＜真実への路＞


第一部　第二話「それぞれの理由（わけ）」

（１）

「懐かしいわね〜この景色も！！」
　あたしは目の前の風景にそう呟いた．
「ねえガウリイ！！　これが・・・」
　・・・未だあたしの癖は治っていなかった。
　もう隣にガウリイはいないのに。
「馬鹿よねあたしも・・・自分でフッといてさ。」
　故郷に帰ってくるまで何度も繰り返した問・・・
　あの時の自分の答えが決定打では無かったとは思う。
　しかし、あの時ガウリイに答えを返さなかった事は事実で・・・
　何故ガウリイはあたしを連れて行ってはくれなかったのか？
　どうしてゼルとルークの三人で、あたし達の前から消えたのか？
　何も解らなかった・・・
　何も教えてくれないまま、ガウリイ達は旅だったのだから。
　追いかければ答えを得られたのだろうか？
　それ以前に・・・この剣を残していった訳をあたしはガウリイに聞けるのだろうか？
　あたしの腰に吊られている剣・・・ブラスト・ソードの存在を確かめながら。
　あの後の出来事を思い返す。

　あの後あたし達はそれぞれの道を選んだ。
　アメリアはセイルーンへと帰って行った。
「私には私のやるべき事があります。
　・・・それにゼルガディスさんには、必ずまた会える筈です。
　ゼルガディスさんは私にさよならを言っていませんから。」
　アメリアはゼルを信じ帰って行った。
　ミリーナは何処とも知れず旅立った。
「・・・私は自分の気持ちに整理をつけます。
　まだルークに答えを返す事が出来ませんが。
　もし、また会う事があったのなら・・・答えを返してあげたいんです。」
　ミリーナもルークとの再会を信じ旅立つ。
　そしてあたしは・・・
「・・・故郷に帰ってみるかな。」
　また、問題の先送りを選んでしまった。
　いつからあたしはこんなに弱くなった・・・

　久しぶりの一人旅は戸惑う事ばかりだった。
　あたしの隣が寂しい。
　つい、いない筈の相手に話し掛けてるあたしがいる。
　何故か盗賊いじめも行く気になれなかった。
　張り合いが無いと言うか何と言うか・・・
　御飯も美味しくない。
　何よりも旅をしている実感が沸かなかった。
　いつもは他愛も無い事で騒ぎ・・・
　雄大な自然を見て感動した・・・
　祭りがあれば飛んで行ったり・・・
　気になる伝承があれば勇んで向って行った・・・
「・・・そっか、ガウリイが何時も隣にいたんだもんね。」
　いまさらながらに、ガウリイの存在を大きく感じる。
　何時も隣にいてくれたんだ。
　何時も話しを黙って聞いててくれた。
　何時も守ってくれていたんだ。
　あたしの感じた感動を共有して。
　あたしの喜びの言葉に返事をして。
　あたしの無茶な行動を止めてくれた。
　何よりもあたしを優先してくれた人・・・
「・・・やっぱり寂しいよ、ガウリイ。」
　もう家は目の前なのに、何故か最後の一歩を踏み出すのが嫌だった。

「何やってるのよリナ。」
　突然後ろから声を掛けられた。
「ね、姉ちゃん！！」
　そこにはあたしの姉ちゃんがいた。
　多分バイトの帰りなのだろう、何時ものバイト先の制服姿だった。
「久しぶりねリナ、ところで何をこんな所で立ち止まってるの。」
　そう言いながらあたしの顔を覗き込む。
「・・・情けない顔してるわね。
　何があったのか知らないけど成長の後が見えないわね。」
　返す言葉が無かった。
「・・・で、それはお土産かしら？
　へ〜、ブラスト・ソードじゃないのちょっと見せてよ。」
「駄目！！　姉ちゃんでもこれは触らせない！！」
　思わず腰元のブラスト・ソードを引き寄せ姉ちゃんを睨む。
　そんなあたしの反応を見て姉ちゃんが微笑む。
「良い顔もするようになったじゃないリナ。
　話してみなさいよ、相談くらいなら乗るわよ。」
「・・・うん。」
　あたしは旅に出てからのあらましと、ガウリイと別れに至った経緯を姉ちゃんに話した。
「・・・で、結論はでたわけ？」
「解らないよ・・・でもこのまま家に帰れば、もうガウリイに会えない気がする。」
「それは正しいわね、リナはガウリイさんから逃げてるだけだもの。」
　そんな事は無い！！
「違うの？　リナはガウリイさんにもう一度答えを聞くのが怖いんでしょう。」
　そうかもしれない・・・いや、そうなのだろう。
　ガウリイへの答えを拒否した時点で、あたしはガウリイから捨てられたのでは？
　その考えが頭から離れなかった。
「さて！！　ここで最後の選択よリナ。
　一つは家族の庇護の元で新しい出会いを求めるか。
　もう一つはその薄情者を追いかけて、その剣を叩き付けるか。
　どっちを選ぶのリナ？」
　姉ちゃんらしい質問だ。
　家族の元に戻れば嫌な思いはしないで済む・・・苦い記憶だけが残るだろう。
　ガウリイを追いかければ・・・結果しだいではあたしはもっと傷つくだろう。
　しかし・・・何も悩む事はなかった筈なのだ。
　あたしにはあの最後の夜のガウリイの顔が忘れられない。
　そう部屋を去る間際のガウリイの顔が・・・彼の瞳に迷いは無かった。
　迷っているのは・・・あたしだけじゃないか！！
　こんな気弱な姿はあたしらしく無い！！
　そう自分の気持ちを伝えなければ、あたしはこれ以上前に進めない！！
「姉ちゃん！！　ごめん！！　もうちょっと世間をみてくるわ！！
　ついでにデリカシーの無い元旅の連れに、物の通りを教えてくる！！」
「はいはい気を付けてね。
　父さんと母さんには適当に伝えておくわ。」
「うん！！　姉ちゃん有難う相談に乗ってくれて。」
「どういたしまして。　気を付けて行くのよリナ。」
「行ってきま〜す！！」
　あたしは帰って来た時とは裏腹に、迷いの無い気分で故郷を飛び出した。
　そうだ、こんな事で悩むのはあたしらしくなかった。
　解らない事があるのなら直接に聞けばいい。
　あたしの質問の答えは全て彼が持っているのだから！！
「まってなさいよガウリイ！！　絶対後悔させてやるんだから！！」
　誓いも新たに、新しい旅を始めるあたしがいた。

（２）へ続く

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