覇王大系・AKITOLEGENDアキトレジェンド


第九話  「乱戦、そして新たな覚醒めざめへ」













  西部大陸ウエスト・ガンズ ― 無法者と数多くの魔獣が存在する大陸。

 その最も北端に点在し、且つ最も邪悪な場所の一つと言っても差し支えのない、一つの城。

 夜の闇も手伝って、城は一層その不気味さを増していた。


  ガルデンとの闘いから二ヶ月経った現在、

 俺、いや俺達・・は、不気味さが漂う城から少し離れた丘に立っていた。

 気配を悟られぬように、ナジーが展開した結界の中で!!



 「あれが、リーバンと呼ばれる魔導士の城・・・か」


 〈ほんと、なんか嫌な感じがするね〉

 《住む人間で、ここまで変わるものなんだ》



  俺が呟いた言葉に対し、二人ディア・ブロスも各々の感想を述べた。


 実の処、”リーバン城”の周辺には墓石が無数に点在し、大きな墓地を形成している。


  普通”墓地”と呼ばれる物は、死んだ者達の魂を供養すべき場所。

 だが、この墓地にはそれが全く感じられない。逆に死者の魂を陵辱しているといっても過言ではない。


 だからだろうか、



 「アキト・・・、この場所にはあまり居たくないよ」



  俺の横にいるレオーネが、今にも泣きそうな声で話しかけてくるのは。

 そんな様子を見かねてか、レオーネと反対の位置に立っている男が、率直な意見を言ってくる。



 「確かに、あまり気分の良いものではありませんね。此処にいるのは」

 「それについては同感だ、グラチェス。俺も好き好んで、この場所には居たくはない」



  俺は、横に立つ男 ― グラチェスの言葉に対し、相槌を打つ。



  ガルデンとの激闘の後、ナジーの”力”のお陰で命を取り留めた俺。

 その後、世界の”北”に位置する大陸へと赴き、一人の神官に出会う。

 そこで与えられた”試練”、そして託された”意志”


  そういった経緯を経て、この大陸に着いたのが一週間程前になる。

 そして、ナジーの紹介で会った人物が、先程言葉を交わした若き青年 ― グラチェスだった。


  長身でやや細身の体躯を持つ彼。足近くまで届きそうな長い髪を首の辺りで一括りしている様は

 整った顔立ちも合わせて、一見すると女性と見間違える程(本人はそれをいたく気にしているようだが・・・・・・)。

 しかし、その正体は西部大陸を守護する部族の”長”!! 

  まだ、二十歳にも満たない者が長となっている事実に、最初俺は信じられなかった。

 が、そんな疑問はこの一週間で全て氷解した。人の上に立つということは、教えられて出来るものではない。

 自ら持って生まれた資質が大きい。グラチェスは確かにソレを持っている事を感じる事ができたのだ!


  また、彼が持つ戦闘能力の高さにも驚いた。

 会った時から【強い!!】と感じてはいたが、実際に生身で、そして”リュー”で手合わせして

 改めて肌で実感している。


  まだ、この世界で知り合えた人物は少ないが、会った人物は良くも悪くも

 凄い力の持ち主だった事を振り返っていた。


 クイクイッ


  そんな事を考えていると、突如俺の右手が、下に軽く引っ張られる。


 「ん? どうしたエステル


  俺は、右手を引っ張った人物 ― エステルに目を向ける。


  『エステル』。北の大陸で与えられた試練の過程で、出会った少女。

 見た目的に9〜10歳程度で、身長も俺の腰ぐらいしかない子供。

 幻想的に感じる長い金髪、そして”真紅の瞳”を持つ人間。そして、最も特徴なのが

 額の中心にある”虹色に輝く多面体の宝石”

 付着している・・・・・・のでもなければ、 埋め込まれている・・・・・・・・訳でもない。



  エステルは、俺の問い掛けに対し、ある一点を指さす。

 それは、”リーバン城”だった。その場にいる全員が、指し示された場所を見た瞬間!

  膨大な魔法力が、リーバン城から放たれるのを感じた。



 「う〜〜〜、気味悪いよ。骨男スケルトンが、いっぱいいるよ〜〜〜っ」



  生理的に受け付けないらしく、レオーネの声は嫌悪感一色である。

 レオーネの言う通り、墓地から数え切れない程の骨男スケルトンが出てきてのだ。



 「もの凄い数だな。これ程の死霊軍団を操るリーバンのクラスは―――」
 「―――死霊使いネクロマンサーですね、リーバンの魔力の腕クラスは。かなりの”闇の魔法力”を身に付けたな」



  そう呟くと、グラチェスは眼下に広がる墓地の一点を見る。



 「いよいよ始まりましたね。彼、否彼等がどれ程の実力を持っているのか、見せて貰いましょう」




  其処に見えるのは五人の人影。その内の一人 ― 大きな剣を携えた一人の騎士が、

 持っている剣で、骨男スケルトン等を蹴散らすように走り出す。それに続くように、残りの四人も走り出した。

 周囲に群がる敵を倒しながら。

  ただ、その内の一人は連行されているようなので、戦力の中には入っていないようだが。


  俺は、集団パーティの先頭を行く一人の騎士 ― 少年に注目していた。


 「彼が、あの人・・・が言っていた―――――――」

 「―――――――そうじゃ、あやつが”運命の子”・・・じゃよ。尤も、本人は知らぬじゃろうがな」



  俺の言葉を継ぐように、今まで黙っていたナジーがその口を開いた。

 発せられた言葉で、周囲の空気がピンっと張りつめる。

 そんな雰囲気の中、グラチェスは真剣な眼差しで集団パーティの戦闘を見、率直な意見を述べる。



 「確か、”アデュー・ウォルサム”と言いましたね、彼の名は。
  あのラーサーの息子・・・・。だが、あの程度の敵スケルトンに対し、手こずるようでは・・・」

 「ひょひょっ、手厳しいのう、お主は。アキトよ、お主も似たような感想か?」


  ナジーはこちらの方を向き、意見を求めてくる。

 ただ顔を見る限り、俺がどう答えるのか既にお見通しの様子だが。



 「・・・ふぅ、確かにこのレベルの敵であれば、問題はない。

  但し、この先に起こるであろう”困難”に対して、生き残れるとは到底思えない。だから―――」



  俺は、一呼吸し再び言葉を紡ぐ。



 「――ナジー、貴方は彼等がこの場に赴くように仕向けた。

  彼等、否彼 ― アデューの劇的な成長を促す為に・・・。違うか?」



  俺の言葉を受け、ナジーの表情が一瞬変化する。

 ”大賢者”としての本来の表情に!



  だが、それもほんの僅かの時間。直ぐにいつもの表情に戻り、



 「さて、どうじゃろう?」



  と俺の問いかけを受け流した。



  俺はその答えに、苦笑するしかなかった。グラチェスも同様の考えを持っていたらしく、

 肩をすくめて「しょうがないですね」といったリアクションをしている。



 「ねぇ、エステルちゃん。アキト達の言っている事分かる?」

 「・・・・・・(フルフルフル)」



  ただ、レオーネとエステルにとっては、俺達の会話の意味がよく分からなかったらしい。

 レオーネの問い掛けに対し、エステルは首を横に振って答えていた。

 終いには、二人してこちらの方を向き、答えを求めてくる。


  二対 ― 四つの瞳を向けられて、困った俺はグラチェスの方を向く。

 と、「貴方が答えてあげなさい」といった目を向けられた。


  俺は、チラッとナジーの方を見る。ナジーの方は我関せず≠ニ言った具合で、

 下で繰り広げられている闘いに目を向けていた。あくまで表面上では・・・・・・・。


  ナジーの様子を確認した俺は、答えをせがむ二人に対し説明を始めた。



 「実は―――――――――――――――」









  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  










 キンッ、キンッ、キキンッ!!



 「だぁーーっ、鬱陶しい!! 底なしかよ此奴等は!!」


  次々と迫り来るスケルトンに対して、アデューは愚痴を漏らす。

 両手に持つ長剣を横凪に振るい、近くにいた2,3体のスケルトンを吹き飛ばす!!

 吹き飛ばされたスケルトンは、粉々に砕け散り地面に降り落ちた。


  スケルトンの動きは、至って単調なものだ。攻撃力はそこそこあるのだが、パターンが決まっている。

 故に、その動きさえ見切ってしまえば、問題視する程ではない。

 但し、敵の数が数体程度・・・・・・という話ならばだが。


  スケルトンとの戦闘に入って、かなりの時間が経過している。

 アデューも倒した敵の数を覚えていない程、かなりの数を倒してきていた。

 ・・・にも関わらず、敵さんの数が減る気配が一向にしない。



 「ハァッ・・・、もう・・ちょっとで、リーバンの城・・に辿り着くっていうのに! いい・・加減・・、ハァッ・・・道を開けろ・・・お前等!!」



  物量で攻めてくる敵に対し、アデューも流石に疲れ始めていた。

 何とか、リーバン城の正門まで進む事ができたが、それに伴うかのように敵の数も増え始めた。


 「アデュー、大丈夫ですか?」


  パッフィーが心配そうな顔をして話しかけてくる。

 よく見ると、彼女の顔にも疲労の色が浮かび、息を切らしていた。



 「ああ、だ、大丈夫だ。ったく、あのジジィがカードをこんな奴に取られさえしなければ、此処まで苦労する事もなかったのに!!」

 「まったくでござる」



  と、普段馬の合わないサルトビでさえ同様の事を口にし、両腕を拘束されて引きずられているエルフの女を一瞥する。

 一瞥されたエルフの女は、引きずられてきた為か彼等の言葉に対し、一っ言も反論しないが・・・・。



  実の処、アデュー達一行は、この場所リーバン城に来る予定は一切なかった。

 では、何故ここに来る事になったかというと・・・・・・・




  ヴァニール大陸のエルゴの街を出たアデュー達は、一ヶ月半掛けて西部大陸ウエスト・ガンズに到着し、ナジーと出会う。

 ナジーに会った時に一悶着(ナジーの賢者らしからぬ行動に対しての疑問)がおき、ナジーはアデューの資質を疑った。

 そこで、彼の資質を確かめる手段として、『六柱神の神殿の奥に存在する”秘宝”を取ってくる』という試練が行われた。

 無論、リューに乗ってという条件で。


  サルトビも乱入するなど、ちょっとしたハプニング(?)もあったが、何とかアデューは最奥にある秘宝 ―― カードを手に入れる事ができた。

 しかも、神殿の奥深くに封印されていた魔物ドゥーム・ゴーレム4体に対して、一時的にしろカードの力を引き出す事によって、

 一撃で破壊するという事までやってのけたのだ。


  これには、ナジーも驚いた。そこで、一端アデューからカードを受け取ったナジーは、

 アデューに対し、ソレをやる代わりに、自分の予知を確かめる旅に出るように提案した所、

 ナジーに対し、良い印象を持っていなかったアデューはその提案を蹴った。

 が、ナジーの一言で考えが180度変わる。


  『カードの力で、より強い”リューの乗り手”を引き寄せる』


  という言葉に。


  だが、ナジーも変な癇癪を起こしてしまい、この二人でカードの取り合いになった所、

 現在、引きずられているエルフ女に横取りされ、何とか追いかけて捕まえてみたら、既に売った後だった。

 その売った相手が、アデュー達が今乗り込んでいる城の主 ― 魔導士リーバンという輩。

 一度は対峙して、リューを召還してまで奪い返そうとした所、再びエルフ女が駆る”リュー・ガンナー”に邪魔をされて

 擦った揉んだの末、エルフ女は懲らしめる事が出来たのだが、リーバンに逃げられてしまった。

 その為、エルフ女からリーバンの居場所を聞き出し此処まで追いかけてきたのだ。




 「今更言っても始まりません。ナジー様とてうっかりする事はあるでしょう。

  それよりも、もう一息です。頑張りましょう」



  イズミの言葉に、エルフ女を除く全員が頷き、呼吸を整えた後、城の中へと進行を始めた・・・・・・。



 リーバンからカードを奪い返す為に!!









  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  










 「―――――――――――――――という訳だ。」


  俺は、一通り話し終えるとグラチェスの方に視線を移す。

 グラチェスの顔は、「同様です」といったような表情をしていた。


  それに対しナジーは、相も変わらずというかこっちには興味を示さず、

 これから城に侵入しようとしているアデュー達を「観察」している。


 「ふ〜ん、そうなんだ。でも、アデューって人の気持ちも何となく分かる気がするよ」


  自分の中にある疑問が解決したレオーネは、こんな事を言いだした。

 先程の説明で何か共感できる処なんてあったのか?という疑問を彼女に投げかけてみたら、



 「だってナジーって、普段はお馬鹿でエッチでどこか抜けてて、”大賢者”にはとても見えないもん

 「・・・・・・・・(コクコクコク)」



  レオーネの発言を受けて、エステルも首を2,3度縦に振った。

 勿論、彼女らに悪気はない。悪気はないのだが、こうもはっきり言われ肯定されると・・・・・・。


  俺は、チラッとナジーの方に視線を移すと・・・、

 あからさまに凹んでいた。背中には哀愁が漂っているぐらいだし。


  尤も、普段の行いが行いだけに否定できないのも事実なもんだから、

 こっちとしても弁護のしようがないので、俺とグラチェスに出来るのは、苦笑するぐらいだった。



  が、それもほんの僅かな時間。

 リーバン城から、先程とは比べものにならない程の膨大な魔法力が溢れ始める。

 と同時に、城の周辺から霧のようなものが漏れだしていた。


  ナジーは手にした杖を上空に掲げ、俺達を覆う結界の上にもう一膜を付け足す。

 地面を見ればある種の魔法陣が浮かび上がっていた。



 「幸いに距離があるから問題ないじゃろうが、念のためじゃ」

 「そうですね・・・。確かにあの”霧”は危険だ。今はまだ良いがいずれは―――――」

 「分かっておる。もしもの時はお主達に動いてもらう。じゃが、今はその時ではない」



  グラチェスは一段と鋭い目つきで、リーバン城と漏れ出す”霧”を凝視し、ナジーに言う。

 否グラチェスだけではない。この場にいる全員が、同じ危機感を持っていた。










  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  










 「大気に潜む雷の精霊よ! 我に力を貸し与えよ!!」


  呪文を詠唱し、魔法の杖を敵に向けたパッフィーはキィを口にする。



 「雷撃ライ呪文ダース



  その言葉と共に杖の宝玉から、大人一人がすっぽりと収まりそうな”雷の球体”が、敵陣に向かい放たれる。



 ズガガァーーンッ!!



 激しい光りと音を周囲にまき散らし、眼前を塞ぐスケルトン等を破壊する。




 「フム、どうやらこの扉の先が、終着点のようですな」



  イズミの言う通り、視界がクリアになると前方に少し大きめの扉が存在していた。

 更に、この先を「終着点」と判断した理由として、此処まで進んできた距離と、

 外から見た城の大きさを考えると、これ以上はないと判断した為。


  イズミはサルトビに目線で合図をすると、サルトビは僅かに頷く。

 その後、懐から火術ホノオン玉を取り出し扉に向かって放り投げる。

 ・・・・・・その結果、


 ドゴンッ!!



  扉はモノの見事に吹き飛び、その先の空間が露わになる。

 露わになった空間は外から見る限り、真っ暗で何も確認する事が出来なかった。



 「何も見えませんね・・・・」

 「だからといって、此処で立ち止まる訳にも行きません」

 「そうだぜパフ。イズミの言う通り! 騎士道大原則、一つ! 騎士たるもの常に前に進まなければならない!!」



  イズミの言葉を受け、アデーはいつもの「騎士道大原則」を唱える。

 それを見て苦笑するパフだが、表情はとても軟らかかった。

 こうなると面白くないのはサルトビで、あさっての方を向きながら



 「まあ、どこかの猪突猛進の馬鹿にはぴったりの言葉でござるな」

 「!!ッ なんだと、このサル!!」



  と、いつものように・・・・・・・アデューを挑発する発言をし、

 アデューとの睨み合いが始まる。そして、いつもならここから大げんかに発展するのだが・・・・・・、



 「アデュー、サルトビ。今どういう状況なのか分かっていますよね?」



  にっこりと笑顔を浮かべて、穏やかな口調で二人に問うパッフィー。

 だが、彼女が纏う”雰囲気”が全てを裏切っていた。

 「ケンカするなら許しませんよ!」という強い意志が二人に放たれている。



 「「・・・・・・・・・・・・分かっている(でござる)」」



  それを受けた二人は、ユニゾンで返答する。後頭部に大きな汗を流しつつ。



 「・・・さて、参りましょうか」



  事が落ち着いた事を確認したイズミは、皆に扉の向こう側を行く事を促す。

 それに伴い、全員の顔が引き締まる。これから何が起きても対処できるようにと。

  更に、どの方面から襲撃があっても対処できるように、4人は互いの背中を合わせながら

 扉の奥へと進入する。ちなみに、引きずってきたエルフ女は扉の隣に放り投げて・・・・。



  そして、全員が真っ暗な部屋に入ったその瞬間!!




 ドンッ!!




  サルトビによって破壊された扉及び周辺の壁が、まるで時間を巻き戻したかのように修復したのだ。

 と同時に、今まで真っ暗だった空間に光りが生まれ、アデュー達が入った部屋の全貌が明らかとなる。



 「なんて広さでござる・・・」

 「ここは一体何の場所に使うのでしょう?」



  サルトビが呆れ又感嘆する程、進入した部屋はもの凄く広く大きかった。

 例え”リュー”で動き回っても大丈夫な程に!

  だが逆にこの広さが不可解で、あまりにも無駄なスペースはパッフィーでなくとも疑問に感じるところだった。



 「ククク・・・。知りたいか、小娘」

 「「「「!!!!!!!!」」」」



  突如として、全員の耳に聞こえてくるおぞましき声。

 その声と共に、部屋の中心に一人の人物が姿を現した!!



 「見つけたぞ、リーバンッ! カードを返してもらう!!」



  現れた人物こそ、アデュー達が追いかけてきた相手 ― 魔導士・リーバンであった。



 「アレは私が買ったモノだ。故に返せと言われても返す事はできないネ。

  それに君たちでは、使いこなす事などできないネ」

 「んだとッ!!」



  リーバンの言葉に激昂したアデユーは、もの凄いスピードで彼に迫り

 手に持った長剣で斬りつけようとする。


  だが!



 ギィィィィィンンッ!!



  剣が当たる寸前、リーバンの周囲は魔法の壁シールドに覆われ、斬撃は遮られる。

 そして、斬撃の力はそのままアデューに返され、仲間のいる場所まで吹き飛ばされた!



 「クックク・・・、さて此処が何か知りたがっていたようだから教えてあげよう」



  アデューが吹き飛ばされたのを眺めていたリーバンは、薄笑みを浮かべ語り始める。


 「この城では、私が長年集めた魔法の品を日夜研究していている。そして、私たち・・・が立っている場所もその一つでね。」

 「何だと?」


  イズミが驚きの声を上げ、床を反射的に見る! 他の3人も周囲を見渡す!!

 リーバンはそれを気にも留める事なく話しを続けていく。



 「だが、これを起動させるには膨大な魔力が必要でね。その為に、此まで多くの生命エネルギーを使用してきたが
  失敗が続いていてね。だが、手に入れた武人のカードのお陰で目処がたった。感謝しているよ。クックク・・・」



  リーバンの言葉を受けて、アデュー達は最初言葉が出なかった。

 立っている場所が「魔法の品」と言う事にも驚きはしたが、それ以上に驚く事をリーバンが言ってのけた事に対して!

  それでも、何とかアデューは気を持ち直し、言葉を発しようとする。両肩を振るわせながら・・・。



 「・・・それじゃあ・・・」

 「ん?」

 「此処に来るまで、倒してきたスケルトンはもしかして・・・・」

 「実験の残骸だよ。本来ならゴミとして捨てるべきだが、場所に困ってな。有効利用してあげているのだよ」



  そのリーバンの物言いにアデューはキレた。

 否、アデューだけではない。サルトビや普段温厚なイズミ・パフも激怒している!


  だが、先に行動を起こしたのはリーバンだった。


 「見るがいい、武人のカード≠ェもたらした成果を!!」


  突如としてリーバンの背後の床に、一筋の亀裂が奔る。

 そして、扉が開くかのように、床は大きな口を開けた。



  そして!



 「こいつはリューのゾンビ! 闇の生命を持つドゥーム・スケルトンだ!!
  眠らされていたコイツを起動させるため、キーとして使わさせて貰ったぞ!!」



  床の裂け目から出現したのは、”リュー”より一回り大きい物体 ― ”ドゥーム”!!

 ゴーレム程大きくはないが、その風貌は端から見ても異様だった。

 言ってしまえば『骨男』をそのままドゥーム化したようなものだ。


  そして何よりも、


 「ボディにカードが埋め込まれている!?」


  アデューの言う通り”ドゥーム”のボディの中心に、エルフ女に横取りされたカードが埋め込まれている。


 「その通り! カード欲しければ私を倒して持っていく事だな。但し、このドゥームは少々手強いぞ!
  なんせ武人のカード≠フ力で、数倍魔力が増大しているからなァ!!」


  その言葉と共に、リーバンはドゥームに乗り込んだ。

 と同時に!


 ブシャァァァァー!



 「なんでござる、この霧は!?」



  ドゥームから大量の霧が溢れ始め、大きな空間を埋め尽くそうとする。



 「ち、力が抜ける? 何だこの霧は?」



  霧に触れた途端に、アデューは床に片膝を着く。

 身体から力が抜け出ていくのを感じていた。


  パフ達を見ると、それぞれの顔に、今までとは比べものにならない程の疲労感が浮かんでいる。


 「言い忘れていたが、こいつ・・・は生命力を吸って更に力を蓄える!!

  モタモタしていると君たちもあっという間に骨になってしまうネ。

  尤も、私はこのアミュレットのおかげて大丈夫だがね」

 「こ〜の悪党が! いくぜみんなッ!!」



 アデューの掛け声で、全員が各々のリューを召還する!



 「素晴らしいー、4人ともリュー使いだったとは。これはテストに丁度いいネ」



  リーバンのこの言葉を皮切りに、ドゥーム・スケルトン対4機のリューの闘いの火蓋が切って落とされた!!








第弐幕