<真実への路> 第一部 第三話「あの丘へ至る路」 (6) 俺は今ガウリイの言っていた『神殿』とやらに見入っていた。 その規模だけを見ても俺の記憶にあるどの神殿よりも巨大で荘厳だ・・・ そして何よりその神殿の周りを取り巻く空気が違う。 それに今俺の目の前には信じられない規模の結界がその神殿に敷かれていた。 「何なんだこの圧迫感は・・・」 俺の独り言に隣のルークが反応する。 「まあ、そう感じるのが普通だよな。」 そのルークの額にも冷や汗が浮き出ている。 ガウリイが一人でこの神殿に入ってから既に一時間が経とうとしていた。 ジン公爵から馬を借りて東に向かって旅をする事一週間・・・ 俺達は目的地に辿り付いた。 道中は特別な事もなく順調に進んでいた。 やはり例の変装が効いたのだろう。 そう俺が言うと、何故かガウリイはかなり嫌な顔をしていたが。 この土地は何でも中立国らしくどの国も手を出す事は無いらしい。 でなければ大国に挟まれ中心に位置するこの国が、今まで無事な理由は確かに無いだろう。 ちなみにガウリイの国が西に位置し、後は東と南に大きな国があるらしい。 ・・・まあ嫌でもその内その国の話しを聞く事になるだろうがな。 「ここから先は俺一人で行く。」 ガウリイが神殿に着いてから俺に言った言葉がこれだった。 「だが一人でいって大丈夫なのか? 宰相側の手の者がいないという保証でもあるのか?」 俺の質問にルークが答える。 「大丈夫だよゼル。 まあガウリイが神殿に入る頃には理由なんてすぐ解るけどな。」 何処か楽しそうに話すルークだが、何故か俺はその言葉に逆に不安を覚えた。 「ま、結構面白い物が見れるぜゼル。 そこで楽しみにして見物しててくれよな。 あとルーク・・・フォローは頼んだぞ。」 無言で頷くルークと納得がいかない俺の視線を受けながら、ガウリイは神殿に入っていった。 その瞬間!! 周りに強力な結界が現れる!! 「なっ!!」 思わず駆け出そうとする俺をルークが後ろから引き止める。 「無駄だゼル!! 俺達の力じゃ隙間一つ作れないぜ!! それにこれはガウリイが避けては通れない試練なんだよ!!」 「だからと言って!!」 俺はルークの顔を反論をする事を止めた。 確かにこの結界は信じられない程の力を俺に見せ付けている。 俺が全力で挑んでもかすり傷一つ付かないだろう。 それにルークも・・・無言で神殿を睨んでいるだけだ。 今は・・・俺にはガウリイの無事を祈る事しか出来ないらしい。 そして冒頭の状態に至った訳だが。 「・・・もうそろそろ出て来るかな?」 ルークがそう呟くのが聞こえた。 「ガウリイが出てくるのか?」 「いいや・・・アレだ。」 ルークが指差した方向・・・神殿の入り口からから一人の女性が出てくる。 その女性は例の結界をまるで無視するかの様に潜り抜け、俺達に歩み寄ってくる。 腰まである水色の長い髪と、ガウリイと同じ碧眼を持つ若い女性だった。 全体的にゆったりとした白色のローブを着ている。 そして・・・俺達に近づくにつれ解ったが、かなりの美人であった。 その身に纏う雰囲気はどこかこの神殿と同じく、超然とした物を俺に感じさせた。 例の結界を取り抜けた事に驚く俺だが・・・ 「もう信じられない!! ちょっとルークどおいう事なのよ、納得がいく説明が欲しいわね!!」 開口一番ルークに喧嘩腰でくってかかる姿に二度驚く。 ・・・一瞬、リナを思い出したぞ俺は。 「や、やあ久しぶりだなフィーナ。 元気だったか?」 あのルークが圧され気味だというのも珍しい事だな。 「言う事はそれだけ? 十年待った私の立場って何? 何より感動の再会の筈が一言『元気そうだな』だけよ!! その後は一目散に『剣の間』に直行よ!! 私には一言も弁解も謝罪の言葉も無しよ!! ルークは何か聞いてるの・・・ってその剣は。」 ルークの腰にある例の剣を見て怒涛の如く流れ出る言葉は止まった。 「ああ、俺も遂にあいつらの仲間入りさ・・・ 仕方無いんだよな、これから先のガウリイには無力な奴は必要無い。」 そんなルークを見てフィーナという女性の顔が優しく微笑む。 「そう・・・まあ、しっかりとガウリイの役に立ちなさい。」 その微笑みには全てを知っている者が持つ、労りの意味が込められていた。 「あ〜、ところでこの女性は一体お前達とどんな関係なんだルーク?」 どうやら俺の存在を忘れかけている様なので、さり気なく自己主張をしてみる。 「え、ええと実はなゼル・・・」 何故か焦るルークに変わってフィーナが俺に自己紹介をする。 俺は何故か・・・いや、かなり嫌な予感はしていた。 そしてそんな予感は得てして当たる物だった。 「はじめまして、私はフィーナ=レイク=ロードと言います。 この神殿ラ・ロードの巫女頭を務めております。 あと。実はガウリイ様の許婚でもあるんですよ。」 ・・・そう言って顔を赤らめるフィーナを見ながら。 俺は近い未来に更なる修羅場の予感を感じていた。
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