<真実への路> 第一部 第二話「それぞれの理由(わけ)」 (2) 宿屋の食堂で軽く食事をし一息ついていると、私に言葉をかける酔っ払いがいた。 「なあ美人の姉ちゃん、こっちで一緒に飲もうや。」 ひつこい酔っ払いに一瞥をくれる。 私の視線に何かを感じたのか、その酔っ払いはすごすごと引き下がって行った。 近頃はこんな輩は殆どいなかったのに・・・ 理由の説明は簡単・・・彼がいないからだ。 あの人は私を置いて何処かに旅だった。 そう・・・他の二人の男性と一緒に。 考えてみれば私は彼の目的を知らなかった。 何故、彼は私と一緒にトレジャーハンターをしていたのだろう? 私と彼は偶然酒場で出会い、一つの仕事を共同でやり遂げただけの仲だった。 その時から彼は私についてまわって来たのだ。 私が気に入ったから、と言いながら・・・ 彼の腕前は凄腕の傭兵にも匹敵していた。 私と一緒にいるよりは、何処かで雇われていた方が良い目を見れたのではないのか。 それとも、何か探し物でもしていたのだろうか? ・・・考えて見れば、私が彼の事を真剣に考えるのはこれが始めてだ。 いつもは隣で騒いでいるだけで、彼の事は気に止めずにいた。 だが彼は何時も私を気にしていたのだろう。 何が楽しいのか私ばかりを見ていた。 何時も私の事を気に掛けていた。 今考えてみれば・・・何時の間にかそれを受け入れている私がいた。 私は彼に何かを期待していたのだろうか? ・・・していたのかもしれない。 今となっては彼をどう思っていたのかなんて・・・ 本当にそうだろうか? ならば何故、未だに彼の事を考え続けているのだろう。 何時もの私なら、別れた次の日には別れた人の事など思い出しもしないのに。 「・・・私も変わったという事ですか。」 ふと、ルークとの出会いが頭に浮かぶ。 あれは一年前の出来事だった筈・・・ 「なあ、あんた名前は?」 いきなり馴れ馴れしい態度の男だった。 そこは海辺の近くの酒場だった。 「あんたなかなか腕が立つそうじゃないか。 俺と一つ仕事をしないか?」 ルークの誘いに乗ったのは、ただの気紛れだった・・・ 仕事自体は大した物では無かった。 近くの洞窟に隠された財宝のハンティング・・・ この時解ったのだが・・・ルークにトレジャーハンターの技能は無かった。 しかし、戦闘能力に関しては私を越えていた。 不思議な人だと思った、何故技能も無いのにトレジャーハントをするのか? そう思い質問をすると。 「いや〜ばれちまったな。 俺は確かにハンティングの技能は無い、だからミリーナに教えて欲しいんだ。」 その目は真剣だった。 だからだろうか・・・ルークが私に付き纏い、技能を盗んでいっても何も思わなかった。 実際、私はルークに何も教えていない。 ルークが自分の力で私を見て覚えたのだ。 そして私の技能を修得した時、ルークも私から去るものだと思った。 「なあミリーナ、このまま俺と一緒に仕事を続けないか? もう、俺もそんなに足手まといにはならないだろう。」 確かに断る理由は無かった・・・あの時は本当にそれだけしか思ってなかった筈だ。 そうして私達の旅が始まった。 いろいろな冒険をしてきた。 正直かなり危ない時もあった。 何時からだろう? ルークが常に私を気にしだしたのは。 「ミリーナ危ない!! ここは俺に任せな!!」 「ミリ〜ナ〜俺の気持ちを知らないのか〜〜」 「ミリーナと俺はラブラブなんだぞ!!」 ・・・ついにはこんな事まで言い出す様になった。 ルークの気持ちの変化は私には解らない。 所詮他人の心なのだから。 だがルークは自分の気持ちに何時でも正直だった。 だからこそ、ルークの言葉に嘘はないのだろう。 私は・・・私に無いそんな面を持つルークに惹かれていたのだろうか? あの時のルークの言葉に、私は今までの人生で一番戸惑っていた・・・ 肯定も否定も出来ず、ただその場を逃げ出した。 一言の返事でルークを自由にしてあげれたのに。 ・・・ルークは何を思いながら今旅をしているのだろう? そして私の旅は・・・ 「ここで考えていても答えが出ない事ばかりですね・・・」 ならば・・・どうする? 決まっている私の気持ちとルークの気持ちに、決着を着けるだけ。 私はこのままでは先に進めないではないか。 その時、宿屋に一人の女性が入ってきた。 ・・・つくづく運命の神様は皮肉が好きらしい。 「・・・奇遇ねミリーナ。 あたしは元旅の連れにデリカシーって物を教えに行くけど、貴方はどうするの?」 彼女らしい決断と言いぐさだった。 「ええ、同行させて頂きます。 私は堪え性の無い元旅の連れに我慢という物を教えてあげるつもりです。」 そうしてお互いの顔を見て微笑む。 「じゃあ景気付けに一杯飲んでいこうかしら。」 「いいですね、付き合いますよ。」 そうして私達は翌日、二人で宿を旅立った。 それぞれの元旅の連れに、伝えたい事を言う為に・・・
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