<真実への路>
第一部 第四話「再会」
(2)
陛下・・・ガウリイ様の命令を受けてから、三日が経った。
敵の攻撃はまだこの港町には及んでいない。
私は借りた宿屋の一室で紅茶を飲みながら、物思いに耽っていた。
私の考えている事はガウリイ様の行動について。
多分、ガドルの始末は御自分でなさるつもりなのでしょうね。
でなければ、この時期に城を空ける理由になりません。
御自分を見失わければいいのですが・・・
コン、コン・・
私を現実に引き戻したのは、そのノックの音だった。
・・・今は昼食が終ったばかりの時間。
私が食後の一時を大事にしている事を、部下は良く知っている。
それを承知で私の部屋に来たのなら・・・何か、敵に動きがあった?
「入りなさい。」
私の了承の声を聞いてドアが開く。
ガチャッ
そして、副官のスタインが部屋に入って来た。
「御休憩の所、失礼します。」
「何か?」
私がそう問い掛けると、彼にしては珍しく戸惑った表情をする。
「いえ、恥ずかしい話しなのですが・・・
実は港に寄港した異国の船がありまして。」
「・・・それで?」
言い難そうにしているが。
その困っている理由を聞かなければ、私としても対処が出来ない。
もっとも、このスタインは私の副官として十分に有能な男だ。
その彼が戸惑う理由とは?
異国の船に、何か予想外の敵でも乗っていたのだろうか?
「その船の取調べをしようとした所・・・
どうやら陛下の知り合いの方らしく。
しかも、一国の王女らしいのです。」
「ほう、異国の王女様ですか。
・・・今の我が国の現状の説明はしたのですか?」
はっきり言って、今は外交に気を使う余裕は我が国には無い。
まあ、城にはブライ殿と新しい補佐官がおられるが。
・・・そう言えば、大分ブライ殿にしごかれていたわね彼。
それだけ気に入られていると言う事か。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気の毒ね。
この二人は城で今回の叛乱劇の収拾に務めている。
余計な仕事は、増やさない方がいいでしょう。
あ、でもフィーナが確か城に・・・居ないか。
ガウリイ様の御供と称して、絶対に同行しているでしょうね。
決着は早めに付けた方が良さそうね。
まあ、その事は今は一時忘れるとして。
「我が国の事情を説明したのですが・・・
どうしても会わせろと、同行している女性が暴れだしまして。」
「暴れる?
・・・国際問題、と言う言葉を知ってるのかしら?」
「はあ・・・」
呆れた顔で私が呟くと、スタインも困った顔で相槌をうった。
「で、取り押さえたの?」
牢屋・・・は、流石に失礼ね。
一応は王女の同行者らしいから。
ふう、厄介事は連続で起こる物なのね。
「いえ、現在も我が軍の守備隊相手に孤軍奮戦しています。」
「・・・ちょっと、私の聞き間違いかしら?」
「面目無いのですが、一人の女性に30人からの兵士が倒されました。」
・・・だから私の所に報告に来た訳か。
でもその女性、なかなかに興味深い存在ね。
「いいでしょう。
これ以上、そんな理由で貴重な戦力を消費する事は無いわ。
私が説得に出ます。」
「済みません。」
私はテーブルに立て掛けておいた、親友を手に取る。
(おや、何時もより休憩の時間が短いね?)
(野暮用よフェンリル、お昼寝は終り。)
(そうかい、じゃあ起きるとするかな。)
親友を手に持った瞬間、頭の中でそんな会話を行なう。
今日の寝起きはそんなに悪くなさそうだ。
・・・結構、気分屋だしねこの子も。
そして、私は手に持った銀色の鞘に納まっている剣を、腰の剣帯に取り付け。
部屋の入り口で待機している、スタインの元に歩いて行った。
「そう言えば、貴方でも取り押さえられなかったの?」
部屋を出る時に、何気なくスタインに聞く。
このスタインも中々の剣の腕前を持つ戦士だった。
「剣の腕でしたら私の方が・・・上、ですが。」
苦笑をしながら私の問いに応えるスタイン。
「そう、魔道士なのね。」
それも、かなりの腕前の。
スタインの腕なら、そこそこの腕の魔道士なら呪文を唱える前に倒せる。
「しかも、凄腕です。
異国では、かなり名高い魔道士でしょうね。」
スタインがここまで誉めるとは、ね。
俄然興味が湧いて来たわ。
「それで、その魔道士の名前は?」
「リナ、リナ=インバース
なかなかの美人でしたよ、ノーフィス将軍。」
「そう。」
私はその魔術師の名前を軽く聞き流しながら、問題の現場に向った。
私の後ろをスタインが付いて来る。
そして、宿の外では爆音が響いていた。
・・・手加減は余り必要ないみたいね。
私と彼女の初めての戦いが、今から始まる。
それはこの先の出来事を考えると、まだ穏やかな戦いだったかもしれない。
(さて、行きましょうかフェンリル。)
(解かったよ、ノア)
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