HappyBirthday For 『My Dearest』

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ユリカさんがもって来たビニールシートをブリッジの先端に広げて、私たちは座りました。

「はいはいおっまちど〜様〜。熱いうちに食べてくださいね〜」

ユリカさんは、私とハーリー君の前にラーメンを置き、割り箸をくれました。
見ると、そんなに冷めている様子もありません。

「あっ、ちょっとまだ食べないでね」

ついさっき自分で「熱いうちに食べてね」と言っといて、今度は「待って」です。
相変わらずのようですね。でも、何故かほっとしてしまいました。
ユリカさんは箱の中を捜しています。何かまだ入れてあるみたいです。
ふと横を見ると、ハーリー君がコックリコックリしています。やっぱり眠たいようです。

「ハーリー君、大丈夫?」

またしてもハーリー君がビックリして、唐突に立ち上がりました。

「はっ、はい!宇宙軍少尉、ナデシコB副長補佐マキビ・ハリ!いつでも出撃可能です!」

ハーリー君は、背筋をビシっとして、敬礼をしました。
いったい何を言い出すのでしょう。あなたはパイロットじゃないから、出撃しなくてもいいんですよ。
そうこうしてるうちに、ユリカさんが捜し物を見つけたようです。

「あったあったぁ〜!はいルリちゃん、はいハーリー君。これ、ラーメンに立てて」

そう言って、ユリカさんはローソクを渡してくれました。
・・・ローソク? ハーリー君の方を見てみると、いっそう頭が混乱している様子です。

「どうしてラーメンにローソクを立てるんですか?」

気になって、聞きました。

「お誕生日のお祝いだよ」

ユリカさんが嬉しそうに言いました。
あれ?でも今日って、誰かの誕生日でしたっけ?
私は違いますし、ユリカさんがハーリー君の誕生日を知ってるはずもありません。
ユリカさんの誕生日もまだのはずでしたし。
ユリカさんが、困ってる私を見て言いました。

「ルリちゃん、今日はアキトの誕生日だよ」

「えっ!?」

思わず声が出てしまいました。
そういえば今日は・・・。

「オモイカネ、今日は何月何日?」

オモイカネに尋ねると、カレンダーを表示してくれました。

「あ、本当」

確かに今日はアキトさんの誕生日です。
すっかり忘れてしまってました。

「ねっ、ホントでしょ。だめだよルリちゃん、アキトの誕生日忘れちゃ」

ユリカさんが私の鼻を、ちょんっと押しました。

「すいません」

何となく謝ってしまいました。

「わかればよろしい!じゃ、ローソクをラーメンに立てて」

そう言って、ユリカさんはマッチを取り出しました。

「あのぉ、どうしてラーメンなんですか?普通、ケーキじゃないんですか?」

ようやく頭の回ってきたハーリー君が、不思議そうに尋ねました。
するとユリカさんは、笑って言いました。

「だって、その方がアキトっぽいでしょ?」

「えっ、でっでもぉ・・・」

すかさずハーリ君が反論します。
確かに、ハーリー君の気持ちも解ります。普通に考えたら、確かにラーメンではおかしいです。
でも、私はユリカさんに賛成です。

「いいの、ハーリー君。確かに、その方がアキトさんっぽいから」

私も笑って言いました。

「えっ!?かっ艦長ぉ〜」

私が笑って言うのを見たハーリー君は、なんだか悔しそうに言いました。

「いいの、ハーリー君。その方がアキトさんっぽいから」

私はさっきと同じような台詞を言いました。

「・・・」

ハーリー君が、拗ねたような顔をして黙ってしまいました。
どうして拗ねるの?
それにしてもハーリー君、まだ良く頭回ってないみたいですね。
ユリカさんを良く知らないあなたからみれば、何でいない人をお祝いするのか疑問に思うのが普通だと思いますよ。私はユリカさんがどんな人か解ってるから、「ユリカさんらしい」って思うんですけど。

「はいはいは〜い!何でもいいから早くローソクに火をつけようよ〜!」

ユリカさんまで拗ねたような顔をして言いました。確かに、冷めちゃいそうですね。

「はい。じゃあ、お願いします」

そう言うと、ユリカさんはマッチ箱からマッチを取り出して火をつけました。

「はい、ルリちゃんのっと。・・・はいっ、ハーリー君の。で、私のっと」

ユリカさんは順にローソクに火をつけました。

「はい、それじゃあ行くよっ!」

ユリカさんが、張り切って言いました。

「いいですよ」

私も言いました。

「ハーリー君、いい?」

私が尋ねると、ハーリー君は慌てて言いました。

「えっ、あ、ハイ!いつでも準備万端です!」

そうとう眠いのね、ハーリー君。
でも、お願いだから、一緒にあの人のことを祝ってあげて。

「せ〜〜〜のっ!」

ユリカさんの合図に合わせて、

[[アキト(さん)誕生日おめでと〜っ!]]

私たちはいっせいにローソクの火を吹き消しました。

続く