<真実への路> 第一部 第三話「あの丘へ至る路」 (5) ルークがジン公爵と一緒に部屋を出て一時間が経った。 「ガウリイ・・・一つ気になる事があるんだがな。」 ルークの帰りを待つ俺にゼルの方から話しかけてきた。 「何だよ? 俺に答えられる事だったら話すぜ。」 「エイジの奴は本当に大丈夫なのか? 幾ら本物のガウリイを連れて帰ったと主張しても、証拠が無いんだろうが。」 ああ、その事か・・・ 「全然大丈夫だ。 第一にエイジを拘束する権限を持つのは国王だけだ。」 そして今この国には国王はいない・・・ 俺の説明を聞いてゼルが眉をしかめる。 「じゃあエイジは国王に次に偉い人物なのか。」 「それは少し違うなゼル。 つまりエイジの同格が後三人いるんだ。」 「その内の一人が・・・」 ゼルがルークが出ていった扉を見詰める。 「ああ、ルークだ。」 俺はゼルの考えを肯定した。 「第一と言うからにはまだ理由があるのかガウリイ?」 「ああ、第二にエイジ達の四人はそれぞれの統括する軍の長でもあるんだ。 もしエイジを今回の理由で逮捕などしよう物なら・・・叛乱が起きるな。」 物騒な事を言ってる自覚はあるのだが・・・ 今は行政を司っている宰相が俺の当面の敵だ同情をしてやる事は無い。 「だから例の宰相も手が出せ無い、と言う事か?」 「そうだ元々あいつの狙いはエイジ達四人を配下に加える事だ。 ・・・まあエイジ達の真の力を実際に知ってる訳じゃないがな。」 これはまだゼルに語る必要の無い事だが・・・ エイジ達の真の実力は一人の人間が持つには余りに巨大すぎる。 そして俺は・・・ 「しかしその宰相も本当に自分が国王になれると思っているのか?」 「それが第三の理由だよゼル。 エイジ達の承認がなければこの国では王位につけない。」 俺は笑いながらゼルにエイジの優位を告げる。 「・・・だがそれでは余りにパワーバランスが偏っていないか?」 ゼルの危惧も良く解る。 そう余りにエイジ達四人に権力が集中しすぎている。 「そこである条約が結ばれているんだ。 エイジ達は政治に関しては一切口を挟めないんだ。 そして行政側からの依頼が無い限り軍を動かしてはならない。 今回はルークを迎えに行く事を口実にして、俺を連れ戻しに来たんだ。」 そう、この国では軍と行政が今激しく対立している。 エイジ達四人が動けばこの火種は一気に燃え上がるだろう。 だからこそエイジは行政の無理難題に黙って従っている。 行政は今どこまでエイジ達を支配出来るのかを手探りしているのだ。 「その二つの勢力をまとめる事が出来る人物は・・・」 「国王だけだ。」 ゼルの言葉に次いで俺は最後の言葉を呟く。 今エイジは自分の軍内の動揺を抑えつつ行政側の嫌がらせに耐えているのだ。 エイジ自身がまだ20才になったばかりの男だ・・・かなりの重労働だったろうに。 「辛いな・・・エイジも。」 エイジの現状とこの国の現状を理解してゼルが呟く。 「ああ、早く終わらせてやらないとな。」 俺は部屋の窓から外の景色を眺めながら決意を新たにしていた。 俺達がそれぞれ自分の思考に捕われていた時・・・ 俺は急速に高圧な力が集まるのを感じた。 それはこの屋敷の地下に向かっている。 「・・・成功したようだな。」 俺の呟きを聞いてゼルが不信の目で俺を見る。 「もう直ぐルークが帰って来るぞ。 休憩はお終いだゼル。」 俺の予言通りに・・・約10分後ルークは俺達のいる部屋に帰ってきた。 「おう!! 今終わらせてきたぜ!!」 元気よく俺達に自分の無事をアッピールするルーク。 ・・・まあ、上手くいってよかったな。 「上手くいったようだなルーク。」 俺はルークの右手にある剣に目を止めた。 赤色を基調とした鞘を持つ剣だった。 その鞘には実に緻密で精巧な飾りが付けがされている。 ・・・そう人間には不可能と思われる程の芸術品だ。 「ああ、俺の新しい相棒だ。」 ルークも自分が右手に持つ剣を誇らしげに見詰めている。 契約の時に何かあったのか? まあいい、俺が立ち入る事では無いだろうし余計な詮索は失礼だしな。 俺達がルークの無事を確認し終わった頃、突然俺に声がかかる。 「それでガウリイ様は・・・ やはりこのまま王城へ行かれるのですか?」 ルークの後から入ってきたジン公爵が、俺に今後の予定を聞いて来たのだ。 確かに条件は揃った。 ルークが四人目になった時点で国王を指名る事が出来る。 そして四人が指名する人物は・・・もう決まっているがな。 ジン公爵も早急な国の建て直しを必要だと考えているだろう。 だが、しかし・・・ 「残念だが俺は城にはまだ行かない。」 俺の答えに眉をしかめて目線で訳を問うジン公爵。 「・・・俺の次の行き先は『神殿』だ。」 出来れば一生行きたくなかった場所だ。 「おおお!!! では、ではラ・ロードに行かれるのですか!!」 驚愕に目を見開き俺を問い詰めるジン公爵。 「ああ、俺は俺の力を手に入れる。」 俺は決意を込めてジン公爵に告げた。
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