<真実への路>
第一部 第四話「再会」
(9)
戦陣にある仮テントとはいえ、そのテント内は荘厳の一言に尽きた。
その上座に座る主の存在感を主張するかのように、張り詰めた雰囲気がテント内を満たしています。
簡素な玉座に身を沈めているのは、私の良く知る人物であり・・・
また、旅を供にする親友の想い人でもあった。
しかし、今の彼女とこの想い人の距離はなんだろう?
一方は大国の王として、玉座にその身を納め・・・
もう一方はその前で膝を折っている。
過去の二人の関係からは、とても想像出来ないその光景に私は小さく息を飲んだ。
闇夜に紛れ、忍び込んだ夜営内での会見・・・
私の目の前で繰り広げられる再会の場面は、限りなく重苦しいものでした。
「・・・悲しいけどさ、これが現実なんだ」
「・・・腕を上げたわね。
いえ、それが本来の貴方の実力なのかしら?」
突然、私の背後に現れた気配。
そして私が良く知っているその声に、平静を装いつつ私は返事を返した。
―――振り向く勇気は、ありません。
私が戦場で見た彼の姿は・・・一軍を率いる勇壮なる武将だった。
自軍の先頭に立ち、敵を尽く蹴散らし、味方の歓声を背に戦う。
そこには私の知らない『彼』が居た。
何時も不真面目で、私にちょっかいを出す事しか考えていない・・・陽気なトレジャーハンターの姿は無かった。
「実力云々は・・・ま、確かに変化はあったな。
何故、この大陸に―――いや、この戦争に関わった」
前半の台詞は何時もの軽い口調で・・・
だが、後半は私の身体が凍り付くような威圧感を込めた言葉だった。
今までに一度も聞いた事が無い、他人に命令し慣れた者だけが持つ言葉。
「リナさんのお手伝い、それだけよ」
嘘、だった。
ただ、自分の内心を正直に話すことが恐かった。
今の『彼』は私の知る・・・好きになった男性とは余りにかけ離れた存在だったから。
―――いえ、それを理由にして私は逃げている。
そんな自分の内心すら冷静に判断しつつも、行動に移せない自分に呆れた。
「そう、か・・・
理由も無しに、戦場に姿を現すアンタじゃないもんな」
何処か悲しげなその口調の中に、一瞬だけだが昔の『彼』の姿が浮かんだ。
しかし、名前で呼んでくれない事に、激しく胸の奥が痛む。
何時もの砕けた声で名前を呼んで欲しかった。
笑いながら肩に触れて欲しかった!!
そうすれば何時もの関係の様に、振舞う事が出来たのに!!
「リナを連れて直ぐに大陸を出ろ。
この先国の内乱を納めた後、俺達は大陸の統一を始める。
部外者は・・・邪魔だ」
「あ・・・」
まるで他人に語りかけるようなその声に、堪りきれず背後を振り向く。
そこには、背中を向けたままこの場を歩き去るルークの姿があった・・・
思わず指し伸ばした指は宙を中途半端に止まり。
無言の威圧感を放つその背に、何も語り掛ける事は出来ませんでした。
最後のチャンスですら、私は自分の無意味なプライドと臆病の為に―――
私の頬を伝うものは、涙でしょうか・・・
「これで・・・本当にさよならよ!!」
唐突に闇夜に響いた叫び声。
それは、リナさんのものでした。
望んだ再会はお互いの心に出来た隙間を・・・ただ、確認する為だけのものだったのでしょうか?
突如振り出した雨に打たれながら、私は走り去るリナさんを追いかけ出しました。
心に張り付いた悲しみを振り払うかの様に―――
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