<真実への路>


第一部 第三話「あの丘へ至る路」

(4)

 俺達は道中相変らずの騒動を起こしながら目的地へと向かった。
 俺の家は首都から少し離れた所に建っている。
 昔は首都との交通が不便だと親父とよく喧嘩をしたもんだ・・・
 今はその距離が有難く思えるとは、やはり俺もいい性格をしているもんだ。
「どうした含み笑いなんかして。
 端から見ていると不気味この上ないぞ。」
 ゼルが俺に話しかけてきた。
 こいつはこの大陸に来ても同じ格好を通している。
 出会った時と同じ白いフードを目深にかむり顔を殆ど隠している。
 そして・・・
「なあルーク・・・逆に目立ってないか俺?」
 白いフードの男その2がうめく様な声で俺に意見する。
 確かに人並み外れた長身に、鍛え上げられた体躯を持つこの男には逆効果かもしれん。
 が・・・嫌がらせも兼ねているのでこのままにしておく。
「・・・暑いぞ、マジで。」
 後ろでゼルと並んで歩きながら愚痴をこぼしている。
「我慢しろ、少なくともその目立つ金髪は隠す事が出来ているんだからな。」
 ゼルも半分面白がっている様だ。
 ・・・考えて見れば俺達逃亡者なんだよな。
 どうしてこう・・・緊張感が無いのかね。
 多分ガウリイがいるからだろうな。
 昔からコイツの側にいると何故か皆が安心できた。
 現在の状態でもし俺とゼルだけならば、ギスギスした雰囲気をしながら旅をしていただろう。
 そう考えていた時・・・5日の逃亡生活に終わりを告げる建物が目に入った。
「ついたぞガウリイ、ゼル。」
「あれが・・・そうなのか?」
「・・・懐かしいな、あの館を見るのも。」
 過去を思い浮かべるているガウリイの言葉を聞きながら、俺は玄関のドアをノックする。
 コンコン!!
 ・・・・
 ・・・
 館からは何も反応が帰ってこない。
「誰もいないのかよ?」
「いや、いるぞルーク俺達の後ろにな。」
 ガウリイの言葉に反応してゼルと一緒に俺も後ろを振り向く!!
 そこには・・・背は高くないが鍛え抜かれた体つきの黒髪黒目の初老の男がいた。
「お久しぶりですな・・・ガウリイ様。」
「本当に久しいなジン公爵・・・帰ってきたよ。」
 俺の親父・・・ジン公爵が立っていた。
 前々国王と前国王の片腕をしていた男・・・
 そして俺と同じ名を継いだ男・・・

 ひとまず俺達は館の客間に通された。
 親父・・・変わってなかったな。
 一年前にこの館を出る時もそうだった・・・見送りも何もしない。
 ただ一言だけ、自分の見た事と感じた事だけを信じろ・・・と言ってたな。
 客間のソファに身体を預けて三人共がくつろいでいた。
 休める時に休んでおく事は戦士の心構えの基本だ。
「しかし・・・ルークが公爵家の後継者とはな。
 人は見かけによらんものだな。」
 ゼルの皮肉に笑って答える。
「俺もそう思うぜ。
 本当ならこんな家、一年前に飛び出した時には帰って来るつもりは無かったのにな。」
 周りの調度品を懐かしく思いながら見まわす。
 親父とは決して仲は良く無かった。
 何時も城に詰めていて、少年時代に遊んでもらった覚えなど無い。
 6才の時初めて城に連れていかれた・・・訓練のために。
 その時出会ったのが・・・エイジ、ノア、ジーク、そしてガウリイだった。
 俺はこの時初めて同年代の友人を得たのだ。
 館では同年代の子供などいはしない。
 使用人自体が館を切り盛り出来る最小人数で構成されていたのだ。
 必然的に俺は内に篭りがちの子供になった。
 ・・・だがガウリイ達に出会って俺は変わった。
 昔の俺を知るメイドには別人みたいだと言われたものだ。
 この子供の時の話しを、そう言えばエイジの奴がゼルに話してたな。
 考え事をしているとゼルが俺に質問をしてきた。
「なかなか理知的な親父さんじゃないか?
 どうしてルークやガウリイが敬遠しているのか、俺には訳が解らんのだが?」
 ガウリイと顔を合わせてから苦笑をする。
「じゃあゼル、12才の子供に剣一本だけを持たせてライオンの檻に普通入れるか?」
 ゼルの顔が少し強張る。
「俺なんか10才の時に無人島に一ヶ月放置されたんだぞ・・・
 手に持たせてくれたのはナイフ一本だけだ。」
 ガウリイがその時の事を思い出したのか苦虫を噛んだ様な顔をする。
 ゼルが頭を弱々しく振る。
「その他いろいろと大変な目に会わされたら苦手にもなるだろうが。」
「だが、その経験が無ければここまで生きて帰って来れなかっただろうが?」
 またもや突然に部屋に出現する親父。
「まあ否定はしませよ、昔を懐かしんでいただけです。」
 ガウリイは気付いていたのだろう直ぐに親父に返事を返す。
「来るんだルーク・・・名と力を継ぎに帰ってきたんだろうお前は?」
 親父が俺を今日始めて真正面から見詰めてきた。
 あの頃と変わらない・・・威圧的な目だ。
 しかし今の俺にはその威圧感の中に別の感情も読み取れる。
 ・・・そう、それは慈愛だった。
「ああ・・・頼むよ親父。」
 そして俺達は親子揃って客間から出ていった。
「・・・待ってるぜルーク。」
 ガウリイの応援を背中に聞きながら。

 

 

 

(5)へ続く

 

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