機動戦艦ナデシコ『時の流れに』after another

『Dream』第6話 いつかお前が歌う「詩」・・・告白。

「さて、何から語ればいいのかな?」

ブリッジに集まったナデシコ主要クルーと優華部隊を目の前にして、俺は口を開いた。

「・・・パイロットと副提督には以前、火星にいたときに話しましたよね?

 先ず、俺は時間逆行者なんだ。しかも、今回で3度目になる」

「「アキト(さん、くん)3度目って、どういうこと(ですか)?」」

「さて、丁度よく声を上げてくれたところでルリちゃんとイネスさんについて俺が分かる限りを話そう。

 ナデシコ出港から今までの行動、言動から考えて、ルリちゃんが知っている俺は『ブラックサレナ』という名前の機体に乗り、

 火星の後継者という元木連過激派連中に復讐するために全てを捨てた男。違うかい?」

「そうです」

「イネスさんにとってもほぼ同様、そうですね?」

「ええ、そうよ」

「そして俺はルリちゃんを巻き込んでランダムジャンプをし、時間を遡った。

 そこで俺は2度とあんな世界にしないために足掻き続けた。

 そんな中、出会ったのがこっちにいる、舞歌さん率いる木連優華部隊の人たちだった」

「そうね、私達はテンカワくんに導かれるように和平への道を歩き始めた」

「そう、もう分かったと思うけど木連とは木星蜥蜴と呼んでいる今の敵とほぼ同一の存在だよ」

「ッてことは、あれにも人が乗っている可能性があるって事なのか?」

「いや、あのタイプは完全に無人機だ!」

「万葉?なんでお前がそんなことを知っているんだ?」

「それは俺から話そう、ガイ。

 舞歌さん率いる優華部隊のパイロットのリーダーが千沙ちゃんだったんだ。

 そして、万葉ちゃんも優華部隊の一員だった。

 勿論、今ここに彼女たちがいるのは諜報、工作などとは一切関係ないことだ。

 ガイそれにヒカルちゃんは万葉ちゃんのことを信じて上げられるかい?」

当たり前だ!自分の彼女を信じられなくなったなら俺はしぬぜ!!

ヒカルちゃんは頷いた。

「その当時にはリョーコちゃんを初めとしたナデシコのパイロットも、今の皆と同じように

 軍のパイロットと比較しても比較できないくらいに強くなっていた。

 そこでルリちゃんと此処に居ない2人のマシンチャイルド、

 それにイネスさんとセイヤさんの協力の下に与えられたエステバリスが今の皆が乗っているエステの原型になったんだ。

 当時の名前と違うのはイツキちゃんの『サレナ』が『白百合』ってことくらいかな?

 そんなみんなとの協力で和平まで後一歩と言うところで

 ・・・ルリちゃんはナデシコで火星の遺跡をジャンプさせたときのことを覚えてる?」

「ええ、ナデシコに遺跡を収容してブリッジ部を切り離してジャンプさせたんですよね?」

「そう、ルリちゃんにとってはそうだった。では北斗、お前にとってはどうなっていた?」

「アキトが乗る機動兵器が遺跡に捕らえられ、千沙と万葉の両名を巻き込んで跳躍した。

 俺はその後、舞歌の艦で木星へ帰ろうとしたんだが、跳躍門から出たところは今の木星だった」

「北斗がどうして此処に居るのかは後で聞くとして、

 今聞いたとおり、俺は専用機ブローディアに乗ったまま、遺跡に捕らえられ、ランダムジャンプをしたんだ。

 千沙ちゃんと万葉ちゃんの2人を巻き込んで。しかも、ジャンプアウト地点は4年前の火星。

 俺は過去2回の過ちを繰り返さないために軍に入隊して、試験エステバリス隊に配属された。

 そこからは驚きの連続だったよ。

 一番初めに配属されてきたのはアカツキ=ナガレ。

 その後に続いてくるパイロットの誰もが、前回の歴史においてナデシコに所属し、俺と一緒に戦ってきたメンバーだったんだからね」

「それで、アキトがオレ達と最初にあった頃、懐かしそうに見ていたわけが分かるってもんだよな!」

「そう、懐かしかった。

 でも、今のリョーコちゃん達は過去の皆とは違う。だからこそ俺はみんなを鍛えたんだ。

 時には辛く見えることもあっただろう。

 しかし、それは全て、過去の過ちを繰り返さないため。

 過去2回のナデシコはどうも、戦闘と通常の区別がない艦だったからね?

 まあそれは艦長がユリカだからってせいもあったんだと思うけどね?

 あぁ、ちなみに言っておくと、過去2回、ナデシコ出港時に乗り込んでいたパイロットはガイ1人だよ。

 俺はコックとして乗り込んでいたからね。

 1度目はガイは早々に死亡。犯人はムネタケ副提督だった。

 2度目は不慮の事故で医務室にいたけどね」

「そういう意味ではアキトには感謝しねぇといけねぇな!」

「そうね、あたしも軍人とは言え、直接人を殺したいとは思わないわね」

「話を続けさせて貰うけど、2回の歴史の中で地球脱出に関しては差ほどの違いもなかった。

 トビウメに置き去りにされたジュンがデルフィニウムで襲い掛かって来るという感じだったからね。

 そしてナデシコのサツキミドリ到着は1回目ではナデシコ到着直前に無人兵器の攻撃によってサツキミドリはほぼ全滅。

 辛うじて助かったのはナデシコへ配属予定だった3人のパイロットだけだった。

 そして2度目では今回同様ルリちゃんの悪戯によってエマージェンシーが鳴り、死傷者を出すことなく、すんだ訳だ」

「アキトさん!?私があのプログラムを作れることを知っていたんですね?」

「そういうことなんだ。ゴメンね?ルリちゃん。

 火星に降りてからは今回とは大きく違うんだ。

 俺1人がユートピアコロニーに赴き、イネスさんと出会った。

 1度目はユリカがコロニーにナデシコごと来てしまったせいで無人兵器の攻撃とナデシコのディストーションフィールドによって、

 シェルターは壊滅。生存者ゼロ。

 2度目はルリちゃんの活躍により、死傷者は出なかったものの、生き残りの人たちは木連過激派によって捕虜になってしまった。

 その中にはあなた方もいたんですよ?フィリスさん、タニさん」

「ありがとうございます、テンカワさん。

 これからは私に出来る限り、ナデシコのお手伝いをさせていただきます」

「こちらこそ、ありがとうございます、フィリスさん。

 出来れば、ルリちゃんと交代でオペレーターの出来る人材が欲しかったんですよ。

 いくらルリちゃんが精神は17歳と言っても、身体は11歳にすぎませんから」

「分かりました、ヨロシクね?ルリさん」

「こちらこそ、ヨロシクお願いします、フィリスさん」

俺達がそんな話をしている間中、タニさんはずっと万葉ちゃんを見続けていた。

「どうしたんです?タニさん」

「イヤ、彼女が妊娠中に行方不明になった妻にあまりに似ているものでな」

「そうですか。ところでタニさんってお幾つです?」

「34歳だ。年齢から考えれば違うのは分かり切っているんだがな。

 妻が行方不明になったのは2年前だしな」

「まぁ、その話はおいておくとして・・・どうしたんです?プロスさん」

「いえ、あまりに突拍子もないお話だったんで、皆さんの遺伝子情報を見直していたんですが・・・」

「それがどうしたんです?」

「ええ、遺伝子情報によると、タニ博士と御剣さんの遺伝子情報の半分が一致するんですよ。

 これほどの一致は他人としては万に一つもあり得ません。

 可能性として最も高いのはお二人が親子だと言うことなんですが、年齢が一致しませんし、

 先ほどのお話によれば御剣さんは木星のご出身だとか。

 奇跡的な偶然と考えるのが妥当なんでしょうな」

そう、可能性を考えればあり得ない話だ。普通なら。

「タニさん、奥さんが行方不明になったのは地球でですか?」

「いや、私も妻も生まれも育ちもこの火星だが?」

「・・・・・・」

「・・・アキトくん、可能性としては考えられない話ではないわよ」

「アキトさん、私も考えられる事だと思います」

「そうか、2人がそう言ってくれるんなら、みんなにも話しておきましょう。

 ボソンジャンプ、木連式に言うなら跳躍というものは、一般の人には出来ないことなんです。

 木連の優人部隊や、地球のマシンチャイルドのように遺伝子を弄った人はジャンプに耐えられる体質になります。

 しかし、ここで一つの例外があるんです。

 ボソンジャンプなんて技術は地球にも木星にもありませんでした。

 その技術はここ、火星極冠にある古代遺跡によってもたらされています。まぁ、これが今回の戦争の原因なわけですが。

 火星遺跡は何らかの力を持って、火星にいるナノマシンの情報を書き換えました。

 それによって、火星で生まれた人は生まれながらにして、ジャンプに耐えることが出来る体質になったんです。

 それだけではありません。火星生まれの人は何らかの媒体を使用すれば任意の地点に跳ぶことが出来るんです。

 こればっかりは話だけで納得して貰うのは無理でしょう。

 ・・・・・・ジャンプ」

俺はブリッジ最下層から、艦長であるジュンの真横にジャンプした。

「分かっていただけましたか?

 これとほぼ同じ事が、イネスさん、タニさん、フィリスさんにも可能です。

 そこで一つ思い出していただきたいんですが、遺伝子を弄った人はジャンプに耐えることが出来るだけです。

 俺のように任意の地点へ自由に跳ぶことは出来ません。

 ここで更に優華部隊の人に思い出していただきたいんですが、

 舞歌さんの脱出の際のことは千沙ちゃんに聞いたんですが、万葉ちゃんはその過程で明らかにピンポイントジャンプをしていますね?

 これから推測するに、万葉ちゃんは火星の出身だと言うことになります。

 その上、俺が知る限り、ジャンプアウト地点を決めないランダムジャンプで未来に行ったという例はありません。

 確率で言うなら、過去にランダムジャンプする可能性が80%以上なんだ。

 これらの事実から、タニさんの行方不明になった奥さんは何らかの原因により過去の木連のコロニーにジャンプしたと考えるのが

 妥当だと思います。

 ところで、万葉ちゃん、母親の写真か何か持ってない?」

「私達がジャンプしたときのことを覚えてますか?テンカワさん」

「・・・ああ、機動兵器でジャンプしたんだから、私物なんてあるわけないよね?」

「そういうことです」

「では、タニさん、奥さんの血液か体組織のサンプルってありません?」

「体組織自体はないが、遺伝子のあらゆるデータがイネス博士が持っている端末に入っていたはずだが、なんに使うのかね?」

「・・・ミトコンドリア、そうよね?アキトくん」

「ええ、俺もまた聞きなんで確かな事じゃないですけど、母子の間ではミトコンドリアって言う細胞の中の遺伝子は全く変わらないとか」

「ほぼ、その通りよ。ミトコンドリアは母子の間にしか遺伝しないから、タニさん本人では無理だけど、

 奥さんのデータ全てが入っているこの端末があれば見極めることは可能よ。

 後は、御剣さんにやってみる勇気があるかどうかよ」

「・・・やってみたいです。ですが、それで何が分かろうと私が御剣 万葉であると言うことに変わりはありません」

「それでいいと思うよ、万葉ちゃん。

 さてナデシコのクルーに聞きたいんだけど、こっちにいる優華部隊の人たちは半ば敵前逃亡の形で木星を出てきてしまったため、

 木星に帰ることが出来ないんだ。

 そこで、俺としてはナデシコに迎え入れたいと思うんだけど、みんなはどう思う?」

「ボクの艦長としての意見はテンカワ、君が彼女たちの行動を保証するというなら構わないと思う。

 プロスさんの意見待ちだけどね」

「・・・いま、艦長が申された条件が満たされるのであれば構わないと思いますよ。

 会長からもテンカワさんの行動は賛成できると言われていますし、私自身そう思いますから。

 ただし、ナデシコに乗っていただく以上、規則を守って頂かなくてはなりませんし、制服もナデシコのものを着ていただきますが、

 皆さんの希望はありますか?」

プロスさんの言葉は既に了承に意味から交渉に移っていた。

 

「私は出来ればパイロットとは別の管理職系の方がいいんだけど」

「分かりました。東さんには現在、空席になっている副長の席に座っていただきましょう。

 それでよろしいですか?」

「ええ構いません」

「他の方々は?」

「優華部隊は基本的に全員パイロットです。

 私と万葉がそうであるように、全員戦闘要員用の赤いもので構わないはずです」

「そうですか?

 千紗さんのことは会長からもよく言われていますので。

 それに何より、千紗さんは出港当初からのナデシコクルーです。

 その千紗さんが言われるのでしたら、優華部隊の方々は全員、赤の制服と言うことで宜しいですね?」

「話がまとまったところで、ジュン。

 火星極冠近くにあるネルガルの研究施設に向かってもらえないか?」

「どういうことなんだ?テンカワ。火星でこれ以上、人命救助ができないんなら、一刻も早く火星を離れるべきだと思うが?」

「よく考えてくれ。優華部隊が乗ってきた戦艦も隠さなくてはならないし、彼らの機動兵器は動くだけの紛い物だ。

 と、なると今戦闘になった場合、彼らは戦力外と言わざるをえない。

 ただ、さっき言った施設には俺達ナデシコ隊が訓練をしていたときの試作機が10機ほど、格納されているんだ。

 試作機とは言っても、現在、宇宙軍で正式採用されている機体に比べれば段違いの性能がある。

 量産機に技術はフィードバックされたけど、試作型は量産に向かない部品が数多くあったからね。

 ただ、地球に帰るまでの限定使用なら優華部隊の使用にも耐えられると思うんだ」

「アキト、こいつらの機体はそれでいいとして、俺はどうしたらいい?」

「すまない、北斗。

 ダリア級の機動兵器はここにある俺のブローディア1機のみだ。

 部隊の訓練用に使っていたサレナタイプの予備機があるが、どうする?」

「しかたない。今はそれで我慢しよう。

 しかし、地球に戻ったら早速、制作して貰うぞ!」

「ああ、地球に帰るのを待つまでもない。

 火星から地球に連絡をとって、早速制作させよう、千沙ちゃん連絡を頼む」

「えっ!?私がですか?」

「俺が頼むと、あいつ臍を曲げかねないからね。

 しかし、千沙ちゃんが頼めば、それはない。しかも、断れない。

 だから・・・頼むよ」

「確信犯ですね?隊長!」

 

「よし、話は分かった。

 ナデシコ進路、ネルガル研究施設!・・・発進!!」

ボクの指揮の元、ナデシコは目的地に向けて発進した。

 

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<あとがき>

作者 :・・・・・こんなに嬉しいことはない。

ルリ :どうしたんです?

作者 :感想のメールが来たんだ。

ルリ :呼んでくれている人がいたんですね?

    それより、なんなんです?今回の話。本来ならここで地球に帰るはずなのに。

作者 :だからここは前編なんだよ。

ルリ :と言うことは『後編』があるんですね?