倒れ伏すエウーカを覗いつつ、ガウリイの方に向う。 あたしがガウリイ達の、5歩手前位に来た時エウーカの身体が崩れさる。 ふう、何とか倒したみたいね。 でも正直言って、このメンバーじゃなければ、もっと手強い相手だっただろう。
「大丈夫、ガウリイ。 また、派手に吹き飛ばされたわね〜」
笑いながら話しかけるあたしに、ガウリイは・・・
「リナ!! 油断するな!! まだあいつは、やられちゃいない!!」
なに!!
急いで振り返るあたしの目の前に、炎を完全に消し去られたエウーカがいた!! そう確認した瞬間、あたしの意識に闇が降りる・・・
「なかなか・・・やってくれますね。 貴方と貴方のお仲間を、少々侮っていました。 ここは一つ、人質でも取らせて頂きます。」
その宣言を聞きながら、あたしは完全に気を失ってしまった・・・
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